艦これ戦記 -ソロモンの石壁-   作:鉄血☆宰相
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これは上中下の下編です。中編を飛ばさないようにご注意ください。




なお、致命的な修正箇所が残っているのを気付かずに投稿してしまったため、一度文章を削除して訂正してまいりました。申し訳ございません。

既に読んでしまわれた皆様は、お手数ではございますが、最後のあたりだけでも読み直していただけると幸いです。




第二十話 要塞線の死闘 下

 戦場が動く。南方棲戦鬼の本隊が前進を始め、艦載機が石壁の座上する戦艦棲姫目がけて雲霞の如く押し寄せてくる。

 

 現在石壁は戦艦棲姫に座上してる。

 

 艦娘形態の艦娘(この場合は深海棲艦だが)に人が乗り込む場合、艤装内部の亜空間とでも呼ぶべき空間に提督は収納される。それがどこであるのかは艦娘によってずれてくるのだが、大まかに艤装内部であろうと言われている。

 

 その論拠としては、島風に座上した場合、提督の意思は連装砲ちゃんの内部にある事が確認されているからだ。因みに、超高速で戦場を駆け巡る連装砲ちゃんの中で指揮をとるのは寿命が縮むぐらい怖い。一度やったら二度とやりたくないというのが大半の提督の総意だ。

 

 戦艦棲姫の艤装はその連装砲ちゃん超強化型に近い独立型であるため、石壁の意識もそこにある。石壁は現在おどろおどろしい化け物の様な艤装を操縦しているのだ。

 

「敵艦載機の大編隊こちらに接近!」

「南方棲戦鬼以下戦艦部隊、前進始めました!」

 

 無線から響く妖精の報告に、戦艦棲姫に座上する石壁が緊張感で生唾を飲み込む。

 

 これが石壁にとって、訓練を除いた初めての出撃だったからだ。

 

 それがこんな数千人の妖精と、数百体の深海悽艦が陸上でぶつかり合う死闘になるなんて、誰にも予想も出来なかった事態だ。

 

「まったく、とんでもないチュートリアルだよ、ほんとに……」

 

 苦笑を浮かべてそう呟き、石壁は意識を戦闘に向け切り替えた。

 

「こちらも全艦載機発進!防空に専念し、敵艦載機を近づけさせるな!総員対空戦闘開始!!」

 

 双方合わせて二千機近くの艦載機が上空で激突する。数的には9:1で石壁達が圧倒的に不利であるため、多くの敵がすりぬけてこちらに飛び込んでくる。

 

 それを数名の艦娘達が迎え撃つ。彼女たちは石壁の座上する戦艦棲姫を中心に輪形陣を組み、敵艦載機を撃墜する為に対空射撃を開始した。

 

「あああああ!!怖い!!俺は怖いぞ龍田あああああ!!なんだあの艦載機の数!!俺はまだ艦娘になったばっかなんだぞ!?」

「泣き言は後よ撃って天龍ちゃん!石壁提督なんか初陣なのよ!?まだ一回も死んだことないのよ!?」

 

 

 眼帯を付けた艦娘が悲鳴を上げると、セミロングの艦娘がそれを叱咤した。彼女達は天龍型軽巡洋艦姉妹の天龍と龍田だ。彼女達は現在石壁の両隣で艦娘用の防弾盾を構えながら対空射撃に徹している。実は二人とも最近仲間になったばかりで練度が低すぎた為、戦闘に組み込まれず予備選力となっていたのだ。その結果もっとやばい戦場に連れ出されることになったのは皮肉な話である。

 

 

「普通の人間は死んだらそこで終わりよ!」

「二回目が許されるのは私達だけだしね!」

 

 長い黒髪の巫女装束の艦娘と、ミニスカートの弓道服を服をきたツインテールの艦娘が応じる。彼女達は、飛鷹と瑞鶴、この泊地で鳳翔以外は二人しかない空母艦娘である。現在艦載機を放って必死の防空戦を繰り広げており、天龍達と同様に二人も防弾盾を構えている。

 

 そんな状況の中、石壁が座上する戦艦棲姫の艤装と同調していく。

 

 提督は艦娘に同調することでその能力を大きく引き上げることができる。まるで自身の手足の様に艦娘やその艤装を操る事ができるのだ。これは戦闘能力を大いに向上させるが、ダメージが内部の提督にフィードバックされる等、操縦者に負担がかかる諸刃の剣でもある。

 

 石壁は戦艦棲姫の艤装を意のままに操り対空兵装を全力稼働する為に、今その諸刃の剣を抜こうとしているのだ。

 

「同調、完了!」

 

 提督の補正による能力の向上は、同じ艦隊に所属しているだけでも発生する。だが座上艦は別格だ。提督座上艦は自動的に艦隊の旗艦になるのである。

 

「全対空兵装準備完了!対空電探感度良好!全兵装使用許可(オールウェポンズフリー)!!」

 

 石壁は防空戦闘において他の追随を許さない。そんな男が、全身が機銃でハリネズミの様な戦艦棲姫の艤装に乗ればどうなるであろうか?

 

「一体残らず叩き落す!!撃ち方はじめええええ!!」

 

 石壁の言葉に合わせて、まるで別々の生き物の様に機銃が動き、恐ろしい程の正確さで敵機を叩き落していく。

 

 石壁は防御に徹する艦隊運用にかけては天下一品の腕をもつ。防御に全フリした石壁の艦隊は、とにかく硬いのだ。多少の攻勢ではびくともしない。

 

 しかも今回騎乗するのは深海悽艦の中でもトップクラスの硬さを誇る戦艦棲姫だ。その硬さ、推して知るべしである。

 

「僕の乗る戦艦落としたいならその5倍はもってこい!!堕ちろおおおお!!!」

 

 まるで無造作の様に見える機銃の操作であっという間に敵が叩き落されていく。石壁の支援をうける天龍達の必死の防空射撃も相まって、敵は壊乱状態となっている。

 

「す、すげえな龍田!なんか俺たちの機銃もすっごいヌルヌル動いて気持ち悪いけど!」

「ええ、これが、石壁提督の防空戦闘なのね!」

 

 天龍と龍田が驚愕しながら戦闘を続ける。

 

「まるで七面鳥ね。あら、失礼」

「だれが七面鳥よ!?いま絶対わざとでしょ飛鷹!」

 

 飛鷹と瑞鶴は、航空隊の指揮をとりながら仲良く罵りあっている。

 

 

「敵艦載機、壊滅状態です!まだ少々残ってはいますが、十分対応可能です!」

「よし!次は……」

 

 その瞬間、至近弾が落ちる。ここが南方棲戦鬼達の射程圏内に入ったのだ。

 

 

 

「ここからなら砲撃が届く!チェックメイトよ!!」

 

 本隊を大幅に前進させ、遂に砲弾が届く程位置にたどりついた南方棲戦鬼は、次の砲撃の準備を始めた。

 

 あの男を八つ裂きに出来ると、南方棲戦鬼がほくそ笑んだ。

 

 

「……ああ、チェックメイトだ」

 

 南方棲戦鬼の言葉をそのまま返した石壁は、万感の思いを込め啖呵を切った。

 

「貴様がなぁ!!南方棲戦鬼!!!」

 

 石壁はそう叫んで無線を開く。

 

「殺れ伊能!!機は熟した!!!」

 

 ついに最後の札が切られる。戦いは佳境を迎えようとしていた。

 

 

 ***

 

 

「待ちわびたぞ、この時を!!この瞬間を!!」

 

 反撃の狼煙があがる、石壁の最も信頼する最強の大ゴマが、戦場に姿を現す。

 

「伊能突撃隊、前進せよ!!かかれえええええええ!!」

 

「「「「「「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」

 

 伊能が座上するあきつ丸以下、鎮守府最精鋭の艦娘数名を含んだ大勢の陸軍妖精達が雄叫びをあげる。その位置は南方棲戦鬼達の真後ろ、要塞に食らいつく敵を押しつぶす様に展開し、一斉砲撃の後突撃をはじめた。

 

「お先に行かせていただきますよ伊能提督!鉄血士魂隊全速前進!!」

「「「「「おおおおおおおお!!」」」」」

 

 

 その先頭を突っ切るのは、元陸軍第十一戦車連隊所属のチハと、大陸を駆け抜けた騎馬軍団達。

 

「さあ、ここが最後の花舞台、我らは所詮時代にそぐわぬ徒花達である!咲いた花なら散るのが定め、時代の中に立ち枯れするくらいならばぁ!!!」

 

 騎兵隊隊長が栗毛に跨って疾走する。その背後に、大勢の仲間たちが追随する。

 

「輩(ともがら)の為に!!地獄の果てまで駆け抜けるのだああああああああああああああ!!!!」

 

 大戦中の戦車と騎兵という、時代にそぐわぬ徒花達が一瞬の風となって戦場を駆け抜ける。

 

「な、何だあいつら!?」

「う、撃て!!撃ちまくれ!!近寄らせるな!!」

 

 その瞬間、無数の機銃掃射と砲爆撃が飛んでくる。

 

「全体直列陣形!!戦車の影へ!!」

『応!!』

 

 先頭を全速力で駆け抜ける騎兵隊長の号令で一瞬で隊列を組みかえる。戦車隊がV字の雁行形態となり、騎馬隊がその後ろに直列することで、戦車を鏃とした一本の矢の様な形態へと一瞬で移行する装甲騎兵隊。その瞬間、先頭の戦車へ無数の機銃弾が叩き込まれる。

 

 銃弾の雨が鉄塊を叩く、叩く、叩く。

 

 無数の金管系の楽器を一斉に力いっぱい叩き続けるような騒音があたりにひびく。

 

 砲撃が直撃して吹き飛ぶ戦車や騎兵。

 

 機銃掃射を避けきれずに多くの騎兵がなぎ倒される。

 

 一瞬にして多くの躯が戦場へ晒された。

 

 だが……

 

 

「其の程度で帝国陸軍を止められると思うな!!全体!!多重直列陣形!!」

 

 

 その瞬間、一本の矢であった陣形が瞬間的に広がった。一本が二本へ、二本が四本へ、四本が八本へ……

 

 たった一言の号令で、16本の矢の陣形となった装甲騎兵隊。いったいどれほどの訓練を積めば、この様な複雑な陣形移行を馬上で行えるというのか。

 

「騎兵隊総員抜刀せよ!!」

 

「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」」

 

 艦娘の技術によってチューニングされたチハが、敵砲撃をかいくぐり、高速で敵陣に切り込む。

 

 そして、その後ろにはりつくように疾走する大勢の騎馬隊が一斉に抜刀する。その様は正しく剣の山。屍の山を築く死の雪崩が、高速で突っ込んでくるのだ。

 

 

「ひっ!?」

 

 

 騎馬隊と面する深海棲艦が恐怖で悲鳴を上げる。目の前に戦車と騎兵が飛び込んでくるのだ。重厚な鉄塊と、荒々しい抜刀騎馬隊の突撃、その視覚的衝撃力は並大抵のものではない。

 

「総員抜刀騎馬突撃いいいいいいいいい!!切り込めええええええええ!!!!」

「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」

 

「うああああああああ!!!!????」

 

 瞬間、鉄塊と騎馬の濁流が深海棲艦をズタズタに引き裂きながら敵陣へ突入した。

 

「切れ!!討て!!轢けえええ!!!!」

 

 騎馬隊の指揮官妖精が軍刀を振り回して敵を切り捨てながら、馬で敵を踏み潰し、縦横無尽に敵を引き裂く。戦場の時代が一気にナポレオン戦争まで引き戻される。

 

 戦争の近代化とともに戦場から消えていった騎兵達。騎馬隊が戦場から消え去った一番の理由は、敵の圧倒的射撃能力の前に、真正面からの突撃があまりに無防備だからだ。

 

 だが、射撃による掃討が間に合わない程の距離からの奇襲攻撃ならどうだろうか?

 

 実際に、第二次世界大戦においてはごくごく一部の戦場の話ではあるが、騎馬隊による突撃攻撃を成功させた実例があった。

 

 それが再び再現される。突如として背後から現れた、騎兵隊というあまりに想像の埒外の敵に、即応して攻撃できた深海棲艦は少なかった。

 

「舐めるなよ時代遅れの畜生乗り共がああああああ!!!!!」

「ぬおっ!?」

「隊長殿!?」

 

 だが、いつまでも良いようにやられる深海棲艦ばかりではない。騎兵隊長が戦艦級の深海棲艦にむけて軍刀を振り下ろすと、それを片腕を犠牲にして防ぐものが出た。

 

 軍刀を防いだ深海棲艦はその圧倒的膂力でもって騎兵隊長を馬上から引きずりおろし、大地に叩きつける。

 

 騎兵とは一度駆け出したなら絶対に止まることができない兵科だ。騎兵の力とは速度と破壊力。それを奪われた段階で、最早ソレは騎兵ではないのである。

 

 そして、騎兵が騎兵でなくなった時、彼らの命運は尽きるのだ。

 

 

「オラァ!!!」

「ごはぁ!?」

 

 振り下ろされる拳が、騎兵隊長を叩き潰す。全身の骨が砕け、筋繊維が断裂し、軍刀が砕け散った。

 

「隊長おおおおおおおおおおお!!!!」

 

 騎兵隊の隊員の悲鳴が轟いた。

 

 

「クソが、ようやく一体仕留めて……」

「……ふ、ふふふ」

「なっ!?こいつ、まだ生きて……!?」

 

 叩き潰され、息も絶え絶えの騎兵隊長が、笑う。目の前の深海棲艦を見て、笑う。

 

「何がおかしい貴様!!」

 

 その笑いに苛立ち、思わず四肢の潰れた騎兵隊長を掴む深海棲艦。

 

「……後は、頼みましたよ」

 

 騎兵隊長は、眼前の深海棲艦など既にみていなかった。最高の相棒と共に戦場を駆け抜けられた事に満足しながら、こう呟いた。

 

 

「伊能……提督……」

 

 

「騎兵隊が切り開いた道を無駄にするな!!!進めええええええ!!!!」

「銃剣突撃こそ陸軍の花であります!!!突撃ーーーーー!!!!!」

「「「「「「おおおおおおお!!!!!!」」」」」」

 

 其の瞬間、戦場によく通る伊能の号令と、台地を揺るがす雄叫びが轟いた。

 

「なに!?」

 

 やっと騎兵突撃の衝撃が抜け始めた深海棲艦を、更なる衝撃が襲った。

 

 騎兵隊に気を取られている間に、もう目の前まで大勢の妖精や艦娘達が近づいていたのである。最初から、騎兵隊の突撃はこの接近までの時間を稼ぐためだったのだ。

 

 石壁が敵戦力撃滅を目的とする甲作戦発動を決めた時、後方からの一斉突撃の大任を騎兵隊の皆は一斉に買ってでた。全滅する可能性が高いとわかっていてなお、伊能達が敵に食らいつくまでの時間を稼ぐ為に一番槍を努めたいと、そう言ってくれたのだ。

 

 伊能たちは、騎兵隊の皆のその思いに見事応えてみせた。

 

 伊能の乗り込むあきつ丸は疾風のごとく戦場を駆け抜け、配下の妖精達と共に最高のタイミングで戦艦達の横っ腹に食らいつく。

 

 完全に不意を突かれ、陣形をズタズタにされていた深海棲艦達は、得意の砲撃を行うには近すぎる位置まであっという間に肉薄され、戦場は深海棲艦と陸軍妖精隊との乱戦となった。

 

「一対一になるな!!数で囲んで懐に入り、装甲の薄い生身を串刺しにせよ!!貴様達は陸の男だろう!!由緒正しき肉弾攻撃の破壊力を魅せつけよ!!!」

 

 石壁の指揮能力が防御に全振りされているのなら、この男は攻撃に全振りされている。訓練校時代、石壁が防ぎ、伊能が潰すという戦闘スタイルを崩せた者はいなかった。

 

 この戦闘スタイルは金床と鎚と呼ばれる紀元前からある戦争の基本戦術である。つまりは敵を金床で止めて鎚で叩き潰すというわけだ。石壁が金床で、伊能が鎚である。

 

 石壁が行けと伊能に命令した時、負けた戦は一度もない。故に、伊能は石壁の指揮に微塵も疑いを持たない。行けと言われれば地獄の閻魔すら踏み潰す修羅となれるだろう。

 

 そして、それは今も同じであった。石壁は伊能を投入するタイミングを間違えたことは、一度もないのだ。

 

「面白いように敵が崩れるな!流石は石壁だ!!」

「まったくもって、あの御仁は本当にすごい男でありますよ!」

 

 軍刀を振るい敵の首を叩き落としながら、あきつ丸と伊能が軽口を叩く。

 

「当然だ!なにせ、あいつは俺が認める最も頼りになる男だからな!!」

 

 石壁は、その信頼に確かに答えたのである。

 

 ***

 

「味方総崩れです!このままでは全滅です!」

「うそ!?なんで、なんでなんでなんで!!!!小国くらいなら攻め滅ぼせる戦力を集めたのに!!!!」

 

 半狂乱になる南方棲戦鬼、心を埋め尽くす憎悪のままに要塞の後方を睨む。

 

「あいつだけは……あいつだけは殺す!!」

 

 そう叫んで南方棲戦鬼は駆け出した。

 

「敵を少し防ぎなさい!私がケリをつける!!」

「は、はい!」

 

 戦いの趨勢は決した。だが、まだ終われない。終わらせてなるものか。そう呪詛を吐きながら一直線に深海の姫は走り出した。

 

 

 ***

 

「て、敵、南方棲戦鬼が一直線にこちらに駆け抜けてきます!!!」

「なんだと!?」

 

 モニターに映るのは、全ての砲撃を弾き返しながらこちらに向けて突っ込んでくる南方棲戦鬼の姿だった。

 

(ま、まずい!これは本当にまずい!)

 

 石壁にはある致命的な弱点が存在した。それは、『砲撃がことごとく当たらない』というどうしようもない弱点だった。

 

 対空戦闘は誰もが舌を巻くレベルでバンバン敵を落とせるのに、これがいざ砲戦となるとびっくりするぐらい当たらないのだ。

 

 普段は艦娘のレベル補正でなんとかごまかしているのだが、現在騎乗する戦艦棲姫はまだレベルが低く、指揮官の砲撃補正に頼らないと砲があたらないのに、その指揮官の砲戦指揮能力が致命的ではどうしようもなくあたらないのだ。

 

「おい提督!さっさと要塞に逃げこもう!そうすればアイツも追ってこれねえよ!」

「そうよ提督!私達も弾が残ってないの!逃げましょう!」

 

 天龍と龍田の言葉に、石壁は思考を巡らせる。

 

(逃げる……いやだめだ!!例え敵戦力を全て撃滅しても、あいつを逃がしたら意味がない!!)

 

 南方棲戦鬼が生きている限り、泊地に未来はない。次はここまでうまく戦闘を推移させられるかもわからない。

 

(……あいつは、今ここで殺さないといけないんだ!!)

 

 石壁は泊地の大勢の仲間の為に、この戦いで散った者たちの死を無駄なものにしない為に

 

「戦艦棲姫!!全速前進!!目標前方の南方棲戦鬼!!」

『はっ!?』

 

 石壁は、戦艦棲姫を前へと進ませた。その行動に周りの全員が驚く。

 

「どうせ遠距離砲撃戦じゃ当たらないんだ!!覚悟決めて殴り合いをするぞ!!」

 

「嘘でしょ!?提督!?やめなさい!!」

「ちょ、鳳翔さんに何て言えばいいの!?行っちゃ駄目だって提督!!」

 

「……望むと望まざるとにかかわらず、やらなきゃいけない時ってものがある。それが今、この瞬間なんだ!」

 

 石壁がそう声を張り上げ、艤装を操縦する。

 

「戦艦棲姫、艤装の背中にのれ!」

 

 その言葉に戦艦棲姫が自身の艤装の背に乗る。

 

「ねえ提督、本気……?そんなに殴り合いの自信があるの……?」

「安心しろ戦艦棲姫」

 

 艤装が全速力で斜面を駆け出した。

 

「僕の武術の成績は最低ランクの丙だ!!」

「全く安心できないわよってあああああああああああああああああ!?」

 

 命綱のないジェットコースターが発進した。崖を駆け下りる戦艦棲姫の艤装と、坂を駆け上る南方棲戦鬼、位置エネルギーを推進力へ変換しながら走る戦艦棲姫の迫力は凄まじいものがあった。

 

 驚いたのは南方棲戦鬼。向こうから標的が突っ込んできたようなものだ。慌てて艤装を展開し、砲撃を行う。

 

「死ねええええええええええええええええ!!!!????」

 

 途中から雄叫びは驚愕へ変わる。石壁が飛んできた砲弾を『戦艦棲姫の艤装の両腕で弾きながら』まったく減速せずに突っ込んできたからだ。

 

「だが!防御と受け流しだけなら最高ランクの甲評価もらってるんだよおおおおおお!!」

 

 戦艦棲姫のあの艤装が全速力で自身にむけ突っ込んでくる。

 

 南方棲戦鬼はあまりの事態に顔を引きつらせながら遮二無二砲を乱射する。

 

 その全てが一直線に戦艦棲姫に飛び込むが、脳内アドレナリンマックスシュバルツの石壁が驚異的な集中力でそのすべてを弾き落としながら邁進する。

 

「クソが!!いいわよそんなに真っ向勝負したいなら付き合ってあげるわよ!!戦鬼なめんなオラアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 やけくそになった南方棲戦鬼が、艤装の全能力を身体能力に変換して石壁達にむけ突撃する。

 

「うおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 石壁が雄たけびを上げる

 

「くたばれえええええええええええええ!!」

 

 南方棲戦鬼が呪詛を吐く。

 

「ああああああああああああああああ!?」

 

 艤装に必死にしがみつく戦艦棲姫は悲鳴を上げた。

 

 

 

 その瞬間、大型の鉄と鉄がぶつかり合う破砕音が轟いた。

 

 

 

 戦艦棲姫と南方棲戦鬼が正面から激突した瞬間、その凄まじい衝撃で南方棲戦鬼の艤装は完全にお釈迦になり、ぶっ壊れ、質量に押し負けて弾き飛ばされてしまった。ゴロゴロと斜面をころがり、すこし平らになった部分で止まった。

 

「ぐあああああああ!?クソっ!?なんて破壊力よ!!」

 

 

 

 

 一方の石壁も又ただでは済まない。南方棲戦鬼と同じく、艤装の至る所に損傷をうけ、機銃や砲台が動かなくなってしまった。衝撃でふらつく石壁が呟く。

 

 

「ぐっ……頭がくらくらする……同調を軽くしなければタダじゃすまなかったかも……戦艦棲姫は……大丈……あれ……?居ない?」

 

 戦艦棲姫の無事を確かめようとした石壁は、彼女が背中に居ないことに気が付いた。

 

 

 どうやら激突の衝撃で高速で進んでいた両名が一瞬で停止した結果、艤装の背中にのっていた戦艦棲姫(本体)は慣性の法則に従ってどこかに吹っ飛ばされてしまったらしい。

 

 

「ようやく会えたわねえ!さっきはよくも言いたい放題言ってくれたわね、地を這いつくばるのがお似合いのくそ虫野郎が!!その手足を引き抜いて本物の虫の様にしてやる!!覚悟なさい!!」

 

 憤怒を滾らせた南方棲戦鬼が構える。

 

 石壁は戦艦棲姫の事を心配しつつも、目の前の南方棲戦鬼に対応するために声を張り上げた。

 

 

「それはこっちのセリフだ!!引導を渡してやる、南方棲戦鬼!!」

 

 南方棲戦鬼を睨みつけながら、戦闘態勢をとる。

 

 

 かくして、石壁提督と南方棲戦鬼による、総司令官同士の最後の戦いが始まったのである。

 

 


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