魔王の傭兵【完結】   作:あげびたし

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\( T)/<太陽万歳!!



2:傭兵の契約

二人が武器を下ろすのを確認し、まずコキュートスに声をかける。

赤かった目はすでに平時のソレに戻り、視覚化するほどの剣気も無い。それでも昂った興奮は抑えられていないように見える。

 

「ご苦労だった、コキュートスよ。お前の全力の闘争しかとこの目に焼き付けた。この闘いを見れば、さぞ建御雷さんもよろこんだであろう。」

 

まずは落ち着かせることにした。これを聞いたコキュートスは身体を深く折り曲げ臣下の礼をしながら震えている。逆に興奮させてしまったのではないだろうか。

 

「…ッ!アリガトウゴザイマス、アインズ様。シカシ、アタエラレタ武具ヲ壊シテシマイマシタ。コノ身ノ処罰ヲ願イマス!」

「それには及ばないともコキュートス。ヤツとの闘争はそれほど苛烈なものだったのだろう?寧ろ褒め称えて然るべきだと思うがな。…それで?強かったか?ヤツは。」

 

今にもハラキリでもしそうなコキュートスを、抑えながら控えめに聞く。戦士職では無いため、実際の実力は確認できないのだ。ましてこの世界、ステータス上の情報などあまり意味を持たないであろう。

これを聞かれたコキュートスは、少しの間逡巡した後喋り出す。

 

「強イデス。シャルティアトアルベドヲ抑エ込ミ戦ウ技量モサルコトナガラ、コト戦闘ナラバ私ト互角。力ハ劣リマスガ、ソレヲ補ウスピードガアリマス。セバストモ良イ勝負ヲスルノデハ無イカト。」

 

こちらの目を真っ直ぐに見つめながら語るその言葉に嘘は見つからない。過大評価するでもなく、過少評価もしない。しかしそれでも衝撃的な光景だった。レベル差がある相手を3人も敵に回しそれでいて大立ち回りをやってのけたその意気。そしてただのゾンビにあるまじき戦闘能力。さすがシークレット・レアなだけはあるようだ。ウルベルトさんが欲しがった理由が少しわかる。連れ出せるNPCとしては最高なのではないだろうか。

しかし、それはこちらに害が無い場合だ。攻撃の意思をとれば即敵対するなど使い方難いにもほどがある。そして意思の疎通ができてこそなのだ。

見ればヤツはこちらを気にしながら血を出し続ける左腕の動きを確認するように手のひらを握っては開くを繰り返している。

 

「さて?言葉は通じるのかな?傭兵モンスターよ。貴様に名前があるなら聞いておかねばならん。今後の契約についてもな。」

「アインズ様!!このような者と会話が成り立つとは思えません!!!」

 

アルベドの仲裁には目を向けるだけで止める。

それを意に介さないようにヤツは、首だけをこちらに向ける。水気の無い肌に落ち窪んだ眼窩。ゾンビであることは間違いないのだろう。そうして少しの間があった頃。ポツリと口を開く。

 

「…レイヴン。」

 

重く響くような声。だがそれ以上に、意思を持ち受け答えができるゾンビであることが衝撃的だった。しかも名を名乗るなどとは。

そしてまだ何かあるのかと言わんばかりに顔を向けられ、会話を更に続ける。

 

「貴様の種族は何だ?そして何故攻撃してきた?」

「…種族?………わから、ない。攻撃。は。そちらから、だろう。」

 

聞き取れなくは無いが、酷くたどたどしい。会話ができるといっても、所詮ゾンビなのだ。ここまで喋れれば十分だろう。

そしてやはり攻撃は自分の意図では無いにせよ、迎撃したということだ。

 

「 あぁそれはこちらの不手際だ。貴様を傭兵モンスターとして召喚した時のすれ違いだ。こちらに貴様を殺す意図は無い。」

「傭兵…?なら、アンタ、が…雇い主、か。」

「そうだ、私が貴様の召喚者であり雇い主のアインズ・ウール・ゴウンだ。」

「あ…アイ、ンズ?…長、い。アインズさんで…いい、か?」

 

そう言いながら片膝を立てながら腰を下ろす。その姿を見た守護者達から殺気がもれるが、既に気にしていないようだ。

だからこちらも地面に胡座をかく。

 

「あ、ああ!アインズ様!!!そのようなことをしては!」

 

シャルティアやアウラが慌てて声を荒げる。残り二人かなり動揺しているようだ。しかしそれを手を上げることで静止し話を進める。相手と対等に話をし契約させねばならない。何故ならこの目の前の傭兵(レイヴン)はシークレット・レアなのだから。

 

「かまわん。だが、俺が貴様の召喚者であり雇い主という事を忘れん限り、だがな。それで?傭兵よ。貴様と契約するには何がいるのだ?」

 

このクリスタル傭兵モンスターの召喚は、契約モンスターが出すクエストをこなすことで永久契約が可能なイベントこみであったと記憶している。排出されたモンスターごとに用意されたクエストは、低難易度から超高難易度まで揃っているという妙な力の入れ具合。流石クソ運営だ。

 

「契約、に必要な、モノ?………………篝火を、くれ。それだけ、だ。」

「篝火…?本当にそれだけなのか?」

 

拍子抜けの答えだった。てっきりなにか特別なものが必要なのかと思えば、()()()()()とは。しかしシークレット・レアに相応しい難易度の物、例えばユニークアイテムを要求されなかっただけマシだ。だが篝火とは、妙な物を要求するヤツだ。

 

「良いだろう。ただしその篝火はこのナザリック内に設置させて貰う。外で煙なんて出したらここがバレてしまうからな。」

「あぁ…それで、いい。」

「ならば、契約は成立だな?追って指示を出す、それまでここにいるように。見張りにはアウラとマーレ。そしてコキュートスをつけさせる。」

 

立ち上がりつつコキュートスに目を向ければ、既に分かっていたような声が返ってくる。抑えられるのは自分しかいないと理解しているようだ。

アウラとマーレは注意深く確認しながら返事を返す。三人の監視は過剰かもしれんが、念のためだ。レアを逃すには惜しい。アルベドが何か言いたげだが、それは後で聞く事にしよう。とりあえずの決着はついた、ならば次どうするかを考えなければならない。

指輪の力を発動させ、執務室に転移することにした。

 

 

「ねぇ。アンタ。聞いてるの?!」

 

目の前のゾンビ?が用意された篝火から顔を背け、こちらを不思議そうにこっちを見つめる。火に照らされた半分と影になる半分の顔、戦いで傷ついた身体は既に弟が直している。

しかし、どうやら聞いていなかったみたいだ。戦っていた時の覇気は全くかんじられず、大人しく腰を下ろしている姿はただの死体に見える。こんな枯れ木のような身体でシャルティア(守護者最強)アルベド(守護者統括)を相手取り、コキュートスと斬り合ったというのだから、呆れを通り越して笑えてくる。そんな様子に何を感じたのか、背中の服を引っ張る弟がオドオド何かを言ってくる。

 

「お、お姉ちゃん。あ、あんまり話さないほうが、い、いいよぅ。」

 

そういえば、傭兵(レイヴン)が一番最初に反応したのは、弟の杖だった。あの時は咄嗟に鞭で腕を抑えたが、まさか片腕だけで振り回されるなんて思わなかった。だからだろう、普段より余計に弟が警戒しているのがよくわかる、しかしここにはコキュートスもいる。私も、もう油断なんてしないし三人もいれば流石に簡単に抑えらるだろう。

 

「あぁ…何だった、か?…うまく、聞こえ、ない…んだ。」

「だーーかーーらーー!!なんで篝火なんて欲しがるのよって言ったの!!!」

 

でもそんな緊張感生み出している本人は、呑気なものだった。聞いてるものだと思った質問は軽く無視されている。言葉を交わせるのはいいが、たどたどしくて聞きづらい。なんでアインズ様は「傭兵(レイヴン)とコミュニケーションをとれ」なんて言ったのか分からないが、それは私が預かり知らぬことなのだろう。

すると篝火の火が爆ぜる音に混じり、声が聞こえる。

 

「…あぁ…火を、見ると、な。…落ち着く。それ、に…温かい。」

 

そんな事を考えているなんて、全く無視したように返答してくる。ゾンビだからなのか、テンポがかなり遅い。しかも、なんかズレているような気がする。そんなことのために要求するなんて、ホントに変なヤツだ。でも、ソレについて語る顔が酷く安らかであるのが少し気になった。マーレもポカンとしている。きっと同じように思ったのだろう。戦っている時の猛々しさを影を潜め、ただ静かに過ごしたいなんてホントの死体みたいだ。

その後もポツリポツリと会話を続ける、ゾンビらしくない答えを返すのが少しだけ面白いと感じた。マーレも怯えずに受け答えをしている。何の話だろうか、昔話?のようなモノを語っているようだ。

そんな風に観察していると、アインズ様が転移してきた。

背後には忙しいはずのデミウルゴスを連れている。普段の涼しげな雰囲気とは違い、張り詰めたような空気感だ。

 

「アインズ様、これがお話にあった傭兵ですか?」

「そうだ。あの場にいなかったお前にも紹介しようと思ってな、それに相談もある。」

 

デミウルゴスの目が僅かに釣り上がるも、しかし何も無かったかのように元に戻る。そしてアインズ様の足元に臣下の礼をした。慌てて私達も続き、その後にコキュートスが続く。横目で傭兵を見れば、首だけをこちらに向けているようだ。

 

「まず、今しがたアルベドとも相談しこれからの方針が決まった事を伝える。まずはコキュートス。」

 

重々しく放たれる言葉に打てば響くような反応でコキュートスが返事をする。

 

「貴様には、先に伝えた通り、リザードマンの集落を軍勢を率いて攻略する任に戻ってもらう。よいな。」

「カシコマリマシタ。」

「そして、アウラは地上での作業に戻ってもらおう。時間が無いのは承知だが、急ぎで頼むぞ。」

「はい!お任せ下さい!!」

 

名前を呼ばれる。やっと元の任務に戻れる、あんな大仕事を任されているのだ。ある程度の指示は出しているとはいえ、完璧にこなしたいから今にでも駆けつけたいところだ。

 

「よろしい。そしてデミウルゴスよ。急ぎお前を呼んだのは他でも無い。そこにいる傭兵についてだ。軍事顧問である貴様に彼を使って欲しい。ただの戦力としては申し分ない。コキュートスにも太鼓判を貰った強さだ。良いように使うが良い。」

「ほう…コキュートスが、ですか。それは知略も、でしょうか?」

「いや、それは当てにしないほうが良いだろう。所詮ゾンビだ。だが、暴力装置としては優秀に間違いは無いだろう。それは私も確認済みだ。命令については、彼に貴様の言う事を聞くよう伝えよう。」

「…何と。アインズ様が一介の傭兵風情に、直接お声をかける必要があるのですか?」

 

最もな意見だと思う。わざわざアインズ様が直々に命令を与えずとも任されたデミウルゴスが指示を出せば良いはずだ。だけれどもアインズ様はその進言に首を横に降る。

 

「よいのだ、デミウルゴスよ。彼とは対等な契約を結んだのだ。元々ナザリックに住まう者ではない彼に、そこまでの忠義を求めてはいない。ならばせめても信頼関係は必要だろう?」

「…そうアインズ様がそのようにお決めになったのでしたら。分かりました。彼をお預かりしましょう。」

「うむ。準備が整い次第貴様の指揮に加えるがよい。苦労をかけるが、よろしく頼むぞ。…それと、マーレ。」

 

デミウルゴスは渋々といったようだが、至高の御方の決定は絶対だ。そこにどんな意図があるか検討もつかないのだから。いくら守護者の中でも一番の知恵者のデミウルゴスもそれを測りかねているのだろう。そうして聞いる途中で、急に声をかけられた弟は肩を跳ねさせながら返事をする。

 

「お前には、彼の話相手をしてもらう。もちろん護衛を付けるそれと同時に、監視も兼ねて欲しい。…貴様もそれでいいか?傭兵。」

「…あぁ。好きに、すればいい。」

「か、畏まりました!!!」

 

ドギマギ答える弟に、相変わらずの口調が重なる。そうしてアインズ様はこれから御自分の職務に戻られるようだ。別れの挨拶を口に出した瞬間、今まで興味無さげに見ていた死体が声をかける。

 

「アインズ、さん?…アンタにとって、コイツらは…何なんだ?」

 

そんなどうでもいい質問。しかも何とぶっきらぼうな言い方だろうか。流石にデミウルゴスも腹に据え兼ねて視覚化しそうなほどの殺気を放つ。だが、アインズ様は大してきにならないようにその質問に答える。

 

「何であるか、だと?そんなもの「家族」に決まっているだろう。私がこの地で一番大事なものはこのナザリックに住まうもの全てありそれは「家族」そのものだ。」

 

何でも無いように言われた言葉が胸に突き刺り涙が溢れる。こんなにも想われ、しかも家族だと言われて感動しないシモベがいるだろうか。見ればデミウルゴスもマーレもコキュートスも同じように目元を拭いている。そんなありがたいお言葉を聞いた傭兵は、一瞬その口を開けそしてその後、破顔した。

 

「そうか…そうか。…あぁ、()()か。家族は、良いものだよな。温かい。うん。家族とは、良いものだ。」

 

今までにないほどの楽しげな声。そして水気の無い顔に浮かぶ笑顔は、本当に心から喜んで入る風だ。それは、包帯で顔の上半分が見えなくともどんな顔をしてるのか予想がつくほど。しきりにうなづく傭兵にアインズ様は、何か思ったのだろう。満足気に「そうか、わかってくれるか。」と声をかけこの場を後にされた。

コキュートスもデミウルゴスも続いて持ち場に戻り、未だ不安が残る顔の弟を見る。私も行かなければ。

 

「それじゃ、私も行くからね?ぜっったいに油断しちゃダメだからね?!危ないと思ったら全力で潰しちゃいなさい?いいね?」

「う、うん!お姉ちゃん!が、頑張るよ!!」

 

見れば背後の傭兵は篝火に顔を向けたまま、動こうともしない。弟の護衛にとアインズ様が送られた、いつもは図書館で司書をしている死の支配者(オーバーロード)が勢揃いでやってきたところで、私もその場から出て行った。

 

でも、なんであの傭兵は、「家族」にあんなに反応したんだろうか。

あとでそれとなく、弟に聞くように言ってみよう。

 

 

 




これから先は書籍版代4巻のリザードマン編の裏で彼は何をしていたのか、という風に進めて行こうかとおもっております。




これは、どうでも良いかもしれませんが。
あくまで彼は傭兵です。モモンガに忠義を立てることはありません。だからといって、言う事を聞かないわけではなです。あしからず。

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