朝四時ぴったりに目覚め、着替えをする。
ロフトと階段を下り、流れるような動作で手を洗いながらまな板や包丁などを出していく。冷蔵庫を開け、
その隙にスパイスやハーブといったものを作り置きの料理にふりかけクロッシュを被せる。冷めても良いソースを混ぜて、ボウルに入れてからラップをして放置。
ウィンドブレイカーを羽織り、車庫の方へ。極力音を立てないようにシャッターを開き、チャリ発進。
まだ深山町商店街の誰も起きていない時間にチャリを漕いで向かうのは「割と何でも揃う」で有名な新都のヴェルデ――ではなく、あの衛宮士郎がバイトをしている居酒屋「コペンハーゲン」だ。そもそもこんな朝早い時間にヴェルデは開いていない。
「ちわーっす」
「お、飛鳥ちゃん。来たねー、早速?」
「お願いします、にゃんこさん」
向う先は深山町商店街の一角、つまりは
「うひゃー……飛鳥ちゃん、これだけ作れりゃお店開けるんじゃない?」
「オレはあくまで骨董品店の店主ですし、誰かの元で修業したわけでもないですから」
「ふぅん……ま、いいけど。次はヴェルデだっけ?」
「はい、お願いします」
何度も交わしたやり取りをしながら、手は止めない。
割れ物の骨董を運ぶ時などに使うケース(除菌済み)の中にクロッシュを入れて、にゃんこさんのトラックの荷台へ積んでいく。崩れやすいモノがどれか、動きやすい物が何か、全てわかっている故の効率。
空間の半分ほどを埋め尽くす勢いで並んだ料理入りのケースを積んだにゃんこさんのトラックの荷台の扉が、バタムと閉まる。
「あ、これ差し入れです」
「んぉ……へぇー、なにこれ」
「ゴーダチーズと生ハムのミルフィーユ……まぁおつまみですね」
「またお酒の欲しくなるチョイスを……」
また助手席に乗るオレ。
運転席のにゃんこさんに「あーん」でミルフィーユを食べさせ、除菌ティッシュで手を拭いてからシートベルトをカチッ。
「よっし目ぇ覚めた。いくよー」
「今まで寝ぼけ眼で運転してたのか……」
「お、仕事モードじゃないツッコミいただき。さ、行こうか」
トラックが発進する。
既に時刻は五時半。深山町商店街の皆さんはすでに起きていて、しかし見慣れたトラックに「朝から大変だねえ」という視線を向けてきているのがわかる。
「もいっこある?」
「はいはい」
一応依頼主として仕事モードで喋っていたのだが、一度崩れてしまえば仕方ない。
だが良い。良い変化だ。
こういう些細な変化でさえ、同じことを繰り返しすぎた頭には心地のいい刺激となる。
果たして、ヴェルデは。
開いていた。
「よしっ!」
「おー、気合入ってるねー。お金払って生食コーナーだけ開けてもらったんだっけ?」
「開いてないと困るんで……ちょっと話つけてきますわ」
トラックを降りて、オレ達と同じようにトラックから降りてきた配達員のおにーさんの元へ向かう。
二、三会話を交わし、オレが
オレの行動か、はたまたエミヤシロウの行動か。
ようやく時が動き出したらしいこの喜びは、全て料理にぶつけるとしよう。
「うわー……飛鳥ちゃん魚も捌けるんだ」
「まぁ、一通りは。フグは無理ですけどね」
「資格取ってないんだ」
「そもそも調理師免許がナーイ」
この世界では、だが。
前の大学では「二年経ったしついでに取ってきちゃいなよYOU(意訳)」と言った感じでBARの店主に取らされた(お金は出してくれた)ので調理師免許は持っていた。実家と大学の或る都道府県が違ったのでふぐ調理資格は結局取らなかったけどな。
「ん、じゃあ穂群原学園に行きましょう!」
「いきなりテンション高くなったね、飛鳥ちゃん」
「大目に見てくださいやー」
まだ最後の一ピースが不確定だが、この際来なくてもいいんじゃないかって気がしてきたのでテンションは鰻登りだ。
時刻は六時半。
いける!
許可証はタイガーからすでに貰っている。
朝練の名目で。普通に不正行為だが、まぁ許してくんなまろ。
「~♪」
鼻歌で♪Warsを歌いながら調理を進めていく。
鍋で牛乳を沸かし、作り置きしてあったカレーを再度火にかけ、ふやかしたゼラチンを湯煎で溶かし、フライパンに置いたアルミホイルの中で煮え蒸される肉の様子を見ながら魚を捌く。
盛り付けるだけで良いモノは後に回し、冷やす・固める・煮るなどの工程を必要とするものを先に調理していく。
一瞬出来た開いた時間を使う。
今朝放置していたソース……ギリシアヨーグルトと生クリームの混合物がどばどば入っているボウルに、飴色になるまで炒めてあった微塵切りの玉ねぎをだばーっ! して混ぜ合わせる。
そこへニンニクとパセリ、塩、胡椒、レモン果汁をぶっ混んで綺麗な白になるまで混ぜればサワークリームオニオンの出来上がり。
ラップをして除外エリアへ。まだオレのバトルフェイズは終了してないぜ。
牛乳が入った器に粉わさび(ワサビダイコンの粉末)を入れて練っていく。練れば練る程……ウンマァイ!
先程沸騰させていた牛乳へさっき湯煎で溶かしていたゼラチン、練りわさび、砂糖を入れてぐーるぐる。適度に溶けたな、と思ったら中身を全部大き目のボウルに移してボウル底面だけを冷水で冷やす。
リバースカードオープン!
良い匂いがしてきたアルミホイルを潰さないように皿へと移し、上部を切り取って熱を逃がす。しっかりと肉に火が通っている事を確認してからトマトソースをたらーりらり。ジャパニーズMISOが隠し味に入っているトマトソースだ。
それにクロッシュを被せ、除外エリアへ。
十分に冷えた先程のボウルに生クリームと調理用ブランデーを
十分に泡立った生地を器へと流し込み、冷蔵庫へイン。
家から持ってきた蒸し器を開けば、もわっという蒸気が視界を覆う。うん、良いな。
これはBARで働いていた時の料理ではないのだが、まぁいいだろう。美味しければ。
カザフスタン風マントゥ、出来上がり。先程のサワークリームオニオンと一緒にどうぞ。
「ッ……もう九時……だと……?」
急げ急げ。
フランス産ムール貝の身を切り刻んで醤油、みりん、味噌を加えたモノで味付けをした白飯が炊けた。それを先程までホイル焼きをしていたフライパンで炒って、水気を飛ばしていく。ブラックペッパーをガリゴリかけて、フライパンと米粒の擦れ合う音が「ザラザラ」になってから火を止め、ムール貝の貝殻へと詰めていく。
和風アレンジのミディエ・ドルマスだ。
真空パックに入れられたパルマ生ハムの原木を冷蔵庫から取り出し、開封。
王冠の烙印に「これはこっちでも変わらないんだな」なんて感想を抱きつつ、ウェ○ガース○ボナイフで皮を削って行く。いつもお世話になってますウェ○ガー社!
中指の折れ具合で絶妙な薄さにスライススライス。魔法カード、ダーク・ジェノサイド・カッター! カッターじゃないけどな!
切り剥がした生ハムを少しずつずらして重ね、五分の三辺りで折り曲げる。
生ハムは三十分~一時間程度常温に慣らした方が美味しくなるので一応クロッシュをかけて除外エリアへ。
モッツァレラチーズ、トマト、オレガノ、ブラックペッパー&ソルトをボウルの中で合わせ、それをグラスへ適当に(偏らないように、という意味で)盛り付ける。これは冷蔵庫行きだな。
ミディエ・ドルマスを調理したフライパンにめんつゆと酒をだばーっと入れて、弱火で温める。そこへ入れるのは牡蠣。十月の牡蠣だ、良い時期に良い牡蠣を使わせてもらえたもんだ。牡蠣を入れてからは火を強め、煮過ぎないようにさらっと火を通す。
溶き卵を回しながら流しいれ、完成。牡蠣の卵とじ。これもBARで培った料理じゃないが、まぁいいだろう。牡蠣安かったんだよわかるだろ?
「十一時……ッ! くっ、奥歯に仕込んだ加速装置を……!」
そんなものはないので、せっせと手を動かしていく。
冷蔵庫から先程にゃんこさんに食べさせたチーズミルフィーユ、パンチェッタでチーズを包んだモノやサラミ&ブルーチーズ、クリームチーズに紫蘇を練り込んだもの、甘海老の塩辛、うにクラゲ、ホタルイカの沖漬け、一番最初の方に捌いていた各種オサシミを取り出し、皿に盛りつけるとともに飾り付ける。
カレー、冷製パスタ、冷製スープ、サラダにマリネ、そしてデザートの……、
「って、やべっ!」
一番奥に置いてあったフライパンを急いで見る。良かった、焦げてない。焦げてないが、ムラがある。急いで火の勢いを強めながら全体がキツネ色になるまで混ぜてひっくり返してを繰り返す。油とバターと小麦粉であるコレは中々に重く、腕が疲れる。
無事に焦げ付くことなくきつね色になったそこへ練りゴマを投入し、112℃まで熱したハチミツをドロリッチ。ゴマも投入し、よーくかき混ぜる。それを、油を塗った器へと流しいれ、ラップして放置。見た目は正直BAR向きとはいえない地味さだが、味は保障しよう。タヒーナハルヴァだ。
「……十二時。正念場だな……」
今まで、材料を集められなかったり人が集まらなかったりエミヤシロウだけが来なかったりと、遅々として時が進まなかった。
だが今回、にゃんこさんに差し入れをしてみただけで、どうだ。
それだけで……材料が揃い、十二時までに全ての調理が終わった。
こっちの人事は尽くした。
後は、
「来たわよー、って、うわ……すっご。これ、何品あるの?」
「遠坂かーい!!」
「きゃっ!? ちょっと、急に叫ばないでよ」
後は、エミヤシロウを待つだけ――(キリッ、なーんてかっこつけて実習室の扉を見つめていたオレが恥ずかしくて仕方がない。ぬあああああ!
「はぁ……ま、適当に座ってくりぃや。一応、全員が揃ってからカクテルの方も作るからさ」
「つまみ食いするな、ってこと? わかってるわよ、それくらい。藤村先生じゃないんだから」
「確かに。すまん、タイガーと一緒にしたのは悪かった。謝るわ」
「……素直に謝るのもそれはそれで失礼よね」
先に礼を欠いたのはあなたです、遠坂。
「失礼します……わぁ……」
「お、いらっしゃいブロッサムさん。と……美綴」
「私はついでかっ!」
「ご馳走になります、野場先輩」
続けてブロッサムさんと美綴がやってくる。弓道部コンビ。
二人は物珍しそうに料理を見渡しながら、遠坂の近くの席に着いた。手を出そうとする様子も無い。まぁ二人は育ちも良いしなぁ。
「しっかし……よくもこんだけ作ったね。明らかに弁当って量じゃないじゃん」
「ここを使わせてもらうに当たってタイガーの許可を取った。タイガーの交換条件は『私にも食べさせてくれるわよね~?』だった。後はわかるな」
「これほど用意しないと私らの取り分がなくなる、ってワケね……」
「
それに、この繰り返しの中でとりあえず都合付きそうなあの三人も呼んだからな。
と、言っている傍から来たようだ。蕎麦は作っていないが。
「由紀っち~、飛鳥の料理なんてきっと媚薬がふんだんに仕込まれてると思うぜー?」
「あ、あはは……いくら野場さんでもそんなことはしないと思うけど……」
「ふ、いくら野場さん
「ええっ!?」
何やら失礼な事を言いながら入ってきた三人。
氷室と三枝と黒ヒョウだ。
「あら? 氷室さん達も呼んだの?」
「ああ。三枝をオレの料理でメロメロにさせるためにな」
「ほらな~? 由紀っち、ゼッタイ食べねえほうがいいって~」
「で、でも楓ちゃん、美味しそうだよ?」
「ふむ……見た目は申し分ないな。味はわからんが」
この三人娘とブロッサムさんはあまり接点が無いとは思うが、まぁ許してくれい。
こうでもしないと三枝に手料理を食べさせて既成事実を作ると言う崇高な使命が果たせないのだから。
そんな感じでわいわいきゃいきゃい(主に蒔寺が)していると、
「うんうんうんうん! 良い香りに誘われてやーってきました! 何を隠そう、私こそがここの使用許可を出した張本人! 野場さ~ん? 勿論、私も食べていいのよねぇねぇ?」
「はい、勿論。でも出来れば衛宮が来るの待ってもらえません?」
「え~……むぅ、仕方ないなぁ、野場さんが言うなら、待ってあげる」
「えっ」
驚きの声がブロッサムさんから上がる。
タイガーがご飯を我慢する姿が相当に珍しいのだろう。
そして。
「――悪い、遅くなった」
「――本当にな。ずっと待っていたぞ」
そいつはようやく、姿を現した。
ライムとジンジャーエールのカクテル・モスコミュールは蒔寺に。透明と薄い黄色のマーブルが突き抜けるような爽やかさを提供します。カクテル言葉は「喧嘩をしたらその日の内に仲直りをする」。
オレンジ・レモン・パイナップルジュースのカクテル・シンデレラは氷室に。泡立つ見た目はまるでアルコールだが、味は甘さの後に追い掛けてくるスッキリとしたレモンで後味が素晴らしい柑橘系のカクテルだ。カクテル言葉は「夢見る少女」。教えないが。
ライムとグレナディン(柘榴)のシロップをソーダでステア(軽く混ぜる事)したサマー・ディライト。遠坂を象徴する赤の目立つコレは、勿論遠坂に。名前が意味するのは「夏の喜び」。この前の水着を見ての感想。
オレンジジュースとレモンジュース、シュガーシロップに加えアンゴスチュラ・ビターズを絶対に酔えない範囲で且つ風味が付くレベルでシェイクしたフロリダは三枝に。アンゴスチュラ・ビターズは酒だが、これほど薄まるとノンアル扱いになるので大丈夫! カクテル言葉は「元気」。三枝は元気なのが一番!
パイナップルジュースとココナッツクリームのカクテル、ピニャ・コラーダはタイガーに。クリーミーだけどさっぱりした味で、女性にはおすすめ。カクテル言葉は「淡い思い出」。本当ならアルコール入ってた方がいいんだろうが、流石に昼間、しかも学校で飲酒させるわけにはいくまいて。
ブロッサムさんには既に用意してあった材料をブレンダ―でピューレ状にし、ソーダと1:1でグラスに注ぎこんだ「チェリー・ブロッサム」。他意はない。
カクテル言葉は「印象的な出会い」。他意はない。口当たりの良いコレは赤く、しかし遠坂の赤とは違う……柔らかい赤だ。
美綴にはオレンジジュースに炭酸水、ショウガを入れたジンジャーミモザ。これも他意はない。正式名称がヴァージンジンジャーミモザだ、なんて他意はない。
カクテル言葉は「真心」。受け取れ、ライダーさんの真心!!
そして衛宮には、ライム、ミント、シュガーシロップをロックアイスとソーダでステアしたカクテル・モヒートを。鼻を抜けるミントの香りが頭を活性化させるだろう。
「これも意味があるのか?」
「ああ。モヒートのカクテル言葉は、『心の渇きを癒して』、だ。今のお前にぴったりだろう、衛宮」
「……」
そうさ。
ナビゲーターとしての役割を果たすには、直接言ってやるしかないんだ。
本当はブランデー・クラスタを出して――「時間よ止まれ」の意味――やりたかったが、思いっきり酒だからな。
衛宮。
そろそろ飽きたぞ、オレも。
もう七か月だ。半年以上だ。流石にキツいって。
だからさ、とっとと合宿の話、進めてくれないかな。
「……お前は」
「さ、どんどん食ってくれー。午後の授業出る気ないから片付けはそこでやりゃいいけど、飯はとっておけん。ハムとか超絶高かったんだからちゃんと食べてくりゃーれー」
パンパンと手を叩いて食事を促す。
促されずとも凄まじい勢いで食べている虎が一匹いるが、まぁありがたいことだ。
うんうん、好評なようで何よりだ。わさびムースやハルヴァもあるからなー。
若干、作り過ぎたのは認めよう。
さぁ、後はお前の問題だぞ、衛宮。
食器や調理器具を洗っている午後の授業中。
ふと、何気なしに、なんとはなしに、前を見た。
そこに、薄い笑みを浮かべた――エミヤシロウが座っていた。
「……よぉ」
「……なんだ」
エミヤシロウは右肘を調理室のテーブルに着き、それを支えにして頭を置いた姿勢で此方を見ている。足は組まれ、足先はふらふら。
「――いや、用っつーか……提案?」
「オレに聞くなよ。で、なんだ。見ての通り、オレは忙しい。手短に言ってくれ」
「あぁ、うん。そうそう。提案な、提案。
――アンタさ、
パリン。
あぁ……皿を割ったのなんて、どれくらいぶりだろうか、
すまない。まだまだ長い間生きていられただろうに……。
「……それ、本気で言ってんのか? オレが、お前と一緒に行動するって?」
「違う違う。アンタが、オレと一緒に行動するんだ。そこ、一緒にしたらダメだろ?」
「……お前は、自分の欲望が無いヤツは嫌いなんじゃなかったのか?」
オレがそう言うと、今度は奴が驚く。
薄い笑みを崩し、目を見開き――嗤う。
「あぁ、やっぱりか。アンタ、『骨董達と一緒にいられればいい』とか『もう幸せだ』とか、散々言っているけど――」
そこでエミヤシロウは言葉を切る。
オレの身体を舐めまわすように見る。
「――今の幸せすらも、いらないんだな」
「正確に言えば『貰い過ぎて恵まれ過ぎて、罪悪感で潰れそう』が正しいな。お前の反対だよ。こんな大きな幸福、割が合わない。だってオレ、何もしてないんだぜ?」
「……なるほど。そりゃあ反対だ。裏側じゃなく、反対側だな」
本当に。
目の前の男が、どれほど苦しみ、どれほど足掻き、どれほどもがいて――あんな小さな幸せを見つけたか、知っているから。
その中の男が、どれほど苦しまず、どれほど足掻かず、どれほどもがかず――こんな小さな英雄になってしまったのか、知っているから。
だからこそオレは、オレがこんなにも幸せである事が、不思議で、不思議で、仕方がない。親に恵まれ、友達に恵まれ、骨董という生き甲斐にも恵まれた。何も苦しんでいないし、何も足掻いていないし、何ももがいていないのに――オレは今、幸せで仕方がない。
苦しい程に。
「贅沢な悩みだろ?」
「
「おっと、上手いコト言うな、エミヤシロウ」
五円玉を取り出す。
それを右手の親指の上に乗せて、ピーンッと弾く。
右手の甲でキャッチ。
「
「Tails」
「残念、答えは表だ」
手を開ける前に言う。
訝しむ目線のエミヤシロウに気を良くしながら、手を開けた。
そこに描かれているのは稲穂、水、歯車。
表だ。
「……そのコイン、ちょっと見せてくれよ」
「おーっとそれは出来ないなぁエミヤシロウ。手癖の悪いお前に金を渡そうものなら、盗られてしまいかねないだろ?」
「五円くらいで何を言ってんだか……」
「そしてお察しの通り、コレは裏も表も表な五円玉さ。御縁に裏も表もないだろ?」
良い悪いはあっても、裏表はない。
始終御縁がありますように、ってな。
「うっし、終わり。オレはもう帰るけど、お前はどうするんだ?」
「――……いや、俺はバイトがあるから」
衛宮は、そう言う。
「あぁ、そうけそうけ。……ん? じゃあはい、これ」
「は?」
「は? じゃにーよぅ。にゃんこさんに運んでもらう予定だった調理器具と皿の数々。コペンハーゲンのバイトだろ? な?」
「……あ、あぁ。わかったわかった……これ、何処に運べばいいんだ?」
「校門。いいか、柳洞に見つかるなよ。見つかったとしても中身がなんであるかとか、何をしていたのかとか言うなよ。面倒だからな」
「はいはい」
よっこらせ、とダンボールを三つほど抱え、調理実習室を出ていく衛宮。
その姿が完全に見えなくなってから――、
「っふぅー……」
思いっきり溜息を吐き、崩れ落ちた。
やめてくれ、ほんと。
オレ一般人。アイツ逸般人。
緊張するわ、ボケナスビ。
「……
亜鉛が多分に含まれているが、まぁ。
「さて……オレも運ぶかね」
今日はようやく、久しぶりにゆっくり、眠れそうだ。
ちなみに1957年製造って書いてあるみたいですよ>飛鳥の五円玉
以下、飛鳥が作った料理名称一覧
めいんめにゅー
ホッキ貝のカレー(中辛)
カザフスタン風マントゥ(水餃子)-サワークリームオニオンを添えて-
マッシュルームと国産牛筋肉のホイル包み焼き-特製トマトソースかけ-
和風ミディエ・ドルマス(味付けご飯のムール貝詰め)
牡蠣の卵とじ丼
本マグロの刺身(大トロ、中トロ、赤身、頭肉、ほほ肉、カマ、尾の身)
本マグロの鉢の身ステーキ(鉢の身=脳天)
サーモンと水菜の冷製パスタ
おつまみ
ゴーダチーズと生ハムのミルフィーユ
パルマ産生ハム
チーズパンチェッタ
サラミ&ブルーチーズ
紫蘇風味クリームチーズ
甘海老の塩辛
うにクラゲ
ホタルイカの沖漬け
さいどめにゅー
枝豆の冷製スープ
ジャガイモの冷製スープ
サラダ
インサラータ・カプレーゼ(トマトとモッツァレラのサラダ)
海藻サラダ
イカのマリネ
各種ドレッシング
デザート
わさびムース
タヒーナ(胡麻の)ハルヴァ
フォンダンショコラ(多少のラム酒入り)
他購入したケーキ
etc.