提督が幻想郷に着任しました   作:水無月シルシ

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ヘルシェイク矢野のこと考えてたら投稿遅れました。


044 妖精さん

 青年がヤマメに追い返された後の、ある日のことである。

 

「むきゅー……」

 

 パチュリー・ノーレッジは紅魔館を出発し、鎮守府へと向かっていた。真昼間に出かけるなど自分自身でもそうそうないと自覚はあるのだが、用事があるのだから仕方ない。

 しかし、日光がこんなにも辛いとは思わなかった。いつから自分は吸血鬼になったのだろうと自嘲しながらも、やはり引き篭り過ぎかと嘆息する。ここ最近、鎮守府から送られてくる魚がおいしいのも相まって、体重も増えている気がするのだ。近いうちに対策を練らなければならない。

 

「むきゅっ」

 

 鎮守府に到着する。その門番は、よく知っているチャイナドレスをまとっていた。

 

「あれ、パチュリー様? どうしましたこんな昼間に?」

「ちょっと用事よ。茅野守連と河童にね」

「わかりました、取次ぎますね」

「ここに来ても貴女の門番姿を見ることになるなんてね。私はそんなに見慣れてはいないけれど」

「代わりにここ、厳しいからお昼寝とかできないんですよねえ。門番して演習して美味しいご飯食べて寝るしかできないんですよ」

 

 随分と健康的である、そもそも門番は昼寝が仕事ではない、などのツッコミはさておき。

 この天然妖怪に付き合っていては日が暮れてしまうため、パチュリーは美鈴に取次を急がせるのであった。

 

 

 

 

 

「こうして対面してじっくり話すのは初めてでしょうか。改めまして、茅野守連です」

「なんだか……少し雰囲気が変わったかしら?」

「あはは。まあ、提督として相応しい振る舞いを、という名目で教育を受けてまして」

「パチュリー・ノーレッジよ。鎮守府から持ちかけられていた、深海化についての調査の件で来たわ」

「ご来訪、歓迎いたしますパチュリーさん」

「丁寧な出迎えに感謝しているわ」

 

 執務室内。テーブルに対面し、金剛より配膳された紅茶を一口。その味に満足し、パチュリーは早速話に入る。

 

「本題から入ると、艦娘も深海棲艦も霊であって霊ではないわ」

「神的領域を内包している、と霖之助さんに伺いました」

「あら、なら大方知っているのかしら? であれば、文献を漁ってわかったことを報告するわ。今回調べたのは艤装について」

 

 紅魔館との同盟を利用して、鎮守府が持ちかけてきた相談があった。それが、大図書館で艦娘や深海棲艦についての調査、及び自身の頭脳による見解を求めるというもの。

 レミリアは快諾し、代わりに戦闘に関する情報の共有化を求め、青年はこれを認める。そして、パチュリーはレミリアの密かな計画――月へ行くための魔術式のロケット建造と並行しながら、これを調べた。

 

 レミリアとは長い付き合いである。だが、レミリアがどこまで考えて鎮守府と懇意にしているのかは、パチュリーにも読み取れなかった。

 

「艤装は各艦娘の過去の艤装が象徴化したものを、付喪神がコントロールしてる。その付喪神は艦娘からの命令で動くわ。付喪神がいなくては艦娘は艤装をただ運ぶだけになるし、逆に付喪神だけでは適切な戦闘は行えない」

「深海棲感も同様、と考えたほうがいいんでしょうか。深海勢に付喪神のようなものを見たという報告はありませんが」

「そこはわからないわね。艦娘に限って言えば、適性があれば艤装を換装することは可能よ。付喪神は艤装に憑いているから、換装した後は付喪神との意思伝達が取れればいいだけ。このあたりは技術的な問題も関わってきそうね」

「ふむふむ」

「一番興味深かったのは空母の艤装。弓、または札によって航空機を具現化、しかも一機一機に付喪神がついているんだもの」

「彼らは搭乗員ですからね。ただ興味深いことに、彼らは撃墜されると機体への熟練度は失うようなんですけど、不思議なことに復活するんですよ。まるで幻想郷の妖精さんみたいだと思いませんか?」

「ふうん……?なら、彼らのことはひとまず『妖精さん』と呼びましょうか」

 

 それを踏まえて、パチュリーは自身が深海化した時のことを話す。

 異変が解決してすぐあとは、喪失感のようなものに見舞われてロクな思考ができなかったが、今なら深海化した時の記憶もなんとなく思い出せる。そして自身が他の者と違った点として、弾幕の航空機化があった。陸上基地と変貌した四季映姫も、どうやらそのような力があったらしい。

 

 結論から言えば、航空機へと変化する理由はわからない。しかし、航空機をある程度意のままに操れていた気がするのは確かである、といったものである。

 そして、深海棲艦の航空機を撃墜し、霊夢の札が現れた。仮に霊夢が深海化しており、弾幕を航空機に変えられるとするならば――

 

(……まあ、まず勝ち目はないわね。そもそもが強すぎるのに)

 

 加えて、物理的に飛行禁止の海という条件付き。スペルカードまで使われるとなれば、手も足も出ないだろう。

 そう、“仕方ない”のだ。博麗霊夢を相手に勝てる者などいない。いかに艦娘が優れていようとも、博麗の巫女には敵わない。誰もがそう思うし、それを受け入れるだろう。

 

(でも、知ってか知らずかこの男……)

 

 目の前に座る青年からは、諦めるような表情など微塵も感じられない。以前見かけた魔理沙も、希望をまるで失ってはいなかった。霊夢への理解がない無知故か、それとも知って尚助けようとしているのか。

 レミリアは――もしかしたらこれを楽しんでいるのだろうか。もっとも、パチュリーの知るレミリアは、ただ純粋に霊夢を心配するという面も持ち合わせているとわかっているのだが。

 

 彼女は、この先にどんな運命を見出しているのだろう。

 

「……興味深い」

「え? な、何か言いました?」

「何でもないわ。にとりのところに行きましょう」

 

 そうして、パチュリーは執務室を後にした。金剛へは、紅茶の礼を伝えながら。

 

 

 

 

 

「やあやあ、もやしっ子が出てくるなんて珍しいね」

「ワン〇―こあとか作れない? 図書室の文献に取扱説明書が紛れ込んでいたのだけれど」

「ワ〇ダーこあ? ああ、とうとう君もダイエットを決意したんだね」

「そ……それほど太ってないわよ。健康維持のためだから」

「そんなの使うより全身運動がおすすめさ。一緒に水泳しようよ!」

「あなたみたいに息継ぎなしで一時間なんて無理に決まってるでしょう!」

「あの……用件済ませましょう」

 

 と、青年の呆れ混じりの声が聞こえたところで、パチュリーは我に返る。

 にとりへの用事というのも、実は艦娘の艤装関係についてであった。魔法の見地からすればどう感じるかというにとりからの依頼である。

 

「以前言っていた、艦娘の艤装の換装、一応理論上は可能よ。付喪神――妖精さんがそれを受け入れればね」

「お、そりゃ良かった。技術上は可能ってわかってたけど、万が一を考えたら気が引けてね。雷巡の人は魚雷増やすだけだったからまだ何とかなったけどさ。でもそうなると、私なんかが艤装を装備しても使うことはできなさそうだね」

「……ちなみに、妖精さんは喋ったりしないの?」

「ん? そりゃ付喪神だし喋るよ? 艤装の修復なんかは助言してもらいながらやってるからね。しっかし、妖精さんって随分パチュリーらしいメルヘンな呼び方だね」

「そ、そんなことないわよ! 最初に言いだしたのはカミツレよ?」

「ファッ!?」

 

 飛び火した青年には悪いなと思いながらも、パチュリーはその後も報告を続けた。

 艦娘自身が強くなることで、艦種として更なる“存在”の強化が可能になること、艤装そのものの改修については特殊な工作機械とその為の知識が必要なこと、艤装を取り上げれば艦娘はただの幽霊のような女の子であること……。

 

「ま、こんなところかしら。また何かわかれば教えるわね」

「うん、これでまた効率よく修復なんかもできそうだ。工廠の人手も増やそうと思ってたところだし、非常にありがたいね」

「難儀なものね。幽霊なのか神なのか、存在さえはっきりしないのに、艦娘たちは戦うことを強いられるなんて」

「……そういえば盟友。盟友の能力についてもう一回教えてもらっていいかい?」

「え、僕?」

 

 戸惑い気味の青年であったが、特に嫌がるわけでもなく説明してくれた。

 

 曰く、こうである。紫の名付けた『軍艦を指揮する程度の能力』は、艦娘の記憶を読み取り、彼女たちに命令を与えられる能力である、と。

 

「え……それだけ?」

「特にそれ以外聞いてないですけど……」

「それは怠慢が過ぎるわ。自分の能力よ? もっと可能性を広げようとは思わなかったのかしら?」

「えっと……はい、すいません」

「……とりあえず、情報がある程度出た今、あなたの能力について分かることといえば――」

 

 艦娘は神的領域を内包した幽霊である。触ることで個体ごとの記憶を理解し、命令を確実に与えることができるのが青年の能力となる。

 付け加えるならば、“艦娘側は命令を命令と思っておらず、ただ青年のために行動している”つもりであるという。また、艦娘も青年の記憶を知ることが出来る、とのこと。

 

 つまり、幽霊ということが理由なのか、神的領域を有していることが理由なのか。もしくは、本当に艦娘にのみ効力を持つ能力であるのか。少なくとも、カード化及び実体化は青年にしか行えない。

 

「……思ったのだけれど」

「はい?」

「艦娘に命令を与えられるなら、ほとんど同じような存在の深海棲艦にも命令は与えられるんじゃないかしら?」

「…………。いやいやご冗談を、記憶を知ろうにも怖すぎて触れませんよ。それに、深海化したなら分かっているはずです。深海棲艦は、艦娘への憎悪と攻撃心を持っていると。つまりそのトップにいる僕なんかは格好の的なわけですよ」

「試したことはあるの?」

「……ないですけど、異変の度に深海化した人と話して、反論やら反感もらってますよ?」

「となると……、あなたの能力って本当に艦娘に対してだけなのね」

「可能性とは一体……ぐぬぬ」

 

 落ち込む青年を尻目に、パチュリーは傾き始めた太陽を見つめる。

 

「さて、そろそろ帰るわ。にとり、腹筋ベルトよろしくね」

「それぐらいなら作るけど……プルプルするのはスライムとかでもいいかい?」

「はあ、僕の能力かあ……。いっそ、誰かもう一人指揮する人がいてくれたらなあ」

 

 との、青年の一言に。

 

「盟友、そりゃないよ。艦娘の過去を一人一人知ってるのは盟友だけだし、提督としての教育を受けてるのもそれをこなしてるのも盟友だけなんだよ?」

「ははは、わかってるよ。冗談冗談。ただ、こうも責任が重いとね。鎮守府にとって万全の体制整えてたら、いつの間にか色んな人たちと関わってるんだもん」

「ま、私はこうして機械いじれるだけで楽しいんだけどね。外の機械にここまで触れるチャンスなんてそうそうないし。おまけにきゅうりもついてくる」

「ちゃんと保存してあるからね。にとりさんには本当に感謝してるんだよ? あ、でも弾薬ときゅうりを間違えたりとかはしないでね」

「以前眠い時に一回やりそうになったんだよね! 攻撃機がきゅうりぶらさげてるんだもん、爆笑ものだったよ!」

 

 

「――私がやってあげようか?」

 

 

 と、言葉を返す。

 

(まあ、この提督がそれを望んでるならやってあげても……)

 

「え……パチュリーさん、その?」

「だから、提督の手伝いをやってあげましょうかって」

「あの、その……ほ、本気で言っているんですか?」

「本気も何も、あなたがそう言ったから――んん?」

 

(なぜ私がそんなことをしないといけないの?)

 

「いえ、何でもないわ。ただのジョーク」

「じょ、ジョークですか。やだなあ、顔に出ないんですからははは……」

 

 青年の乾いた笑いは、パチュリーの耳には届かない。

 なぜ自分は、青年の何気ない呟きに反応してしまったのだろうか。青年がそれを冗談交じりに望んだことはわかるが、自身がそれを叶えてやる必要はまるでないというのに。

 

(なんだか、自然と叶えてあげたい気持ちになったけれど……私も丸くなったのかしら? ちょ、誰が太ったっていうのよ!)

 

 首をひねりながら、パチュリーは今度こそ鎮守府を後にしたのであった。

 

 

 

 

 

 




今回のイベントはね、テンションしてるぜ!
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