鮮血帝と呼ばれていた自分が見たモノは一体、何だったのだろうか。
帝国と王国の戦争は、帝国が迎え入れた魔術師「アインズ・ウール・ゴウン」が行った大魔術により王国側に甚大な被害を及ぼした。眼を覆いたくなるほどに。
しかし、突如現れた黒い魔獣のような男がそれを阻止。そのまま「アインズ・ウール・ゴウン」を含め帝国・王国の両軍に襲いかかっていた。
その後の経過はあの場から逃げ帰って来た者が全て死んでしまったため、どのような経緯があったかは不明。
だがそれも、完全に瓦解した王国に新たな旗が立つことで明らかとなる。
その旗の名前は「魔導国」。
魔を導く王の旗が元王国内の至るところではためき、その旗の元には人間では無い異形の者達が集う。
陶器のような白さの美少女、しかしその眼は真紅に染まり濃い血を連想させる。
氷のような青い鎧を纏う甲殻類か昆虫を思わせる武器をもった異形。
あどけない様子のダークエルフの双子の子供。しかしそれらが率いるは魔獣の群れ。
恐ろしいヒキガエルのような顔を持つ化物、整った服装が逆に恐怖を煽る。
並ぶ者はこの世にはいないであろう絶世の美女、しかしその頭には黒い角が見えている。
そして、それらの頂点。
死がそのまま凝固し、形をもったモノ。
人間では到底至る事のできない高みに座する、恐怖の
魔導王「アインズ・ウール・ゴウン」。
封書に納められていた手紙をまた開く「建国の暁には、貴殿の国と良い関係を築いていきたいものだ」だと?
笑わせてくれる、従属させた国が増えたと喜んでいるに違いない。だが、反抗したくてもするだけの戦力はない、ならばその戦力を蓄えればいい。
あの国の属国でもいいだろう、どんな事もするだろう。
だが、我らが。人間が生き延びられれば。そして奴らの力の一部でも手に入れられれば。
まだ望みはある、だからこそ歓迎してやるのだ。それこそ盛大に盛り上げてやろう。
せいぜいその玉座で待って入ればいいさ。
いずれ必ず倒されるその日までな。
断固たる決意を胸に、扉の向こうで待ち構える地獄に対して勇気を振り絞る。
笑顔を貼り付けた顔が弛緩しない事を祈りながら、震える手でその扉を開いた。
「おお、ようこそ我が友よ。」
あぁ、今日もご機嫌か。くそったれな魔王様よ。
*
かつて、王国と帝国とが争いの地としていた場所。
濃い霧が立ち込めたアンデッドが生まれ続けるカッツェ平野。
その赤茶けた荒野に、ある日小さな小さな墓ができた。
自然発生するアンデッドもその墓にだけは近寄らない。
なぜなら、その場所には決して消えぬ「火」が灯っているからだ。
その火は不浄なモノではなく、近づく者を分け隔てなくそのぬくもりで包んだ。
いつしかそこは、冒険者達やワーカーの休憩所となった。
篝火の近くに入れば、体力は回復し傷の治りも良くなるというのだ。
最初は気味が悪いともいわれたが、何の害も無いという事に加えて「『漆黒の英雄』モモンが一人で良く立ち寄る」という噂で、その墓の前の篝火にはいつも人がいるような状態だ。
しかしだからといって、騒ぐわけではない。
この火に当たっていると、何故だか無性に家族に会いたくなり、皆こぞってその口を閉じ静かに火を眺めるだけなのだ。
しがない傭兵となった俺に、家族の思い出はない。遠い昔に忘れてしまった。
だが、そんな俺もなにやら気持ちが安らいでいるのが分かる。
風の音に混じって薪が爆ぜる音だけが響いていた。
そうして少しウトウトし始めた頃、いつの間にか一人の男が目の前に座っていた。
男は傷だらけのチェインメイルに頭にボロ布を巻きつけた怪しい格好であったが、不思議と恐怖はなかった。
ただ無言でその篝火の火を見つめているだけ。
同業者が来たのだろう。
そうあたりをつけていると、その男が手になにやらを持ってこちらに差し出している。
それは干し肉であった。
礼をしながら受け取り、口に運ぶ。
途端に蘇る、幼い日の思い出。
麦わら帽子に隠れた顔をむけ、こちらに笑いかけているのは父親だろうか。
川辺で俺を呼んでいるのは母親か。
なら、この干し肉を食べているのは、俺か。
頬を熱いモノが流れていくのが分かる。
それを拭い閉じていた眼をあけると、今までいた男の姿はない。
それに、口に入れていた干し肉も無い。
ただ、先程より大きく薪が爆ぜる音がした。
***
end
沢山の閲覧・感想・評価・誤字報告、本当にありがとうございました。
彼の物語はこれにて幕でございます。
それでもモモンガさんとナザリックの物語はまだ終わりません。
これからのモモンガさんの活躍を楽しみにしたいと思います。
それでは、またどこかでお会いしましょう。