「…マジかよ。」
彼は本気でデッキを投げ捨てたかった。
この世界に彼は心当たりがあったからだ。
「須藤雅史って…お前は駄目だろ。」
須藤雅史、22歳。職業は刑事だが、悪事を働き一般人をモンスターに襲わせまくった凶悪犯。
主人公が唯一、「あんただけは許せない。」と言わせた程の極悪人。
また、劇中では出落ちも良いところであり…2~3話で退場。しかも、自分の契約モンスターに食われて死亡という最悪の終わりかたである。
「今日は土曜日、で2017年か。」
そして、様々な齟齬に気付く。先ず、須藤雅史の年齢が原作よりも6歳も若いこと。
原作よりも時間が15年も後の事、そして…
「浅倉威(あさくら たけし)捕まえたメンバーの一人って…死亡フラグがもう立ってるじゃねぇか。」
壁に飾ってあった賞状で確認してしまう。
須藤雅史が若くして刑事として働けているのは、このように手柄をあげていたからだとわかる。
だが、彼の脂汗が止まらないのはそれが原因では無い。
彼は原作をある程度は知っている。
…劇中で四人のライダーを葬った最凶のライダー、仮面ライダー王蛇に命を狙われる可能性が高いことも判明したのだ。
なので、今の彼は来るべき最悪な未来を乗り越えなければならない。
一つは原作での死亡ポイントの回避、これは簡単かもしれない。
が、もう一つの浅倉威から逃げ切るのは不可能に近い。
倒すか、倒して貰うか、そうでもしなければ絶対に殺されてしまうだろう。
それに、これを仮に乗り越えられても…ライダーになれば最後の一人になるまで戦わなければならない。
死亡フラグしか見当たらない絶望的な状態だ。
だが、少なからず彼にもこの戦いに生き残れる可能性…一筋の光明を見出だした。
「まだ…契約してないのが救いか。」
仮面ライダーシザースは刑事なのもあってか本人のスペックは中々高かったが、契約したモンスター、デッキ構成、ステータス等が他のライダーよりもかなり劣っていたのだ。
なので、救いはまだある。
「よし…なんとか上手くドラグレッダー辺りを捕まえよう。」
そして、固く心に誓った。
「…ボルキャンサーだけは捕まえないようにしよう。」
ボルキャンサー、それが仮面ライダーシザースが原作で契約したモンスターだ。
ステータスは防御力を除いて特筆すべき所はまったく存在しない。
また、先程も言ったが、契約が切れた瞬間に主を食い殺すというモンスターらしい行動をする。
「メタルゲラスとか見習えよ…主を殺されたから仇討ちしてんだぞ。」
だが、全てのモンスターが契約が途切れた瞬間に襲いかかる訳では無い。
原作では仮面ライダーガイや仮面ライダーライアの契約モンスターが主の仇討ちを行おうとしていた。
残念ながら、主を殺した張本人に再契約されてしまったのだが。
「でも…強かったモンスターってなんだっけ?」
そう思いながら、机にカードを並べる。
8枚のカードは全てに何も書かれていない。
つまり、モンスターと契約しなければこのデッキはただのインテリアとなるのだ。
だが、契約しなければ死ぬのは間違い無いだろう。
浅倉威、仮面ライダー王蛇から己の命を守るには。
「じゃあ、ちょうど夜明けだし…モンスター探し」
そう思い、ちゃぶ台の前から立ち上がろうとした時だった。
真後ろの鏡から違和感を感じた。何か居る。直感的にそれを気づいた須藤は真横に飛ぶ。
「っ!!…?」
そこで振り返る。刑事であるこの体は身体能力が高く、何故か自分でも体の動かしかたをわかっていた。
「何も…居ない?」
しかし、振り返っても別に何も異常らしい異常は見当たら無い。
気のせいだったのか?そう思った彼は机に再度近づく。
念のために、後ろの鏡は倒しておく。
「…嘘だろ。」
カードを集めようと屈んだ時に、ようやく異変に気付く。驚きのあまり、穴が空くほどに覗きこむ。
先程まで何も書かれていなかったカードにはいくつか何かが書かれている。
それはデッキケースもそうであり、模様が浮かび上がっている。
「嘘って言ってくれよぉ…本当に…」
若干涙声の彼の手から1枚のカードが木の葉が舞うように落ちる。
【ADVENT ボルキャンサー】
ATTACK 1500
「こいつ…原作よりも弱い。」
彼の一筋の光明はあっさりと黒く塗りつぶされた。
Q.シザースを選んだ理由は?
A.一番書きやすそうだったから。