魔王の傭兵【完結】   作:あげびたし

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5:殲滅②

立ち上がった死体から噴き出している火は大きいモノではない、だが決して近くないはずであるここまで、その熱気が伝わってくる。そして武器を持っていないはずであるのにもかかわらず、その立ち姿は今まで以上に危険だ。瞬間、緩慢だった動きが変化する。弾かれたバネのように跳躍すると、その燃え上がる左手を振りかぶる。振るわれた手から生まれたのは見たことも無い大きさの火の玉、すんでのところで飛び退くも、着弾した瞬間の爆発に巻き込まれてしまう。肺中の酸素が燃えるように無くなり、呼吸がおぼつかなくなる。意識すら飛びかけた時、首根っこを掴まれて後ろに投げ出される。

そうして番外席次が、こちらを確認する間もなく駆け出す。迎え撃つ化物は、着地と共に迎撃姿勢を整える。左の掌を向け、そこからまるで水のように火を吹き出した。それを鞭のように扱いながら彼女の動きを牽制していく、彼女はその予想以上の火力に飛び退くも、それを狙ったように上方へ火の玉を投げつける化物。緩い放物線を描くように放たれたそれは、半壊した建物を完全に破壊する。崩壊し始めた建物の残骸が降り注ぐ中、それを流水のように抜けながら番外席次は化物に肉薄する。戦鎌をあり得ない速度で振り抜くも、それは空を切るばかりでカスリもしない。背面に手を付きながら回転するように飛び退いた化物はその両手を地面に添える、危険を察知して距離をとろうとするが、その時にはもう遅かった。足元から吹き上げる間欠泉の如く、何本もの火柱が突き上げられる。彼女が空を無抵抗に舞う、それでも武器を手放さない彼女は焼け焦げた髪を振り乱し建物の壁を蹴り再度突撃する。それを無防備に見つめる化物。

いけない、あれは、罠だ。彼女を助けようと槍を構え走り出すも、辺りは既に火の海である。しかもこの火はただの火ではないのだ、ただの火では魔化されたこの鎧を通ることはない、だがこの火はまるで意思があるように動き、こちらの鎧を貫いてその熱を身体に直接伝えてくる。そう、まるで()()のように。そうやって手こずっていると、飛びかかる彼女と傍観する化物が一瞬だけ目に映る。

振るわれる鎌は人類では到達することのできない速度のソレ。だがその絶死の速度を化物はいともたやすく、右腕で払う。身体が完全に死に体になる。そのバランスの崩れた体勢を、《流水加速》と《即応反射》を合わせた動きで離れようとする。

しかし、その超人的反射と速度を上回る速度で、化物は左腕で彼女の首を掴む。

完全に捕まってしまった彼女が必死の抵抗で鎌を振るうが、それもヤツの右手で抑えられてしまう。そして、彼女を完全に持ち上げた左手に赤い光が集中していく。私も必死で足を動かすが、視界を火の手が覆い上手く進めない。意を決してその中の飛び込むが、その瞬間、大気が膨張したような爆発が起こった。

吹き飛ばされ、ボロ雑巾のように転がされる。臓腑を焼かれる痛みに目が滲む、その視界の先には、巨大なクレーターができていた。

その中心には、無傷な化物と、その左手に収まる真っ黒になった焼死体。

彼女の成れの果て。番外席次、絶死絶命と呼ばれた彼女が今、物言わぬ死体に成り果てる。

するとどうだ、その死体から白い光が立ち上り、化物の胸にあいた黒い穴に吸い込まれていく。

あれが、魂か。

ならば、あいつは。あの化物は、本当に魂を喰らう化物ということか。

勝てる訳がない、膝から地面に崩れ落ちる。あれは人類が敵う相手ではない。

心が折れてしまった、もう立ち上がることはできないだろう。それほどの力の差。

ゆっくりとこちら向かう化物。手の中にある彼女だったものを無造作に投げ捨てる。

左手が再度光を集めていく、その手がこちらを向く。

その時に見えた化物の胸の穴の奥。

 

それは何もない、真っ黒な闇だけだった。

 

 

 

実のところ法国は、外から見れば何も起こっていない。そう、いつもの風景であっただろう。

例えそれが、幻術で作られた虚像であったとしても。

法国内部はこの世界の者では脱出できない牢獄である。そして多重展開された無音の魔術によりその絶叫は届かない。

人類の守護者を唄いながら長く人類以外を迫害し続けたこの国は、その報いを受けたようにこの夜明けと共にこの世界から完全に消え去る。

国内にひしめく悪魔と亡者の群れは夢のように消え、無数の国宝は一つ残らず何処かへ持ち帰られた。

死肉へとその形を変えた国民達は、その血の全てを大地へと返す。残りカスは綺麗な灰に変えられた。

そして法国のシンボルともいえる巨大な教会は完全に廃墟になり、その荘厳な姿を失った。その中心。かつては栄華を極めたであろう玉座の間にて、長身の怪人がその者の主への絶対の忠誠を誓い、双子は楽しそうに笑い主人に抱き上げられている。そして所々が焼け焦げてはいるが、平時となんの変化のない姿の死体は、何事もなかったようにその場へ座り込み次の依頼を待つ。

それらの主は座る者の居なくなった玉座にて満足そうにうなづき、彼らを連れ元いた場所へ戻っていく。

 

そうして、大陸では有数の超大国である法国は、その歴史を静かに燃えるようにひっそりと幕をとじたのであった。

 

 

良い余興だった。何度も何度も邪魔をされた、法国の最期を見た瞬間の素直な感想だ。デミウルゴスのプロデュースする一大プロジェクトのデモンストレーションとしては最高のものではなかっただろうか。法国には手を出さないつもりだったが、調べれば調べるほど胸糞悪い国であった。亜人種への差別と、自分達への驕り。まるで、異形種プレイヤー狩を行う奴らのようだ。ならば、これはアインズ・ウール・ゴウンとしては正しい行いだ。そう正しい行いなのだ。

両隣の二人もその出来栄えに満足しているようだ。とくにシャルティアは、興奮気味に、次の公演には自分も参加するのだと胸を張って言ってくる始末。その微笑ましい姿に、発表会前の子供のようだという意味を込め頭を撫でる。それを見るアルベドはいつもならこの瞬間、絶世の美女が崩れるような顔をするはずなのだが、今日に限って静かな微笑を湛えこちらを見守っている。毒気をぬくようなその微笑みは、自分の行動が決して間違いではなかったことが分かる。やはり適度なスキンシップは必要なのだと心のメモに書き付けながら、今回の舞台を振り返る。

讃えるべきはやはりデミウルゴスだろう。お膳立てをしたとはいえ、ああも完璧に法国内部から食い破るとは流石の一言に尽きる。次にアウラとマーレの双子、のびのびと戦う二人にはとても魅せられたものだ、なによりアウラの魔獣を統率するその手腕ときたら素晴らしいとしか言いようがなかった。

しかし残念なのは(レイヴン)だ。一番楽しみにしていたのだが、途中で彼を映していた監視アンデッドがやられてしまったのか、彼の勇姿を見ることはできなかった。最期に見えたのは少し強そうな者達と向かい合っている所だったか。何はともあれとても残念だ、しかしまだ次の楽しみが増えたと思えば良いだろう。

今回のデモンストレーションで、デミウルゴスがどんな事をするつもりなのかという事の端々は分かった、それにその舞台に自分も参加して頂きたいと言われれば悪い気はしない。良い物を見た満足感が満たしていくのを感じながら、いつもの完全装備を纏っていく。さて、彼らを迎えに行ってやらねば。

転移門(ゲート)を開きながら彼らに連絡を入れる。頑張った家族を労う言葉は何が良いだろうか。

 




という訳で法国には退場して頂きました。


そしてこの物語も折り返しです。



沢山の閲覧・感想ありがとうございます!!!

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