提督が幻想郷に着任しました   作:水無月シルシ

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052 二兎を追う者

 博麗神社の倒壊から十日が経過した。

 倒壊させたのはあの青髪の少女だったようで、名前を比那名居天子というらしい。彼女は天界に住む天人であり、退屈な毎日に嫌気が差して異変を起こそうとしたとのこと。最近幻想郷を賑わせている提督に興味を持ったため調べようと天界から来たところ、ちょうど神社にいたものだからそこに住んでいるものと勘違いし、あえて敵意を向けさせるために地震を起こしたというなんとも傍迷惑な話である。住所はちゃんと調べておくように。

 なお、怒り心頭の紫にキレ散らかされ、今では泣く泣く博麗神社の建て直しをさせられているという。提督への興味も薄れたようで会う気はなくなったらしく、結局それ以降青年が天子と顔を合わせる機会はなくなってしまった。

 

 鎮守府、訓練場近くにて。

 博麗神社から一緒に帰ってきた玄爺は、瞬く間に艦娘の人気者になった。何やら、ロマンスグレーなダンディフェイスがツボにハマったようである。

 

「あ、司令官! うーちゃんは玄ちゃんの甲羅を磨いてるんだぴょん!」

「卯月、お疲れ様。玄爺さん、ここでの暮らしで何か気になるところはありませんか?」

「まったくありませんよ。神社にいた頃よりいい物食べてますからな、ほっほっほっ」

 

 ご機嫌に笑う玄爺。卯月が「ぷっぷくぷぅ〜」などと言いながらスポンジで甲羅を磨く。慣れてくると、孫が祖父の背中を洗ってるように見えてくる気がして、青年は失笑した。

 ふと、そんな青年の足元に見慣れないモフモフが一羽。

 

「え、ウサギ?」

「あ、それこの辺に住み着いてる子だぴょん。あと4、5羽はいるぴょん」

「あ、そうなんだ?」

「餌をチラつかせたらすぐおねだりしてくるイケない子たちだぴょん」

「餌付けしちゃったのね」

 

 胸を張って得意げにする卯月に、青年は苦笑い。野生のウサギなのだろうが、餌付けしたからには最後まで責任持って飼うように伝えたところ、「は〜い!」との喜び。

 

「でも実はウサギだけじゃないんだぴょん」

「えっ、他にもいるの?」

「カラスもいるし、猫もいるぴょん。睦月型のみんなでお世話してるから、司令官も安心だぴょん!」

「それは僕から言うべきセリフだね……」

 

 亀にカラスにウサギに猫。随分と鎮守府が動物園じみてきたが、アニマルセラピーなんて言葉もあるぐらいである。それが彼女たちの癒しになるなら、青年からはとやかく言うつもりはない。

 卯月の頭を一つ撫で、執務室に戻ろうとしたところで「あ、それと」と卯月の声。まだ居たのかと眉根を寄せて、彼女の言葉を待ってみたが、

 

「あとUFO」

「UFO!?」

 

 どうやら幻想郷には、信じられないことばかりあるらしい。

 

 

 

 

 

 夕方。執務室にて、青年は机で腕組みをして思考する。その側では、本日の秘書艦の綾波がニコニコしながら座っていた。

 作戦の終了からかなり落ち着き、ある程度現状と問題についてもまとまってきた。鎮守府としては、霊夢の奪還に向けて三つほど解決しなければならない課題がある。

 

 一つ目は、航空戦力の増強。

 空母は比較的揃ってきたが、やはりまだ絶対数が必要である。霊夢が繰り出す弾幕は無尽蔵で、弾幕は航空機へ変わる。相性としてはかなり悪いのだが、それでも空母が必要なことには変わりない。単純な数と、機体性能の向上も必要になってくるだろう。

 

 二つ目は、水上艦の規模と航空戦力との折り合い。

 艦隊の人数は今回比較的丁度よく収まっていた。水上打撃部隊を用意し、エアカバー範囲は限定しつつも航空戦力も確保する。

 しかし、水上戦力はまだ欲しい。会敵時にあれだけの水上戦力がいると判明したからには、水上打撃部隊もおろそかにはできない。より強力な艦娘との合流や、艦隊防空力の向上も必要になってくるだろう。

 

 そして三つ目。最も重要であるのが、飛行場姫へダメージを与える方法の確立である。

 蒼龍航空隊の奮闘によりひっそりと攻撃を仕掛けることには成功したが、追尾する弾幕と攻防一体のスペルカードが控えていたことにより攻撃そのものは失敗に終わってしまった。航空機でも艦娘でも、接近しようとすればそれなりの損害は覚悟しなければならないだろう。スペルカードを使ってまで防御したということはダメージを恐れたということであり、全く攻撃が通らないわけではないものと信じたい。

 

 綾波が頭を撫でてくるが、青年はそれに気が付かず腕組みをしたまま思考を続ける。

 

 一つ考えられる作戦としては、レミリアやフランドールらと戦った時のように、飛行場姫に対して夜戦を挑むこと。双方の航空機を封じ、純粋な火力のみによる戦いを挑んだとすれば、勝機もあるのかもしれない。

 だが、艦娘の編成人数を限定する場合、道中に航空戦を仕掛けられた場合に対応する空母を減少させるのも不安である。その場合は、支援艦隊として空母、夜間戦闘組として水上戦力を突入させるのが最もベターな選択だろうと現状は判断する。

 

 綾波に頬をぷにぷにされるも、青年は気づかない。ぷにぷに感に感動したらしい綾波が喜色満面の笑みでぷにぷにし続けるも、青年は気づかない。

 

 対陸上型として考えた場合は、紅魔館の異変を考えても幻想郷の住民が最も有効な戦力となる。三式弾より与えるダメージの高い弾幕による攻撃は、航空機を撃墜する役目としても非常に高いポテンシャルを秘めている。

 

 海上を飛べないという条件がなければ、せめて一人くらい弾幕を扱える者が現地で戦えたなら。

 もっと有利に戦闘を進められるというのに。

 

 綾波が青年の顔を掴み、頬にむけて顔を寄せてくる。青年が気づかないまま、優しく瞼を閉じてゆっくりと唇を突き出し――

 

「提督、今いいだろうか。む、綾波、どうした?」

「いいえ、何でもありませんっ♪」

 

 長門が執務室に入ってきたところで、何事もなかったかのように綾波は青年の側に立っていた。ドアが開いたことで、青年も長門が気づく。

 

「あ、長門。どうしたの?」

「ああ。実はだな、いつも人里で因幡てゐから高速修復材の受け渡しをしているんだが、今日は来なかったらしい」

「てゐさんが? 毎日来てくれてたのに珍しいね。何か聞いてる?」

「いや、受け渡しの中止のような連絡も受けていない。すっぽかされた形だな」

「ははは、悪戯好きだから、もしかしたらホントにすっぽかしたのかもね」

「高速修復材は洒落にならないんだがな……。幸い備蓄はあるから、一日二日来なかったぐらいじゃビクともしないさ。全く、あの子ウサギさんめっ」

 

 てゐの悪戯と思しき行動に苦笑していると、長門から突然発せられた少女モードに部屋が静まり返った。何事もなかったかのように、長門は一つ咳をつく。

 

「まあ、今日の分は明日あたり持ってくるだろう。その時事情を聞いておくよう輸送部隊には指示しておくぞ」

「うん、よろしく。何か用事が出来ただけかもしれないから、あんまり責めないようにね」

「ふっ、心得ている」

 

 そうして、長門は足早に執務室を出て行った。出て行った瞬間、心なしか綾波が先程までより近くに来たのは気のせいだろうか。

 

 さて、霊夢への対応はともかくとして、幻想郷内に艦娘を配置する話も現在進めている。配置先は、作戦前に考えていたとおり人里と永遠亭である。

 

 規模についても多少は固まってきた。人里については基本的に何名でも可という返答であったため、一個水雷戦隊に加えて空母1名と戦艦2名を置く予定である。人里は幻想郷において最も人口が多く、神社や鎮守府とも関わりが深いため、深海棲艦の侵入や襲撃を絶対に許すわけにはいかない。故に強力な艦を配置し、『人里艦隊』として運用していく予定である。

 

 そして、永遠亭。河川がいくつか通っているため深海棲艦が侵入する可能性があり、かつ永遠亭の情報を入手する方法が現時点でないため、配置予定である。ただし、竹林に覆われていて航空機を有効活用することは難しいため、こちらは一個水雷戦隊のみになる予定である。そもそも永遠亭のメンバーは戦闘面においても強力であるため、あまり大きな戦力は必要はないだろうという見立てだが。

 しかし、肝心の人数についてはまだ回答を得ていない。てゐにそのあたりの話をしたかったため輸送部隊にも言付けていたのだが、本人が来ないのではどうしようもない。

 

 綾波がその場で伸びをして、「くぅ」と息を漏らす。青年はそのほっこりする声に思考を中止して、微笑みながら綾波に話しかけた。

 

「『二次改造』以降、調子はどうかな?」

「あ、やっと話しかけてくれましたねっ♪ 何も問題なく、とっても快調ですよ」

「人里に行ってもらうからには、優先的に強化しておきたいと思ってね。負担をかけることにはなるけど、お願いしたい」

「任せてください! 皆さん張り切ってますから」

 

 ガッツポーズで白い歯を見せる綾波。改造したとはいえ、姿かたちや性格はそのままなのだから、どこか子供が見得を張っているようでかわいらしさに溢れていた。

 

 人里艦隊に抜擢された艦娘には、二次改造を優先的に受けさせる。

 一週間ほど前に青年がその決断をしたところ、当日秘書官を務めていた青葉から瞬く間に鎮守府内に情報が広まってしまい、戦闘に対する意欲の高い艦娘が工廠に押し掛けたことでにとりがお手上げ状態となった。青葉は軽く叱っておいたものの、理由はともかく意欲のある艦娘を選抜から外す理由はないとして、二次改造を希望する艦娘を中心に人里艦隊を編成した。一部、どうしても現状では二次改造が困難な艦娘もいたが、可能になり次第改造に移るということで了承してもらった。

 

 艦隊の編成はまた後日触れるとして、二次改造の効果はすさまじい。

 綾波を例として挙げるなら、駆逐艦としては異例なほど火力が向上し、軽巡に迫るほどとなった。副次的に完成した探照灯と照明弾も鎮守府として夜戦火力を大幅に向上させるための足掛かりとなる。対空性能、対潜性能は残念ながら高くはないが、単純火力としては駆逐艦トップクラスとなったといえよう。

 そして、二次改造の末に彼女が手にした『12.7cm連装砲B型改二』。他の二次改造を施した艦娘のものと合わせてにとりが現在一生懸命分析しているが、これが量産出来た暁には駆逐艦全体の火力向上につながるだろう。ただし、若干の芋が失われた。

 

 抜本的能力向上を図る二次改造の恩恵は、艦娘本人だけではないことがわかった。

 これを活用しない手はない。

 

「司令官。綾波、霊夢さんを取り戻すお手伝いがもっとできるようになりますね」

「君たち駆逐艦は本当に鎮守府運営の要だからね。君たちが強くなるってことは、鎮守府が強くなるってこと。これからも期待しているよ」

「はい! 司令官のこと、綾波が守りますっ♪」

 

 ただし、二次改造のまた異なる副次的な効果なのかは知らないが。

 何やら艦娘からの距離がこれまで以上に近くなっているのは気のせいだろうか、と。

 

 青年は、綾波にいつの間にか頭を撫でられつつ、それに気づかないまま苦笑していた。

 

 

 

 

 

 翌日の夕方。日も落ちて夕焼けが消えそうな頃。

 結論からいくと、てゐは今日も高速修復材を届けに来なかった。

 

 鎮守府内執務室にて、傍に佇む敷波に服の裾を掴まれつつ仕事に取り組んでいると、長門が昨日同様に入室した。

 

「知ってのとおりだ。てゐは今日も来なかったらしい」

「てゐさん、いたずらするならすぐにフォローは入れそうなのになあ。やっぱり何かあったのかも」

「どの道、この事態が続くようなら高速修復材の供給が停止してしまう。何かあったというなら、その何かはハッキリさせておかなければなるまい」

「よし、じゃあ早速永遠亭に行って――」

「まあ待て。鎮守府でドンと座って待っていることにそろそろ慣れてほしい。現場指揮官ならともかく、最上級の指揮官がやたらと動こうとするんじゃない」

「司令官さー、そういうことなら駆逐隊を出そうよ。偵察にさ」

 

 久しぶりに長門に叱られ始めたところで、敷波からの提案。その時敷波の方へ振り返った青年はようやく裾を掴まれていることに首を傾げるのだが、彼女の言うことはもっともである。

 なお、敷波も二次改造を遂げ、対潜能力を中心に能力全般が底上げされた。しかし、芋は失われた。

 

「第三十駆逐隊の睦月、如月、弥生、望月を永遠亭まで偵察に。こんな時間から申し訳ないけど、今日中に確認したい」

「文句は言わんさ」

 

 

 了承したと言わんばかりに、長門が大きく頷いた。

 そうして、青年の指示のもと偵察が開始され、その完了は深夜にまで及んでしまったのだが、

 

 

「何、方位が狂っている?」

 

 

 迷いの竹林に進入した駆逐隊が、水路の分岐の度に装備する羅針盤を狂わされ、竹林の入口近くで撤退を余儀なくされた。

 以前、長門と永遠亭に向かった時はこのようなことはなかったというのに。

 

 そして、

 

 

 その日から――明けない夜が始まった。




おや、永遠亭の様子が……?
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