【完結】ふぇいとほろーあたらくしあてきな?   作:劇鼠らてこ

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10月9日 (21)

「おや、珍しいですなぁ野場氏。土曜に登校とは、どんな気紛れで?」

 

「……そっちこそ、なんでこんな時間にいるんだ」

 

「某はいつも通りの情報収集と……なんだかげっそりしていますなぁ。具体的には幽霊に追い掛け回された後、のような」

 

「おういえーす、ざっつらーい」

 

「なんだ、いつもの野場氏ですな。それでは某はこれにて」

 

 ……薄情な。

 これでも一応マグダラの聖骸布に認められた女の子なんだぞ。

 少しくらい心配してくれてもいいじゃないか。

 遠ざけたのは自分だけども。

 

「っはぁ……気にしても何にもならないのはわかってるけどさぁ」

 

 ゲームで言えばナビゲーターのような役割をする妖精さんから、ちょっとの間役目を代わってくれ、って言われたようなものだ。ただしNPC補正無し。

 いやだよもー。

 

「……まぁ、言峰さんへの借りを返すと思えば……」

 

 結構お世話になったからなぁ。

 コネとか、密輸品の足払いとか、ゴホンゴホン。

 まぁ法には触れてないよ! 今の法にはね!

 

「……よし。覚悟決まった。……アイツがいそうなのは、道場かね」

 

 ……つっても、衛宮がどこまでフラグを立てているのかわからんのだが。

 導くって……合宿の話を誘導すればいいのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、道場ってなーんか入り辛いよなぁ。部員でもなければ尚更に」

 

 ヒュ、ヒュという弦音と足袋のすり音が聞こえてくる辺り、人はいる。

 それが衛宮であるかはわからないが、まぁ入ってみるだけの価値は――、

 

「あれ、野場じゃないか。どうしたんだ、道場の前で。中の誰かに用があるのか?」

 

「……噂をすれば影……洒落にならんな」

 

 後ろから声をかけてきたのは、衛宮。

 鉢合わせは果たして偶然か、つけられたか……はてさて。

 

「俺も弓道部の見学をしようと思ってたんだけど……野場も上がるか?」

 

「……ああ。部外者が上がっていいのなら」

 

「そんなこと言ったら俺だって部外者さ。失礼します。三年の衛宮ですが見学に――」

 

「お、衛宮じゃないか。こんな日によく来たね」

 

 衛宮が道場の戸を開けてすぐ、美綴の声。

 凄まじい反応速度だな。戸の近くにいたのか?

 

 衛宮と美綴は二、三言葉を交わす。

 その後衛宮は右手の人差し指と親指をくっつける――いわゆるOKマークを作った。

 許可が取れた、という事か。

 

「失礼します」

 

 衛宮に続く様にして礼を言い、上がらせてもらう。

 美綴を初めとして、ブロッサムさんにみのりんなどの顔見知りと、二年一年のあまり覚えのない顔――見た事の無い顔が並んでいた。

 後者の彼らはこちらを見向きもしないが、みのりんはあからさまに嫌そうな顔をしていた。

 

 美綴に先導される衛宮に倣い、壁際を進んで後ろの控えの座の隅に座る。ん、掛け軸だ。……骨董として値打ちはあまりないが、なるほど。穂群原学園と同じ年齢だな、コイツ。

 

 衛宮と美綴が弓の話題で盛り上がっている間、オレは道場内部を見渡す。

 新鮮だな……。授業でも弓道は無いから、上がったことないし。

 高校の時(・・・・)にやったきり、か……。

 

 遠くの的を見る。大体60mか……案外、近いのな。近い方の的は30mくらいだし。

 一応これでも「目」に関しては自信があるんだ。流石に数km先の蟻の眉間に鉛玉ぶち込む、とかいう意味の解らない芸当はできないけど。

 骨董を取り扱うのもそうだが、食材を見分けるのにも「目」は必要だったし。カクテルも同じで、「見分け」は大事なんだ。

 

「……」

 

「……」

 

 と、2人の雑談はいつの間にか終わりを見せ、揃ってオレを見つめていた。

 なんだ? 超絶美少女飛鳥きゅんに惚れたか? よせやい、衛宮も美綴も論外だよ。

 

「……ふむ。なぁ野場。アンタ、弓道経験あんの?」

 

「まぁ、昔ちょっとかじったくらいだよ。お前らみたいに練習に明け暮れたわけじゃないし、引いたのだって5、6回だ」

 

「へぇ~。いやさ、珍しく真剣な目をしてたから、気になって。結局最後まで部活入んなかったし、店があるっつっても高校生活で部活動しないってそりゃ灰色にも程があるんじゃないか? とか勝手に思ってたけど、スポーツ経験が無いわけじゃないんだね。安心した」

 

「なんじゃそりゃ。言っとくけどオレはサイクリングのサー……」

 

 サークルに入っていたんだぞ、と言いかけて。

 流石にそれは不味いだろうと思いとどまった。

 

「サー?」

 

「サーイトを見てクロスバイクを買う程にはサイクリング好きなんだぞ。つか、部活やらないくらいで灰色ってのは偏見だろ。オレは十分エンジョイしてるよ」

 

 大分無理があったが、なんとかつながっただろう。

 

「次は、三年の立ち錬です」

 

「お、出番か。じゃあ行ってくるよ」

 

 美綴が呼ばれる。

 いつも通りのブロッサムさんを見て、衛宮は感心している様子だった。

 

 ケッ、衛宮だけに見せるブロッサムさんの弱い部分っていうそういう新手の惚気かいやぁ! 知ってるけどね! 知ってるけどさぁ!

 

「はーい、みんなこんにちはー!」

 

「藤村先生ちわーっす!」

 

「や、死ぬほど練習に励んでるかー?

 おっやぁ? 元部員の士郎と、野場さんまで揃っちゃってまぁ! 遊びに来たの?」

 

 先日の「お淑やかな教師モード」ではない、藤村大河が藤村大河たる所以の、「冬木の虎モード」で入ってきた弓道部顧問。

 

「……藤村先生。こんにちは、お邪魔しています」

 

「こんちはー、遊びに来たか遊びに来ていないかで言えば遊びにきました」

 

「まぁまぁゆっくりしたまえ衛宮君。野場さんも素直でよろしい! おもてなしのお茶も出なくて恐縮だけど」

 

「皆さん練習で忙しいでしょうし、いいですよお茶なんて。アポなし訪問なわけですし」

 

「おーい! 誰かお茶持ってきてくんないかなー?」

 

 聞いちゃいねぇ。

 というか、自分が飲みたいだけなんだろうな。

 

「あぁ、なんだったらオレのお茶飲みます? 種別としちゃ普通の狭山茶ですけど、摘まれた時代が建保7年……西暦で言うと1219年モノになるんで、滅多にぁ飲めませんよ」

 

「……野場。それ、高いんじゃないか?」

 

「店主が水筒に入れてきた茶を友人や先生に売りつけるわけないだろ。オレが飲むように持ってきたモンのおすそ分けなんだから、タダだよタダ」

 

「ほっほーぅ、それじゃあいただこうかしら」

 

「藤村先生……遠慮とか……いや、期待する方が無駄か……」

 

 そんじゃあ一ツ、って事で持ってきたお盆に茶器を乗せ、そこに茶を注ぐ。道場での飲食はあまり褒められた事ではないはずだが、顧問が良いって言うんだから良いんだろう。

 

「用意がいいねぇ野場さん。それじゃ、失礼して……ずずーっ」

 

「……どうせこのお盆も茶碗も骨董品なんだろ?」

 

「茶碗はそうだけど、お盆は普通にプラスチックだぞ。衛宮は骨董を見る目が養われていないなぁ~」

 

 構造把握は基本なんだろ~? という視線を向ける。言わないけど。

 そんなやり取りをしている内に藤村先生が茶器から口を離し、一言。

 

「美味い! もう一杯!」

 

 青汁かな?

 その後、なにやら衛宮の女関係の話になってきたのだが、ブロッサムさんが明らかに怒り心頭と言った様子だったのでそそくさと逃げるように道場を後にした。

 あのままあそこにいても良い事はないし、合宿の話も出そうになかったからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、野場。まだ学校にいたのか」

 

「んー、ちょっと探し物をなー。学園にあるとも限らないんだが」

 

「探し物? ……なんだったら手を貸すぞ?」

 

「マジかー……でも、口じゃ説明しづらいモンだからなぁ。ま、気長に探すわ」

 

「そうか? ……助けが必要なら、言えよ?」

 

「お助けブラウニーの手を借りるまでもねーからデージョーブ」

 

 夕方。

 ナビゲートしろと言われたフラグ探しに学園内を駆けずり回って、結局何も(衛宮さえも)見つからずに失意に塗れながら帰宅を選択すると、あら不思議。あれだけ探して見つからなかった衛宮がフッツーに立っているではありませんか。

 この四日間は衛宮を中心に周っている。故に衛宮の側にいれば、否応なしに巻き込まれる事は出来るし、助言を与えることだって出来る。だから出来るだけ衛宮の動向を見守れる位置にいようと思ったのだが……コイツ行動範囲広すぎるんだよな。

 

「衛宮、待たせたな……と、野場か」

 

「ん? あ、なに? 夫夫(ふふ)で帰宅デートする予定だった?」

 

「違う! 

 ……いや、衛宮と帰ろうとしたのは認めるが……」

 

「一成、野場のからかいはスルーしないとダメだぞ。俺達じゃ、野場を口で負かすのは無理だ。遠坂でも手こずってるみたいだったし」

 

「魔女でも……だと……? それは相当だな……」

 

 そんなことはない。

 遠坂と話す時は言質を取られないように必死だし、なにかボロを出そうものなら目敏く鋭く突っついて暴いてくるので戦々恐々だ。

 オレを口で負かせるのは遠坂と……タイガーかな。前者は上記理由で、後者は話を聞かないという意味で。

 

「で? 土曜日だってのに、天下の生徒会長サマは文化祭の取り決めでこんな時間まで残ってたのか?」

 

「む……あぁ、そうだ。弓道部の出し物について、美綴と揉めていた。飲食関係の出し物はリミットいっぱいでな、弓道部には悪いが11日までの再提出、という事になった次第だ」

 

「休日出勤お疲れ様、一成」

 

「なに、お山は常に時間外労働だ。それに比べればさしたる事ではあるまい」

 

「うわー社畜発言。しかも性格的に非効率は許せないタイプだから上司と衝突した挙句全部自分で引き受けてしかも業績上げちゃって孤立するタイプだ……」

 

 孤立して、頼れる奴がいないまま身体壊して……。

 うん、やっぱり柳洞には衛宮が必要だな。

 

「それで、どうする衛宮。真っ直ぐ帰るか?」

 

「あー……。そうだな、新都にでも行ってみようか。野場はどうする?」

 

「え、なに。一緒に行っていいのか? 柳洞とイチャラブするんじゃないのか?」

 

「……もうツッコまんぞ、俺は。衛宮、俺は構わん」

 

「なら、早いうちに行くかね。……何するかは現地で」

 

「うむ」

 

「あいよー」

 

 学園が終わってからの行動。

 だが、夜の衛宮ではなく夕方の衛宮との行動だから、安全なはず……だ。柳洞も一緒だし。

 それでも残る不安にビクビクしながら、オレと衛宮達はバスに乗った。

 

 

 

「映画……は、時間を食い過ぎるな」

 

「『NECOARC』と『タイガー道場・劇場版』か。評判を聞いたことはあるか、野場」

 

「どっちも視聴するとそれだけで凄まじい疲労を齎すって有名だな」

 

「やめるか」

 

 特に前者は個人的には複雑な心境での視聴になりそうだし。

 

「ふむ……衛宮、野場。自分はお山の暮らしが長いゆえに少々甘味を欲していてだな。ヴェルデに行っても構わぬか?」

 

「おー、甘味。いいねぇオレも好きだよ甘味。あ、その前にTOHKOっていう新進気鋭の人形屋(ドールショップ)が見たいんだわ。寄って行っていいか?」

 

「……人形? それはまた……なんとも、女の子らしい趣味というか……」

 

「衛宮、野場は一応女子だ。一応な」

 

「まぁ騙されたと思って来てみなって。驚くから」

 

 そんな軽口を叩きながら、先にドールショップへ向かう。

 驚く様が目に見えるようだぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰り道。バスは使わずに徒歩で食べ歩き。

 ドールショップを見たあと1階で大判焼きを買い、柳洞と衛宮はこしあん、オレは抹茶餡を食べながら歩く。

 

「いや……今でも信じられん。アレが人形とは……」

 

「凄まじい出来の良さだよな。まぁその分値段がヤバい事になってたけど」

 

「まさかヴェルデにある商品にコンマを2つ使うものがあるとは……」

 

 なんだか久しぶりに言う気がするけれど、オレは大の食わず嫌いなので、大判焼きもまた抹茶餡しか食べた事が無い。折角奢ってくれると言った柳洞には悪いと思ったのだが、むしろオレが柳洞と衛宮に抹茶餡の大判焼きを1つずつ奢るくらいには好きで、他の味に手を出したくないのだ。

 ちなみに両者ともに美味いな、との事。だろ~?

 

「……そういえばだな、野場。おまえは部活動に属していなかったと記憶しているが」

 

「はむ? んむ、むむぐはむむーむ」

 

「聞かれてから食いついてそのまま話すな。何を言っているのかさっぱりわからん」

 

「野場は無所属だぞ。それがどうしたんだ、一成」

 

 ちなみに先程の翻訳は「うん? うん、所属してねーよ」である。

 

「いや、野場は委員にも属さず、部活にも属さず……つまり、暇なのではないかと思ってな。実家の骨董品店もあるかとは思うが、これを機に少しくらい学生活動に従事してみてはどうかと思っただけだ。衛宮も実行委員として、文化祭を優先してほしいのだがな」

 

「んぐ。うっま」

 

「……忘れっぽいなぁ、ほんと……」

 

 その瞳の奥に、彼が映る。

 ……探し物、みーつけたっ!

 

「んー、まぁ手が空いてたら手伝うさ。最近はバイトの人も1人で客対応できるようになってきたし、清掃作業も2巡したしな……。

 ちなみに報酬が出たり出なかったりするのか? オレ実行委員じゃないワケだけど」

 

「ほれ」

 

 オレの袋の中に大判焼きを三ついれる柳洞。

 

「ワァオ、オレの労働の対価やっすー! ……いけど、まぁいいよ。大判焼き三つ分の働きはしてやらぁ!」

 

「衛宮も、これからも苦労をかけるからな。どれ」

 

 衛宮には四つ。

 これが好感度の違いか……上げる気はないけど。

 

「つか、柳洞お前いくつ買ったんだよ……」

 

「む? お山での暮らしが長いと甘味に餓えていてな……三十程だ。三つ四つなら問題は無い」

 

「ちなみに聞くけどそれ自分用? 衛宮のはお土産用だろうけど」

 

「自分用だ。……ハッ! しまった、買い食いをしたなどと父上に知られれば禁足ものだ。仕方がない……衛宮、野場、手伝え」

 

「アホか????」

 

「ここで残り二十数個を食い切るのか……了解、野場、さっきのお茶頼んでいいか?」

 

「はいはい。タッパ的な意味でお前らが多く食えよ?」

 

「うむ。まったくお山では饅頭やお茶が怖い……」

 

「怖いのはお前さんの理性の外れ所だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局残っていた二十二個の大判焼きを柳洞が九つ、衛宮が八つ、オレが五つ食べて事なきを得た。それでも腹はパンパンだ。そもそも大判焼きって二つも食べれば十二分に腹いっぱいになるはずだし。

 フラりフラりとライダーさんのいない野場骨董品店に帰れば、当たり前だが閉まっているシャッターにがっくりと肩を落とす。この腹で力めというのか。大判焼きが産まれてしまいそうだ。

 

 なんとか店内に入り、しっかり真経津鏡を外に向けてから2階に上がり、ロフトを上がる気力が無かったので下のベッドにイン。こっちは元々のオレのベッドで、普段は両親の物を使っているとはいえしっかり掃除・洗濯をしている故に清潔だ。

 

「……まぁ、楽しかったな」

 

 男友達。

 後藤くんのアレはどちらかといえばその場のノリである事が多いし、オレ本来の「友人達」は役者でないが故にもう2か月半会えていない事になる。

 男友達も女友達も半々くらいにはいたし、どちらとも結構な親交があったが……なんだろうな。

 

 今は心から学生として、遊べている気がする。

 

「……文化祭、ねぇ」

 

 思えば文化祭に参加する事自体久しぶりかもしれない。

 穂群原に来なかった友人の文学祭や大学祭はよく行っていたし、全く知らない学園の学園祭にふらーっと行って友達作って帰ってくる、なんてこともあった。

 けど、自分の学園の文化祭に役員として参加する、なんて……おや、この世に生を受けてから一度も無いのでは?

 

「……うわー、そうか、大学以来……か」

 

 大学か……。

 自分は骨董品店を継ぐからもういい、なんて思ってたけど……辰巳も縁も、「絶対行った方がいい」って言ってくれてたっけなぁ。

 でも勉強する事もないんだよなぁ……。あー、考古学……とか……なら……。

 

 

 

 いつの間にか夜も更けて。

 久方ぶりに、怯える事無く眠りに就いた。

 


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