魔王の傭兵【完結】   作:あげびたし

3 / 15
閲覧、感想、ありがとうございます!
評価感想もどしどししていただければそれが餌になります!!

今回は後書きにてステータスを開示しています


1:亡者の傭兵②

召喚陣から吐き出されたソイツは、確かに貧弱に見えた。

ボロ布を無造作に頭に巻きつけ、見えている鼻から下の部分には水気がなく

どこか枯れ木を連想させる出で立ちだ。

それだけ見れば、ただのゾンビだろう。だが違う。コイツは違うのだ。

ボロボロのチェインメイルは修羅場を超えてきたのであろう傷が無数に着き、左腕のみ手甲をつけ、利き手であろう右腕はこれもボロ布をバンテージのように巻きつけられている。

利き手を自由に動かせるような合理的な処置だ。

足を包む足甲は膝当てにのみ鉄鋼が使われ、ブーツを荒縄で縛り付けている。機動力のみを追求しているのであろう。

そして腰に無造作に吊ってある二本の斧。無骨な作りだが、内側に反り返ったソレは、首を落とすギロチンを連想させる。

極め付けは背中に背負った身の丈以上の大鉈だ。一体どれほどの血を吸ったのかと言わんばかりに血糊がこびりつき凶々しさを増している。

 

(コイツの装備からも、ただのゾンビでは無い事は明確だ。いくらアウラが守護者最弱といえども、力負けしたというのも頷ける。)

 

それともう一つ。

召喚陣の展開時に見えた火の粉。火の気など全く無いはずであるのに視界に映ったもの。

それが、酷く気になっていた。

 

「お、お姉ちゃん!!だ、大丈夫?!」

 

空中から着地した姉にマーレが慌てて各種バフと回復を施す。その様子には目もくれず、こちらに向き直ったまま動こうとはしない。

 

「アインズ様!!ソイツとんでもない力です!」

 

アウラの焦りが混じる声が思考中の頭を現実に戻す。しかし、様子を見るにこちらから手を出さなければ、何もしない。先程はマーレの杖の先があちらに向けられていたのを警戒したように見える。明確な攻撃行動を示さずとも、注意をするということか。

それともマーレの【スタッフ・オブ・ユグドラシル】の力を感じとったのか。

何にせよ、確認は必要だ。

 

「確かに妙な奴だが…調べてみるか。」

 

コイツのステータスを全て閲覧する。そこに表示されたのは破格のステータスだった。

召喚される傭兵モンスターの上限レベルは特殊な条件以外では90が最高だと記憶していたがコイツはそれを突破したレベル95であり、見た事の無い種族とスキルを保有していた。

 

(レベル95…これは何だ?《呪い人》に《火の無い灰》?アンデッドであることは確かだがこんな種族なんてあったのか?職業レベルがほとんどなくて種族レベルだけなのはモンスターではよくあるけど…しかし種族レベルの上限であるレベル10以上。それだけで95まであるなんて…もしかして、コイツって…)

 

この異常なレベルと見た事もない種族。そして、召喚の時の火の粉。まさかとは感じるも表情が出ない顔に笑みが溢れる。

 

(まさか…これが!これが!シークレット・レアというやつではないのか?!ガチャ排出率0,05%の隠しレア!!存在はあっても絶対出ないと言われたクソ運営の罠!!ウルベルトさんが悪魔クリスタルで狙って破産しかけたアレなんじゃ?!)

 

そうだ、ならばあの火の粉は確定レア枠の演出だったのでは無いだろうか。課金の傭兵モンスター召喚の全てを把握していたわけでは無い。知らない内に追加されるのは何時もの事なのだ、あのクソ運営ならやりかねない。

そしてこのバランスを無視したステータスは、正にシークレット・レアにふさわしいものだ。

 

「アインズ様!!今アルベド達階層守護者に連絡をし、ここに来ます!それまで私達の後ろに!!」

 

睨み合う姿に慌てたのか、アウラとマーレが油断なく前に踊りでる。その顔には奢りはなく強者の余裕すら消した本気の守護者の様子だ。

その瞬間、背後から2つの気配がする。

 

「アァァァァインズ様ぁぁ!御無事ですかぁぁ!!」

 

目の前いる奴を敵と認識した真紅の鎧に巨大なランスを構えたシャルティアが飛びかかる。

突撃していくその顔には憤怒が塗れ滅殺の意気が見える。

 

「このクソ虫がぁぁぁ!!私の愛するお方にぃぃなぁぁにをしたぁぁ!!!」

 

シャルティアを追いかけるように現れたのは完全武装に身を包み、緑の眼光を宿すアルベド。バルディッシュを振りかぶり力のままに振り回す。

枯れ木のようなただの傭兵モンスターに、本気の守護者が二人がかりで攻撃するなどこの世界では稀である。

対するヤツはその烈火の如き勢いの力の奔流に、ただ飲まれてしまうように見えた。

だが、在ろう事かそのままその突撃に合わせるように上体を限りなく低くしたまま飛び込み二人の隙間をすり抜ける。

そして振り向きざまに派手に土煙をあげ、コマのように回転しつつ腰の斧を抜き放つ。両手に握られた斧が鈍く光を反射している。

そうして上半身の捻りを遠心力に任せ、シャルティアの懐に潜り込みながら襲いかかる。

ランスの弱点はその間合い。アインズ自身、先のシャルティア戦でも見せた戦いかたを目の前の傭兵モンスターはいとも容易く行ったのだ。

最初の一撃をまさかあんな風に避けられると思っていなかった二人は、一瞬気が遅れ、容易くその懐に潜り込まれてしまったのだ。

踏み込まれた斧の間合いに振り回されるシャルティア。左右に持たれた双斧が上下に打ち分けられ、アウラを振り回したその力で強引にも見える攻撃を繰り出し続ける。

辛うじて彼我の間に槍を滑りこませたシャルティアだったが、防御を無視した攻撃に押され始める。

そうしてる間に、攻撃速度は徐々に増していく。ギアをあげたように斧の重さを利用し遠心力を加えた攻撃。上から下、左から右へ。回転をしつつ襲いかかるそソレは竜巻の如し。

シャルティアの槍の動きが付いていけくなっていく、それ程までの苛烈な攻めなのだ。スキルやレベルは優っているはずのシャルティアが押される、あり得ない事だ。

自分の中に焦りが生まれる。

 

「アルベド!何をしている!!シャルティアの援護をせよ!!」

 

気づけばその戦闘に目を奪われていた頭を切り替え、アルベドに指示をだす。それはアルベドも同じだったらしく、慌てたようにヤツの背後へバルディッシュを振り下ろす。

しかし、どう察知したのか完全な不意打ちにも関わらず横にローリングされ避けられてしまう。そしてそのローリングの勢いを殺さないまま鋭く踏み込み次はアルベドに躍り掛かる。

二人の得物は長物だ。潜り込まれればその威力は半減どころではない。それをヤツは理解しているのだ。だから背の大鉈ではなく、小回りがきき至近距離で威力を発揮する斧を使っているのだ。

決して二人が油断しているわけでは無い。レベルで負けているわけではない。

これは、戦闘経験の違いだ。ヤツは戦い慣れている、それはレベル差をゼロにするものだ。

防御にスキルを振っているはずのアルベドが苦悶の声をあげる。シャルティアが攻撃を割り込ませるも、絶妙な位置どりで容易くよけられ、すぐさま反撃されてしまう。

たった一人に翻弄され、ジワジワと被弾が多くなり始める。反対にヤツは攻撃に鋭さが増し始める。

 

と、瞬間、その竜巻の如き攻撃を横から吹き飛ばす。

 

「ココハ、マカセテモラオウカ!!!」

 

裂帛の戟とともに吹き飛ばしたのは青い甲殻鎧。

四本の腕にそれぞれ武器を持ち、冷気を巻き上げるはコキュートス。深い青の目はいまや赤々と燃えガチガチと威嚇音を鳴らしている。

その阿修羅の如き攻撃をモロに受け壁まで吹き飛ばされ叩きつけたヤツを、未だ警戒しているということはそういう事だろう。

まだ、息があると。

 

「◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️ッーーーーー!!!」

 

獣の咆哮を上げながら崩れた壁から飛びだしたヤツは頭の布が一部破け、そこから覗く左目から暗い赤の光を燃やし、その光を置いていくように軌跡を残しコキュートスへ突進する。その早さな尋常ではなくここにいる誰よりも早く見える。

斧は既に手にはなく、背中の大鉈に手をかけ上段から振り下ろす。

それを迎え討つコキュートスは右腕の剣。それがかち合った瞬間大気が揺れる。

力と力がぶつかり合う、力は互角。

ヤツの大鉈を防いでいる剣は斬神刀皇。武人建御雷より与えられたその一振りを持ってして互角。

つば迫り合いの火花が散り、そして離れる。

風切り音と共にコキュートスの左腕二本が横薙ぎに振るわれる。ブロードソードとメイスの二連撃。ヤツはそれを大鉈の腹で受け、横に飛び引きながら着地の足を軸に回転する。

斧の時とは違う速度。更に早さをました勢いで大鉈を真横に振り抜く。

コキュートスはそれを斬神刀皇で弾く。弾かれたものの、その勢いを止めずに腕を回転させつぎは上段の振り下ろし。それをコキュートスは片足だけを大きくずらし、半身の体勢で避ける。その一瞬の間に左右計四つの腕で斬りかかる。

ナザリック一の武芸者の本気を見せ付けられたシャルティアとアルベドには入り込める余地はなかった。

 

「アルベド、そしてシャルティアよ。ここはコキュートスに任せるのだ。」

「も、申し訳ありませんアインズ様!この処罰はいかようにも!!」

「アインズ様に助けられながら、その矛にもなれぬこの身をお許し下さい!!!」

 

二人に近づき声をかける。思った以上の消耗した声に驚く。

それ程なのかと。

 

「スキルを使う暇も無い攻めだったという訳か。あの攻め方では距離を取るのも難しいというわけだな?」

 

二人の肯定の声を聞き分析する。

魔法の詠唱にはタメがいる。それをさせないほどの攻撃技術。経験値の差が如実に現れているのだ。

たった5分にも満たない戦闘で二人の守護者を抑え込むその技量に逆に感心する。これが、シークレット・レアの力なのかと。

 

(強大な戦力にはなるが、言うことを聞くのか?あれは。狂犬じゃないか。もしものときは俺が出るしかないな。)

 

内心の焦りとレアを手に入れた喜びが入り混じる。言うことを聞けばよし、聞かねば処分は止むなしというところだろう。

そうしているうちに、剣戟の音が止む。視線の先には双方ともに傷だらけで間合いを開けている状態であった。

コキュートスの左腕の武器は既に無く、足元にはその破片が散らばっている。同じくしてヤツの左腕は血だらけのままダラリと下げられ、大鉈を肩に背負っている。それでいて両者ともにその目に宿す戦意は全く衰えておらず、どこか楽しげであった。

ここが潮時だな。

 

「双方共に剣を収めよ!!!ここから先は私が預かる!!!」

 

二人の戦意に負けないようにスキルを全開放しつつ声をあげる。そうでもしなければ止まらないだろう。二人は顔をこちらに向け、そうして武器を下ろした。意外にもヤツは言うことを聞いたのだ。

さて、どう落とし所を作ろうかと二人を睨み続ける。ここからが正念場だろう。

 

 




コキュートスの目が赤くなるのはあれです。王蟲リスペクトです。


ダクソ基準での彼のステータス公開ついでに誓約も。

誓約:積む者

生命力:25
集中力:10
持久力:27
体力:15
筋力:66
技量:14
理力:10
信仰:10
運:7

脳筋だね!
積む者も作中でスキルとして発揮させたいなぁとおもいます。
種族《呪い人》《火の無い灰》はオリジナル種族です。
彼は亡者になってしまったのです。何故亡者となったのかそれはこの先で。
あと時間軸ですが、同時期に送られたはずがズレがありますね。
これは、時空の歪みが云々というダクソの白召喚を元にしとります

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。