「ん? みのりん何してんの?」
「誰がみのり……あぁ、アンタっすか」
「おいおい先輩に対してアンタはないだろーみのりーん」
「なんで、朝っぱらからガッコにいるんすか。アンタ、別に部活とか入ってないでしょ」
「おっとガンスルー。別にオレがどこいたっていいだろー? みのりんこそ、恰好的に部活中だろ? なんで
「……別に、俺がどこにいたっていいでしょ。で、何の用ですか」
「いや用は無いけど。暇を持て余してる所にみのりんが来た。だから話しかけた。
衛宮に明日学校に行ってやると約束した手前、昼間っから行くのはなんだか気が引けたので、ライダーさんに今日の分のバイト代と言伝『今日はお仕事なし! お金は貰ってください!』を置いて、日曜日だというのに登校したのだが。
教室で黒板にFate/Zeroのロゴを完璧に描いたのち、ふらふらしていたらば見覚えのある背中を見つけたではないか。
みのりんこと、美綴
名前の通り美綴綾子の弟であり、目元がとっても良く似ている。
「……ねーちゃんから、アンタそれなりに運動できるって聞いたけど……部活とか、なんで入らなかったんですか」
「おん? 美綴がオレの事をみのりんに話す機会があったのか……意外だわ」
「前、アンタに絡まれた時に聞いただけ……です。で、理由教えてくれないんですか」
「いや、単純に家で仕事あるからだけど……」
「……ああ」
そういえばそうだった、と言わんばかりな顔をするみのりん。
オレが部活に入らなかった理由は、まぁそれだけではないが、それが一番大きい。
この世界じゃ大学に進む気も無いし、なんだったら穂群原学園自体退学して骨董品たちと日夜戯れるのも吝かではなかったりするのだが、他ならぬ他界した両親
曰く、学生生活を大いに楽しんでほしいと。
あぁ、楽しませてもらった。
小中高と、本当に楽しかった。沢山馬鹿をやれたし、友達も増えに増えた。
だからもう、十分なのだ。部活をしてまで骨董品たちとの時間を削りたくはない。
「……そろそろいいですか」
「ん? ……おぉ! そっか、オレが引きとめてたんだったっけ。すまんすまん、もう用は無い!」
「……うっす」
いや、彼には悪い事をしたかな。
今度美綴経由でなんか贈り物をしよう。
ブロッサムさんの心を惹きそうなものを。
「……来ねぇ」
待つ事、3時間半。
既に黒板は超大作の域に入っており、とりあえずSN時空にいないだろう英霊の似顔絵を描いて描いて描きまくってみた。孔明擬きこと現エルメロイさんとかに見られたら不味いZero組は描いていない。壁に耳あり障子にメアリー! こんな所にポエム集有り!
「……イタタタタ」
あの子、こういう事考えてたのか……いや知らなんだ、友人の秘密。
そんな暇を潰しながら待ち続けた3時間半であるのだが、待てど待てども目的の人物が来ない。喜べ少年。そろそろ私の怒りは有頂天だ。
元から単純作業こそ好めども、人を待つ行為はあまり好きではないのだ。
だから自分から行動するし、基本的に約束をしない。昨日は咄嗟というか、早くあの場を切り抜けたかったから故の失言である。
あんまり来ないのであればここにも書置きを残し、陸上部で頑張ってるだろう三枝の胸でも揉みに行こうかな、と考えていたその時だった。
にわかに廊下が騒がしくなり、まず見えたのはメガネ。じゃなくて、胸。でもなくて、氷室。そして――ピキッ。
「む、誰かいるようだが――」
「ウチのクラスにか? ……あ」
「衛宮くん? どうしたの?」
にこにこと可愛らしい三枝を侍らせた、そいつの顔に――!
「
水平になる様に左手で放った金属製のボトル。その底面を、引き絞った右の掌底で撃ち出すようにぶん殴る。左脚を軸足として、腰の回転と共に右半身を捻りながら、
飛ばされると言うよりは、撃ち出されるボトル。
「うぉッ!?」
だが、相手は仮にも聖杯戦争を戦い抜いた少年の殻を被った超常存在。どれほど弱くとも、人間の出せる速度など取るに足らない。
左耳直撃コースで放たれたボトルは直前に顔を引いたそいつの鼻先を掠め、シャリン、という音とともにどこかへ消えて行った。
「な、なんだぁ!? 由紀っち、大丈夫か!?」
「え? 何が?」
流石の動体視力と言ったところか、黒豹。
そして冷静に音を検分する氷室。
「……見ろ、蒔の字、衛宮」
「……ガラスに円形の穴が開いてる……」
「それでいて破片や罅が一つもない。恐ろしい速度で射出された何かが通り過ぎた、と見るべきか……。直径は90mm……いや、88mm程だな」
ギ、ギ、ギと油を差していない機械の様に、青い顔でこちらを振り向くそいつ。
顔に「殺す気か?」と書かれている。安心しろ、オレも手のひら真赤だ。
「……貴様、三枝を侍らせて一緒に弁当を食べようとはいい度胸だな……」
「……悪かった。いや、本当に悪かった……って、そっち!?」
「そもそも時間を決めてないんだ、遅かったのはまだいい……だが! オレの目の前で三枝とイチャイチャするのは許さんぞ衛宮士郎!!」
「なんでさ!?」
あろうことか、そいつは――衛宮は、三枝+α、βを引き連れて……弁当片手に談笑をしていたのだ。
ユルセナイイイイイイイイイイイイイイイイ!!
「……あの、野場さんも一緒に……」
「わーいマジで!? 三枝、天使! 一緒に食べる!!」
「……」
やった、三枝と一緒に昼食だ!
「いただきまーす」
どうやらこの後にあるのはミーティングだけらしく、ジャージから制服へと着替えた三枝他2名と、終始オレを警戒していた衛宮某と共に昼食を食べ始める。
なんでも衛宮に与えられている弁当は三枝の手作りらしい。部員が1人休み、ハードルとチャカを直す対価としての報酬なのだとか。
正当報酬ゆえに奪えないのが残念である。
黙々と食べるのは衛宮だけで、三枝&2名は割と姦しい。
内容は主に三枝の弁当の味、そして衛宮が如何に美食家であるかという話だが、衛宮は美味いの上限が広いのであって下限が高いと言う事は無い。むしろ、家庭の味を大事にする方だ。……と、ライダーさんから聞いた。
「野場さんは、料理するの?」
「オレ? まぁ1人暮らし程度の自炊と、あとはまぁBARに出す程度の軽食なら作れるけど……専らインスタントか、コンビニ弁当だなぁ。作るのめんどいし」
「……何故、BARなんだ?」
「昔働いてたから――……っと、生徒会長様には内緒にしといてくれよ?」
未成年が働いて良い場所じゃないし。
あとこの世界に無いし。
「へぇ~! なんだかカッコイイね!」
「野場が……バーテンダー? ……ふむ? 意外と絵になる……」
「バーテンダーってなんだっけ、由紀っち」
「お酒をこうやって混ぜる人だよ、蒔ちゃん」
エアシェイクする三枝可愛い。
いやまぁ、それだけの仕事ではないし、そもそもBARで働いていただけでバーテンダーだったわけではないのだが、夢は壊さないでおこう。良いイメージをわざわざ払拭する事も無い。
「……インスタントは身体に悪いぞ?」
「重々承知の助だけど、簡単で美味いんだからしかたあるめぇ。仕事終わってから料理するのはめんどいの。そんなに言うならオレん家来て昼食作ってくりゃれー」
「……わかった」
?
「!? え、マジで?」
「こんなことに嘘ついてどうするんだよ。っていうか、その様子だとライダーの昼食もインスタントにしてるだろ。明日、昼飯作りに行ってやるよ」
「……いやいや、衛宮よ。お前にはトーサカという彼女がいるだろ? 他の女の家に飯を作りに行くなんて、色々と不味いんじゃないか」
「野場って自分が女って自覚あったんだなー」
「蒔の字、流石にそれは失礼というモノだろう。あんなでも、心は乙女かもしれん」
「……わぁぁ~。ふわぁぁ~……!」
煩い外野と、何やらキラキラしている三枝。
自分が女だって自覚? あるに決まっているだろうに。
男だった時の自覚の方が強いのだから、何年経っても異物感は消えないし、喪失感も消えぬ。
「いや、作りに来てくれるってんなら大歓迎だけど……材料とかなんもないぜ? 冷蔵庫は基本的に骨董品たちが占拠してるし」
「いーよ、買ってくから。あと、トーサカは別に彼女ってワケじゃないし、従って野場の家に飯を作りに行っても問題ない。逆だと……色々、主に藤ねぇあたりがうるさそうだけど」
「確かに」
……ふむ。
昼間の衛宮であれば、何も心配することはない。
オレは美味い食事が食える。
損、無し!
「ま、材料代くらいは払うから、レシートもらってこいよ」
「んじゃ、契約成立だな。っと、結構長居しちゃったけど、そろそろ俺は失礼するよ。三枝、どうもな。サーモンとパン、どっちも美味しかったぜ」
「あ、はいっ、おそまつさまですー」
……。
衛宮の食事より、三枝の弁当が食べたいでござる。
夕方。
自分の教室に戻ってひと眠りしたら、夕方だった。
そろそろけーるか、と伸びを一つ。
傷がついてしまったステンレス製の水筒をバッグにしまい、ステンレスって硬いんだなーとか考えながらふと校門を見ると、そこには見覚えのある2人の姿が。
ライダーさんと衛宮である。
そしてライダーさんに勘付かれたでござる。
仕方がないので急ぎ足で校門まで行くと、やはり2人はともに帰る的な話をしているところだった。なんでもブロッサムさんがそう指示したのだとか。
「野場、まだいたのか」
「こっちのセリフだわ。暇なの?」
「……」
衛宮的には、昼食の後に校門へ来たら夕方だった、という方が正しいのかもしれないけれど。
「……アスカも、途中まで一緒に帰りますか?」
「……いや、遠慮しておくよ。衛宮と仲睦まじく帰ってるトコを邪魔するのもアレだし……なによりオレ、
「……借りはまた、いつか」
「あいあい。じゃーな、衛宮ー。また明日ー」
「おう、気を付けて帰れよ、野場ー」
「あいあい~」
自転車置き場へ向かう。
喋って帰るなんてとんでもない。
それで夜になってしまったら、恐ろしいじゃないか。
とっととおうちに帰りましょ。