突然鳴り響いたけたたましいエンジン音に二人は驚く。
この世界には人間は居ない、車はあっても動かす者が居ない。
この世界で鳴るエンジンなど、一つしかない。
それは秋山と芝浦の間にピタリと止まる。
目的は、二人の戦い。では、ここに来るようなライダーとは誰か。秋山には、心当たりが二人居る。そして、心の底でとあるライダーが来るのを望んでいた。
ガチリと音がなり、ライドシューターの天井が開かれると一人のライダーが降りる。
バイクから飛び退き芝浦の前に立ち塞がるのは、彼だ。
「秋山、大丈夫だよな?」
仮面ライダーシザース
秋山はそれを聞き、背中にビリッ!と電流が走る。
それは歓喜なのかもしれない。この言葉の意味するのなんてのは一つのみ、「お前がこんな所で負ける雑魚じゃない、なら大丈夫だろ?お前の力は認めてるぞ」そう言われてるのだ。
格下の存在からそんな事を言われても嫌味にしかならない時もある。だが、遥か格上。自身の知る最強の存在の言葉は、秋山に力を与える。
「問題…無、い…!」
フラフラとなりながらも、ランスを杖にして無理矢理立ち上がる。秋山も須藤も誰も気づいていないが、秋山はここで心の限界を越えていた。ひとつ先のステージに上がったのだ。
だが、今はそれを確かめる暇も無い。
「助けに来たんだ」
「いや、たまたま通りかかっただけだ」
須藤は直ぐに【GUARD VENT】で盾を召喚する。
須藤は盾を軽く振ると、調子に問題が無いのを確認する。そして、芝浦の方へ向いたまま言う。
「秋山…わかるな」
「…」
わかっている、今の秋山は足手まといだ。
戦いたい、己の尻拭いは自分でやりたい。
だが無理だ。ダークウィングを呼び出し、背中に合体する。今の秋山は動くのにも精一杯なのだ、それでもダークウィングの力を借りれば何とか脱出する事はできそうだ。ダークウィングを使って戦えよ!と言いたいだろうが、そもそも武器を振る余裕も無い。
それに、大事なことなので再度言おう。
須藤との戦いに邪魔になる。
ゆっくりと舞い上がり、そのまま戦いの余波が届かない遠くへ連れていかれる。
その光景に振り向く須藤、見送っているのだろうと端からは見える。
最後まで心配をかけてしまったこと、そして自分の情けない醜態を晒した事に秋山の肩はズシリと重くなるのであった。
★★★★★
「もしかして…君が、スドウかい?」
「あぁ、期待以下の弱そうな奴だろ?」
見送りが終わり、思う存分戦える時間となる。
芝浦は一枚のカードを取り出す。それはドラグレッダーのカード、つまりは城戸のカードだ。
これを取り返す為に来たのだと芝浦には検討がついている。そしてそれは概ね正しい。
だが、相手は須藤だった。
「っ!?」
見せた瞬間にとてつもない圧力が芝浦を襲う。秋山の威圧感とは桁違い、桁外れの威圧だ。
わかる、こいつは真なる強者だと。
「ははっ…楽しい試合(ゲーム)になると良いね」
いや、なる。先程までの秋山の試合よりは確実に。
芝浦は臨戦態勢を取る。ワクワクが止まらないのである、この須藤と戦うのが。
カードをしまい、全力を出す準備を終えたときだ。
「…ふっ」
この芝浦に対して須藤は失笑していた。
「何がおかしいのかな?」
いや、わかっている。芝浦はわかっている。須藤の威圧に若干だが、萎縮したのに。萎縮してしまったのにだ。
「いや…まだ、お互いの妥協点を探れないかと考えたんだけど」
違う、これは芝浦を失格だと言っているのだ。「お前のような小物、雑魚とは相手にする暇も無い」そう言っているのだ。ふざけるな、まだ始まってない。そんなのは認めない、そして自分の力は必ず認めさせる。そう決意する。
「戦うのに、妥協なんかあるわけないじゃんか」
「だよね…お前は、そうだよ」
またがっかりしたような発言に芝浦はキレかけている。
この余裕な姿をさらけ出したこの男、その足元を必ずすくうと芝浦は駆け出した。
★★★★★
手塚は洋館の探索を続けていた。家具も殆ど無い、情報らしい情報は見当たらない。ここには何かある、そう考えていた。だが、見当たらない。
1階には何もなさそうだ、2階で探索している神崎優衣に期待しよう。そう考え始めた時に、最後の部屋を開ける。
「…ここは?」
最後に入った部屋は大量の姿見が並んでいた。壁に沿うように何十枚もだ。更に床には黒い染みが広がっている。手塚は血の跡では無いかと察するが、血の量は部屋全体にあり、よく見ると壁や天井にもある。
気味が悪い。何があったのか、想像もしたくない。
そんな時だ、鏡の中を誰かが横切った。
途端に振り向く、だがそこには誰もいない。だがそんな事をできる奴を、手塚は一人知っている。
「…神崎、士郎」
乱反射する鏡の部屋、その鏡に姿を表すのはこのライダーの戦いのゲームマスター。神崎士郎である。
「なぜ、戦わない」
「それは俺が聞きたい、なぜ戦わせようとする」
手塚には疑問だった、成り行きでライダーになったのはわかっている。だが、そんな手塚を戦わせるのはなぜだ。そもそも、神崎士郎には何のメリットがあるのだ?
最初は神様かそれに類する何か、そう考えていた。だが、妹の存在や彼女の運命を覗くと人間だということがわかった。ある時期から前を見ることができない、ある時期から後を見ることができない。
そんな奇特な運命だが、彼女は人間なのだ。
そして、神崎士郎もまた人間なのだ。
それも賢い人間だ、このライダー同士の戦いを行うのにメリットは感じられない。勝者に願いを叶える権利を与えられるというが、それが本当に行われるかも怪しい。
神崎士郎の目的は何なのか?予想はしてたが、神崎士郎の運命を見ることもできない。
そんな時だ、神崎が何かを投擲した。
それに驚きつつも、片手で掴みとる。それはカードだ。黄金の片翼にサファイアが埋め込まれたようなカードだ。
「これは…」
【SURVIVE】…日本語で【生存】と表記されたカードだ。何のカードかはわからない。武器でも無ければ、モンスターを呼び出すカードでもない。
このカードは何なのか?そもそも、何故手塚に渡したのか?それがわからない。
「使え、その力はいずれ必要になるはずだ」
「待て、話は終わってない!」
神崎士郎は一方的に消えてしまった。手塚の疑問にも答えず、謎のカードを渡してだ。
だが、そのカードに触れているとわかる。底知れぬ力を感じるのだ。
そのパワーに何故か引き込まれる、だがガチャリ!と開いた扉の音で意識が引き戻された。
扉を飽けたのは神崎優衣だ、2階の探索が終わったのか手には紙束を持っている。
「手塚さん…大丈夫ですか?」
半ば呆然状態だった手塚だが、カードを優衣に見えないようにしまいこむ。これは別にここで見つかった情報というわけではない、今は見せる必要は無いのだ。
「あ…あぁ、大丈夫だ。こっちは特に何もなかった。そっちは何が見つかったんだ?」
「それが…」
優衣は一度床に座り込むと、持ってきた紙束を広げた。どれもしわくちゃの古びた画用紙で、そこにはクレヨンで小学生や幼稚園児が書いた描か見つかった。
それだけならここの前の家主が忘れたのだと思うだろう。だが、それはここに何かがあるという物的証拠であった。
「モンスターの…絵?」
手塚はライダーだ、書かれているモンスターの絵には見覚えがあるものがたくさんある。
中には城戸の契約モンスターのドラグレッダー、秋山の契約モンスターのダークウィング、須藤の契約モンスターのボルキャンサー、そして手塚の契約モンスターのエビルダイバーもあった。
「待ってくれ、ここは10年は誰も入ってないと言っていたんだ。つまり…」
この画用紙に書かれている絵についてはまた詳しく調べれば良い。だが、予想はできてる。これは10年以上前に書かれていると。それも、恐らく子供が。
「(何か、どころか…ここから始まったのか?)」
手塚の中で、この兄妹を解き明かさなければならない。そういう使命感が生まれた。なぜかはわからない、だが須藤のような運命とは異質なのは違いない。
この戦いとはなんなのか、それを解き明かせなければならないと。
★★★★★
それは偶然だった、たまたま狩りを終えて家に帰ろうとしていた時だった。たまたま秋山と芝浦との戦闘を見てしまい、秋山はピンチだった。これは不味いと、特に考えずに突っ込んだ。秋山ほどのライダーをここで失うのは惜しい、だが須藤は気づいてない。
最初にたてた誓いを、色々と忘れかけてるのに。
「なんだ…さっきのは気のせいなのか?」
何が気のせいなのかは須藤にはさっぱりわからないが、須藤はコテンパンにされていた。一応は全ての攻撃をガードしきったので地に伏す事にはなっていない、だが体力は限界に近い。
それもそうだろう。唯一の(使えない)武器は【C0NFINE VENT】という相手のカードを封殺するチートカードによって防がれた。少しでも視界を悪くしようと使った【BUBBLE VENT】も同様に防がれた。芝浦の登場でこのチートカードを思い出した須藤もつくろうとしたが何故か作れない、泣きそうになった。サバイヴのカードも作れなかったので、契約モンスターならではの能力で無ければ作れないのかもしれない。だが完全にカード作りが失敗したわけではない、蟹の特性?を活かしたとあるカードを作る事に須藤は成功していた。それを作っても泣きそうになったのは後で話すことになるだろう。
「スドウ…お前、何で本気を出さない」
「本、気…?(待って、俺疲れて立ってるのも辛いのわかるよな?何を期待してるか知らんが、俺は量産型ライダーと同等の力だと自負してるぞ!)」
心のなかですら須藤は嘘をつく。実は量産型のライダーよりも弱いんじゃないかと思い始めているのは内緒だ。
救いの手なんてあるほど、この世界は優しくない。
「さっきから防御ばっかり、攻撃なんていくらでもできるだろ?お前…何を狙ってる?」
「(何も狙ってないんだよなぁ!?そんな事できるほどの能力が無いんだよなぁ!?)」
須藤は戦いが始まる前から絶望していた。秋山に「わかるよね?」と言って一緒に戦おうとしたのに退避され、思わぬ絶望的状況に失笑。芝浦には本気を出せ、攻撃をしろ!と一方的に攻撃され、それをひたすら盾で凌いでを繰り返していた。
もはや、逃げ道もない。起死回生の手立ても無い。
そして、遂にこの攻防に終わりの時がきた。
「(そろそろ使うか…?いや、まだ早い)」
須藤があるカードを使おうと、攻撃を凌いでいたときだ。疲れのせいか、ガードがずれた。
「(あ…死んだわ)」
盾は強い、須藤の中で最強の装備だ。
だが、それはジャストミートして他のライダーの攻撃を防げるのだ。ずれたガードは攻撃の威力を多少は殺せただろう。
だが、それでも攻撃は須藤に直撃してしまった。
それは簡単に、須藤を遥か遠くに吹き飛ばした。
足の踏ん張りが足りなかったとか、そういう問題じゃない。単純な、ライダーとしてのスペックの差だ。
情けないとは言わない、むしろよくここまで立ち回れたと称賛すべきだろう。
須藤は遂に須藤の終わりを迎える、そう感じてしまった。今まで須藤として立ち回っていたのが、これで終わりなのだ、と。
「須藤…お前!!」
地面に倒れ込み、立ち上がろうとするが足は言うことをきかない。座ってから、動けないのだ。
この状況に芝浦もキレている。そりゃそうだ、ただの雑魚をずっと相手していたのだから。
「(あー…死ぬんか、こっから勝ち筋見当たらないな)」
芝浦の制限時間はまだまだ残っている、もはや須藤の奇策であるカードを取り出す余裕もない。
終わった、そう思った時だった。
「最初から…これが目的だったのか!!!」
「(…何が?)」
★★★★★
弄ばれていた、いつからと聞かれたらおそらく最初からだろう。徹底的に防御に回るのに疑問は持っていた、だから攻撃になりそうなカードは全て封じた。
ライダーとして須藤の手札は少ない、だから攻撃に転じなかった、須藤は大したことはなかったのだ。そう考えていた。
だが、結果はどうだ。
「最初から…これが目的だったのか!!!」
怒りが抑えられない、誰へのと聞かれたら芝浦自身の怒りだろう。須藤はヤバい、そうわかっていながら戦いの中で油断させられていた。
警戒していたのに、油断させられていたのだ。
盾で威力を吸収されたが何とか当てた攻撃でも疑問だった。不自然過ぎた、直接秋山に当てた時よりも飛び過ぎていた。秋山がダンベルなら、須藤はまるで段ボールを蹴り飛ばすように飛んでいった。
それも策略の一つだったのだ。
わざとガードをずらし、最低限のダメージで最高のパフォーマンスを行うために。芝浦と距離をとるためだ。
わざわざ疲れた振りをして、うっかりガードが外れたように見せた須藤の演技力は計り知れない。
須藤は地面に座り込んだまま、手に持っていた…芝浦から奪い取ったカードをバイザーにセットする。
いつ取られたかは芝浦にもわからないが、おそらく吹き飛ばされた直前だろう。その瞬間に抜き去ったのだろう。
【ADVENT】
けたたましい獣の雄叫びが遠くから響き渡る。
空中を高速で移動する風切り音までもが響き、芝浦の目の前にそれはやって来た。
赤い装甲は夕日で光輝き、そこらのモンスターとは一線を格す圧力がそこからは発生していた。
「グォォォォォォォォォン!!」
ドラグレッダー、芝浦が奪った城戸のカードだ。
そして、ドラグレッダーが獲物として狙うのは芝浦だった。
「ぐはぁっ!?」
炎の球は芝浦に直撃した。元々スピードの無い芝浦だ、だがその代わりに防御力があった。その防御を軽々と越える攻撃を受けたのは想定外だったが。
「くそっ!!スドウめぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
須藤の先程までの不自然な行動、答えはこうだろう。
城戸という子分を痛め付けた芝浦、それの仕返しにあえて痛め付けた城戸のカードで逆襲すると。
だが、カードは芝浦が持っている。そのカードを奪うために、あのような雑魚を演じ、油断させ、その隙にカードを奪ったのだ。そして、全て須藤のシナリオ通りとなったのだろう。
「がぁぁっ!!」
絶え間無い炎の攻撃が芝浦を襲い続ける。
これは、須藤の復讐。ただ倒すのではなく、できる限り芝浦へダメージを与えるための復讐。悪魔の所業、芝浦はただひたすら生き残るためにミラーワールドを走り続ける事しかできないのであった。
Q,神崎って何で須藤を警戒してないの?
A,神崎は須藤のステータス等が見えるわけでは無いですから、それにオーディンの前には全てのライダーは等しく雑魚ですから。基本的にどのライダーも警戒に値してないです。