思い出の中に留まる懐かしき神社、その板張りの廊下を青年は歩く。先導して歩く早苗についていくように。
ニコニコとした笑顔とは打って変わって、早苗の表情には落ち込みが見られる。かといって自身も、余裕のある表情をしているわけではないが。
「あの、さなちゃん」
「なんですかカミツレさん?」
「僕って、本当にここ歩いてもいいのかな」
「神奈子様が許したんですから大丈夫ですよ」
それまで一般人であった青年。しかし、たった30分にして、人生最大の山場を迎えていた。
どこで何を間違えたのだろうか、いやそもそも何で神社にいるのか、うわ神社の中っていい香りなどなど、気になることが多すぎるのである。
「これから……何するんだっけ?」
「神奈子様と諏訪子様、それと、幻想郷の八雲さんという方とお話です。八雲さんが、私たち守矢神社が幻想郷に来た理由について聞きたいそうですから」
「あ、そうだった」
そうだった、ではない。八雲さんって誰だ、幻想郷って何、など不思議は様々。
そして最も留意すべきは、なぜその場に自分も加えられることになっているのかという疑問である。
「あのさ、僕ってその話し合いに必要なの? いらないよね? それどころか、僕って神社の関係者じゃないよ?」
「先方がお呼びですから仕方ないですね。神社の関係者を全て集めろ、特にあの青年は絶対に呼べ、とのことなんです」
「八雲さんって、あのコスプレの人?」
「カミツレさんから見れば私も十分コスプレだと思いますが」
「それもそうだ」
ふと、青年は自分の後ろについてくる影をチラリと見た。
ビクビクして震えながらキョロキョロと辺りを見回し、時折青年を見ては顔を固める少女。
海で自身を怪物から助けた張本人であるが、助けた時とは違って勇敢さは欠片も見えず、常に緊張した面持ちである。
「あの、さ」
「は、はい! なんでしょう司令官!」
「いや、見たところすごい緊張してガチガチみたいだけど」
「お気遣いありがとうございます! ご心配には及びませんから!」
大きな声とともにキレのいい敬礼。しかし、まるで変わった様子はない。
薄い唇も小さな肩も細い膝も、寒さにこらえている時のように震えている。生まれたての小鹿を見ているようだと青年は息を漏らした。
「えっと、吹雪ちゃん、だったっかな?」
「は、はい、吹雪です!」
「そ、そんなに身構えなくてもいいんじゃない?」
安心させようと吹雪という少女に話しかけたところで、早苗が獣耳の少女と争っていたことを思い出す。
(もしかしたら、また戦いになるのかもって心配してくれてるのかな?)
早苗に向き直ると、早苗は自身の考えを見透かしたように答えた。
「大丈夫です。ひとまず八雲さんの式神の八雲さんという方の仲介で、お互いに一度矛を収めましたから」
吹雪は一瞬だけほっとした表情を見せるも、やはりどこかぎこちない。
どうしたものかと考えるが、それどころでもない。当の青年すら、自身が置かれた状況を一分も把握していないのだから。
「それでも……」
「ん?」
「それでも何かあったときは、私が司令官をお守りします!」
「……う、うん」
勿論、吹雪のことも含めて、である。
なぜ突然現れたのか、なぜ自身を司令官と呼ぶのか、考えるだけでも、謎は深まるばかりであった。真面目なのだろうということは、ひしひしと伝わって来るのだが。
「素っ気ないですね」
「ほっといてよ」
「本当に心配してる訳じゃなくて、他人に興味なんてないから、当たり障りのないことしか話せないんですよね?」
「6年も経てば、考えも変わってくるよ」
「その割に、吹雪ちゃんに対する話し方、昔の私に向けてのものにそっくりですよ」
早苗の言葉に、青年は少しだけ唇を尖らせる。その様子を見て早苗がわずかに微笑んだのを見て、吹雪も理解しているのかいないのか口角を上げて首をかしげた。
話しながらも、三人はひとつの部屋の前に到着する。
「さあ、この部屋に八雲さんがいます。こちらは私と神の二柱、それからカミツレさん、吹雪ちゃんのお二人です」
「改めて、色々と説明もしてもらえるんだよね?」
「それはもちろん、お任せ下さい」
そう言いつつ障子に手をかけたところで、早苗はもう一度振り向き、青年に対して口を開く。
「先に、カミツレさんに言っておかなければならないことがありました」
「…………僕も、その言葉を一応聞いておきたかったかな」
「私たちの都合に巻き込んでしまって、本当にごめんなさい」
畳が微かに香る部屋の中、7人は座る。
上座に神奈子と諏訪子、その横に早苗。対面するように座るのは八雲紫と、少し間隔を空けて青年と吹雪。
重苦しい、場が揺らいでいるかのような雰囲気の中で、最初に口を開いたのは八雲紫であった。
「外の世界で信仰が得られなくなりそうだったから、この幻想郷に来た。これについて何か間違いはあるかしら?」
これを受けて、神奈子が怖じけることなく、空気を締めつけるかのような低い声音で返す。
「我らにおいて、その言に偽りはない」
それに続いて諏訪子もまた、冷たい視線を浮かべたまま静かに答えた。
「私は聞いてなかったけどね」
「ちゃんと話したじゃないか! お前がテレビ見てたんだろ!」
空気は一瞬にして和やかなものとなる。
「守矢神社さんの話をまとめると、幻想郷に来たのはあくまで信仰を得て生きるためであり、幻想郷を支配しようとする意図はない、と?」
「それで構わない。全ての者から信仰を得られるならそれはそれで構わないが、私もそうは思っていないからな」
「布教を認めるなら特に争うつもりはない、と。でも――」
「布教すら拒むなら、私たちにも手段がある。……まあ、いたずらな敵意はないと思ってくれ」
紫と神奈子が視線を交差させて火花を散らしている。
青年からすればさっぱりわからない。専門用語のようなものが交わされ、意味のわからない言葉にうーむとお互いに考え込む。
一体、一般人にどう理解しろというのだろう。
「幻想郷は全てを受け入れる場所よ。海の化物みたいに、いきなり攻撃してくるような荒くれ者は勘弁してほしいけれど」
「……感謝する」
だから、青年が理解したのはここまで。
ここは『守矢神社』という神社であり、八坂神奈子と洩矢諏訪子が祀られており、東風谷早苗が巫女を務める。
外の世界において人が神を信じなくなってきたために存在することが危ぶまれるため、この幻想郷という世界に遷宮して、この地で信仰を得ることにしたのだという。
「ただし、今神社があるここは妖怪の山。ここに神社を置いていいかどうかは、山の者たちと交渉することね」
「心得ているさ」
どうやら話がまとまったらしく、二人の間で柔らかくも不敵な笑みが交わされる。その心の内は、青年の知るところではないが。
「さて、では次は彼についていいかしら」
「……ひゃい? あ、えと、僕ですか?」
自身に話を向けられるとは思っていなかった青年。
油断した時に紫に話しかけられたために、加えて紫と神奈子の見目麗しさに見とれていた部分もあり、青年はなんとも間抜けな返事をしてしまう。
「……ゴホン、失礼しました」
「とって食うわけじゃないんだから、普通に話してちょうだい」
気恥ずかしさを覚える。神奈子と早苗はわずかばかり口元を歪ませ、諏訪子に至っては既に座るでもなく寝転がって腹を抱えていた。
ただし、吹雪だけは未だに正座したまま、緊張した面持ちで警戒しているが。
「あなたと、そちらの彼女に聞きたいことがあるのだけれど、いいかしら?」
「……僕に答えられることであれば。吹雪ちゃんは?」
「はい、大丈夫です!」
「そう、わかったわ」
紫は一瞬だけ青年に対して目つきを鋭くするが、すぐに優しい瞳へと変わる。
「なら、まずはあなたのお名前から聞きましょうか」
「僕は……
「そちらの子は?」
「ふ、吹雪です!」
「茅野吹雪さん?」
「いえ、吹雪です!」
その質問に対して吹雪は恥ずかしそうに手を横に振った。青年としても、なんとも申し訳ない気持ちになり心の中でため息をつく。
その一瞬だけ、再び紫が青年をじっと見つめたが、青年がそれに気づくことはなかった。
「では、あなたたちはどうしてここにいるのかしら?」
「僕は、この守矢神社が幻想郷……でしたっけ? ここに遷宮? する時に一緒に巻き込まれました」
と、言ったところで、神奈子と早苗が非常に申し訳なさそうな顔になる。
「それについては、うちの早苗が本当にすまなかった」
「カミツレさん、本当にごめんなさい」
「……いえ」
実のところ、これについては青年も答えを出していない。
というよりは、出せないのが現状である。状況を把握しきれておらず、数々の非現実に対する脳の処理が追いついていない。
何より、幻想郷に迷い込んだということを、まず理解していないのだから。
「ふうん、それで、カミツレさん。あなたは外の世界に戻りたいのかしら?」
「…………」
「あら、答えは?」
「戻ることは……できるんですか?」
「私なら送ってあげられるわ」
「…………」
「何か、考えることがあるみたいね」
スッと、一歩引いた紫。だが、この態度を青年は知っている。紫という人物、どうやら自分の内面を見極めたいのだろう。
誰とも目を合わせずに、青年は一人黙り込む。
それを見た紫は、ふーんと小さく頷いてから吹雪へと視線を移した。
「じゃあ、次はあなたよ、吹雪さん」
「は、はい!」
「あなたはどこから来たの? 私の覚えている限りでは、いきなりカミツレさんの目の前に現れたようだけど」
覗くような紫の視線を受けて、吹雪はやはり緊張した表情を更に固くさせる。
そこから出てくる言葉もやはり緊張気味なのかと青年は考えていたが、予想外の話を聞くことになる。
「私は……特Ⅰ型駆逐艦のネームシップ、吹雪です」
との言葉に、神奈子以外の全員が訝しんだ。
「私には……砲撃音、火薬と硝煙と油の匂いが染み付いています。波間をかき分けて進んで、戦いに身を投じて。それから……」
「……それから?」
「水の中に沈む身体と、静かな……海」
一体その言葉が何を示しているのかなど、青年にはわかりようもない。
駆逐艦が何か、ぐらいはわかる。軍艦だ。旧軍においては正確には軍艦ではなかったらしいが、今の世の中の海軍は多くを駆逐艦が占めていた。
どんな回答を想像していたのかはわからないが、紫の驚いた表情を見る限りではこれは予想外であったらしい。
「寒くて、震えて、でも戦って、そんな中で私は大きな音とともに痛みを覚えて、そして動けなくなりました」
「……それだけ?」
「気づいたらこの身体で、司令官……カミツレさんの指示に従うよう、頭が覚えていたんです」
「それは……誰かに命令されて?」
「違います。でも私にとって! あの時あの場で突然目が覚めたのは、間違いなく――」
司令官を助けたかったからなんです! と。
紫は考え込むように顎に手を添える。神奈子は先程からあまり反応がないが、吹雪という存在にある程度の目星をつけているのだろうか。
青年としては、ますます頭を悩ませる種が増えてしまったが。
「あ、あのさ、吹雪ちゃん」
「はい司令官、なんでしょうか!」
そうして青年に振り向く少女、吹雪。その目には一点の曇りもなく、ただただ真面目に青年の言葉を一字一句逃すまいとでもするような意思が伺えた。
「どうして、僕のことを司令官って呼ぶの?」
「それは、私の所有者だからです」
「は?」
危ない発言に、部屋中からの視線が刺さる。
しかし、青年にはもちろんそんな趣味はない。
「えっとね、僕は君に会うのは今日が初めてだし、君に何かした覚えももちろんないよ?」
「はい、私も司令官に会うのは今日が初めてです!」
「あ、あの、誰かに何か教えられた? もしかして孤児院からついてきたの?」
「いえ、違いますよ?」
「……司令官って呼んでるけど、その理由は?」
「私を従わせる立場にあるからです! さあ、ご命令を!」
再び、青年に対して冷たい視線が突き刺さる。心なしか、早苗からの視線が特に強い。
「さて、放っておいても面白そうだけど、ここは一つ私の話を聞いてもらえるかい?」
やれやれとでも言うように、最初に口を開いたのは神奈子であった。
吹雪をじっくり観察するように全身を見てから、神奈子は話す。
「この子、存在としては幽霊になるね」
「……は?」
「あら、やっぱりそうなの?」
口を空けて呆然とする青年。に対して、紫は納得したとでも言うかのように眉を下げる。
初めて幽霊を見た! などと青年は言うつもりはない。超常現象を認識してしまうという好ましくない体質上、これまで幽霊など山のように見ている。
しかし、吹雪のような例は初めてであった。実体がはっきりとあって、物にもしっかり触れて、あげく会話が可能な幽霊。
これまで体験してきたものとは、明らかに一線を画している。
「自分の知識にはなりますが……幽霊にしては、かなり存在がハッキリとしているようですが」
「まあ、ほとんどの幽霊が弱々しいのは間違いない」
「じゃあ、なんで……?」
「この吹雪って子は、この子個人の意思の幽体ってわけじゃなくて、沢山の人の意思が宿って一つの存在を形成しているから、強力な実体としてはっきり見えるのさ」
今一度、吹雪を見る。可愛らしく微笑むので青年も頬が緩んだが、いかんいかんと首を振って神奈子の方へと向き直った。
「付喪神という可能性もあるのでは?」
「付喪神は肉体には憑依しない。あくまで彼女自身は多くの思念の集合体、それが形を成したものってことだ」
「……ほほう」
(全然わかんない)
神奈子による説明を聞いた青年。自分自身理解できているのかどうか怪しいがとりあえず相槌を打っておく。
「私って幽霊だったんですね! 初めて知りました!」
「その反応もどうなのさ……」
自身のことであるというのに、吹雪は目を輝かせて話を聞いていた。
「もう一つ付け加えるよ。吹雪が持っている装備、今は本殿の方で保管してるけど、その装備の方には可愛らしい小さな付喪神が憑依していた」
「……あながち予想も間違っていないんですか」
話をまとめれば、神である神奈子の観察眼が間違っていないものであるとすれば、吹雪自身は思念の集合体で構成される魂。
そして、吹雪の扱うあの装備は付喪神ということになる。
「そしてこれが最後の情報。比較的新しい闘争のニオイがする。ああ、人間の基準ではじゃなくて、数千年数万年数十万年と生きる神の基準でね」
「え? 神奈子さん今何歳なん――」
「あぁん?」
「え、えっと……第二次世界大戦でしょうか?」
「吹雪の中にある思念はおよそ数百。当時でその数の人員を動員して動かす、加えて海の上で動くものといえば?」
「なるほど、それで軍艦……。艦魂とでも言うんでしょうか?」
「そんなところじゃないか? こんなナリだ。“艦娘”とでも呼ぶ事にしよう」
青年にとって、体に電流が走ったかのような衝撃。
こんな少女がフネの魂、それどころか第二次世界大戦当時の軍艦の魂であるなど、少なくともにわかには信じ難い事実である。
吹雪の表情はパッと見は笑顔である。が、心境は複雑であるのか、嬉しそうな顔もすれば悲しそうな顔もする。それを見ている限りでは、ただの一人の女の子のようにしか感じられない。
「というより、なんで女の子なんでしょう? 軍艦って女性禁止って聞いたことありますよ。特に昔は」
「それは知らないけど、船の代名詞は昔から『彼女』が使われてたから、その関係じゃないか? 私も山奥にいたから、艦魂なんて見るの初めてだし」
それならばまだ吹雪が少女の形を成していることにも頷ける、と青年は納得した。
しかし、やはりまだどこか信じられない部分はある。
「カミツレ君だっけ、一ついい?」
「はい、えっと、諏訪子様?」
「諏訪子でいいよ。様なんて堅苦しいのは早苗だけで十分だから」
「私堅苦しいですか!?」
「えっと、じゃあ諏訪子さん?」
「よろしい」
それまで寝転がりながら黙って話を聞いていた諏訪子が、突然青年に対して話かける。
見た目少女であるこの神様をどう呼んでいいかは青年も迷った。さすがにちゃん付けは叱られそうである。
「君のさ、ポケットに入ってるソレ。何? ずっと気になってたんだけど」
「ポケット? ……ああ、これですか」
取り出したのは、参拝道で拾った一枚の写真。先ほど水に浸かったために青年は一度着替えたのだが、不思議と写真は濡れていなかった。
古ぼけた写真であることには変わりないのだが、自分はまたもや不思議なものに遭遇してしまったのだろうか。
「守矢神社に行く途中で拾ったんですよ。参拝客の落し物かと思って、神社に置いておこうかと……もしかして」
「まあ、君の想像通りだと思ってもらってもいいんだけど、少し待って」
すると諏訪子は、青年ではなく悩んでいる様子の早苗に対して帽子を向ける。
「ねーさなえー。カミツレ君にさ、能力使ったでしょ?」
「……イイエ、別ニソンナコト」
「嘘ついてるのはすぐわかるからね。早苗嘘つくと額に蛙の模様が浮き出るようにしてるから」
「え、嘘、いつの間に!」
すると、早苗は咄嗟に手で額を覆う。それを見て、諏訪子はニッと笑いをこぼした。
「嘘だよ。だけど、マヌケは見つかったみたいだね」
「は、謀りましたね!」
イタズラが成功した時の子供のように、諏訪子は早苗を指差して笑う。そんな諏訪子に、早苗は頬を膨らませて上目遣いに訴えていた、
「諏訪子様ひどいです!」
「言いつけを守らなかったのは早苗だよ? いつ使ったの?」
「えっと、幻想郷に来て空を飛んで、白狼天狗と戦闘してカミツレさんを逃がそうと思ったときに、カミツレさんを叩いて発動させました……。そりゃあ確かに能力は使いましたけど、カミツレさんだから仕方なく……」
「奇跡を起こす力だ。何が起きても不思議じゃないんだよ? ……まー、話には聞いていた彼だから、早苗の気持ちはわかるようんうん」
諏訪子の最後の一言に、早苗が冷や汗ダラダラに慌てる。
神奈子はニヤニヤとした表情で早苗を見ていたが、青年と吹雪は首をかしげるばかりである。
「さて、問題が解けたよ。実はね、その写真は守矢神社、というより神社のあった土地と少なからぬ由縁のある軍艦なんだよ」
「守矢神社と……? 少なくとも外の世界? の守矢神社は山奥にあったはずでしたが」
「名前には力が宿る。場所は関係ないんだよ。しかも、その写真からわずかながらに何か不思議な力を感じる」
青年の持つ写真をまじまじと見て、諏訪子は続ける。
「簡単に説明するとね。うちの土地と縁のあるその艦の写真を君が持っていて、そこにうちの早苗が『奇跡を起こす程度の能力』を使用した。まあ、出てきた艦娘はうちとは関係ないみたいだけど」
「……は、はあ」
続けるよ、と言って諏訪子は口を開く。
「で、カミツレ君に何らかの奇跡が起きて、吹雪ちゃんが現れる事態になった、と」
「……その筋書きにどのぐらい信憑性があります?」
「そりゃもう、神様のお墨付きだよ」
「それは……頼もしいですね」
「でしょ?」
なんだその曖昧なシナリオは、と苦笑せざるをえない。神話でさえ、もっと起承転結はっきりしているだろうに。
そんな中、吹雪が青年に対して興奮した様子で話す。
「司令官、駆逐艦って何をするかご存知ですか?」
「え、い、いや……?」
「小さい艦ですが、速さを活かして護衛や攪乱をするんですよ!」
鼻息荒く、目を輝かせて語る吹雪。しかし、そうは言われても軍事に疎い青年にとって、駆逐艦と言われてもピンと来るものではない。
が、吹雪はなおも青年に迫る。
「ですから私、司令官をお守りしますね!」
「……どうして僕にこだわるの?」
「司令官だからですよ!」
「もう少し詳しくお願いできるかな? どうして僕が……司令官なの?」
「それは……わかりません!」
ニッコリと応える吹雪。そんな笑顔でキッパリと返されても困るのだが、と青年は頬を引きつらせるも、必死に頭を回転させた。
会話が噛み合っているようでやはりどこも噛み合っていない。まるで刷り込みでもされているかのようである。
ただ――
「だから絶対、司令官と一緒に戦います!」
この言葉だけは。自身を守りたいという少女の気持ちだけは、動機はわからないものの理解はできる。
とりあえず今はそれだけわかればいいか、と青年は渋々頷いた。
「司令官、私は司令官をまも――」
と、吹雪が青年の手を取る。
突然手が触れ合ったことに慌てる青年。しかし、その手が重なった瞬間――
吹雪は、目の前から消えていた。