魔王の傭兵【完結】   作:あげびたし

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少しクドかったかもしれません。ちょっとした箸休め。



4:もの言わぬ傭兵

蜥蜴人(リザードマン)の作戦が一段落した頃、傭兵の帰還の報告を聞く。言われた通りの物を渡すとの事。しかし先にやる事があるという相変わらずのペースを持つ傭兵(レイヴン)に苦笑いをしつつ、アウラとマーレを伴い第6階層の篝火へ足を向ける。各守護者達からは「何故アインズ様が」との声もあったが、自分の事を過分に評価せず、まるで対等に扱う彼の姿勢が気に入っているのだ。これぐらいが丁度良い。

夕焼けに照らされる闘技場の外縁に設置された篝火が見えてくる頃、その背中が見えてくる。後ろからでも分かるように緩慢だがしきりに手を動かし、隣に置かれた大きく膨らんだ麻袋から火の中に何かを焚べているようだ。この場に来てから戦い以外で(レイヴン)があんなに動いているのは初めてだ。何をしているのか。俄然興味が湧く。

 

「傭兵。ご苦労だった。」

「…あぁ、アンタ、か。丁度、今行こう、と…していた。」

 

その手を止め、こちらを振り向く。その顔には穏やかな笑みが見てとれた。

何時ものような平坦な声は無く、たどたどしい中に感情が揺れている声。視線を下げればその手に何やら浅黒いモノを握っていた。ソレの確認と共に(レイヴン)との会話を楽しみたくなる。その為には同じ視座に行かねばならないだろう、だから彼の目の前、篝火を挟んで真向かいに胡座をかく。その姿に驚くアウラとマーレ、だがソレを手を引く事で収めアウラを左隣に座らせ、そしてマーレを片膝に載せる。顔を赤くする二人、だがそれは篝火の灯りのせいだろう。その姿をじっと見ていた彼は、思い出したように、その手に握られたモノを焚べる。そうやって暫しの無言の時間、アウラの頭を優しく撫で付ける、膝の上のマーレが落ち着かないような仕草をするのを少し笑いながら静かに過ごす。こんなにも落ち着いた時間が今まであっただろうか。篝火の中で弾ける音と火が燃える音が溶け合い、夕日が沈んでいくのを見守る。なんとも言えない感情が胸に湧き上がる。そうした心の動きを堪能しているとポツリと彼が喋る。

 

「…家族を、愛して、いるのだな。」

「もちろん。私はこのナザリックの全てを愛しているとも。」

 

静かな声だ、それでいて穏やか。コキュートスとの戦闘や先程見せた猛々しさは身を潜めている。この姿こそ彼本来の姿なのではないかと勘ぐるほどだ。そうしていると彼はその麻袋から一つの鎧を取り出す。それは前に一度見た事がある物。この場所に転移したすぐ後に見た酷く懐かしいソレ。「またか…。」と小さな呟きを不安思ったマーレがこちら覗き込む。その、こちらを心配する顔に苦笑で返しながらその頭を優しく撫でる。その時自分がこんなにも優しい気持ちになっている事に驚く。その動きを感じ取ったようにまた彼が語りだす。

 

「…家族との、団欒は、良いものだから、な。…………あぁ、そうだ。共回り、と武器。…感謝する。あれが、あった、から。…依頼を、完遂できた。」

 

感謝されるとは思っていなかった。素直な気持ちを向ける彼が、死体でありモンスターなのを忘れてしまう。だが、これも良いものだ。鷹揚に頷ながら、与えた弓は好きにさせる事を伝えると、それについても少し嬉しそうに感謝を述べる姿に、更に気分を良くする。するとアウラが今まで不思議そうに見ていた彼の手を指差し尋ねる。

 

「キミさぁ、さっきから何を火の中に放り込んでんの?なんか骨っぽいけどさ」

「…あぁ。コレ、か。コレは、枷だ。…家族に、捧げる…神の、枷だ。」

 

そう言いながら、こちらに手のひらを向け見せてくる。そこには人間の背骨の一部。それを焚べていたのだ。「…枷?」マーレが恐る恐る聞く。そうしてそれを大事にまた火に焚べながら、彼は朗々と語り出す。先程までのたどたどしい緩慢な口調ではなく、昔話を語る老人のように。ゆっくりと。

 

ー初めて、火が起こった時代の話だった。それは彼と彼の家族の物語だ。

 

神代のような話、ユグドラシルの設定にそんな物があっただろうか。もしかしたら、知らないだけかもしれなかった。常に未知を探させるようなゲームクリエイトがされていた。その内に埋もれていった設定の一つなのかもしれない。そう考えると、彼の語る話は、かつて未知を探して回っていたあの輝かしい時を思い出す。

知らずの内に夕日は沈み、満点の星空の下。辺りは暗く、赤々と照らす篝火の灯りだけになっていた。

ここでアウラもマーレも静かに寝ていれば完璧に祖父の話を聞く孫なのだが、アイテムによりそうはならない。今度来る時には外させてみようかと不思議な思いつきをする。

 

「長居をしたな。…名残惜しいが、戻って今後の事を詰めなければならん。傭兵。今後とも頼りにしているぞ。」

 

随分とゆっくり過ごしてしまった。だが、たまにはいいだろう。これから休む暇も無く動く事を考えれば、この時間は必要だったのかもしれない。次は守護者全員で来てもいい、彼は家族の団欒と言った。ならそういうものなのだろう。

彼から受け取った鎧をアウラが持つ、知らずの内に握ったマーレの手を引きながら、ゆっくり歩いてその場を離れる。そうして篝火の火が見えなくなったところで執務室へ転移した。

 

ーあぁ、悪くない。悪くない時間だった。

 

 

 

モモンガが双子と共に篝火を囲み静かな時間を過ごしている頃。正反対なように法国は上へ下への大騒ぎが起こっていた。

 

 

法国の一室は暗澹たるものだった、すでに報告がなされたように法国の誇る精鋭400人が謎の消失。様子を確認しに行った監視員達も、軒並み行方不明のまま帰って来ることはなかった。更に不幸な事は続く、その部隊に同行した会議のメンバーの一人は法国でも有数な権力者の息子だったのだ。息子の行方を探させるように怒鳴り込む権力者と、今回の事を重く見ている支配者達。法国の軍事を司る彼らにしてみれば、針の筵の上に座り続ける罪人の気分なのだ。苦虫を噛み潰したような面々。周りの武官達の怒鳴り声が酷く煩わしかった。そしてもっと悪い事に人類の敵となるはずだと信じて疑っていなかった蜥蜴供もアンデッドの軍勢も、何も行動を起こそうともしない。その事についても支配者達は「ただただ、いたずらに兵を失っただけの愚か者達」とそう見限り、すでに解体を検討しているような噂まである。国内の評判も酷いものになり、責任者の吊るし上げを画策する始末。

神にすら見限られたようなものだ。しかし、それでも確認だけでもしなければ。あの時あの場所で、一体何が起こっていたのか。

誰でも良い、教えてくれ。なんなら悪魔でも良い。頼む、教えて、くれ。

 

 

『良いでしょう。』

 

 

 

暗い会議室の中、地獄の底から響くかのような、それでいて甘く惹かれるような声がした。

あぁ…私は、とんでもないものを、呼んでしまった。

 

 

 

 

 

 




日間ランキング9位というAOGと同じ順位に着くことができました。
閲覧していただいた皆様のお陰です、ありがとうございます。

作者は双子をガン推ししています。彼女達とモモンガがいるのを見るだけで心が安らぐのです。

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