提督が幻想郷に着任しました   作:水無月シルシ

50 / 53
050 ソフトに反省

 夜の帳が下りた深い暗闇の時間帯。鎮守府も必要最小限の灯りだけ残して消灯していたが、司令部の執務室だけは未だに灯りが点いていた。

 執務室内。外の景色はほとんど見えないというのに、青年はそわそわと落ち着きなく窓の外を見つめる。

 

(『博麗、見ユ』、か。ほとんど予想できてたことだけど、こんなに当たってほしくない予想はなかなかないよ)

 

 すでに偵察艦隊からある程度の情報はもらっている。

 前回戦闘地点よりさらに奥において、深海棲艦の根城と思しき赤い海域を発見。大艦隊とともに御札を操る陸上基地が現れ、弾幕を航空機に変えて戦う深海棲艦。

 『飛行場姫』と、赤城は言う。制空戦闘は終始有利に進めたものの、本気で数を出されたらいつ形勢逆転されてもおかしくはなかった。戦闘中に攻撃隊を向けられたのも一度だけであり、前回の航空戦と比べれば手抜き感があるのは否めない。

 

(その意図はともかく、これで霊夢さんの居場所は分かった。紅魔館や三途の川の異変を参考にするなら、陸上型は動かないから位置がそう変わることもないはず)

 

 赤城の偵察艦隊が比叡の支援艦隊と合流して鎮守府に向かい始めたのは、夕日も沈みかけの頃であった。

 今回は手伝いはいらないといったにもかかわらず、早苗、魔理沙、咲夜、妖夢、鈴仙、萃香は朝艦隊が出発する前からほぼ丸一日執務室におり、無線連絡の度に色めき立っていた。霊夢はまだか、アイツどこにいるんだ、お嬢様は最高よ、酒が足りねーぞ等、途中から流れが怪しくなったので今日から執務室は酒類持ち込み厳禁となった。

 女3人寄れば姦しいというが、流石に6人もいると想像以上に騒々しい。無論、霊夢を心配するからこそ集まったのであり、協力を申し出てくれていることは十分以上に承知している。

 

 深海化した霊夢を発見し、戦闘も終了して艦隊の帰投を待つだけとなったので、協力者たちは本日は帰らせた。だが、

 

「魔理沙ちゃん、もう少し頑張れるかな?」

「んー……んあ」

 

 魔理沙だけは帰ってくるのを待つと言って聞かなかったため、そのまま執務室のソファに座らせていた。もう深夜も深夜であるため眠気をこらえ切れておらず、うつらうつらと舟をこいでいたが。

 青年は魔理沙の隣に座り、優しく両肩をたたく。

 

「帰ってきたら起こしてあげるから、少し寝ておく?」

「んーう……そうする。わるいな」

「こっちこそ、残ってくれてありがとう」

「へっ……。ぉし、ちょっとかりるぜ」

 

 仮眠をとるか訊くと、ふんわりとした反応で頷く魔理沙。そのまま倒れこむように体を横にし、隣に座る青年の太ももに頭を預けて一瞬で寝入ってしまった。

 

「うぉっ? ま……まったく、仕方ない」

 

 戸惑う青年。しかし、霊夢を心配する気持ちの強さがここまで意地にさせているのだと思うと、呆れるような微笑ましいような気持ちで青年は眠る魔理沙の乱れた髪を撫でて整える。

 

 

「司令官、艦隊もうすぐ帰投です……あっ」

 

 

 丁度頭を撫でていたところへ、本日くじ引きに当選した秘書艦の春雨が執務室のドアを開けて入ってきた。春雨は何か見てはいけないものを見てしまったような顔になり、桃色の髪をサイドテールを揺らして口元を手で覆っている。

 「あっ」に動揺してしまった自分も悪いのだが、そんな反応をされてしまうと自分まで何かやましいことをしてしまっている錯覚に陥るので、青年は社会的に生き延びる道を選んだ。

 口元に人差し指をあて、「しーっ」と。

 

「自分もだけど、人がこんな時間まで起きてるのもなかなか珍しいからね。少し休ませてあげよう」

「あ、し、失礼しましたっ。あの、司令官は眠くないんですか?」

「眠くないわけじゃないよ。でも、皆が帰ってくるまでは寝られない。春雨は?」

「だっ、大丈夫! 眠くなんかないです、はい!」

 

 両手を握りしめて、まだまだ起きていられると言わんばかりに春雨は胸を張る。だが、それでも膝枕の魔理沙が気になるようで、ちらちらと青年と魔理沙の顔を交互に見ていた。

 

「ど、どうしたの?」

「あ、いえ、うらやま――なんでもありません! ……ただ、こうやって見ると、なんだか妹が増えたみたいな気持ちになります」

「ははは。夕立といい、白露型はやんちゃな子が多くなるね」

「ふふふっ」

 

 さて、艦隊がもうすぐ帰投するようである。

 霊二号作戦においては、前回のようにスパイによって何らかの行動が起こされる可能性を考慮していたが、杞憂に終わったらしい。スパイそのものが杞憂だったのか、はたまた今回動かなかっただけなのか、その理由は次動かれなければ知ることもできないだろう。

 戦闘の規模を考えても、榛名と摩耶の中破のみで戦闘を終えられたのは引き際を正しく見極めたからだろう。その点は赤城を褒めなければならないし、艦載機の被害も前回を考えればまだ少なく抑えられている方である。

 

 上々だ。

 上々なのである。

 

 だがそれ故に――不気味だ。

 

 

 

 

 

 偵察艦隊が、支援艦隊を伴って鎮守府に帰投した。空母4人だけを執務室に来るよう指示し、他は解散させる。

 

「ほら、魔理沙ちゃん。帰ってきたよ」

「……だから、ちゃんはやめろよな。って、なんで膝枕されてんだ!」

「ひでぶっ」

「あ、悪い思い出した」

 

 執務室に空母たちが向かってきているため魔理沙を起こすのだが、膝枕に錯乱した魔理沙に優しく腹をグーパンされる。寝ぼけは覚めたようで謝られたが、腑に落ちないのはいつものことである。

 

「艦隊、帰投しました」

 

 帰還した赤城、加賀、蒼龍、飛龍が執務室へ入ってくる。皆ほっとした顔を浮かべているのだが、蒼龍だけは唇を尖らせている。

 

「みんなおかえり。特段、報告を急ぐものはあるかな?」

「そうですね……今回は遠距離戦かつ戦闘もバタバタでしたので、新たなカードの回収はありません。先立って連絡したとおり、霊夢さんを発見しました、というのが一番大きいでしょうか。」

 

 寝ぼけ眼をすっかり覚ました魔理沙が、赤城の前に立つ。

 

「ホントに……霊夢なんだよな?」

「今回も御札を回収しましたが、前回と同じ模様でした。御札が弾幕として発射されているのも見ましたが、我々の艦載機を追尾するように狙われましたね」

「ホーミングアミュレットか! 他には!?」

「御札の弾幕を航空機に変化させたのは他の人と同様ですが、人の言葉を喋っているのは確認できませんでした。あとは……」

 

 赤城が未だ膨れっ面の蒼龍をチラッと見ると、全員の視線が蒼龍に集中する。少しばかり沈黙が続いたかと思うと、蒼龍は堰が切れたように地団駄を踏んだ。

 

「あーもう! 悔しい! 江草隊が失敗するなんて!」

「え、えぐ? どういうことなんだぜ?」

「絶対一撃与えられたと思ったのに全部消し飛ばされちゃったのよ! あの虹色のクルクル回って光る玉のせいで! あんなスペルカードがあるなんてもう!」

 

 悔しさを顔面いっぱいに広げて腕をぶんぶん振るう蒼龍。たわんたわんする胸元を気にもしないので、魔理沙が少しばかり呆気に取られていた。青年は春雨に目を塞がれていた。

 しかし、魔理沙は蒼龍の言葉を聞き、少しばかり俯いたかと思えば肩を震わせる。

 

「へっ、な……なんだよアイツ。心配させるだけさせといて元気そうじゃんか……」

 

 が、すぐに顔を上げる。「ったくよー!」と嬉しそうに後ろ頭を掻いたかと思えば、未だ猛威を振るっている蒼龍の胸を両手で鷲掴みにしてから執務室を出て行った。

 

「ホント、遅くまでありがとな! 今日はよく眠れそうだぜ! おやすみ!」

 

 「なんかマシュマロ食いたくなってきたな」なんて声が廊下から聞こえた気がしたが、聞こえないふりをした。蒼龍はマシュマロを両手で抱くようにして顔を真っ赤にし、その場にヘナヘナとへたり込んでしまう。

 

「と、とりあえず、他の報告は後日まとめて聞くから、今日はもうゆっくり休んで」

「了解。あの、ところで提督」

 

 もじもじと両手を擦りながらくねくねする赤城。一体何事かと思ったが、赤城の顔は欲に満ちていた。

 

「咲夜さんのクッキーはまだですか?」

「……明日お願いしとくよ」

 

 既に、空は白み始めていた。

 

 

 

 

 

 執務室に備え付けられた簡易ベッドで青年は睡眠をとった。朝の仕事時間に間に合わせようとして当初は1時間程度しか眠らなかったのだが、

 

「あら提督、また風邪をひかれるおつもりですか?♪」

 

 朝ご飯を絶対に出そうとしない鳳翔が暗に「寝ろ」と言うため、熱々の味噌汁をかけられる前に執務室へ退散した。かけられることはないだろうが。

 

 時間変わって昼時には目を覚まし、作戦に参加した艦娘たちもちらほらと昼食を食べに食堂に来ているようだ。青年も食堂にて満面の笑みの鳳翔から昼食を受け取り、空いていた席につく。

 

「おう、邪魔してるぜ」

「あ、魔理沙ちゃん。またご飯食べに来たの?」

「ここのメシ美味いからつい寄っちゃうんだよな。あ、代わりに食えるキノコ渡しといたからチャラにしてくれよ」

「はは、奔放だなあ」

 

 座った正面にはたまたま魔理沙が座っていた。帽子を被ったまま食べていたため、手を伸ばして外させる。

 

「おっと、ありがとな。帽子とるの忘れてたぜ」

「落ち着いてゆっくり食べて。夕べはちゃんと眠れた?」

「お陰様でな。夢にマシュマロ出てきたぜ」

「ははは……」

 

 空笑いでお茶を濁しておこう。

 

 二人して他愛のない話をしつつ食事を終えた。魔理沙が満足そうな顔をして椅子にもたれかかっているところへ、妖夢がお茶を持ってくる。

 

「カミツレさん。あのっ、昨日はお疲れ様でした」

「いえ、妖夢さんも鎮守府への協力ありがとうございました」

「魔理沙、カミツレさんに迷惑かけてないよね? 忙しい人なんだから、無理させたらダメだよ?」

「あー……眠かったから膝は借りたな」

「え。そ、それってひざまく――こ、こほん。そ、それでカミツレさん、霊夢で間違いないんですよね?」

「ええ」

 

 良かったらと席をすすめ、妖夢が青年の隣の席に腰掛ける。全員分のお茶を淹れると、青年は改めて作戦の結果をまとめた。

 

 博麗霊夢は深海化し、飛行場姫となった。

 ただの弾幕すら追尾し、スペルカードも健在。艦隊が日中一日かけてようやく辿り着くような場所に位置しており、航空戦力も豊富で高練度。

 

「まさか、爆撃の上手な蒼龍の航空隊が一瞬で持っていかれるなんてなあ」

「『夢想封印』は霊夢が最も好んで使うスペルカードですね。虹色の光弾の回転は攻撃にも防御にも適していて、我々のスペルカードや弾幕でさえ消滅させる力があるんです」

「作戦前に聞いとけば良かった……。他には霊夢さんの情報ありますか?」

「一番詳しいのは魔理沙ですけど……」

 

 作戦の前、確かに魔理沙には聞いていたのだ。霊夢の能力、戦い方について何度も何度も。

 だが、

 

「だから言ってるだろ? 霊夢の戦い方はこう――静かにピッと動いてバーッて弾幕ばら撒いて容赦ないって」

「はあ……。カミツレさん、私に聞いてくれてもよかったんですよ?」

「今度からそうしようかな……」

 

 事前にその情報があれば、もう少しまともに戦うことも出来たのだろうか。

 反省は次回に生かそうと思ってお茶を一口すすった青年だが、丁度近くを歩いていた蒼龍と飛龍と目が合い、二人は同じテーブルについた。蒼龍は魔理沙を見た途端マシュマロを隠すように抱き抱えていた。

 あまりにも警戒していたので、青年の隣に蒼龍、魔理沙の隣に飛龍が座ることに。

 

「なんだよ、そんなに私が嫌か」

「失礼な人には近づきませんっ!」

「ね、蒼龍の柔らかかったでしょ?」

「最高だったな」

「飛龍まで!」

 

 蒼龍がぷりぷりと怒るのをなんとかなだめながら、作戦時の話に花を咲かせる。

 

 霊夢と相対し、戦えないことはないということは分かった。

 弾幕の命中精度、スペルカードの威力、そして霊夢自身の能力。これらが今後の作戦でどういった影響を及ぼしてくるかは未知数だが、鎮守府の最終的な目的は彼女の『撃破』。霊夢の深海化を解こうとするならば、どうしたって彼女を完全に倒す必要があるだろう。

 

 そのためには、何が必要なのだろうか。

 幻想郷の異変解決者が異変そのものと化している事態を、解決する方法とは。

 

「しっかし、アイツ飯何食ってんだろな。2か月は海にいるって考えるとどうやって生きてるのか不思議だぜ」

「自分で魚捕まえてるんじゃないかな? とりあえず、命はあることが分かっただけでも良かったでしょ」

「飛龍、それはそうなんだけど、うーん……。今まで深海化した奴らはすぐに倒されて解けただろ? その時間は長くても半日ぐらいなもんだ。だけど、長期間深海化が続いたらどうなるかなんて、誰にも分からないんだぜ」

「……魔理沙ちゃんの言うとおりだ」

 

 霊夢を発見し、生きていることを確認した。それで終わりではない。

 彼女を倒すのはもちろんであるが、厳密には彼女を深海化から解放するという意味で取り戻さなければならない。2か月やそれ以上彼女は深海化を継続することになるが、その場合彼女にどのような影響を及ぼすかは全くわからない。

 

 仮にも。

 霊夢の深海化が解けず、深海棲艦として死んでしまったとしたら――。

 

 だから、青年も焦らないわけではない。

 

「もっと……霊夢さんのことを知る必要がありそうだね」

「会えばすぐにどんな奴かわかるんだけどなあ。なんとなく、カミツレとは相性良さそうな気がする」

「流石に会ったことないからなあ」

「ああ、なら――」

 

 「もう一回、神社に行ってみたらどうだ?」と、魔理沙に提案される。

 

 初めて早苗と博麗神社を訪れたときは、神社が商売敵になるかどうかを探るために行き、萃香や魔理沙と会って紅魔館の異変が発生した。よくよく考えてみれば、確かに博麗神社にそれほど詳しいわけでもなく、あの場所の印象も曖昧だ。

 

「……そうだね、明日あたり行ってみようかな。霊夢さんを知ることのできる何かがあるかもしれない」

「多分、萃香がいるだろうから気になったら萃香に聞いてみてくれ。私は……用事があるからしばらく留守にするぜ」

「うん? どこかお出かけ?」

「ああ、しばらく帰ってこれないかもな」

 

 ふと、魔理沙は遠い目をして深い息をつく。

 青年は、魔理沙のこのような表情を初めて見たかもしれない。だが――

 

 

 何かを決意した表情など、幻想郷ではもう何度も目にしている。

 

 

 何かしでかそうと、何かを企んでいることなど、見ればわかるものだというのに。

 この時の青年は、何も聞くことができなかった。

 

「そっか……。気を付けてね」

「おう! んじゃ、またな」

 

 魔理沙はその場に立ち上がり、飛龍のマシュマロのうち片方を数秒間揉みしだいてから食堂を去っていった。

 蒼龍に視界を塞がれる青年。固まる飛龍。胸元を抑えて顔が死んでいる妖夢。少し離れた場所では、龍驤がこちらを見て妖夢と同じポーズ、同じ表情をしていた。

 

「霊夢さん、これが嫌で出て行ったんじゃないよね……?」

 

 疑問には、誰も答えてくれなかった。




どうにか投稿ペースはキープできておりますが、文章の感覚が未だに取り戻せません。以前に寄せられているはずですが……うーむ。
読み苦しい可能性はありますが、温かい目で見守りください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。