提督が幻想郷に着任しました   作:水無月シルシ

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038 発令、『霊一号作戦』

 正式に、紅魔館に水雷戦隊を派遣してから3日が経過した。

 様子見をと思って青年は紅魔館を訪れるのだが、見せてくれたのは変わらぬ笑顔。龍田、暁、響、雷、電。いずれも元気そうであり、レミリアのところに預けたのは正解だったらしい。

 

 レミリアと顔を合わせ、艦隊の現状や今後のことについて相談を交わす。

 滞在する艦隊は、紅魔館に滞在はしているが仕事内容が違うため、昼間はレミリアたちとほとんど顔を合わすことはない。しかし、紅魔館に帰還してからは、妖精メイドがサボりがちな掃除や整頓などを手伝ってくれる為、非常に助かっているという。

 青年もレミリアも、艦娘にそこまでは頼んでいないのだが、

 

 

『お世話になっているからには、このぐらいさせてもらうのです!』

 

 

 電を始めとして、皆頑なに譲らない。

 サボりがちな妖精メイドと違い、わざわざ進んで働きたがる艦娘に対し、レミリアは不思議そうに苦笑するも、悪い気はしていないらしい。代わりに、妖精メイドたちは咲夜に喝を入れられたそうで、少しずつだが渋々仕事に手を付けるようになったのだとか。

 

 このことについて、青年はレミリアになぜか礼を言われたのだが、額面通りに受け取るのも何か違う気がして、礼は艦娘に直接言ってくれと促すことで終幕した。

 

(まさか、艦娘の皆を派遣しただけで紅魔館と仲良くなれるなんて)

 

 紅魔館と親交を深めるのは自分の役目だったはずだが。

 どうやら、彼女たちに任せる方が上手く事が運びそうである。

 

 

 帰りがけに、青年は紅魔館のエントランスにて仕事中の咲夜と遭遇する。

 モップと、雑巾をフチにかけた水入りのバケツ。エントランスだけでも広々としているためやる気も失せそうなものであるというのに、咲夜は鼻歌など歌っていた。

 随分と気分が良さそうである。それを害するのも申し訳ないが、折角会ったというのに声もかけないでは礼に悖るだろう。

 

「こんにちは咲夜さん、なんだか上機嫌ですね」

「ひゃっ!?」

 

 が、どうやら驚かせてしまったらしい。

 小さく悲鳴を上げた咲夜は肩を竦ませ、少しだけ躓きながらこちらに振り返る。戸惑いの表情を浮かべていたが、声をかけていたのが自分だとわかると、途端に頬を紅潮させた。

 

「え、あ、その、驚かせてすみません」

「ふ……ふふ、ふん、カミツレだったのね。別に驚いてないわよ」

「随分と可愛らしい悲鳴でしたが……」

「似合わないなんて思ってるでしょう。雄叫びの方が良かった?」

「それは嫌ですよ。咲夜さんはもう少し大人な印象でしたので、予想外だっただけです」

「ああもう、人が恥ずかしがってる所をつっついてくるのやめなさい」

 

 モップを杖のようにして立ち、ため息をつく咲夜。濡れ雑巾でも投げつけてくるかと思ったが、流石にそこまでしてこないようだ。

 

「それで、今日は様子見に来たの?」

「うん。皆元気そうで良かった。咲夜さんから見て、あの子達はどうかな?」

「どうも何も、うちの妖精メイドより働いてくれるから助かってるわよ。性格は多少癖があるけど真面目だし、礼節も十分。正直なところ、私が一番頼りにしてると思うわ」

「役に立ててるなら良かった。でも――」

「無理はさせないように、でしょう? 言われなくてもわかってるわよ」

「咲夜さんもね?」

「はいはい」

 

 手をひらひらとさせてあしらう咲夜。苦笑せずにはいられないが、彼女なら上手くやってくれるだろうということを信じよう。

 しゃがんで、雑巾を絞る咲夜。スカートが捲れてチラリと伺える美しいラインを描く太ももが目に入るのだが、なるべく見ないようにと、青年は顔を赤くしながら目を逸らす。

 が、隣にいる長門には気づかれてしまったようで、ジトっとした眼差しを送られてしまった。

 

「そういえば、お嬢様に少し聞いたわ。霊夢を探そうとしているみたいね?」

「ええ。先ほどそのことについても話していました。もっとも、レミリアさんは既に勘付いていたようですけど」

「フフ、流石はお嬢様ね。それで? 私にも何か聞きたいことがあったんじゃないかしら?」

 

 床に四つん這いになり、雑巾片手に床にこびりついている汚れを探す咲夜。お尻がメイド服と共にフリフリと揺れるのだが、青年はまたもや目を逸らしながら答える。

 長門は、そんな青年のお尻を軽くつねっていた。

 

「イッ……。博麗霊夢さんがどんな人なのか、捜索はどの程度したのか、かな」

「……まあ、話しましょう。『空を飛ぶ程度の能力』を持つ人間で、博麗大結界を司る巫女よ。ここまではいい?」

「はい。萃香さんにも聞きましたから」

「現状、博麗大結界はほつれ一つなく健在ね。でも、それにも関わらず“海”が現れた。結界に何かしらの干渉がなかったとは考えにくいけれど、もし仮に干渉があったのなら。霊夢はいち早くそれに気づいた可能性があるわ」

「海が現れるより前に動いていた……? となると、陸上にいる可能性は確かに薄まりますね」

「それでも探したわ。幻想郷広しといえども、空を飛べる者が数名もいれば捜索は数日で終わるわよ。結果は大外れ」

「残るは海、ですか」

「結界に異常なし。海が現れて、霊夢は消えた。しかも海には深海棲艦。霊夢を探していて、たどり着いた結論がわからないわけないわよね?」

 

 考えたくはなかった。だが、厳然としてそこに可能性がある。

 

 最悪の事態、とはどういった事柄を示せばよいのだろうか。

 博麗霊夢が既に死んでいるかもしれないこと? 幻想郷に海が定着してしまったこと?

 “幻想郷が被る被害”としては、それら自体は実は大したことはない。

 

 では、最も幻想郷にとって望ましくない事態とはどういったことだろうか。

 霊夢が死んでも、紫が急ぎで次世代の博麗の巫女を育成すれば良し。海が定着しても、その利益と上手に付き合っていけば良し。

 

 大切なのは、幻想郷が壊滅的な被害を受けないこと。壊滅的な被害の詳細な事例については議論する部分も多くあるだろうが、おおよその問題は管理者たる八雲紫によって解決が可能と言えるだろう。

 これまで異変が起きれば博麗霊夢が解決してきたし、霊夢に準ずる能力を持つ者も多く存在する。

 

 

 そう、だから。

 

 

 『博麗霊夢の深海化』は、考えうる限り最悪の事態なのだ。

 

 準ずる者はあくまで、準ずる者でしかないのだから。

 

 

 八雲紫の懸念しているであろう事象が、一つわかったような気がする。

 博麗霊夢が“幻想郷の敵”に回ると仮定した場合、打ち崩す方法はほとんどない。

 

 咲夜は雑巾をバケツで洗って絞りフチにかけ、モップとバケツを持って立ち上がった。

 

「ねえ、一つお願いがあるの」

「ん、なんでしょう?」

「霊夢を見つけて。あの娘がいないと、幻想郷が静かになってしまうもの」

「……最善を尽くします」

「当日、私も手伝いに向かうわ」

 

 そろそろ掃除に戻るわね、と立ち去る咲夜。

 自分たちも鎮守府に帰ろうかと思って、紅魔館の玄関口へと足を向けたとき。

 

 

「ちょっと待ちなさい」

 

 

 大図書館の主が、背中から声をかけてきたのである。

 

 

 

 

 

「えっと……パチュリーさんでしたか。どうかしました?」

「用事があるのはあなたじゃないわ。そっちの戦艦よ」

 

 長い紫色の髪をリボンでまとめ、薄紫のゆったりとした服。三日月模様があしらわれた帽子をかぶるこの人物は、紅魔館に住む魔法使い、パチュリー・ノーレッジである。

 先の紅魔館の異変では軽空母に深海化し、青年の艦隊の手に余る航空機群を運用してきたことは記憶に新しい。

 

 レミリアを通して、深海化や艦娘のことについて図書館で調べてもらっているのでそのことについての話かと思ったが、彼女の要件は自分ではなく長門に対するものらしい。

 長門は戸惑いながらも、小首をかしげて応える。

 

「む……私か?」

「あなた、戦艦長門で間違いないわね?」

「ああ、私は長門型戦艦一番艦の長門だ。好きなものは小さくて可愛いもの全般、嫌いなものはカミナリとお化けだ」

「案外乙女なのね……」

 

 若干呆れ気味のパチュリー。その気持ちはよくわかる。青年も同じ気持ちだ。

 気を取り直したのか、彼女は懐から何かを取り出す。

 

「ほう……それはなんだ?」

「魔法媒体……宝珠よ。ちょっとこれを持ってくれないかしら?」

「ん、こうか?」

 

 つるんとした真球型の、無色透明なこぶし大ほどの物体。長門が手に取ると白い輝きを帯び、柔らかな光を放出し始めたのだが、それを確認するとパチュリーは満足したのか、一つ頷いて手のひらを差し出した。

 

「……ありがとう、もう十分だから返しなさい」

「あ、ああ……。今の行動に一体何の意味が?」

「知る必要はないわ。でも、貴女たちの不都合になるようなことじゃあないから安心して」

「む、……うむ」

「艦娘や深海棲艦についての調べ物については、近いうちに報告できると思うわ。気をつけて帰りなさい」

 

 

 「これで『神様の宿る器』は解決ね」と、呟きを残し。

 

 

 宝珠を受け取ったパチュリーは、地下に帰っていった。

 青年は首をひねりつつ、当事者の長門はさらに首をひねりつつ、紅魔館を後にしたのであった。

 

 

 

 

 

 鎮守府に帰還した青年。

 時間はお昼前。少し勉強をしてから、午後は今後の事について長門や赤城と相談をしようかと思っていたその矢先。

 鎮守府に入ろうとする前に、門番をしていた美鈴が慌てた顔で近づいてくる。

 

 

「カミツレさん、大変です! 実は――」

「え……行き倒れ!?」

 

 

 執務室の青年のベッドに寝かされていたのは、一人の少女であった。前髪を右に流したショートへアに、ロップイヤーと呼ばれる兎の垂れ耳。どこかでその服装に見覚えもあった気がするのだが、残念ながら思い出すことはできない。

 鳳翔が甲斐甲斐しく世話をしながら、経緯について説明をしてくれる。

 

「この子、鎮守府の前を通りがかって、倒れた際に誤って湖に飛び込んでしまったようです。先ほど体は拭き終えましたが、どうやら弱っているようでして」

「うちの医療設備は……入渠ドックくらいしかないか」

「困りました。看病だけならできますが、この子が何かしらの病気にかかっているなら、その治療は私たちにはできませんし……」

「……よしわかった、長門!」

 

 

 

 

 

「ということで連れてきたのですが……途中で気づきましたけどこの子、永遠亭に何か関係があるんじゃ……」

「……よく連れてきてくれたわね、ありがとう」

 

 永遠亭にて、長門とともに急患を連れ込んだ青年は、そのまま永琳と面会することに。竹林ですぐにてゐを見つけられたのは幸いであった。鈴仙に抱えられて行ったあの少女は、どうやら別室で看病するらしい。

 そこでようやく気づいた。連れてきた兎耳の少女の服装が、鈴仙と同じであることに。

 

 改めて、目の前に姿勢正しく座する永琳と向き合う。

 

「お久しぶりです。こうして直接お会いするのは少しぶりですね」

「ええ、少しはまともな顔つきになったみたいで安心したわ」

 

 そう言って、永琳はふんわりと優しく微笑む。その笑み一つで青年はまた顔を赤くするのだが、隣に座る長門に太ももをつねられたことで正気に戻る。

 

「また異変を解決したそうね。博麗の巫女の力もなく解決するなんて、あなた英雄よ?」

「それは言い過ぎです」

「褒めすぎだと思う? でも周りはどう見るでしょうね。それで、また何か企んでいるようだけれど……」

 

 どうやら、作戦を計画中であることは知られていたらしい。どこから情報が漏れたのだろうかと首をひねるも、永琳は小さく微笑むだけである。

 

「――と、言うことになりました。できれば、永遠亭からも戦力を派遣してもらいたいのですが」

「ふうん…………」

「あ、あの、お願いできますか……?」

「ふうん…………」

 

 展開予定の作戦について軽く説明し、紅魔館からも協力を得られたことを話したのだが、いかんせん永琳の反応が望ましくない。何か気に入らないことがあると、あからさまに言っているような態度である。

 

「一つ、貴方に話しておきたいのだけれど」

「……は、はい」

「私たち永遠亭は貴方たちの鎮守府と、高速修復材と魚の取引の関係はあるけれど、紅魔館のお子様吸血鬼のように、同盟を結ぶまではしていないわよ?」

「……霊夢さんの捜索が目的であっても、ですか?」

「勘違いしているわね。うどんげは確かに霊夢の捜索に協力しているけれど、あれはあの子が時間を見つけて個人的に手伝っているに過ぎないわ。永遠亭としては、この件に関しては一切手をつけていない」

 

 てゐによって出されたお茶をすする永琳。その回答に少し驚いた青年は同様にお茶をすするのだが、それを小さく吹き出してしまう。よくよく中身を見れば、お茶と思っていたこの飲み物は青年のものだけ青汁であった。

 お茶ではなかったが、思ったより美味しいななどと思いながら青年は疑問をぶつける。

 

「ちなみにそれは……なぜ?」

「博麗の巫女に関わることは、全てスキマ妖怪の責任だから。でも個人的な捜索にまで口出しするほど、私は狭量ではないわ」

「なら、永遠亭は鎮守府にも協力せず、博麗霊夢の捜索はしないと……?」

「“今は”ただの取引相手。それだけよ」

 

 そう話す永琳は、やはりどこか不機嫌である。何か機嫌を損ねるようなことをしてしまっただろうかと考えるのだが、青年にはこれといって特に思いつかない。

 ふと、隣に座る長門を見る。長門はチラリと青年に視線を送っており、何かを求めるような表情であるため、戸惑いながらもぎこちなく青年は頷いてみせた。

 

 すると、である。

 

「八意殿、拗ねるのはそれまでにしてもらいたい」

「……拗ねてないわ」

「先ほど紅魔館に艦娘を派遣したという話をしてから、ずっと眉が小刻みに震えているではないか。大人気ないことをするものではないと思うが」

「……拗ねてないわ」

 

 どうやら長門の指摘はあたっていたのか、永琳は珍しく表情を崩して唇を尖らせていた。そのような細かい点にまでよく気づいたなと思うのだが、長門はさらに続ける。

 

「ひとつ質問がある。先ほどそちらに預けた、ウサギっ子のことだ」

「……何も話せないわね」

「八意殿、我らは同盟関係ではない。よって全ての情報共有が叶わないことも私は理解している。だが、同時に取引関係であることを忘れないでもらいたい。“答えられない”ではなく、“話せない”ような者を連れてきたことで、貸しの一つもあると思うのだが」

「……わかったわよ」

 

(……さすが長門だなあ)

 

 何やら鋭い指摘をしたことで、永琳が一歩譲歩したようである。青年としては永琳を少々苦手に思っていなくもなかったために、この交渉術には非常に感謝させられた。

 

「永遠亭は守矢鎮守府に、正式に同盟を申し込むわ。これで満足かしら?」

「それでは貸しを返したことにはならない。公平とは言えないだろう。優秀な人員を借りたい」

「……うどんげを連れて行ってもいいけれど、診療所としての永遠亭が十分に機能しなくなるわ。変なことはしないから、艦娘さんを何人かお借りできない?」

「ほら、提督。あとは提督の領分だ」

「え? あ、うん」

 

 先程から、表情こそ崩していないのだが永琳が不機嫌であると分かる。永琳を相手に一歩も退かない姿は、格好いいといえば格好いいのだが――

 

(代わりに、永琳さんが僕を見る目が半端なく怖い……)

 

「え、えっと、今のところ艦娘を紅魔館以外に派遣するほど余裕がなくて……」

「うどんげを使うのは、艦娘が外洋に出ることで生じる鎮守府の守りの穴を埋めるためでしょう? なら、あの子を貸し出せるのはその作戦期間中のみとしましょうか」

「あ、で、でも、これから艦娘が増えることがあれば派遣は可能ですよ!」

「ひとまず、今回の借りはうどんげの短期派遣で返しましょう。同盟関係としての人員派遣については、また相談ということで」

「あー、えー、その、…………はい」

 

 「まだまだね」と、永琳が少し愉快そうに微笑む。長門から交渉を引き継いだ途端にこれである。まだまだ自身は甘いなと、青年自身も微笑みながら自覚することとなった。

 残念ながら交渉は望み以上にはならなかったが、青年は一つ、また別件を思い出す。

 

「そういえば、一つ聞きたいことが」

「あら、何かしら?」

「紫さんが今何をしているかご存知ないですか? しばらく会えてないんですよ。できれば接触したいんですけれども」

「ああ、あの妖怪なら――」

 

「何か色々企ててるみたいよ」、と。

 

 ひとまず長門の活躍により、永遠亭との同盟と鈴仙の協力を取り付けられたのであった。これで作戦中は、鎮守府の警備を減らすこともできるだろう。

 本日分の高速修復材を受け取って、青年は鎮守府に帰投するのであった。

 

 

 

 

 

 そして、5日後の早朝。

 

「提督よ。艦娘は食堂に集合完了した。咲夜、鈴仙も到着し、魔理沙は上空で待機している。妖夢も厨房の仕事は終えたそうだ」

「了解。とりあえず全員集まったかな?」

「あー! 私を忘れるなんて酷いですよカミツレさん!」

「さなちゃん朝からずっといるじゃん」

 

 長門からの報告と早苗からのブーイングを受けて、青年はひとつ頷いた。

 鎮守府の食堂に集まるのは艦娘、及び今回の作戦に参加する協力者たちである。あくまで個人の参加ということにはなっているが、彼女たちのバックを考えれば心強いものを感じずにはいられない。

 

 そして心強い協力者は、今挙がった名前以外にもう一人。

 

「おいカミツレ、まだ深海棲艦とやらは攻めて来ないのか?」

「萃香さん、今回は攻め込むのは僕らの方からです」

「ちぇっ……なんだよ、つまんないな」

 

 と、唇を尖らせるのは伊吹萃香。おそらく現状では、作戦に協力してくれる人物の中で最も強力な戦力だろう。

 彼女にはあまり好ましく思われてないのではないかと思っていたのだが、霊夢の捜索を口に出すと一変。今回の作戦についても、非常に協力的である。

 

「哨戒は天津風が旗艦の、叢雲、白露、時雨、涼風の混成駆逐隊が行っている」

「よし、作戦を発令しよう。事前に通達した艦隊を組むよ」

「その前に提督、今回が初の攻勢作戦となる。我々の士気も考え、一つ演説など語ってはどうか? 意気込みなど聞かせて欲しいものだ」

「うぇ? そ、それって絶対しないとダメ?」

「逆に提督よ。作戦内容だけ伝えてその後は我らを放置するつもりか? 酷いお人だ、せめて提督の思うところぐらい聞かせてくれてもよかろう?」

「あ……うん、わかった」

 

 意を決して、艦娘や協力者たちの前に出る。長門の「傾注!」という言葉により、その瞳の全てが自身に集まることで緊張するのだが、青年は一度目をつむり、呼吸を整えてからその視線たちに向き合った。

 

 大丈夫だ。この作戦のために、ずっと準備をしてきた。勉強はまだ途中だが、自分なりに考えて作戦を立案したのだ。

 誰のために? 何のために? そもそも自分は、なぜこの艦隊を率いているのだろう?

 その想いを言えばいいさ。馬鹿にする者など、ここには一人も居はしない。

 

 

「僕が幻想郷に来てから……もうすぐ一ヶ月が経とうとしてる。最初はね、幻想郷に来て不安だったんだ。誰でもみんな好き勝手に自分の意見言うし、選択の余地なんてあってないようなものだし、さなちゃんは……昔より変になってるし」

 

「それは抗議します!」

 

「滝壺に落とされてさ。海に出たら深海棲艦に襲われるし、吹雪が突然出てくるし。事態がわからないまま、幻想郷に残るか外の世界に帰るか選べだよ? そんなの、いくら外の世界が嫌でも帰りたくなるに決まってる」

 

 突如幻想郷と艦娘を否定するようなことを言ってしまったためだろうか。艦娘は不安そうな顔に、咲夜などは目つきを鋭くさせている。

 

「でもね、さなちゃん、神奈子さん、諏訪子さん、それと紫さんは、形はどうあれ僕を呼び止めてくれた。艦娘の皆は僕の意見を尊重してくれた。僕に……道を選ぶチャンスをくれた」

 

 一つ深呼吸。

 

「幻想郷はとてもいいところだ。みんな僕を受け入れてくれた。挨拶一つにも返してくれて、ご飯を一緒に食べてくれて、何気ない会話をしてくれた。ひどく当たり前のことかもしれないけど、その当たり前が、僕には本当に嬉しかったんだ。だって、ずっと欲しかったものだったから」

 

「今なら言える。幻想郷に来て良かった、僕は幸せだよ。僕を大事にしてくれる守矢神社の家族も、僕を想ってくれる艦娘のみんなも。意外と親切な紅魔館の皆さんも、ちょっと怖いけど優しい永遠亭の皆さんも、なんだかんだ協力してくれる妖夢さんも、お酒に溺れるばかりじゃない萃香さんも、この場にはいないけど、誰より霊夢さんを心配している魔理沙ちゃんも――」

 

 

「みんな、大好きなんだ」と。

 

 

 震えながら、拳を握り締めながら、声を絞り出す。

 幻想郷の当たり前が、自身の当たり前をいとも簡単に突き崩したこと。幻想郷での常識が、自身の常識を完膚なきまでに屈服させたこと。

 そしてそれが、過去の自分をいかに乗り越えさせたか。忘れたくても、最早烙印のごとく押し付けられたこの感情は忘れようがない。

 

「博麗の巫女、博麗霊夢さんという人がいる。幻想郷において多くの人から信頼され、愛されてる女の子だ。今現在、霊夢さんは行方不明。幻想郷の中で霊夢さんのいる可能性があるのは、残るは海のみ」

 

 ゴクリと、誰かが喉を鳴らす。

 

「今回の皆の任務は博麗霊夢さんの捜索。鎮守府近海よりさらに離れた、まだ未知の海域に進出してもらうことになる。これまで近海だけの警備を任せていたのは、危険が有るのと捜索の両方を兼ねていたから」

 

 拳を、握り締める音が聞こえる。

 

「だけど近海にはいない。危険を承知で、皆には航海に出てもらうことになった。幻想郷にお世話になったんだ。僕は……幻想郷に恩を返したいと思う。その為の、霊夢さんの捜索だ」

 

 艦娘から視線を外し、協力者たちを真っ直ぐに見つめた。

 

「艦娘の多くが出撃することになるので、あなた方には沿岸の警備をお願いします。駆逐隊の哨戒はありますが、もし近海に突如現れた場合、火力不足を補うためにはあなた方の力が必要です」

 

 咲夜、妖夢、鈴仙、萃香が、一つの躊躇いもなく頷いた。

 改めて艦娘たちを見つめて、瞬き。

 

「繰り返すようだけど、皆の力を貸してほしい。でも、無理をさせるつもりはない。この場で言うのも気は引けるけど、靈夢さんの捜索よりはまず君たちの命だ。先の海域が謎である以上、君たちの安全を第一に進めたい」

 

 萃香の表情が多少動くが、それは承知済みで協力してもらっている。

 だからあとは――

 

「皆に言っておくことがある。君たちは強い。間違いなく、それこそ世界を変えられるほどに。でもこの幻想郷では、沈んでしまうような戦いはしないで欲しいんだ」

 

「む…………?」

 

「必ず帰って“こい”。それだけが僕の命令だ。帰ってきて、また僕に笑った顔を見せて欲しい。僕に恩を返させてほしい。僕の大好きな君たちなら、必ず成し遂げられると信じてる」

 

 

 「以上」と。半ば震えながら演説を閉じた。

 元より、スピーチの経験などほとんどない青年。己の駄弁りのような世迷言が、果たして受け入れられているのか不安になった結果。

 反応を見ることすらなく、恥ずかしさと申し訳なさに包まれてその場から立ち去ろうとする。

 

 しかしその試みを読まれていたのか、長門に肩をガッチリと掴まれてしまった。

 

「敬れ――言うまでもなかったか。提督よ、言葉を受け止めた我らの意思、一瞥すらせずに去ろうというのか」

「えっ……?」

 

 尋常ではなく強い力で引き止めてくる長門。艦娘と人間の力の差など知っていようものなのに、ここまで引きとめようとする理由は何か。

 恐る恐る、青年は自身に従ってくれる部下たちに目を向けると――

 

 

 艦娘全員が、統率の執れた敬礼を自身に向けていた。

 

 

 不動。腕や肘の角度まで全て統一され、どの眼であろうとも自身を逃そうとはしない。

 逃げようとした自分が情けなくなって。それでも彼女たちに向き合おうとした自分が頼もしく感じて。

 

 恐る恐る。ゆっくりとした所作ながらも力強い答礼を返した。

 ようやく、艦娘に自分の気持ちが伝わったような気がする。

 

 協力者たちの表情も、緊張した糸のように張り詰めていた。妖夢に至っては鎮守府生活にすっかり染まってしまったのか、艦娘同様に敬礼を送ってくれている。

 

 

(みんな本気なんだよな……。でも、僕だって本気だ――)

 

 

 まだ見ぬ少女のため。幻想郷への恩返しとしての第一歩のため。

 青年は表情を一変させ、気持ちを冷静に仕立て上げたのである。

 

 

 

 

 

「茅野守連より全艦娘に達する。本作戦は、戦艦を中核とする一個艦隊と、空母を中核とした二個艦隊による大規模威力偵察を実施し、博麗霊夢を発見することを目的としている。まずは第一艦隊――金剛型戦艦4名!」

「私たちの出番ネー!」

「第一艦隊は高速戦艦を主軸とした打撃部隊になる。金剛型を基幹とし、愛宕、鳥海。護衛の水雷戦隊には天龍と初霜、第十一駆逐隊!」

 

 

 

連合『高速水上打撃部隊』

  戦符『第三戦隊』

  ――戦艦『金剛』『比叡』『榛名』『霧島』

      重符『第四戦隊第一小隊』

      ――重巡『愛宕』『鳥海』

        ――軽巡『天龍』

          ――駆逐『初霜』

            駆符『第十一駆逐隊』

            ――駆逐『吹雪』『初雪』『白雪』『深雪』

 

 

 

「第二艦隊と第三艦隊は、今回の作戦の要である航空偵察を行ってもらう予定だ。先に空母の割り振りから――。第二艦隊は赤城、及び加賀! 第三艦隊の空母は鳳翔――さん、龍驤、祥鳳!」

「ここは譲れません」

「長門、青葉と加古、長良、第七駆逐隊を第二艦隊。陸奥、足柄、衣笠と古鷹、球磨、第二駆逐隊を第三艦隊付きとする。水雷戦隊旗艦として、第二は長良、第三は球磨。雷巡に改装した大井と北上はそれぞれに配置!」

「北上さんと……別れる? ブッ飛ばすわよ」

「……戻ってきてからどうぞ」

 

 

 

連合『空母機動部隊』

  空符『第一航空戦隊』

  ――空母『赤城』『加賀』

    ――戦艦『長門』

      ――重巡『足柄』

        重符『第六戦隊第一小隊』

        ――重巡『青葉』『加古』

          ――軽巡『長良』

            ――雷巡『大井』

              駆符『第七駆逐隊』

              ――駆逐『朧』『曙』『漣』『潮』

 

 

 

連合『空母機動部隊』

  空符『第一航空戦隊』

  ――軽空母『鳳翔』『龍驤』

    ――軽空母『祥鳳』

      ――戦艦『陸奥』

        重符『第六戦隊第二小隊』

        ――重巡『衣笠』『古鷹』

          ――軽巡『球磨』

            ――雷巡『北上』

              駆符『第二駆逐隊』

              ――駆逐『夕立』『村雨』『五月雨』『春雨』

 

 

 

「第一艦隊を先頭、第二と第三がその大きく後ろ、間を空けて左右に展開し航空機による偵察を実施する。三角形を描く陣形の最後尾、菱形の頂点となる位置に、艦隊の背後を警戒する艦隊として、夕張と睦月型!」

「あ、今回私も出るんでしたか」

 

 

 

水雷『第六水雷戦隊』

――軽巡『夕張』

    駆逐『睦月』『如月』『弥生』『卯月』『菊月』『望月』

 

 

 

 今の艦隊に出せるほぼ全ての戦力。混成駆逐隊が近海、紅魔艦隊が霧の湖を警備し、鎮守府へ繋がる水路を完全に封鎖して後顧の憂いを絶つ。

 

 準備は万端だ。さあ、はじめよう。

 

 青年が幻想郷に着任して26日。博麗霊夢が消息不明となって29日が経とうという日。

 これは幻想郷にとって、深海棲艦に対する最初の進撃となるだろう。

 

 

 

「只今を以て、博麗霊夢捜索作戦――『霊一号作戦』を発令する!」

 

 

 

 

 

 

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