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法国でのデモンストレーションを鑑賞し、王国での本番を控えたその夜。デミウルゴスから
それを後押しするかのようにマーレからも報告が上がる、コレは傭兵の様子があのデモンストレーション以来おかしいという物だった。加えて第6階層で彼の監視をしていた死の支配者のうち1体が、傭兵により消滅させられているという事実。マーレによれば、いきなりであったそうだ。傭兵はそれで満足したようであったが、その事件後は監視の量を増やしたようだ。ナザリックに所属している者達を無差別に攻撃しはじめては、何らかの対策を打たねばならないだろう。
「闘技の檻」はデモンストレーションで城を全て覆ったので使いきってしまったため、第6階層の彼の篝火を中心に、ナザリックオールドガーター他、アウラの魔獣群で構築された強固な防衛ラインを展開し囲んでいるそうだ。
そして、自分が彼に会いに行くのも守護者達からの猛烈な反対を受けている。仕方のない事だ。下手をすれば此方にすら牙を向けかねないのだから。心配ではあるが、デミウルゴスの作戦が大詰めの段階だ、そちらにばかり気をとられてはいられなかった。ナザリックの守護をアルベドに任せ、守護者達のほとんどがこの作戦に加担する。これが終われば、ひと段落だ、その時に今後を決めればいい。だが、もう彼と共に篝火を囲む事はできないのだろうか。
ただそれだけが、唯一引っかかり続けた。
*
俺は、誰だ。
この身体の中に蠢めくモノは何だ。
生暖かさを伴いながら、俺の身体を支配しようとしてくる。
手招きをするようにこちらへ呼ぶ声もする。
アレは、なんだ。
暗い底から湧き上がる衝動を、篝火に当たる事で治める。
家族達との思い出に浸る。
これが、自分の最期の枷なのだろう。
これが無くなれば、俺は…。
ー気づけば、監視をしていた骸骨が一体少なくなっていた。
あの双子も、厳しい目でこちらを見て来る。
もう、話を聞きに来ようともしない。
監視の目が増えている。
どれもこれもが殺意のこもった眼差しを此方へむけているようだ。
あの瞬間、意識がなくなったあの瞬間。
俺は、何をしたのだろうか。
思い出せない、俺は何だったのだ。
ーまただ、また。意識が無い。
見渡す限りの血の海だ。
動いているものは見当たらず、あるのは目の前の篝火のみだ。
その火の奥で揺らめく誰かの思い出だけだ。
そこに、戻りたい。帰りたい。
手が燃える事も気にせずに火に手を近づけた瞬間。
周囲が一変し、ドロリと溶けたように変わって行く。
視界が変化して行くのを、目閉じてゆっくり待つ。
ここでは無いどこか遠く、あの場所に戻れる事を信じて。
*
王国で行われたナザリックによる大作戦「ゲヘナ」。この作戦は大成功だった。しかし、これらが終わり帰って来たナザリックは急を要する事態であった。
第6階層、篝火前での大虐殺。
あの傭兵を監視していたシモベ達が、全て殺されているという未曾有の惨事。
更にその虐殺の張本人は、忽然と姿を消していた。残っていたのは、勢いが無くなり今にも消えかけた篝火一つ。
ナザリックから出た形跡は無し、だが何処にも見当たらず行方がわからなくなってしまった。外への転移を阻害するはずのナザリックで、誰にも気付かれずに外へ行くことは不可能に近い。だが、それをやってのけたのだ。方法はわからない、だがあの傭兵がここに居ないという事と、この虐殺を行なったという事は紛れもない事実なのだ。早急に守護者達全員を集め緊急の対策会議を行う事となった。まずはナザリックの警戒態勢を最大レベルまで引き上げる、次に情報コンソールを開き傭兵の情報を確認する。そこで驚愕することになる。
ならこれは、どういう事なのだ。まさかシークレット・レアモンスターの限定イベントなのだろうか。ならば趣味悪過ぎる、クソ運営め。だが、何はともあれ傭兵は敵となった。ならば自分はこのナザリックを守らねばならない。
(家族を、愛しているのだな。)
唐突に思い出される傭兵の言葉とあの時の顔。本当に敵となってしまったのが信じられない。だが、それでもやらねばならないのだ。
守護者達からの無言の圧力を受け、力強く命令する。
「…傭兵の居場所が分かり次第、早急に処分しろ。」
あの傭兵が敵なのだ。
ならば、全力で挑まねばならないのだろう。
*
少しの間眠っていたようだ。
目を開ければ、そこは見知った場所。
少し前にここに来て、大量の人間達を殺した場所だ。
何かが爆発したような巨大なクレーターが2つ空いた場所で、俺は座り込んでいた。
そうだ、ここだ。
ここで俺は、なにをしたのだ。
周りを見渡せば、クレーターの中心に篝火が見える。
今までいた所にあった篝火ではない。捩じくれた剣が刺さり、薪に使われた骨が燃え続けている。そして今にも消え入りそうな小さな火だ。
その火に近づくことで、自分の中に蠢めく何かが燃えて行くように消えて行く。
だが同時に、俺では無いなにかが
あの
篝火に当たりながら、自分の中のソレを抑えていた。
何故かはわからない、だがコレを解放してしまっては
そう、感じたからだ。
その時、ゆらりと辺りから黒い煙が立ち上る。
それは意思があるように立ち上り、だんだんと人のような形を取り出す。
数え切れないほどの煙が立ち上る。
顔に当たる部分には、白い目のようなものが2つ。
それらが一斉に此方を向き、迫ってくる。
その一体が背後から俺の身体へ纏わり付いてくる。
感じ取れたのは、どうしようもないほどの生への執着と死ぬことへの恐れ。
その人間性の塊達が、怒涛のように迫ってくるのを見ながら、俺は俺自身の意識が沈んで行くのを感じていた。
あぁ…篝火の火が見えない。