提督が幻想郷に着任しました   作:水無月シルシ

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021 追い出されて

 目が覚めたときは朝だった。清々しい空気と腕にかかる重みで目を覚まし、青年はゆっくりと体を起こす。

 

(……あれ?)

 

 しかし、腕の重みで起き上がることができない。一体どうしたのだろうかと疑問を抱きつつ、瞳を自身の腕へと向ける。

 そこにいたのは。

 館を破壊され、泣く泣く守矢神社に泊まり込むことになった吸血鬼――レミリア・スカーレットの可愛らしい寝顔であった。

 

 青年の方を向いて、すぅすぅと静かな寝息を立てるレミリア。まるで幼子が親に甘えるように、小さな手は青年の服を掴んで離さず、頭を青年の胸へと擦りつけるような寝相。

 呼吸と共に揺れる小さな唇は、その幼い姿からは想像できないほど色めかしいが。

 

(そうかそうか、寝床どころか家がないんだもんなあって……ちょっと待てぃ)

 

 納得する余裕などない。なぜ自身の部屋にレミリアがいるのか、それどころか、自分は一体いつ守矢神社に帰ってきたのだろう。

 

「うわ……えっ、ちょっと……」

 

 部屋を見渡せば、部屋の隅で本を読んでいるパチュリー・ノーレッジ、レミリアに抱きついて眠っているフランドール・スカーレットと、紅魔館の面々が揃っていた。部屋の外、境内には紅美鈴の姿もある。

 

(この人たちが守矢神社に来ることになったのは覚えてるけど、それから、それから……何があったんだっけ?)

 

 ところどころ記憶が抜け落ちており、どうにも思い出すことができない。

 だが、例えこの状況を誰かに見られたところで、青年には言い訳によって切り抜けるだけの余裕が――

 

 

「お嬢様、朝食の用意が――あら、いい度胸じゃない」

 

 

 あるわけがなかった。

 障子を開けて部屋に入ってきたのは十六夜咲夜。部屋の惨状を見て一瞬硬直するも、「ああ」と一言だけこぼしてからその瞳には殺意が宿った。

 

 体勢を変えることもできず、寝転んでレミリアを腕の中に抱えたままであるが、青年は困り顔で冷や汗を垂らす。

 

「え、えっと、咲夜、さん。何か勘違いをしているんじゃ」

「言い残すことは?」

 

 ピキピキと音を立てて、咲夜のこめかみに青筋が立つ。何とか言い訳、というよりは無罪の事実の証明をしようと慌てていると、腕の中で眠っていたレミリアが目を覚ました。

 

「全くもう……うるさいわね。何なのよ?」

「レ、レミリアさん、丁度良かった。あなたからも一言お願いします!」

「あら、あなた……」

 

 目を見開き、口元に手を当てて驚くレミリア。

 この様子ならレミリアも勘違いなどしないだろう。部屋が狭いが故に起きた事故であり、お互いに悪気もない。そうと決まればレミリアにも庇ってもらいたいものであるのだが。

 

「お前は確かカミツレ。ゆうべは……その、激しかったわね」

「…………へ?」

「私だけじゃなく、フランまで組み伏せるとは思わなかったわ。私も……あんなに昂ったのは久しぶりよ」

 

 額に手を当て、少し頬を染めながら。ほぅ、と腕の中でため息をつく彼女の頭を撫でたくなるような庇護欲に駆られるも、みるみるうちに静かな怒りに染まる咲夜の表情を無視することなどできなかった。

 

「あ、あの、レミリアさん。何を……」

「とぼけるつもり? あんなに私のことをいじめたくせに」

 

 ぷい、と顔を背けるレミリア。その興奮した様子の視線は、顔を隠すように俯くことでそらされた。もしかしたら、傍からみれば、イチャイチャしているカップルのように見えるのだろうか。

 と、いったところで、咲夜が青年の背中にナイフを突きつける。

 

「お嬢様と妹様に手を出した挙句、知らぬ存ぜぬで突き通すつもり?」

「い、いや、本当に知らないんですよ!」

「問答――無用!」

 

 

 

 

 

「酷い目に遭いました。正直異変の時より死を覚悟しましたよ」

「すまんな。部屋が足りないから、カミツレのところに入れることになったんだ。ちゃんと許可はとったんだぞ?」

「えっ、僕は覚えていませんが?」

「いや、お前は寝てたから早苗に」

「なんで!?」

 

 咲夜のナイフが背中越しに青年の肺を捉える直前。神奈子が部屋へと入ってきたため、なんとか青年は生をこの世に留めることができた。

 とはいえ、自分の知らぬところで交わされた約束事に対し、青年は頬を膨らませるよりほかない。

 場所は神奈子の部屋。共に部屋に座する諏訪子は冷たい麦茶をがぶ飲みしており、「ぷはー☆」と満足そうである。

 

「あーっと、今後はどうするんです?」

「どうにもこうにも、守矢神社としてはまず妖怪の山に礼を言わねばならないな。これは私の方でやっておくから気にすることはないさ」

 

 紅魔館から発生した異変に際し、神奈子は調査を終えてから数合わせのために妖怪の山に助太刀を要請した。妖怪の山との交流は既に射命丸文との交渉によって成されていたために、滞りなく話が進んだ。

 

 守矢神社の結界は侵入者を排除するためのものから感知するためのものへと貼り直されている。神奈子と諏訪子が、妖怪の山の者に対しある程度敬意を払っている証拠とでもいえよう。

 最も、天狗や河童たちからすれば、早々に恩を売る機会がやってきたぐらいに思っている可能性はもちろんあるが。

 

「神奈子さんが粉々にした紅魔館はどうしましょう……?」

「それは私がやっておくよ。私の能力なら煉瓦ぐらい作れるし」

 

 と、諏訪子がゴロゴロと転がりながら手を挙げて返事をする。

 諏訪子の能力とは、“坤を創造する程度の能力”。岩石・土・水・植物・マグマなど、大地に関する物体を無から創造・操作することが可能である。

 紅魔館は基本煉瓦造り。流石に紅魔館そのものを復活させることは難しいが、紅魔館に限りなく近いものを作ることは容易であるという。

 

 話を聞き、神奈子の能力といい諏訪子の能力といい、凄まじいの一言に尽きる。どうして自身の周りには普通の人間がいないのだろうか。

 と考えるも、紫に名付けられた“艦娘を指揮する程度の能力”もまた、考えようによっては大きな力となってしまうが。

 

「それと、皆のことなんですが……」

「そう……だな。こればかりは私たちも頭を悩ませている。カミツレの判断で最大戦力である重巡四人を風呂に入らせているが、それだけでも半日はかかりそうだ」

「半日って……。体が大きいとその分治療に時間がかかるんですか?」

「あ、ううん。多分、霊体の力の大きさの違いだと思う。駆逐艦より軽巡洋艦、軽巡洋艦より重巡洋艦の方が魂の力が強いみたいだからさー」

「鳳翔だけ全くの無事。鳥海が中破で、あとは全員大破か。こっぴどくやられてしまったな」

「あ、そういえばまだもう一人いますよ。フランドールさんが倒れていた所に一枚落ちていたようなので」

 

 と、青年は懐からカードを取り出した。

 

白露型駆逐艦四番艦『夕立』

 かつて第三次ソロモン海戦にて大立ち回りを演じ、鉄底海峡に沈んだ駆逐艦。敵味方入り乱れる大海戦の中で、まさしく獅子奮迅の活躍を見せた艦である。

 

(頼もしそうだ……キツい性格じゃなきゃいいけど)

 

 しばらくは鳳翔とこの子で警備をするしかないのだろうか、と思っていたのだが、神奈子と諏訪子がそれぞれ思い出したように懐から何かを取り出した。

 

「あ、今更だが、妖怪の山からカード預かっているぞ。最後に押し寄せてきた深海棲艦を倒したら浮いてたんだと」

「そういえば私も電ちゃんから預かってるよ。霧の湖の戦闘で手に入れたから、カミツレ君に渡して欲しいってさ」

 

 二人からカードを預かると、青年は逡巡しながらもその艦娘たちをしかと受け止める。

 今手元には、自分の知らない新たな歴史が加わった。それをどのように紡いでいくかは、自分の手にかかっている。

 それだけの覚悟を、今の自分は持っているのだろうか。

 彼女たちの信頼に値する何かを、彼女たちへ向けられるのだろうか。

 

「……怪我してる子達、流石にこのままというわけにはいきません。でも、入渠は一度に4人が限界ですね」

「そればかりは時間が経つのを待つしかあるまい。艦娘には我慢を強いることになるが……」

 

 辛そうな面持ちの神奈子の言葉に、青年は打つ手がないことを知る。

 

(早速これだ。もう少し皆のために何かしてあげられないのか……自分が情けない)

 

 何が司令官だ。何が提督だ。

 彼女たちの足を引っ張って、彼女たちの好意を受け止めきれなくて。

 目の前で傷ついていく艦娘を見ていることしか出来なかった自分に、そんなものを名乗る資格なんてない。

 

「失礼するわ……って、お揃いで顔を歪ませてどうしたのかしら?」

「……あ、咲夜さん。その、艦娘の皆の怪我を、どうにか早く治療する方法はないかと思いまして」

「ああ、そんなこと? それなら早く相談してくれればよかったのに」

 

 咲夜の思わせぶりな発言に、青年は飛びつくように目を見開く。その勢いに咲夜はのけぞるようにして顔をしかめたが、一つ咳をつくと人差し指を立てて口を開いた。

 

「永遠亭に行きなさい、万能の医者がいるわ」

 

 

 

 

 

 

「お出かけですか、カミツレさん?」

「あ、紅さん」

「美鈴で結構ですよ」

 

 自室に帰ると、レミリアとフランはまだ眠っており、パチュリーは本を読んでいた。美鈴は境内での鍛錬を終えたのか、部屋の中で瞑想をしていたようである。

 彼女たちは現在、神社の外に出ることを許されていない。特に、スカーレット姉妹は吸血鬼としての不死性を有している。その不死性から、深海棲艦として再び復活する可能性が拭いきれたわけではないのだ。

 

「どちらまで?」

「ちょっと永遠亭まで。今日は帰りませんので、部屋は自由に使ってください」

「わかりました。紅魔館無き今、私はここの部屋を死守したいと思います!」

 

 と、冗談めかしてニコリと笑う美鈴。青年もクスリと笑い、損傷した艦娘のカードを揃えて大切に置いた。

 

「おや、艦娘さんは連れて行かないのですか?」

「諏訪子さんと約束しましたから。無傷の子は既に哨戒のローテーションを組んでいます」

「んん? カミツレさんは戦えないと聞いていますが……」

「まあ、仮に野宿になるとしても、火を焚いていれば大丈夫でしょう」

 

 頭大丈夫かコイツ、などとは流石に思っていないだろうが、美鈴の驚き具合はなかなかのものである。

 そう。咲夜から永遠亭の話を聞いたあとに、青年は諏訪子から一つの叱りを受けたのだ。

 

 

『カミツレ君。そういえば、紅魔館で自分から死のうとしたらしいね?』

『死のうとしたって……。えっと、はい。でもあの時は仕方なく――』

『早苗も泣かせたし。ここで一緒に暮らしたくないの?』

『そういう……わけでは』

『今日はウチには泊めないから。どうして私が怒っているか、頭を冷やして考えなさい』

『……ごめんなさい』

 

 

 これで理由がわからないほど、青年も鈍くはない。

 

 だが。

 

 それでも守りたいものがあった。

 命をかけてでも大切にしようと決意したものが。

 運命――否。この宿命を全うしようと己に誓わせたものが。

 

 それまでは、露とも知らなかったというのに。

 

 反対したのは神奈子。妖怪の溢れる幻想郷に放り出すのは危険すぎる、艦娘が海岸の防衛に当たる以上、青年の護衛はつけられないから実質一人になる、という主張である。

 しかしそれも、

 

 

『神奈子の到着が遅かったからそんな事態になったんだよ?』

『ぐ……しかしそれは』

『力が落ちてることを理由になんかさせないから。それとも神奈子。“その程度”なの?』

『……いいだろう。非常に癪だが、確かに私にも至らない部分はあった。お前の意見を認める』

 

 

 という、青年からすればまるでわけのわからない会話によって。一日だけ守矢神社を離れることになってしまった。

 

 艦娘には、役に立たない自身と違って哨戒という役割があるのだが、怪我をしている艦以外の全員が動かなければ数が足りない。

 一部の艦娘、というより異変に参加して大破した艦の何人かがそれでもついていくと言って聞かなかったのだが、当然そんなことを許すはずもなく半ば強制的にカード化させた。

 

 あまり望ましい選択ではなかったと理解はしている。だからこそ、区切りを付けたいという意味で一人になることを受け入れた。

 永遠亭に行かなければならないのは、勿論艦娘の上司たる自身の責任。青年が自ら行かねば、誠意もなにもあったものではない。

 

(大丈夫だ。行きは道案内に咲夜さんもいるし、夜は永遠亭で一晩だけ泊めてもらおう。ダメそうなら本当に野宿だ)

 

「まあ、そういうことですのでよろしくお願いします。さなちゃんは今寝てるみたいなので、起きたらそう伝えてください」

「は、はあ……?」

 

 そうして、青年は部屋をあとにする。

 

 幻想郷で、初めて独りで過ごす夜は怖いのだろうか。

 だが、もし寂しいと感じるようなことがあるなら、それは自分にとって一つの前進なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

「咲夜さん。本当にこの道であっているんですか?」

「…………」

「あの、咲夜ちゃん?」

「年下をちゃん付けで呼ぶのやめなさい。魔理沙も嫌がっていたでしょう。今集中しているから、少し静かにしてもらえないかしら?」

「え、年下だったんですか?」

「老け顔と言いたいの?」

 

 通称、“迷いの竹林”を歩く青年と咲夜。咲夜は案内役を買って出たため青年についていくこととなったのだが、先ほどからその足取りが曖昧である。まるで迷ってしまったかのように。

 鬱蒼と茂る竹林の中、それでいて空気はシンと静まり返っており、まるで何か神聖な空間に足を踏み入れたかのような感覚。肌がピリピリとして、どことなく青年は居心地の悪さを覚えた。

 

「ああ、一つ聞きたいことがあったの」

「なんでしょう?」

「あなた、紅魔館に住むつもりは?」

 

 振り返り、咲夜の口から語られたのは青年も呆気にとられるような言葉。一瞬何を言っているのかと理解できなかったが、咲夜はそのまま続けた。

 

「私も孤児だった身として、あなたの痛みがわからないわけではないわ。私はお嬢様に拾われて幸せになった。あなたにも、その機会を拾って欲しい」

「……えー、咲夜さんは似た境遇の僕を紅魔館に引き入れたい、ということですか?」

 

 このタイミングで「紅魔館はもうありませんよ」なんて空気の読めない発言をするほど、青年も子供ではない。

 咲夜のその提案。魂胆を探るべく言葉を選んでいるのだが――。

 

「ええ、お嬢様に許可は頂いているわ。霧の湖に隣接していて、海へ続く川もあるから、艦娘さんたちも動きやすいでしょう?」

「なるほど。それは確かに一理あります」

「あまり乗り気じゃなさそうね?」

「守矢神社で過ごすのが楽しいですから」

「なら、神社で過ごす以上の幸せを約束するわ」

「そういう話では……ないんです」

 

 読めない。

 自分を引き込もうとしていることはわかる。海への影響力を持つ艦娘を手に入れることは、紅魔館にとって大きなメリットをもたらすだろう。そして、手元に置くならば、指揮官である青年を取り込むのが最良であることも。

 しかし、それ以外の思いやりを。狡猾さよりも、むしろ自身へと差し伸べられる優しさを与えてくれる選択肢。それを前面に押し出している理由がまるでわからない。

 

 わからないフリをしなければ、きっと自分は揺れてしまうだろうから。

 

 そんなことはお見通しなのか、それとも最初から色よい返事をもらえないとわかっていたからなのか。やっぱり、といった風に咲夜は小さく苦笑した。

 

「でしょうね。話すだけ話しておこうと思っただけよ。でも気が変わったら、いつでも紅魔館に来てくれていいわ」

「お気遣いは嬉しいです。今度遊びに行かせてもらいますよ」

「ふふふ、それもいいわね。来た時は精一杯もてなしてあげる。紅魔館にとって恩人ですもの」

 

 クスクスと笑う咲夜。まるで青年の答えを見越していたかのように、その表情には曇りはない。

 が、ふと顔を上げたかと思えば、青年に向き直り、その顔を引き締める。

 

「そういえば、お礼を言っていなかったわね」

「お礼、ですか?」

「紅魔館を助けて欲しいというお願いを聞いてくれたこと、紅魔館の異変を解決してくれたこと、空中から落ちていく私を助けてくれたこと。全部引っくるめてよ」

「僕は……。僕らは、やるべきことをしたまでです」

「命をかけるほどのこと? あの時あの場であなたが死んで、一体どれだけの価値があったというのかしら? 私を受け止めたのだって、かなりの衝撃があったでしょう?」

「手厳しいですね。でも、それでも――」

「それでも?」

「僕……たちは、大事な人と離れることの痛みを知っていたから、どうにかしたかっただけなんです」

「……ありがとう」

 

 そう言って、柔らかい笑みを浮かべる咲夜。あどけなく、本心からの言葉であるかのように笑うその表情に、青年は照れくさくなり目を逸らす。

 

「今日、夜はどうやって越すつもり?」

「どうって……永遠亭に泊めてもらおうと思ってます。泊めてもらえなければ野宿でしょうね」

「永遠亭に? ……いえ、それはやめておきなさい」

「え、どうしてです?」

「詳しくは言えないわ」

 

 咲夜は少しだけ両眼を鋭くさせたかと思うと、ポケットから何かを取り出す。よくよく見れば、それは幻想郷で使われているであろう硬貨であった。

 

「永遠亭で用事が済んだら、人里までは案内してあげる。だから、そこで宿をとりなさい」

「ダメです、受け取れません。お金の施しなんて、僕は一番嫌いです」

「そう言うと思ったわ。だから、そのお金はあなたに“貸して”あげる。ちゃんと返しに来なさい。“使おうと使わまいと”、ね」

「……では、確かにお借りしました」

 

 青年にお金を貸し付けてまで永遠亭に泊まらせないという咲夜が、何を考えているのかなどわかるはずもない。

 だが青年は、そこに何らかのメッセージが隠されているようにも思えて、大人しくその硬貨を受け取ったのである。

 

 満足そうに頷いた咲夜は気を取り直したのか、力強く足を踏み出した。

 

「さあ、早く永遠亭に行きましょう。私も神社に戻ってお嬢様と妹様の給仕をしないといけないの」

「あの……咲夜さん!」

「何かしら?」

「そっちは、今歩いてきた方向です」

「……よく気がついたわね。そう、今のはあなたを試したのよ」

 

 その後、咲夜の案内の元、2時間かけて永遠亭に到着することとなる。

 

 

 

 

 

 青年と咲夜は、ようやく永遠亭の前に到着した。竹林の中、開けた場所に鎮座する少し大きめの屋敷は少し古い造りではあるが、くたびれた様子はまるでない。

 その屋敷の囲いの前、一人の少女が箒で地を掃いていた。

 

「うん? 咲夜さんじゃないですか」

「こんにちは、うどんげ。永琳はいるかしら?」

「師匠なら書斎にいますよ。……そちらの方は?」

「守矢神社は知っているわね?」

「はい。数日前に妖怪の山にやってきた神社ですよね?」

「ええ。彼は神社の関係者の一人なのよ」

 

 薄い紫色の長髪に赤い瞳。伸ばされた背筋に、学生の様なブレザーの格好。最も彼女を特徴づけるのは、およそ人間には生えているわけもない、頭部から生えた長い兎の耳であった。実際に生えているのか、つけ耳なのかはともかくとして、少なくとも青年はこの少女のことを、兎を見るたびに思い出してしまうだろう。

 

 咲夜から軽く説明を受けた少女は向き直り、ジロジロと眺めるように青年を見てからおずおずと口を開いた。

 

「あの、魔理沙が話していたんですが、もしかして茅野守連さんですか?」

「え……? あ、ええ、そうです」

「ああ、わかりました。師匠には私から話しておきます。どうぞ、遠慮なくお入りください」

「ど、どういうこと? というより君は?」

「私は鈴仙といいます。さあ、立ち話もなんですから」

 

 そう言って、鈴仙は青年の背中を押して永遠亭の中に招こうとする。

 突然押されることに青年も驚いたが、どうせ目的の場所は永遠亭である。戸惑いながらも、青年は足を進めることにした。

 歩く中で、後ろから、

 

「……困ったことになりそうね」

 

 と、ため息が聞こえたような気がした。

 が、艦娘を救いたいが一心でいた青年は、他に考えることなどなかったのである。

 

 

 

 

 

 また、ちょうどその頃。

 

「カ、カカカカミツレさんを一日追い出した!? なんてことしてるんですか!」

「あ、いやその……早苗? カミツレ君には頭を冷やしてもらおうと――」

「私がビンタしちゃったんだから、あの話はそれでおしまいなんですよ! 諏訪子様も神奈子様も嫌いです! 今日の晩ご飯はお二人だけたくあんですから!」

 

 守矢神社では、怒号と呼ぶに相応しい叫び声と、神々の嘆きの声が響き渡ったという。

 

 

 

 

 

 




着任
白露型駆逐艦四番艦『夕立』
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