【完結】ふぇいとほろーあたらくしあてきな?   作:劇鼠らてこ

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10月8日 (1)

「それにしても野場氏の交友関係は不思議ですなぁ」

 

「そうかぁ?」

 

 昼休み。

 何の脈絡も無しにそう話しかけてきたのは同じクラスの後藤劾以(がい)

 基本的にノリで生きていて、誰とでも仲のいいあだ名は後藤くんである。

 

「衛宮(なにがし)とはそれなりに仲が良いくせにその周囲にいる魔女やら生徒会長とはそこまで仲良くない。かと思えば魔女のクラスの蒔寺某と氷室殿とは仲がいい。どういう判断基準で?」

 

「衛宮は大体の奴と仲良いだろ。自称黒豹と氷室は特に仲良いつもりはないぞ。つか、オレとしては三枝ちゃんを狙いたいね。小動物ロリたまんねぇ」

 

「通報した」

 

 まぁ彼女はロリと言う程低身長ではないのだが。

 ……ついでに言うと、彼女に声をかける度に妨害してくるのが蒔寺であり氷室であって、別にあの2人と仲がいいわけではない。

 

「レズでロリコンとは業が深すぎでは? それに、目撃情報によれば何やら紫髪のお姉様と仲よさげに会話していたと聞く。ストライクゾーンは天井知らずか?」

 

「あぁライダーさんの事? ありゃアレだよ。ウチの店でバイトしてるだけ。まぁキレイな人だけど、背ぇ高すぎるし……。あとあの人美綴が好きみたいだから、範囲外だな」

 

「弓道部元主将はレズ、と……」

 

 オレは購買で後藤くんが買ってきたパンを、後藤くんはオレがコンビニで買って来たグラタンを食べている。特に仲がいいというよりは、単純に利害の一致である。オレは売れ残りのそこまで好きじゃないグラタンを押し付けて、後藤くんは見返りのパンを買って来た、ただそれだけの事。

 この太眉男は下っ端気質に見えて案外我も強いので、こき使うには向いていないのだ。

 

「そういえば野場氏は、新都にできたレジャー施設『わくわくざぶーん』を知っているか?」

 

「知ってるけど……何、オレの水着姿が見たいの?」

 

「貧乳に興味無し」

 

「貴様Bが貧乳だとでも」

 

「せめてC、Dが理想」

 

「高望み」

 

 こういう間柄であるのだ。

 気軽に話せる男子と言うのは中々貴重で、特にこのクラスには柳洞一成という堅物や衛宮士郎という妖精が目立つので、天然記念物並のありがたさだ。

 まぁ、一時的とはいえ見ただけで相手の動きをトレースできるコイツが一般人かどうかは別とするのだが。

 口には出さないが、先程それとなく聞いてきた『氷室殿』……氷室鐘は後藤くんがアプローチを掛けている人物であり、B84/W56/H85のEカップという隠れ巨乳女子だ。確かにこれに比べられたらオレは貧乳である。

 

「柳洞某も人柄的には問題ないのでは? 何故親交が無いのでござるか」

 

「接点が無いだけだろ? あとホモっぽいじゃん」

 

「拙者は尻に気を付けるべきだったか」

 

「そこ! 聞こえているぞ!!」

 

 おっと。

 先程まで間桐慎二と衛宮士郎と何やら言い争いをしていた生徒会長様からツッコミが入ってしまった。

 要約するとどっちが一緒に衛宮士郎と昼食を食うかという話で、やっぱりホモじゃないか(嘲笑)と思った物だが本人は認めたくないらしい。

 若い時って認められない事多いよね。

 

「寺で経典ばっかり聞いているから地獄耳なんだろうなぁ」

 

「単純に拙者達が声量を抑えずに会話しているからでは?」

 

「一理ある」

 

「百理だ!!」

 

 堅物だがツッコミのリアクションは良いんだよなぁアイツ。

 まぁ穂群原の生徒は大体ボケもツッコミも出来るんだけど。

 オレは疲れるからやんないけどね。

 

「話は変わるが野場氏」

 

「なんだ後藤くん」

 

「衛宮某の爛れた実生活について……どう思うでござるか」

 

「なんでさ!?」

 

 爛れた実生活。

 衛宮士郎の家に住まう幾人もの女性や、彼の交友関係にいる数多の女性の事だろう。

 その毒牙にはオレのフォーリンラブしたい女性No.1の三枝が入っているのだから見過ごせる物ではない。

 

「――三枝はオレが貰う。けど、その他……魔女とか弓道部主将とかは据え膳出されてんだからとっとと喰っちまえよベイベー」

 

「なんでさ!?」

 

 2なんでさ頂きました。

 この衛宮士郎は存外スケベ小僧で朴念仁なので、理解の範疇に及ばない事態になった時はすぐに『黄金のなんでさ』を使う。特に女性関係。

 よってこれを引き出した時点でオレの勝利は約束されたも同然なのだ。

 

「相も変わらずわけのわからぬ理論展開でござるなぁ」

 

「魔女が旅行に行ったせいでなんでさが最近聴けていなかったからな。みんな聞きたがってたんじゃないか?」

 

「……なんでさ」

 

 3なんでさ頂きました。

 お疲れモードのようなので、衛宮士郎を弄るのはこの辺りにしておこうか。

 

 

「――そういえば、衛宮。柳洞の寺で合宿やるって聞いたけど」

 

 

「ついにホモが動いたでござるな」

 

「……? 何の話だ? 俺は知らんぞ、衛宮」

 

「いや、俺も知らないけど……。どこで聞いたんだ野場?」

 

 そうか、まだ知らないのか。

 つまりまだフラグは立っていないと。

 

 記憶の連続性は疑えないから、こうやって確認するしかない事が厳しい。

 カラはともかく、中身には悟られた可能性は高いからだ。

 

「夢で見たんだよ。半裸の柳洞が同じく半裸の衛宮の腰を掴んで……」

 

「前々から思っていたが、野場氏貴様腐っているでござるな?」

 

「健全な女子だからシカタナイネ」

 

 誤魔化す時は、ホモネタが一番!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ~えぇ~ぐ~さっ!」

 

「ひゃあ!?」

 

 後ろから抱き着いて、うなじをくんかくんかすーはーすーはーする。

 良い匂いするわぁ……。

 

「こぉら飛鳥(あすか)! 私の由紀っちに何すんだ!」

 

「ふむ……野場。由紀香が困っているのが見てわからないか?」

 

「えー? 匂い嗅いで胸揉んでるだけじゃーん」

 

 一瞬の間と共にピキっという音がしたので頭を後ろにズラす。

 すると、オレの頭があった場所を蒔寺の拳が通り過ぎて行った。

 

「避けんな!」

 

「お前は魔女とか美綴とかと仲良くやってりゃいいだろ? オレは三枝とにゃんにゃんするからよ」

 

「別に私は美綴と仲良くねぇ!! 遠坂とはほら……あれだ! アレだよ!」

 

「蒔の字、それで伝わる奴は少ないと思うぞ。ついでに言うと野場は私達の声が一切耳に入っていない」

 

「ふざけんなぁ!」

 

 一頻り匂いを嗅ぎ、胸をもみしだいた所で三枝を解放する。

 息も絶え絶えな様子で三枝は氷室の後ろに下がった。

 ……蒔寺は信用されていないのだろうか。

 

「うぅ……」

 

「おぉ~由紀っち、私が守ってやるかんな~!!」

 

「おいおい、それじゃあまるでオレが悪漢みたいじゃないか」

 

「事実だろう?」

 

 心外である。

 せめて悪女と言ってくれ。

 

「それで、何用だ野場。まさか由紀香にセクハラするためだけに来たとでも?」

 

「え、そうだけど」

 

「……お帰り願おうか。陸上部はそこまで暇ではないのでね」

 

「由紀っちはマネージャーなんだよ! お前の変な手つきのせいで由紀っちの体調が崩れたら陸上部全員が路頭に迷う事になんだからな!?」

 

「そ、そこまでのことはないと思うけど……」

 

 男女比率的には野郎ばっかの陸上部に興味はない。

 とはいえ三枝の所属している部活。貶しめるのは悪印象か。

 衛宮士郎も来ないようだし、ここはトンズラこきますかね。

 

「それじゃ!」

 

「え、いやオイ!」

 

「……全く思考回路が読めん。なんだったのだ……」

 

「ホントになんだったの……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

「おかえりなさい、アスカ」

 

 野場骨董品店。それがオレの実家の名前であり、この綺麗な紫髪の女性……ライダーさんがバイトしている事で有名な深山町商店街の一角だ。

 スラっと伸びる長身に小さな眼鏡という色々と『秘書感』ある人物なのだが、大きいのでストライクゾーンからは外れている。

 

「お客さんは?」

 

「今日は1人もいないですね」

 

「んー、じゃあ今日は早めに上がっていいよ。鏡拭く予定あるから……ライダーさん鏡嫌いだろ?」

 

「何故……いえ、よく御存じで」

 

「入口左の円鏡、わざわざ避けて通ってるの知ってんだから。これでも店主だぜ?」

 

 ちなみにその円鏡は名を真経津鏡(マフツノカガミ)と言ったりする。

 その鏡に姿を映されたモノは鏡を注視せざるを得なくなる……という効果があったらいいなぁ。

 生憎と霊感などはさっぱりだし、あの鏡を見ても特にそのような効果は感じられないのでつまるところ妄想である。

 

「……そういうことですか」

 

「そゆことー。あぁ、あとこれあげる」

 

「……『わくわくざぶーん無料優待券』?」

 

「なんか金髪赤目の子供から貰ったんだけど、この連休中に使い切らないとダメですよ? とか言われたからアキラメタンフェミン。ライダーさんの家、人いっぱいいるだろ? 誰か誘っていったりや~」

 

 とても親切な子供だった。

 が、オレは知っている。奴が三枝を狙う悪鬼であることを。

 とっとと成長して無い方の乳上に夢中になってほしい所存である。

 

「……では、ありがたく受け取りましょう。それではお先に失礼します」

 

「あいよー」

 

 特に荷物も無く帰って行くライダーさんの後姿に手を振りながら、考える。

 今日は10月8日。衛宮士郎や柳洞一成が合宿を憶えていない事から、2周目以降のどこかのはず。

 つまり、既に獣1匹は必ずいるというわけで。

 夜に出歩くのは自殺行為に他ならない……いやまぁ見えないだろうし触れないだろうけどね?

 

 悲しい事にこの身は魔術回路も異能も何もない。彼ら彼女らのように戦闘に赴くには無理がありすぎるし、そもそもオレが何をしたところで関係ない。衛宮士郎と、その中身が解決すべき問題は干渉のしようがないのだ。

 よってオレに出来る事は、この1人きりの家で夜を過ごす事。

 起きていると殺されかねないので眠ってしまう事だ。

 繰り返される日々は大いに楽しませてもらおう。反応の変わらない面々もいるだろうが、気付いている奴らとなら半永久的な3連休+1日のようなものだし。

 

「……強いて言えば」

 

 あの鏡を、入口へ向けておくくらいの抵抗は許してもらいたい所である。

 


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