【完結】ふぇいとほろーあたらくしあてきな?   作:劇鼠らてこ

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10月9日 (1)

 骨董品と言っても様々な物がある。

 先に示した円鏡もそうだし、例えば今オレが持っている銅剣や、足元に或る勾玉、壺、なんかよくわからない台座。いや価値はわかっているけどな?

 

 どれもこれも古臭い物ばかりであるのは事実だが、磨いてやったり拭いてやったり修繕してやったりするとそれなりに見栄えも良くなるもので、イメージによくある埃っぽさとは無縁だったりする。

 というか、そんなもん商品に出すわけがないのだ。

 

 ふぅ、と一息吐いて作業を再開する。

 フラグの継承が為されるのは知っているし、ループに見せかけたこの4日間は色々なモノが残るので、オレの頑張りは無駄にはならない。よし、やる気出た。

 今日はライダーさんは来ないので、そういう意味では没頭できるというもの。

 しかしそういう時に限ってイレギュラーが……ほら、来た。

 

「失礼する」

 

「いらっしゃい、葛木先生」

 

 無趣味の塊・殺人拳・道具であるこの人が何故骨董品店(ウチ)なんぞに訪れるのか。

 理由は聴いていない。店主が店に訪れた理由を聞くのはなんか嫌だったから。

 というかこの人ホントにたまに来るけど何も買って行かないんだよな……。

 

「……」

 

「……」

 

 キュ、キュ、キュ。ゴシゴシゴシ。

 葛木先生は足音が一切ないので、オレの作業音のみが店内に響く。

 この人が骨董品を買うのは想像できない。だってコレ趣味全開の商品だから。 

 ならばなぜここに来たのか。

 それがわかれば苦労はしないのである。

 

「……」

 

「……」

 

 無言の空間が続く。

 オレはあの「どのような商品をお探しでしょうかぁ?」みたいな接客行為が大嫌いなので話しかけるつもりはないし、葛木先生は先程からずっと地中海由来の食器類が置いてある辺りから動かないのでこの空気は終わりようがないのだ。

 ……地中海。

 あっ(察し)。

 

「……野場」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「……この食器類は、何年前の物か」

 

「えーっと、あぁそれは紀元前2世紀頃の青銅食器ですね。現在のグルジア西部に当たる場所で使われていた物と鑑定されていまして、付加価値も希少価値もかなりの物です。なんでも、王族が使っていた可能性があるとか」

 

「……そうか」

 

 なんでそんなものがウチにあるかって?

 ウチは手広いんだよ色々と。なんたって冬木の骨董品屋だからな!

 

「とはいえそこまでの鑑定は難しいので……1つで60万、1対で180万程ですかね」

「……いや、買うつもりはない。邪魔をしたな、野場」

 

「あらぁ~、今後とも御贔屓に~」

 

 こうも面と向かって「買うつもりはない」なんて言われちゃどうしようもないわなぁ。

 ちなみに価格が破格レベルに安いのは単純に興味の問題である。

 骨董品店は親から継いだものであり、収集こそ続けているが元手は0に近い。

 よってオレの興味の度合いによって値段を決めているのだ。

 常連曰く「掘り出し物の宝庫」「いくらか宝物庫に収めてもいいくらいです」。

 だからこのように見向きもされなくてもくじけたりしないのだ。

 

 葛木先生を見送って、また作業を再開する。 銅剣は終わった。次は勾玉。

 足元にあるのは氷山の一角であり、まだまだキレイにしてやらなければならない子が沢山残っている。

 好きな作業だからいいんだけどね!

 

 こうしてオレの土曜午前は過ぎて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冬木大橋。

 世界最硬の物質で作られているとされるこの橋が跨るのは未遠川という川で、冬木市を東西に二分している。深山町と新都を繋ぐこの橋を渡らなければ双方を行き来できないので渋滞しがち……と言う事は無く、ぶっちゃけ深山町に用がある人は大体バスをつかうので交通の便はスムーズだったりするのだ。

 そんな大橋をマウンテンバイクで疾走しているオレ事アスカ・ノバ選手。

 後方に迫るはウチのバイトライダー。駆使するはママチャリ。

 ふ、ママチャリで出せる最高時速などたかが知れている……貴様がどれほど有名で騎乗スキルに優れていようとも関係ないのだ!!

 

「フハハハハハハ!! ではなライダーさん! 今日もオレの勝ちだ!!」

 

 チャリ競争で英雄に勝つという虚しい自尊心は今日も満たされた。

 これで心置きなく釣りにいけるというものである。

 

 

 

 

「あ、ランサーさんういっス。今日調子いいッスか?」

 

「ん? ……あぁ、嬢ちゃんか。鯖山だよ。ったく、ここは鯖しかつれねえぇのかってくらい鯖が釣れる」

 

「名前的に惹かれるものがあるんでしょうねー」

 

 魚ー青ント的な意味で。

 

 よっこいしょういち、と腰を下ろす。

 釣り具を取り出し餌をセット。今日の餌は鈴虫の死骸。海水魚に淡水魚の餌を使うのはどうかと思わないでもないのだが、存外釣れるのだ。多分珍味的な?

 

「……そら!」

 

 ヒット。

 1ヒット目は……アオリイカ。

 Wow。何故こんなところにいるし。

 

「早速当たりを引いてんじゃねぇよ……」

 

「いやいや偶然ですって幸運ですって」

 

「ほぉ……オレが幸運Eと知っての自慢か?」

 

「なんスかEって。何の基準ッスか?」

 

「いや、なんでもねぇけどよ」

 

 冬木に召喚されるランサーは総じて幸運値低いからね! シカタナイネ!

 これがアメリカならどこぞの粘土細工が出ていたかもしれないけど……。

 

「お」

 

 2ヒット目。

 鯖。

 

「……鯖多いッスねぇ」

 

「だな……」

 

 現在の冬木市に鯖が多いと言う事を暗示しているのではないかと思う程鯖に溢れているようだ。

 鯖はアニサキスに塗れているので冷凍するなり熱するなりしないと喰えたものではないのだが、逆に言えばちょろっと加工すれば夕食には丁度いいオトモになる。

 もっともオレの横にいるアロハシャツマンの胃は寄生虫如きに食い破られるほど柔ではないだろうけど。

 

「……なぁ、嬢ちゃん」

 

「? なんスか」

 

「嬢ちゃんの名前、教えてくれよ」

 

「あれ、自分口説かれてるッスか?」

 

「いいだろ、これから長い付き合いになるんだ」

 

 あー。

 

「野場飛鳥ッス。でもどうせランサーさん名前で呼ばないんじゃないッスか?」

 

「おう、呼ばねえよ」

 

 半年ぶりの再会だというのに、素っ気ない物だ。

 まぁやる気が出ないのは理解できる。彼女は生きているのだし。

 

「釣れないッスねー。アタリも、ランサーさんも」

 

「異性を釣るのは男のヤる事だろ?」

 

「きゃーおそわるるー」

 

 彼とは彼是……ナンパされて一緒に食事した程度の仲だ。

 いやぁイケメン。いやぁ良い声。受けない理由が無いね?

 

「……良い店があるんだが、」

 

「行きます!」

 

「……おう、奢ってやるよ」

 

 ビバ下っ端人生。上から搾り取れる物はすべて搾りつくすのが流儀。 

 長い物には巻かれなきゃ損するし、強い物の威を借りるのは当然の事。

 ライダーさんはほら、立場的にいろいろあるからアレだけど、他鯖方々にはいつもこんな調子だぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 喫茶店アーエンネルベ。どこぞのアーネンエルベのパクりとしか思えない喫茶店は、なんでもランサーさんのバイト先だそうな。

 メニューに値段は書いてあるが、どれもこれも普通の学生には手が出せない物ばかり。奢りで良かった。

 

「オススメは?」

 

「聞いても選ばねえんだから聴くなっての」

 

「ありゃ覚えてましたか」

 

 前にナンパされた時もオススメを聞いてそれを選ばなかったら不満そうな顔をされた。

 食わず嫌いだからね、仕方ない。

 さて、取り出したるは魔法の粉(ふんまつ)。マナー違反甚だしいのは重も承知だが、これも骨董品(ウチ)の商品の一つ。まぁ正確に言えば販促目的のティーパックなんだけど。

 

「あ、これとアールグレイ混ぜてもらえますー?」

 

「……かしこまりました」

 

 不躾と言うか失礼極まりないと言うか、ようはお前の店の味じゃ我慢できないからこれ混ぜやがれという余りにも礼を欠いたお願いだと言うのに承ってくれた。うん、良い店。

 

「なんだよそりゃ」

 

「アイルランドで親しまれている茶葉ッスね。ウチの骨董品、あ、うち骨董品扱ってるんスけど、その中で古代ケルトの食器売ってまして、ついでにアイルランド産の茶葉で販促効果狙ってるんスよ。古代ケルトの食器でアイルランドの茶葉を飲む風情って奴ッスね」

 

「ほぉ……」

 

 そういう好事家(こうずか)は多い物で、中には古代の茶葉はないのかと聞いてくる人もいる。あるけど飲む気なのだろうか。いや飲めるけど勿体無くない? あと売らないよ?

 

「骨董品ね……どの時代にも収集家(コレクター)は尽きねェな」

 

「まぁ古代メソポタミアの王サマもコレクターだったらしいですし、拡散した血液の中にでも収集癖(あつめたがり)の遺伝が混じってんじゃないッスかねぇ」

 

「……笑えねぇな、そりゃ」

 

 アレにコレクターと言えば怒るのだろうが、傍から見ればコレクター以外の何物でもない。ついでに言えば衛宮士郎や紅茶もコレクターだろう。

 本物を取り扱う骨董品店の店主の立場からすれば、贋作者は唾棄すべき存在なのだが。

 

「こちらになります」

 

「無茶なお願いありがとうございます。ほら、ランサーさんも」

 

「……奢るのはオレなんだがな」

 

 2人で紅茶を啜る。

 ところで啜るって凄い字だよね。ロヌヌヌヌに見える。

 ちらりとランサーさんを見遣れば味がお気に召したようで、見た目にそぐわない王族っぽい上品さで紅茶を飲んでいた。あれ、この人王族なんだっけ。

 

「うめぇな」

 

「半年前のお返しでさぁ」

 

「……あぁ、無理矢理入れたアレか」

 

 ナンパされて一緒に食事してオススメ聞いておきながらそれを無視した結果、目の前の槍ニキはあろうことかオレのコーヒーに無理矢理砂糖とミルクをぶち込みやがりましたのだ。ブラックしか飲んだことが無く、食わず嫌いで他のを飲む気になれなかったオレは、しかし食材に罪は無いと(贖罪だけに)考え、一飲み。

 結果、美味かった。

 

「むしろ今までなんであんな苦いだけの水を飲んでいたのか疑問は尽きなかったッスよ」

 

「そりゃよかった、ってか?」

 

「はい、良かったッス。そいや、ランサーさんはあんま好き嫌いとか無さそうッスよね」

 

「ん、大体なんでも喰うぜ。犬以外はな」

 

「犬て。いや、日本で犬喰う奴も出す店も無いと思いますけど……」

 

 食べると半身が痺れるらしいが、痺れてもなお戦闘続行可能な槍サーヴァントの王子(略して槍サーの王子)はかっこいい。

 あれ、その線で言うとスカサハは槍サーの……あれは女王か。どっちかというとエリちゃんが槍サーの姫になるのか?

 

「……お嬢さん」

 

「? はい」

 

 くだらない事を本気で考えていると、アーエンネルベの店員さんが話しかけてきた。

 その手に持っているのは先程渡した茶葉の残り。

 

「あー、返さなくてもいいですよ。いらないなら引き取りますけど」

 

「いえ……正式にウチのメニューとして使用したいと思いまして、契約を結んではいただけないでしょうか」

 

「いやそれ既製品だから。オレの家の商品だけど卸すなら本場から卸した方が良いから」

 

 おっと素の口調が。

 ランサーさんも店員さんも目を剥いていらっしゃる。

 

「あー、っと。アイルランドのバ○ーズティーってとこに連絡するヨロシ。イイネ、ワタシここと契約しているダケデ本体とは関係ナーイ」

 

「……失礼しました。情報提供、ありがとうございます」

 

「いえいえー、あ、お代はランサーさんに」

 

「あぁ、俺のバイト代から引いてくれよ」

 

 ところでここのフラグ(ツケ)は継承されるのだろうか。

 ……されるんだろうなぁ。

 あれ、でもこの人たちに連続性はないのか。

 繰り返される偽りの聖杯戦争において、偽物は1人だけ。

 ……なら、オレはどうなるんだろう。

 

「……まぁいいか」

 

「何がだ、嬢ちゃん」

 

「素の口調の事ッス。ランサーさんなら知られてもいいと思いまして」

 

「むしろその、背筋がかゆくなるような口調の方をやめろよ」

 

「りょーかい」

 

 止めろと言われたら止められる日本人です。

 相手を不快にさせてまで敬う必要は無し!

 

「んじゃ、そろそろ解散でいいか?」

 

「あいあい。今日はごちそーさんですランサーさん」

 

「はいよ」

 

 店を出る。

 もう10月だから寒いかな、と思って持ってきた上着を羽織り、深山町の方へ歩き出す。

 ランサーさんの姿は無くなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よい、しょと」

 

 真経津鏡を入り口に向けて、シャッターを閉じる。

 昨日今日と磨かれなかった子らが不満そうにしているが、明日はライダーさんが来るので彼女に店番をお願いし、オレは一日中磨いていられるので我慢しろと言っておく。

 別に声が聞こえているわけでもないのだが、なんとなくだ。独り言の妄言である。

 

「~♪」

 

 衛宮士郎がどのようなルートを辿るのかはわからない。

 今日の港を見るに紅茶も金亀も来ていなかったようだが、単純に来ていなかっただけの可能性もあるのだ。

 明日は10月10日。日曜日。

 どこにも出かける予定が無いだけに、色々と恐ろしい日である。

 

 が。

 

「おやすみー」

 

 一般人であるオレが死の淵に瀕することなどないだろうと高を括り、就寝した。

 


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