広々とした三途の川。青年自身もいつかここを渡ることになるのだろうか、と半ば現実から目を逸らしつつも、対岸に座す陸上型の深海棲艦からは目を離さない。
魔理沙に箒から降ろしてもらい、岸辺に立つ青年。上空で箒を操る魔理沙は、対岸の存在に苦い顔を隠しきれていない。
「アナタ達ガ、コノ異変ノ原因デスカ?」
「……何を」
「幽霊ガ蔓延ルコノ事態、彼ラト同ジ匂イヲ漂ワセル彼女タチ、知ラナイトハ言ワセマセン」
「ああ……やっぱり」
青年がかつて感じた問いは、間違っていなかった。
深海棲艦の正体とはすなわち――幽体、なのだろう。深海棲艦を倒してカードへと変化する艦娘が幽霊であるとするならば、深海棲艦もまた幽霊であると考えることにそう不思議はない。
だが、なぜ紫はそれを教えてくれなかったのだろうか。
深海棲艦と近距離で戦った紫なら、艦娘を幽霊であると見抜いていた紫ならば、深海棲艦が幽霊であるということにも気づいていそうなことであるというのに。
自分が何か間違っているのか、あるいは紫が何かを隠しているのか。疑問は埋まれど、更に疑問が沸いてはキリがない。
「でも、同じ匂いというのは頂けません。訂正してもらいましょう。彼女たちは深海棲艦のように敵意の塊ではなく、立派な魂と誇りを持った、僕にとってかけがえのない存在です」
「テートク、そんなに私のことを愛してくれてるなんテ……」
「……語弊はありますが、彼女たちが大切である、ということは変わりません」
わずかばかり首をひねりつつ、青年は言葉を絞る。
(……紫さんのこと思い出したら、幻想郷に来た時のこと思い出しちゃったな)
早苗に巻き込まれ、吹雪と出会い、叢雲と、漣と、電と、五月雨と。優しく。温かく自身を受け入れてくれた彼女たちの存在なくして、今前を向く青年はない。
いつだって自身の傍には艦娘がいて、いつだって艦娘の傍には自分がいて。
その影にはいつだって――
いつだって、深海棲艦の姿が見え隠れしていた。
(――待て、……待て)
思えば、最も重要な点を見逃してきた気もする。
艦娘とは何か。かつての軍艦の魂である。
では、“深海棲艦”とは何か。
「茶番ニ付キ合ウ心ノ広サハ持チ合ワセテイマセン。モウ一度尋ネマス」
深海棲艦がどこから来たのか、などという疑問は今はどうでもいい。
深海棲艦は幻想郷にとって災いをもたらす存在――敵であるというのは、他ならぬ紫が保証している。それは間違いない。
間違いない、のだが。
(艦娘は……そのほとんどが倒した深海棲艦からカードとして現れる……)
艦娘は味方か?
どうして、“艦娘が深海棲艦ではない”などと言い切れるのだろうか。
「ナゼアナタハ、外ノ世界ノ幽霊ナド引キ連レテイルノデス?」
目を背けてきたかもしれない事実に、目を背けたくなるかもしれない現実に、青年は一人言葉を失った。
艦娘と深海棲艦の存在の違いが、敵意の有無だけであると。
青年の声が唐突に聞こえなくなったのを感じ、魔理沙が代わりに問答に参加することに。自身とて話し合うより手を出すほうが早い性格なのだが、深海化した四季映姫はある程度自我を保つことが出来ているらしい。戦わなくていいならそれに越したことはない。
「あー、お前映姫か? なんでこんなところにいるんだよ。休日か? そこのサボり常習犯の死神はともかく」
「幽霊ガ幻想郷ニ蔓延ッテイルカラ、様子見ツイデニ裁キニ来タノデスヨ」
「幽霊ってのは艦娘たちのことか? 違うぜ映姫、艦娘は深海棲艦と違って――」
「同ジ、ナノデス。川ヲ渡リ、私ノ元デ裁カレル必要ガアリマス」
「取り付く島もねえなあ。六十年周期はこの前のことだろ。艦娘が外の世界の幽霊だってんなら、お前の管轄じゃないぜ、ひっこんでな」
「幻想郷ニイルノナラ私ノ管轄デス」
「いや頼むから引っ込んでてくれ。お前の相手なんか面倒くさくてゴメンだぜマジで」
軽口を叩くように魔理沙は口上を述べるも、実際映姫と事を構えたくないのは紛れもない事実。その強大な力が深海化によって更に増しているなど、想像もしたくない。
(ん……深海化? いや待てよ、うどんげの話だと確か映姫の奴は……)
だが考えるより先に、映姫は言葉を続ける。
「アア、オゾマシイ歴史。幻想郷ニハ不必要ナモノデス」
「おいおい、艦娘たちはいい奴らばっかりだぜ。深海棲艦のこと言ってるのか?」
「ドチラモ同ジデショウ? 私ハ悪シキ者ヲ裁キニ来タノデス」
「はあ? いや全然違うだろ。幽霊裁きすぎて頭でもおかしくなったのか?」
「ナラバ、問イマショウ」
並ぶ艦娘たちを一瞥し、映姫は対岸よりただ一言、冷たい声でこぼす。
「アナタ達ノ存在ソノモノガ、罪デナクテ何ト言ウノデス」
瞬間、頭に血を上らせる魔理沙。気づいたときには、手に持つスペルカードを発動させていた。
魔理沙の放つ弾幕を呆然と見ていたのだが、魔理沙が映姫と事を構えたとようやく理解した時、青年はふと我に返る。
(魔理沙ちゃん、それはまだ早い……っ)
戦闘は強制的に始まってしまった。出来うるものならもう少し情報を引き出したかったのだが、始まってしまったものは仕方がない。
(艦娘の皆のために怒ってくれるのは……嬉しい、けど)
艦娘を信じていいのだろうか。深海棲艦と何が違うのだろうか。
浮かぶ疑問は絶えないまま、青年の心を深く食むのだが、
「提督、指示をお願いします!」
「……榛名?」
「まずはあの敵を倒してから! そうですね?」
この言葉を深海棲艦が発していると思うと背筋が凍る。しかし、目の前で話しているのは誰だ? そう、艦娘。榛名だ。
深海棲艦と艦娘が同じであるはずがない。両者の違いなど、青年が一番よく知っている。
(それでも僕は、皆に敵意がないことを……優しく接してくれる皆を頼りたい)
例え裏切られたとしても。
先の見えぬ暗闇が待ち受けているのだとしても。
光を与えてくれた彼女たちには、己の命の輝き全てをもって報いねばならないのだから。
『提督ヨリ全艦ヘ。現在地三途の川。アリッタケノ支援ヲ要請スル』
『了解、急行ス。高速修復材ノ使用許可ヲ乞フ』
『許可スル』
提督として、己にできることはここまで。
あとは、彼女たちの判断に任せよう。
(四季映姫さんは自我を保った状態で深海化してる……? いや、あれが本人の意思そのものとは限らない。でも、レミリアさんの例に比べれば明らかに……。完全な自己でも、完全な深海棲艦でもない。白でもなく黒でもない灰色の存在――中間棲姫か)
「――全艦、砲戦用意」
その指令に、艦娘が艤装を稼働させることで応えてくれた。ものの数瞬で戦闘態勢に入った彼女たちを見つめ、瞳を閉じる。
対岸の存在への回答は、このようにして為されたのであった。
「君たちを信じてる」
戦闘が展開され、榛名は旗艦である金剛の指示を待っていた。敵は兵装も勿論だが、その存在としての威圧感が生半可なものではない。この6人と魔理沙をもって挑んだとしても、勝てるかどうかはわからないだろう。
しかし、姉である金剛なら。あの戦争に参加した戦艦の中で最も古参、経験の豊富な金剛なら。この局面を打開するだけの戦術を何かしら考えてくれるはずだ、と。榛名は、期待の眼差しをもって金剛を見つめていたのだ。
だが、
「あの……金剛お姉様?」
「うぅ……はる、な」
「金剛お姉様、ご指示を!」
「…………私は」
「――っ、比叡お姉様!」
「艦隊は比叡が指揮を執ります! 提督、金剛お姉様を!」
青年に大きな信頼を預けられ、士気の高い艦隊の中で一人。金剛のみが顔を青ざめさせ、どこか呆けたような顔で、その場から動こうとしなかった。
比叡が機転を利かせて指揮を執り、榛名は霧島や時雨、白露と共にそれに追従する。
(お姉様……どうして)
青年も何か察したのか、慌てているような、苦虫を噛み潰しているかのような表情で、岸辺から動かない金剛を連れて三途の川から距離を取った。
その内心を推して知ることはできない。いくつもの疑問や推測が脳裏に浮かんでは消えゆくが、青年の内心にも、金剛の考えにも、確実に至ることはできなかったから。
「――ッ、砲炎確認! 回避運動を!」
だがそれよりも、今は目の前の戦闘である。戦闘を終わらせて、また金剛や比叡、霧島と一緒に過ごすのだ。この姿になって、やりたいことは沢山あるのだから。
(そのためには――あなたたちを倒します!)
「左60度砲戦用意! 目標敵戦艦、弾種徹甲! 撃て!」
対岸より接近しつつある赤い戦艦に対し、統制射撃を行う。金剛が一人抜けたとは言え、金剛型の練度は伊達ではない。砲弾は目標へとまっすぐ伸びていき、敵戦艦の艤装へと――
「――甘イネエ」
届かない――否、通り過ぎていた。
何故なら、戦艦が既に、“比叡の目の前にまで接近”していたのだから。
「……えっ?」
「少シハノンビリシトキナ」
迫撃、轟音。
至近距離にて比叡は一斉射を受け、装甲も虚しく全弾を被弾、中破してしまった。
「……っく、う……ぅ」
「時雨ちゃん、比叡お姉さまを連れて距離を!」
「わかった!」
「指揮は私が執ります!」
比叡の目の前に現れた戦艦に狙いを定めるも、戦艦は再び離れた別の地点へ移動していた。それはまるで、瞬間移動でもしているかのような足運びであり――
「霧島も一斉射、撃て!」
再び放った砲撃も瞬間移動のような動きに翻弄され、まるで見当違いの方角へと放たれていた。
(あの戦艦は一体……?)
攻撃を当てようとしても逃げられ、更には接射に近い距離でいつ砲撃を受ける事になるかもわからない。しかも戦艦である、その砲火力は間違っても侮ることはできない。
故に、その一合だけで榛名は確信する。まともに相手をするのは危険すぎる、と。
「最大戦速! 魔理沙さんと一緒にあの基地を叩きます! 三式弾装填!」
急激に速度を上げ、対岸へと距離を近づける艦隊。映姫が対空砲火により、空中を飛び回りながら弾幕を放つ魔理沙を攻撃しているのが目に入ったところで、主砲を向ける。
しかし、映姫が自身へ向ける双眸は、憎くてたまらない相手へと向けるそれであり、
「罪ニ塗レタ歴史、私ノ元デ裁カレルトイイ」
罪符『彷徨える大罪』
自身らへと放たれる弾幕を以て、確信へと変わる。
棒状の弾幕と球状の弾幕が螺旋状に広がった。その弾幕は溢れ続け、艦隊の行く手を阻むように、隙間を埋めるように舞う。
咄嗟に回避するも間に合わない艦もあり、装甲である程度は弾くも、霧島が弾幕を被弾し小破してしまう。
「シブトイデスネ。流石ハ兵器、ト言ッタ所デショウカ」
「榛名たちが何を間違えたというのですか! 守るために、私たちは大切な人たちを守るために戦ったのに!」
「ソンナモノハ関係アリマセン」
「どうして……どうしてわかろうとしてくれないのです!」
「ナラバソノ意思、見セテモライマショウ」
避けた弾幕が航空機へと変化し反転、空へ舞い上がる。更に、映姫自身からも航空機が発進しており、計200にも及ぶ航空機がいとも容易く空を覆い尽くした。
その空を埋める様は、戦いの記憶を呼び起こすには十分な光景であり、
(あ、あぁ――)
守りきれなかった空と、全てを喰らった太陽のような光が、脳裏にいとも容易くフラッシュバックし、
「榛名!」
動かない身体は爆撃機の攻撃を受け、簡単に小破してしまった。
(どうして……私はあの時動けなかったのでしょう)
かつて呉に大破着底し、空を見上げることしかできなかった。かつてのように海を往き、波しぶきをかき分けることはもうできなかった自分。
街が焼かれるのを、仲間が焼かれるのを、死の炎が浮かび上がるのを、ただ空を眺めて呆然とするばかり。
「悔シイデショウ? 悲シイデショウ? 無力ナ自分ガ憎イデショウ」
そんなことはない。呉でも空襲する航空機への反撃を行い、終戦後も復興の礎となったのだ。そんな我が身を、憎いと思うわけもない。
だが――
(もっと多くを守れたはずなのに……!)
有り得たかもしれない未来を想像しながらも、それを成し遂げられなかった過去の幻惑を。
届かなかった小さなこの手を、嘆かずにはいられない。
「罪ノ意識ニ苛マレルノハ怖イデスカ? 安心シテクダサイ、私ノ裁キハ絶対デス」
薄ら笑うかのように、映姫が嘲るような声を上げる。
それでも――
「榛名は、悪くありません」
「……ホウ?」
「金剛お姉様も比叡お姉様も霧島も、白露ちゃんも時雨ちゃんも、誰も悪くありません」
「ナラバ、ソノ罪ハドウスルノデス。“兵器デアルトイウ原罪”ハ!」
「……兵器が罪。それが運命ならば、受け入れます。でも私は、私たちを――」
仲間と共に戦った過去を。守るべくして刻んだ時を。砲火を束ねた歌を。
掲げた旗を。流した汗を。握った手を。泣いた瞳を。滲んだ血を。紡いだ絆を。
鳴り止まぬ鼓動を。鳴り止んだ鼓動を。
そして鳴り始めた鼓動を――
「黒歴史とは、絶対に言わせません!」
三式弾は、その音が絶えることなく空に放たれた。
金剛と共に戦場から距離を取って随分と時が経った。青年は岸辺で、魔理沙や艦娘たちが戦っているのを見て、そしてその会話を聞いて口を閉ざす。
(兵器が持つ原罪……)
人類初の兵器・武器は、道具として使われた石や骨のナイフであるという。ナイフそのものがそもそも殺傷を目的としてものであり、そこから転じれば、確かに兵器は原罪を有すると言えるのかもしれない。
(でも……それでも、さ)
幻想郷で人格を宿された彼女たちは、既に罪を背負っていたというのだろうか。青年が幻想郷に来てしまったために生まれたとも言える彼女たちは、ずっとその罪に悩み続けなければならないのだろうか。
闘いの日々を終え、幻想郷に来てまでも苦悩を抱えなければならないというのか。
青年に幻想郷で暮らして欲しいと願った彼女たちは、青年のわがままで残った幻想郷で責められなければならないというのだろうか。
(みんながいなければ……僕は今頃、外の世界で腐ってた)
絶対に違う。認めてはならない。彼女たちに罪は無い。そしてそれを証明しなければ、青年もまた同じく心を痛みに蝕まれるだろう。
『長門ヨリ提督ヘ。間モナク海域ニ到着スル。戦況ノ詳細ヲ望ム』
『金剛小破、戦意喪失ニツキ戦線離脱。比叡中破、時雨ヲ伴イ一時離脱。榛名、及ビ霧島ガ小破シツツ、白露ト共ニ戦闘中。敵ハ瞬間移動スル赤ノ戦艦、弾幕ヲ航空機ニ変化サセル陸上型。敵航空機ハ現在200程度』
『卒倒モノダナ。戦力差ガ酷イヲ通リ越シテエゲツナイ。撤退ヲ勧メタイノダガ』
(でも、それは皆の誇りを傷つけることになる……気がする。勝手な思い込み? いや違う、僕は皆のことを信じるって言ったから、僕が撤退させちゃいけない。撤退するなら……艦隊の誰かが、撤退を判断したとき――)
長門率いる艦隊がもう間もなく到着する。
たった三人にも関わらず、榛名はよく奮闘してくれている。対空戦闘においては霧島より秀でているのか、次々と敵航空機を撃墜していた。
そして霧島。敵戦艦が瞬間移動するために厄介極まりないというのは青年でもわかるのだが、予想される瞬間移動先を先読みし、攻撃を命中させることが叶わずとも、敵戦艦が迂闊に艦隊へ近づくことのできないように牽制に徹して戦っていた。白露の魚雷もまた、それに一役買っている。
比叡は損傷の応急修理が終わったのか、未だに辛そうな顔をしてはいるものの戦意を失っていない。時雨もまた、比叡が無事だったことに安心してか頬を引き締める。
これほどまでに戦いに誇りを、そして力強さを感じさせる彼女たちをどうして邪魔できよう。青年には、艦娘を愛する青年には到底判断ができなかったのである。
あるいは――その誇りや力強ささえも原罪であるというのだろうか。
「金剛」
「……テートク」
肩を抱くように震え、目に見えて金剛は意気消沈しており、戦闘前とは随分と気力が異なっていた。
「ハ、ハハ、情けないデス。私たちの罪を問われテ、何も反論できないなんテ……」
「でも、榛名は――」
「あの子は生き延びましタ。それ故、見える風景の色が違って視えることもあるでショウ。でも、私は違うんでス。私は違う……」
「……生きて戦いを終わらせることができなかったから?」
「違うんでス。あの時代を代表する戦艦として、反論できないことは沢山見てきたのでス。敵も味方も、それは酷いことばかりでしタ……」
「……そっか」
金剛の記憶を辿ればわかる。相手国も勿論だが、自国でも多くの戦争犯罪があったことを。
生体解剖事件、退艦者への機銃掃射、ビハール号事件、陸軍海軍問わず戦時中に起きたこれらを、金剛はほぼ全て把握している。
自分が関わったものであろうとなかろうと、その全ては軍の行い。だからこそ金剛は、映姫からの言葉に反論を持てなかった。いや、持たなかったのだろう。それが当然であると受け入れて。
青年にとっては、艦娘たちの抱える罪というものは直接的に関わりはないのだが――。
(でもね、覚悟はもう……決まったよ)
彼女たちを守らなければならない。自分に光を見せてくれたのが艦娘であるならば、艦娘に光を見せるのは自分の役目だ。例えそれが、暗闇に進むとわかっている道だとしても。
選ばなければならない。幻想郷における、艦娘の未来のために。
震える金剛の手をとって、危険であるはずの岸辺へと近づいて。
大きく息を吸い込み、青年は対岸の存在に向け。
およそ生涯出すことのないだろうという程の轟声を。
「聞こえるか、深海棲艦!」
「……今、私ノ事ヲ呼ビマシタカ?」
「そうだ! いいかよく聞け! 閻魔だかなんだか知らないが、艦娘に罪はない! わからないとは言わせないからな!」
「……サテ、何ヲ言イタイノデスカ?」
こみ上げる静けさを、しかし中で燻ぶる怒りを。
気がつかないうちに金剛の手を握り締めて、艦娘への慈しみを胸に抱いて。
「兵器に意思なんて存在しない! そんなものは誰にだってわかることだろう!」
「――――っ」
視界の端に、悲壮感いっぱいになったり戸惑ったりと顔の忙しい金剛が映る。だが青年は、次々と漏れ出る言葉を抑えきることなどできなかった。
「エエ、ソウデスネ。普通、兵器ニ意思ハ宿リマセン」
「存在しない人格に罪を着せるなんて職権乱用が許されるのか、閻魔様!?」
「デハ、彼女タチハ何ダト言ウノデス。ソシテ貴方タチガ深海棲艦ト呼ブ者タチハ?」
「兵器に意思が存在しないなら、意思を持つ彼女たちはただ人格を与えられただけだ! そこには、彼女たちを操っている人間が存在することになる!」
「……ツマリ?」
「兵器そのものより、兵器を扱う人間の方が悪に決まってんだろうが! つまり僕のことだよ!」
無茶を言っていることは分かっている。無理な道理と理解している。
例え彼女に、彼女たちに嫌われようとも。
彼女たちを助けることにつながるならば、この務めを果たそう。
己一人で皆が助かるなら、喜んで身一つ差し出そう。
「戦争犯罪!? 原罪!? 兵器である彼女たちに決定権なんて与えるわけがない! 悪いのはいつだって“僕ら”じゃないか!」
「アナタハ――」
「裁くなら! 命令を出す僕一人に決まってるだろ!」
「…………」
「さあ、僕を連れて行くといい! それとも、僕一人を裁くことができないほど、閻魔様とやらは“白黒”はっきりさせられないのか!」
吹けば飛んでしまうほどの、弱く小さく歪で性根の曲がった脆き魂。口を閉じるどころか、二度と口を利けなくすることぐらい、映姫にとっては造作もないことだろう。
そして青年の論理。映姫が艦娘の正体を魂の集合体と見抜いているなら、この主張はほとんど通らないも同然である。
しかし、映姫はそれらをしなかった。瞳を閉じて小さく息を吐いたかと思えば、一言。
穏やかに、透き通った通りの良い声ではっきりと。
「――ならば、深海棲艦の罪も貴方が背負うのですね?」
「ああ……、受け止めてみせるよ」
兵器でありながら平和を渇望した彼女たちのために。
兵器でありながら人を救うために奔走した彼女たちのために。
青年はこの時、初めて己の中の提督を自覚したのである。
手を握られた時から、金剛は嫌な予感がしていた。だからこそ、その青年の一言一句を、聞き逃すまいと耳に刻みつけた。
否、刻みつけようとせずとも、その叫びは確かに刻まれた。
自分たちのどこに、そんなに熱心になってくれる必要があるのだろう。少し前まで何も、興味すら持っていなかっただろう自分たちに。
何を、そんなに。
「ああ……、受け止めてみせるよ」
悪い予感は見事的中した。被りたくもない罪を背負い、纏いたくない汚名を着せられ、それでも尚、自分たちを愛そうというのか。
やめてほしい。自分たちはそれこそ兵器だ。突き詰めれば鉄の塊なのだ。悪名高き鉄の塊に、何を求めているのだ、と。
思ったところで、金剛はその考えを捨てた。
思考すればするほど、この青年の覚悟を貶してしまうような気がして。
未だ強く握られている自身の手を見た。そしてその手の先にいる、見違えるように表情の引き締まった青年。震えているのは果たして、青年と自身、どちらの手だったろうか。
もう、震えていないからわからない。
(ああ――最初はただ距離を縮めるためのcommunicationだったというノニ……)
――本当に気になってしまうではないか、と。
(想像してたより、ずっとずっと熱い心を持っているのですね)
金剛型の長女として、英国ヴィッカース社へ委託建造された巡洋戦艦。高速戦艦へと改修を遂げた金剛は、開戦時には旧式もいいところであったが、諸作戦で北へ南へ駆け回る。対地艦砲射撃等の作戦も行い、金剛型戦艦は旧式でありながら、日本海軍で最も活躍した戦艦と言わしめるに至ったのである。
長女としては鼻が高い。我ら金剛型姉妹はかのようにして語り継がれているのかと思うと胸が高鳴る。だがそれだけに、“榛名と映姫の言葉”が胸に刺さるのだ。
しかしこの青年は、それを真っ向から否定した。幻想郷に意思を持って生まれながらも、自身らは兵器であるとして非情さを見せることで。
詭弁であることなど、誰にでも分かることであるというのに。艦娘に嫌われる発言であると、わかっているはずなのに。
(貴方の気持ち、確かに受け取りました。ありがとう)
それを理解している“自分たちが、反論する”ことを考えなかったのだろうか。
「Heyテートク、後は私がやりマース!」
「え……金剛?」
ほくそ笑む、とはまた違う。儚げに微笑みながら金剛は青年の手を引き、青年の前に立つ。弁舌を自在に操る映姫から、守ってあげるように。
「エーキとかいうアナタ、私からも一言言わせてくだサイ」
「……何デスカ?」
「“私たちの未来”を、アナタは知っていますカ?」
それは、青年の記憶から拾った知識。艦の魂として外の世界に留まる中で得た希望。
「榛名と比叡は、航空機を積めるようになりましタ。私と霧島は、“盾”の名で呼ばれているそうですネ」
「……外ノ世界ノ未来ナド。幻想郷デハ――」
「守りたいという意思は、確かに未来にまで伝わっていましタ。あの時代を代表する戦艦の長女として、どうしてこれを喜ばずにいられましょうカ」
「デスガ、アナタ達ハ――」
「今は私が、妹たちが、皆がこのテートクの盾。もう私にとって、過去は忌まわしいものではありまセン。罵倒され、それでも受け止めて、ようやく決心がつきましタ」
例え罵詈雑言という汚泥に塗れようと、例え底の見えない水に足を絡め取られようと。
この想いを、止められるものなら止めてみせろ。
全身全霊を以て、灰塵に帰してみせよう。
「ソレデモ、アナタ達ノ罪ハ消エナイ。ソノ存在モ、過去ノ行イモ」
「テートクは私たちに針路を示してくれましタ。なら私たちはこの方を信じて愛して戦って、沈みゆく最期のその時まで共に寄り添うダケ。これが兵器に与えられた運命――そうですね、提督?」
「ああ……その通りだ」
「では簡単に沈んでやりませン。テートクは泥船に乗ったと思ってるかもしれませんガ、私たちは軍艦なのですカラ」
金剛は名残惜しさを感じながらも青年の手を放し、水上に浮かぶ。そこで青年の方へと振り返り、金剛は言葉を紡いだ。
自身の顔が、少しだけ嫉妬に染められていることを理解しながらも。
「先ほどの戦いのカード、渡し忘れていまシタ。さあどうゾ」
「あ、ああ……その、金剛、僕は――」
「早苗という子が羨ましいデス」
「え……?」
「出来うるものなら、アナタの一番深くにいるのは私でありたかっタ」
それだけ言い残すと、金剛は青年に背を向けて艦隊の元へ動き出す。
その心に根ざすのは、紛れもない“戦艦金剛”の鋼鉄の意志であった。
「ねえ、さっきの聞いたかしら?」
「司令官の啖呵、格好良かった」
「流石司令官ね! 今度ナデナデしてあげないと!」
「皆、今は戦闘に集中するのです!」
駆符『第六駆逐隊』
――駆逐『暁』『響』『雷』『電』
「曙どうしたの? 唇震えてるわよ?」
「わかってて言ってるの? 意地悪ね全く……」
「はにゃー、曙氏は愛いですな~グフフ」
「あ、わ、私もそう思います!」
駆符『第七駆逐隊』
――駆逐『朧』『曙』『漣』『潮』
「折角留守番変わってもらったんだ。活躍するぜ?」
「あらあらぁ~、バケツをぶっかけられた赤城さんみたいに油断しちゃダメよ?」
軽符『第十八戦隊』
――軽巡『天龍』『龍田』
「ねえ加古。大丈夫?」
「いやぁ~正直きっつい。昨日萃香ってちびっ子に飲まされたのが響いてる……」
「それにしても、司令官は敵を作るのがお上手みたいですね!」
「青葉ぁ、怒られるよ?」
重符『第六戦隊』
――重巡『古鷹』『加古』『青葉』『衣笠』
「いいですか赤城さん? あなたは基礎さえ怠らなければ空母3隻が相手でも勝てるでしょう。絶対に基礎を忘れてはいけません」
「気を引き締めます。航空隊、発艦始め!」
空符『初代・第一航空戦隊』
――空母『赤城』
軽空母『鳳翔』
「待たせたな提督、この長門がいる限り大丈夫だ。む、いい知らせ……新しい戦艦だと?」
戦符『第一戦隊』
――戦艦『長門』『陸奥』
「ついでに覗いてみれば面倒なことになってるみたいね」
「えへへ、お邪魔します」
「咲夜さん、美鈴さん、どうして……。長門ですか?」
「正解よ。ほら、妖怪の山の戦闘のカード。あなたに預けるわ」
「……ありがとう。艦隊を再編する!」
駆符『第二駆逐隊』
――駆逐『村雨』『夕立』『春雨』『五月雨』
駆符『第十一駆逐隊』
――駆逐『吹雪』『白雪』『初雪』『深雪』
軽符『第九戦隊』
――軽巡『北上』『大井』
闘符『第十六戦隊』
――重巡『足柄』
軽巡『長良』『球磨』
空符『第四航空戦隊』
――軽空母『龍驤』『祥鳳』
これだけの艦隊を目前にすれば流石に壮観である。などとこぼすより先に、冷や汗を垂らしながら青年は長門に尋ねていた。
「うちって……こんなに女の子いたっけ?」
「何を言う。志を同じくした者たちはまだ半分にも満たないぞ」
「あっ……はい」
「さて提督よ。これだけの艦隊をいきなり指揮しろとは言わん、黙って見ていろ。そして学べ。我らがいかなる存在であるか、そしていかなる罪とやらを持っているか、その目でしかと見届けるのだ」
頼もしい笑みを見せて、長門が艤装をポンポンと叩く。
「Hey長門、久しぶりに会ったというのに、人の戦いに横槍ですカ?」
「強がりはよせ金剛。我ら皆、提督の盾なのだろう?」
「うぅー、まさか聞かれてたなんテ……」
「え、皆に聞かれてたの!?」
「あれだけ大声を出していれば聞こえるさ。何、曙を始めとして皆喜んでいる。かくいう私もさ」
「フン、獲物は譲りませんヨ?」
戦符『第三戦隊』
――戦艦『金剛』『比叡』『榛名』『霧島』
美鈴は青年の傍に。艦隊運動が行いにくそうということで、白露と時雨も青年の傍に。三途の川は、既に艦娘によって覆い尽くされていた。
戦端は、長門が切って落とす。
「さて、そこな戦艦と閻魔とやら。覚悟はいいか?」
「……野蛮ナ。ソレデモ、私ガアナタ達ノ罪ヲ、白黒ハッキリサセテアゲマショウ」
「ほう、白黒ハッキリとは実に愉快。深海棲艦に身を許しながら精神は健常なつもりか? 白黒どころではない。今の中途半端な存在の貴様が誰かを裁こうなど……まして我らの誇り、我らの提督を試そうなど――これでも私は怒っているんだぞ!」
「ソノ口ヲ――閉ジロッ!」
死神『ヒガンルトゥール』
「良イ働キデスヨ小町」
審判『ラストジャッジメント』
戦艦の弾幕。銭の様な弾幕が広がる中を、白い弾幕が流れるように泳いでいく。そして映姫の弾幕。棒状の弾幕をばらまきつつ、細いレーザーと太いレーザーとを組み合わせて艦隊を襲う。種類の弾幕は、艦娘に負けじと三途の川を覆い尽くした。
その弾幕に対し、駆逐艦と巡洋艦、それと金剛型はひたすらに弾幕を避け続けた。長門と陸奥はレーザーこそ流石に回避し、その他の弾幕も多少避ける素振りを見せるものの、そのほとんどを真っ向から弾幕を受け止め、弾き返す。空母たちはそもそも離れた位置にいるため、被害など皆無であった。
「全水雷戦隊、複縦陣。“隙間を埋めろ”。魚雷発射用意」
長門の指示を受け、艦娘たちは三途の川の流れに対して二列の陣形を組んだ。全艦の魚雷発射管が同時に、同じ角度、同じ速度で動く。それはあたかも、一つの芸術のような統制であった。
「発射用意よし!」
「はらわたが煮えくり返る思いだろう、私とて同じだ。交互に発射、全弾叩き込んでやれ」
川を埋め尽くすような魚雷の群れが、列を組んで放射状に放たれた。その目標は勿論、唯一の水上目標である赤い戦艦。
確かに避ける隙間はなかなかないだろう。しかし、あの戦艦には瞬間移動する能力がある。その能力によって魚雷が命中しない場所へ移動されてしまえばそれまでであるが――
「十六夜咲夜、頼んだ」
「メイド使いが荒いわね」
瞬間移動に対し、時間停止。咲夜の能力であれば擬似的な瞬間移動を行うことが可能であり、魚雷の当たらない箇所へナイフを放ち牽制することで、戦艦は逃げ場をなくす。
放射状に放たれた川を飲み込む魚雷のうち、4発が戦艦に命中。それでも中破に収まる敵戦艦に対し、
「陸奥、及び第六戦隊、足柄は砲戦用意。目標敵戦艦、好きに撃て」
重巡と戦艦の度重なる連続砲撃により、魚雷で足を止められていた戦艦は避けることも叶わず。
大きな音と噴煙を立て、水面へと沈んでいった。
「小町ッ! クッ――ヤラセハシナイ!」
「さて、金剛よ。あとは貴様たちに任せるとしよう」
先ほど回避した映姫の弾幕が航空機へ変化する。その数は、先ほどの残存機と合わせておよそ300にまで達していた。
「赤城さん。あなたで半分、やれますね?」
「え、空母四隻もいるのに、半分私ですか鳳翔さん?」
「もっとお望みかしら?」
「いいいいいえいえ、半分でももったいないです。頑張ります!」
「相変わらずやなあ鳳翔」
「ええ、懐かしいです」
うわずった赤城の声が遠くから聞こえるが、その直後には戦闘機隊が敵の航空機と接敵していた。正規空母赤城、軽空母鳳翔、龍驤、祥鳳による制空戦闘が、既に上空では始まっていたのである。
「エーキ! ここでfinishデス!」
「バカメ! 私ヲ倒セルト思ッテイルノデスカ? 何度デモ沈ンデイキナサイ!」
「アナタこそ、私たち金剛型四姉妹を何だと思っているのデス!」
「金剛お姉様を筆頭に!」
「海軍を支え続けた!」
「大艦巨砲主義の立役者です!」
制空権は確保できず、しかし拮抗状態には持ち込めている。だがそれは、敵攻撃機の接近すらままならないということであり、戦艦にとっては千載一遇の機会。
「知っていますカ、エーキ。私と榛名はある日、飛行場を砲撃しまシタ」
「エエ。結果的ニハ失敗シタヨウデスネ」
「あれは私たちも不覚でしタ。なら、私と榛名が作戦で使用した弾薬の数ハ?」
「……キサマ」
「副砲と合わせて私が462発、榛名が504発。そして今は、続けて飛行場砲撃を行う予定でしたガ、成し遂げられなかった比叡と霧島もいまス」
「…………」
「あの日をもう一度。今度は成功させてみせまショウ」
映姫は航空機を向かわせようとしているようだが、想像以上に航空戦が激しいために不可能なようである。赤城の航空隊は特に優秀で、雷撃機と爆撃機を優先して撃墜させていた。
航空戦において徐々に追い込まれる映姫。金剛は静かに、そして静かに。
静かに、主砲を旋回させた。
「35.6cm砲計32門。2000発の無念、受け取って下サイ」
(うわ、川の岸部デコボコ……水が流入してるし。流れ変わったな)
作戦を終えた艦隊は、長門が率いて先に鎮守府へと向かっていた。現在残っているのは、金剛型四姉妹、それから白露、時雨の6人と咲夜、美鈴である。魔理沙は「案内は果たしたぜ」と言って、さっさと帰ってしまった。上空では、文がカメラを片手に飛び回っている。
岸辺に寝かせた映姫と小町。2人とも怪我はなく、小町に至っては幸せそうな顔でスヤスヤと眠りこけていた。
対する映姫はというと、倒した時から意識がはっきりしていた。ただ体は動かないのか、青年に上半身を起こされ、少しばかり不機嫌そうな顔で頬を膨らませている。
見た目は少女のそれであるため大変可愛らしくはあるのだが、身にまとう雰囲気が深海化した状態に比べ、格段に恐ろしいものになっているのは気のせいだろうか。
「あ、あの。四季映姫さん、でしたか?」
「先程と比べて全く覇気がありませんね。そんなことで幻想郷でやっていけるのですか?」
「うっ、いやあれはなんというかその……」
「私をキズモノにしておきながらその態度。どう責任を取るつもりなのです?」
「え? いやあの、も、申し訳ない……?」
「……冗談です。そこで謝らないでください。あなたは少し気を遣いすぎる」
映姫は一つため息をこぼすと、改めて見上げるように青年を見た。
「あなた方の……あなたの意思は分かりました。それでも、私の立場は揺らぎません」
「……そう、でしょうね」
「ただ、私としては珍しく。本当に珍しいことですが、あなたの進言を聞くことに致しましょう。致し方ありませんが」
「と……いうと?」
「今の彼女たちの罪は、全てあなたのものとします。あなたが死んだとき、改めて裁判を行うことにしましょう」
金剛を始めとする艦娘たちから声が上がりそうになるも、青年はそれを手で制する。
「ご配慮に感謝します」
「あなたの魂が、この川を渡って私の元へ来るその日が楽しみです。最も――」
「そんな日が来なければいいと、個人的には思いますけどね」と。
小さく不敵な笑みを浮かべて、映姫は語りかける。
「閻魔様がそれでいいんですか?」
「待ち遠しくはありますが、彼女たちに恨まれたくはありませんから」
「白黒はっきりつける方にしては、随分と曖昧ですね?」
「何を言っているのですか。執行猶予は立派な判決です」
「ええ……ええっ、違いありません……!」
知らぬうちに、涙がこぼれていたらしい。
艦娘のためにできることが、自分にもあったのだと。艦娘にとっての幻想郷を、幻想郷にすることができたのだ。
滴る雫は映姫の頬へと落ちていく。しかし、映姫は水滴を拭うこともせず、
「ひとまず、私の中から深海棲艦を追い出してくれてありがとうございます」
小さく微笑み、瞳を閉じて、
「今日は少し疲れました。ふふふ、私も小町のことを叱ってはいられませんね」
微かな寝息を立てて、安らかな寝顔を見せたのであった。
この審判の日、青年と艦娘はより強固な見えないもので結ばれた。
その関係にすら何か色を添えようというのは、いささか無粋というものだろう。
ようやく二章まで終わりました。
今後も、不器用な主人公を見守りくださいますよう、よろしくお願いします。
着任
特Ⅰ型駆逐艦二番艦『白雪』
特Ⅰ型駆逐艦三番艦『初雪』
特Ⅰ型駆逐艦四番艦『深雪』
白露型駆逐艦五番艦『春雨』
長良型軽巡洋艦一番艦『長良』
球磨型軽巡洋艦四番艦『大井』
妙高型重巡洋艦三番艦『足柄』
龍驤型航空母艦『龍驤』
祥鳳型航空母艦一番艦『祥鳳』
長門型戦艦二番艦『陸奥』