【完結】ふぇいとほろーあたらくしあてきな?   作:劇鼠らてこ

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「衛宮邸で過ごす (3)」

「ええ、町がどうなっているのかはざっと見て回ってきたわ。現状ではこれといって打つ手はなしね。

 で、衛宮くんは何を聞きたいの?」

 

 夜は10時。

 部屋に訪ねてきた衛宮くんに、単刀直入で問いかける。

 

「あぁ。……その、野場についてなんだが……」

 

「へ? ……野場さん? 野場飛鳥さん?」

 

「ああ。骨董品店を営んでいる野場飛鳥だ」

 

 町についての事を聞いてくるものだと踏んでいたから、少し拍子抜けた。

 

 野場さん。

 野場飛鳥。

 

「うーん……まぁ、普通にお友達、かしら? でもなんで……ってまさか、衛宮くんあなた、野場さんまで毒牙にかけるつもり?」

 

「毒牙って……。俺はただ、遠坂が野場と繋がりがあったのが珍しくて聞いただけで、特に深い意味はないぞ」

 

「そ。ならいいけど。

 まぁ、そうね。衛宮くんの言う通り、私には中々得難い部類の友達だとは思っているわ。綾子もそうだけど、素のままで話せる友人は特にね」

 

「どういう繋がりなんだ? ぶっちゃけ、つい最近までは会話の一つもしてなかった気がするんだが……」

 

 そう。

 穂群原学園に入ってからは交友を半ば断絶していたのは事実。

 それは紹介元が紹介元なだけに、警戒した、とも気を遣った、とも取ることが出来るもの。

 

「簡単に言えば取引相手ね。私がアンティークを売って、野場さんが買う。付き合い自体は衛宮くんよりもずっと長いわね」

 

「それは……知らなかったな」

 

「聞きたい事はそれだけなの?」

 

 ピースが一つ嵌った、とでも言いたげな表情の衛宮くん。

 自分でも上手く言葉には出来ないが、この街で今起きているコト。

 異常を異常だと感じた時点で正常だと認識してしまうような、わけのわからない現象。

 正しくない出来事を見つけるにあたって、それが本当に正しくないのかを判断するためには、その事柄の根元を知らなければならない。

 

「……何か知ってそうね衛宮くん。わたしがいない間に何があったの?」

 

「何も無かった」

 

 即答。

 

「何もなかったけど――少し、聞いて欲しいことがある。俺自身、どうしてこんなことを口にするか分からないんだが……」

 

 その口上から語られたのは、衛宮くんの身に起きている’らしい’不可解な現象。

 まだ起きてもいないアーチャーとの戦い。

 見たこともないマスターに倒されるセイバー

 四日目で終わってしまう、冬木市の物語。

 

 そして、それらすべてを「ただの繰り返しではない」と再認させる、彼女の行動を。

 

 

 

「――確認するけど。衛宮くんは、その出来事を知っているだけなのね? 実際に見た訳でもなくて、その四日目を体験してもいない?」

 

 それはそれは、不可解な、不可思議な現象。

 口に零しながら考えを纏めていく。

 彼の身に起きている事。彼が体験した、彼が知り得た知識。

 この町に起きている事。違和感の正体。

 

「……そうか。再開しているんじゃない、再現してるんだ。それならサーヴァントが全員そろっているのも説明が付く。そうなると、えーと……みんな嘘なんじゃなくて、嘘つきは一人だけになるのか……。

 ……でも、そうなると……なんで彼女は……」

 

 大体の仕組みは見えてきた。

 だからこそ、一人。

 余りにも異質で、あまりにもおかしな人間が浮き彫りになる。

 

 ()()()()()()嘘つきさんなんかより、もっと異常な人間が。

 

 眼鏡を取り出し、遠坂先生モードに入る。何事も形から。

 

「さて、衛宮くんの話からすると、この四日間……十月八日から十一日までの間が異状なのは明らかです。

 セイバーやライダーは聖杯戦争が再開された、と言っているけど、それだと不都合が生じてしまう。

 ……分かるでしょ? 戦いが再開されたのなら、誰かが欠けていなきゃいけないハズよ」

 

「ああ……これが再開だというのなら、半年前に脱落した他の奴らは存在してはいけない……だろ?」

 

「そう、おかしいのにおかしくないのはそこ。

 きっとこの状態……この四日間だけは、本来いてはいけない人物がいたとしても、それが誰なのか特定できない状況にあるんだと思う。

 だから全員が揃っていても何一つおかしくない。

 いえ、全員が揃っていないとおかしいの。だってこれは、”誰か”が以前起きた聖杯戦争を再現している結果なんだから」

 

 そう、これは再開ではない。

 あくまで半年前に起きた聖杯戦争を再現しているに過ぎない。

 再開したのであれば、脱落したサーヴァントやマスターなどいらないはずなのだ。

 今聖杯戦争を再現している”誰か”は、ただ只管に戦い続けたいだけ。

 永遠にコレを続けたいだけ。

 

「その為に、この四日間だけは起こり得る全ての可能性を内包しているのよ。

 何度やっても楽しめるように、出来るかぎり新鮮味を失わないようにってね」

 

 その上で衛宮くんがやっていることはセーブ&ロードという奴だ。

 私でも分かる、ほとんどのゲームに搭載されているであろう機能。

 最初の時点の”衛宮くん”がいて、ストーリーは同じ。同じ面を違うやり方で攻略している。

 

 今の衛宮くんは、他のセーブデータの内容を知り得ているだけ、という事。

 

 そして。

 

「――だからこそ、もし、本当に衛宮くんのいう事が全て本当なのだとしたら……確かに、一番怪しいのは彼女になるわ。

 だって、彼女は前回の聖杯戦争にはいなかったんだから。一番怪しいヤツは、前回の聖杯戦争にいなかった存在」

 

 だが、彼女は本当に普通の人間だ。

 霊感や魔術といったものに欠片も縁がない一般人。

 もし少しでもそういった素養があるのなら、あんな店に居続ける事はできないだろう。

 

 だから、私から「怪しむ事が出来る」存在は()しかいない。

 

「彼女と会っても何も変わらないというのなら、それは会い方が悪いのよ。

 いい? 一番正しい出会い、文字通りの一番で最初に出会った場面を知っているなら、自分の手でその状況を再現しなさい。衛宮くんにはそれができるんだから」

 

 そうして面を上げた彼の表情は、

 

「――参考に成った。

 とりあえず、当面の目的はハッキリしたよ」

 

 私が知る、彼のモノにそっくりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 衛宮くんが部屋を出て行ったあと。

 

「……これ、結局なんなのかしらね」

 

 以前彼女を家に呼んだときも問い詰めたが、結局要領を得なかったコレ。

 ボロボロの雨傘。物を大切にする性格の彼女が衛宮くんに押し付けたというこの傘は、魔術的に調べても、セイバーの直感を頼っても、なんでもない、ただの傘であるという事しか分からなかったコレ。

 

 彼女はコレを「場所を示す物」だと言っていた。

 衛宮くんが自分で気付かなければいけないもの、だとも。

 

 この時点で、彼女が何かを知っているのは確かだ。

 衛宮くんが話した眉唾物の話も、彼女のおかげ(せい)で真実味が増してしまっている。

 

「雨傘。傷だらけの雨傘。雨傘が傷だらけ……もしかして、傷の方に意味がある?」

 

 だが、ここでわたしが考察を経て答えに辿り着いても、それは意味のない事なのだろう。

 衛宮くんのいう事が全て本当だったとして、衛宮くんの視点で彼女だけが再現を怠っているとして、ならば彼女が再現に気付いていないということは有り得ないはずだ。

 

 ありえない。おかしい。

 

「……さっき、自分で言ったじゃない。おかしいと思った時点でおかしくなくなる、って」

 

 なら、おかしいと思える彼女のおかしい事とは、いったい何だ?

 正しくない出来事――彼女が存在する事は?

 正しい。何故なら、彼女とは昔から付き合いがある。

 正しくない出来事――彼女がアーチャーやライダーらと知り合いであることは?

 正しい。何故なら、彼女はアーチャーと出会っていて、ライダーのバイト先だから。

 

 そう、だから、もっとも正しい出来事は――、

 

「……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 だって彼女は、彼や彼らがいなくなった事を、知っているはずなのだから。

 

 

 






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