【完結】ふぇいとほろーあたらくしあてきな?   作:劇鼠らてこ

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10月10日 (1)

 朝5時きっかりに起床する。

 10月らしい肌寒い朝に腕をさすりながら着替えを済ませ、寝室よりさらに寒い店内に入って真経津鏡を内に向ける。

 シャッターを極力音立てない様に開ければ入ってくる冷たい空気。日はまだ昇っていない。

 自動ドアの開閉部分に油を差して、結露を雑巾で取って準備完了。

 商店街のいくつかはオレと同じように準備を開始しているが、それでも人気のない朝は昼とは違った空気が合って面白い。お向かいのワイン店のオーナーに小さく会釈をすれば、オーナーはニカっと笑いながらサムズアップを返してくれた。

 

 さぁ、磨き始めようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます、アスカ」

 

「おはよ、ライダーさん。オレは奥で磨き作業してっから、店の方お願いね」

 

「はい」

 

 相変わらずだるーんとしたオシャレの洒の字も知らないような格好で現れたライダーさん。昨日のチャリチェイスに特にいう事も無いようで、そそくさとエプロンを取って定位置の受付に座った。

 奥と言ってもすぐそこの磨き場(ブルーシートを敷いてあるだけ)にドテっと座り、改めて骨董品を磨き始めた。

 

 

 

「アスカ、少し良いでしょうか」

 

「ん?」

 

 しばらく客の来ない時間が続くと、珍しい事にライダーさんが話しかけてきた。

 何やらいい辛そうな様子。なんだろう。

 

「……その、この間頂いた『わくわくざぶーん無料優待券』に関しての事なのですが……」

 

「あぁ」

 

 なんだろう。もう一枚欲しいとかだろうか。

 流石にあのキンピカはもうくれないだろうから、もう1人分はオレが都合してもいいのだが。

 

 

 

「私と一緒に行ってくださいませんか?」

 

「いいですとも!!」

 

 

 

 顛末を話すと、要するに衛宮士郎が無料券持っててブリテン王とかブロッサムちゃんとか英霊トーサカと一緒に行きたいそうにしているから、自分が予約取り付けて邪魔をしてしまうのは悪い、との事。

 それならばいつもお世話になっている骨董品店の店長の労いを兼ねて誘おう、よく行っているプールだし、とのこと。

 

「んじゃ今日は店仕舞いだ。午後の時間全部使って楽しもう」

 

「……よろしいのですか? いくら少ないとはいえ、常連方々に……」

 

「奴らはオレの気まぐれしってるからダイジョブダイジョブ。あ、今日のバイト代も出るから。水着は……今持ってるワケないか。取りに行ってきていいよ~。13時に落ち合おう」

 

 常に水着を持ち歩いていたらソレはただの変態であろう。

 客に関しても問題は無い。だって、今日来てもオレ不在に帰っても、一巡りすればまた客は来る。うーんイイネこの悪循環。

 

「バイト代は……」

 

「いいっていいって、たまの贅沢も仕事の内だって。ストライクゾーンじゃないにしてもライダーさん綺麗だから役得だしぃ?」

 

「……では、後ほど」

 

 おっと(カレイ)なスルー。褒めたつもりが(ヒラメ)に出たようだ。

 しかし特にモー鬼糸巻鱏(マンタ)イ。アスカちゃんの精神はこれくらいではめげないのである。

 

 さて、昨日一日中磨くと約束したにもかかわらずこの裏切り行為に骨董品たちは不満タラタラの様子。しかしオレだって安息の時が欲しい。もっというと、プールにいるだろうロリィタを引っかけたい。あとコンタクトライダーさんを見たい。

 見事なまでの欲望全開に骨董品たちも呆れ顔。顔見えないけど。

 しかしながら、「まぁせいぜい楽しんできなよ、私達の分まで」と言ってくれた。うん、やっぱり良い子達だ。

 

 ……都合、全て妄想である。

 

「さて、水着はドレを持っていくべきか……」

 

 後藤(なにがし)に言われた通り貧乳としてスク水を着るべきだろうか。

 白スクはあざと過ぎてオレは苦手だ。旧スクが無難だが、新スクも捨てがたい。特に新スクの脚付け根部分の縮こまりを泳いだ都度に直すロリのいじらしさと、そこで発生する快楽は何にも変え難い物だと思っている。

 残念ながらオレは貧乳なだけでロリじゃない。却下。

 

 ではビキニ……は、もっと胸が成長してからにしよう。

 

 普通にタンクトップか、サロペットか、ラッシュガードか……いやいや、プール来たのに肌を晒さんでどうする。野郎どもの視線はいらないが、「ママー、あのお姉ちゃんキレー」と言われるほどの露出が無ければ意味が無い。けどマイクロは嫌です。

 

 ……困った時のホルターちゃんでいいや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、お姉さん。来るなら連絡を入れてくれればいいのに……。はい、優待券2つ確認しました。是非楽しんでくださいね、僕の『わくわくざぶーん』を!」

 

「……」

 

 ライダーさんが金髪赤目の子供を在り得ない物を見るような目で見ている。

 オレとて内心で驚いている。まさかあのキンピカが、若返っているとはいえもぎりをしようとは。二刀で戦うし、華撃団に向いているのでは。

 

 じゃあ後で……と更衣室前で別れる、等と言う事はなくフツーに2人で更衣室に入る。

 衛宮士郎が持っていた『わくわくざぶーん無料招待券』とオレが貰った『わくわくざぶーん無料優待券』、何が優待されるんだろうとひそかにわくわくざぶーんしていたのだが、特に今の所変化はない。

 連絡いれといたら貸切になってたとか?

 

「……時にアスカ」

 

「ん?」

 

 服を脱ぎ脱ぎしている最中、ライダーさんが話しかけてきた。

 ライダーさんはまだ眼鏡をつけている。胸のデカさも気になるが、そっちのが気になる。

 

「どこでギ……あの子供と出会ったのですか?」

 

「ウチだよ。半年前、『へぇ~、結構いい物揃えてますね。大人の僕もチラっと見ただけでしたが気になっていたようですよ。うんうん、僕に認められるなんてそれはもう光栄な事ですから……ここにあるいくつかの物を納めてくれれば、こちらから褒美を幾つか授けますよ』なんて言いながら入ってきたのがあの子供。ウチはそういう店じゃねぇんだって断ったんだけど」

 

「断ったのですか……」

 

「そしたらあの子供『あぁ、ここは売買を行う場所でしたか。では、これを』って言いながら金インゴットどすんと。まぁ金さえ払ってくれるなら全く問題ないからな。好きな物持っててくれって言ったら幾つか見繕って、手品みたいにどっかに消しちまったのさ。ま、おかげでウチは金にゃ困ってない」

 

「そのような事が……」

 

 明らかに代金額を越えていたが、突き返すのは無礼だろう。

 大人の時と違って礼節を弁えている。あの英雄王がちゃんと代金を払ってくれるとは思わなかった。あの子は良い子だ。

 

 ライダーさんの豊満なおっぱいが晒される。

 B88/W56/H84……人種的に考えてHカップ。それを、黒の水着が惜しげも無く包み込んでいく。

 メガネはまだかけられている。

 

「券を貰ったのはいつでしょうか」

 

「一昨日……10月8日の朝だな。いきなり『お久しぶりですね、お姉さん。今回は趣向を変えて、僕の方から良い物を授ける事にしたんです。貰ってください。あ、でも連休中に使い切らないとダメですよ。それでは』ってな。いやー親切な子供だね」

 

 自分の作った宝を自慢したい、という欲求も見え隠れしていたが、実際こうして恩恵を受けている身。とやかく言う程オレは子供じゃない。

 半年前も特に聖杯戦争に関わったワケではないオレは、しかしながら半年前に『日常』を過ごしたサーヴァント方々と縁があるのだ。ふっしぎー。

 

「な……」

 

「? どうしましたか、アスカ」

 

 ――いつのまにか、ライダーさんの眼鏡がコンタクトに変わっている。

 まさかオレが服を脱いだ、つまり視界を遮ったその瞬間を狙って……?

 く、流石サーヴァント。一般人では知覚できない速度でコンタクトを付けるくらい造作もないと言うのか。

 でもそんな速度で突けたら目が無くなりそう。メガネだけに。

 

「ライダーさん、コンタクトでも似合いますね……」

 

「……よく、これがコンタクトだとわかりましたね」

 

「え、だって瞳孔ずれてるじゃないですか。蛇の目みたいになってますよ」

 

「……」

 

 それは元からです、という空気が伝わってくるが、素知らぬふりである。

 実際あのバイザーに隠れている状態の目がどうなっているか知らないし、大きくなった時は真っ黒赤目だし。

 ライダーさんは勿論の事下も脱ぎ脱ぎし、水着になる。

 

 オレ? もう着替え終わってるよ。

 

「では行きましょうか、アスカ」

 

「ほーい」

 

 更衣室に併設されたシャワーを潜り抜ける。

 水着が水を吸い、ライダーさんのソレはより扇情的に、オレのソレはより貧乳を際立たせる。ひ、貧乳ちゃうわ! 日本人ならBありゃ十分だわボケェ!

 

 ちなみに無い方の乳上ことブリテン王は、散々言われつつもアレでCカップだったりする。なぁ~にが無い方の乳上だ!

 そりゃスタイルの良い処女スキーなこの人の理想像になるワケだアホめ!

 失敬、何か口が悪くなってしまいましたね。

 

 視界が開ける。

 

「おぉ……」

 

 ミーンミーンツクツクボーシシャワシャワシャワチチチチチ……と鳴く蝉は居ないが、それらが聞こえてきそうなほどに『夏』を再現した空間だ。

 人口の太陽が在り得ないまでに照らし与える日光は肌を焼く錯覚を覚えるが、そこらへんも調整されているのだろう。

 

「聞いていませんでしたが……アスカは泳げますか?」

 

「ロンのモチ~。速くはないけど、ずっと泳いでられるぜ。いつもオレとチャリチェイスしているライダーさんならわかるだろ? オレのスタミナの底無し加減」

 

「……そういえば、その借りを返していませんでしたね」

 

「おっとそれはアンフェアだライダーさん。単純にリーチが違い過ぎる」

 

「マウンテンバイクとママチャリも性能が違い過ぎると思いませんか?」

 

「ワァオブーメランッ!」

 

 まるで刺し穿つ死棘の槍(アタランス)のように自分の手元に返ってくる墓穴。

 おっぱいタイツ師匠のであればちゃんと当たるはずなのに……どうして貴様の槍は毎回外れるのかね? なんですとぉ!? あ、逆だ。

 

「では、あちらの300mプールへ行きましょう」

 

「なげぇ」

 

 陸上競技場でも直線距離はもっと短いぞ。

 ベトナムじゃないんだぞココは。

 

「骨は拾ってくれ……金髪君」

 

 ニコニコこちらの様子を見ていたギルガメッシュnightに遺言を送って、オレは連行された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……流石に疲れましたね」

 

「疲れたっていうか最後の方オレ溺れてませんでしたかねぇ……」

 

 いくらスタミナお化けでも足は攣るんですよ。

 まぁ早とちりした監視員のお姉さん(ロリ風味・三枝に似ていたのでキンピカの趣味の可能性あり)に人工呼吸(kiss)されたのは役得でしたが。直後にものっそい力で心臓押されて肋骨バキィなるかと思ったが。

 

「あはは、お疲れ様です、お姉さん。これ、どうぞ」

 

「ん……おお金髪少年。これはどうもご丁寧に」

 

 金髪少年がアイスを持ってきてくれたでござる。

 しかもライダーさんにまで。

 どういう風の吹き回しなのかとライダーさんもいぶかしげな眼で見つめている。

 アレ、そういえばこの2人って大した接点は……?

 

「あはは、お姉さんにあげたのは優待券ですからね。つまるところ、この急造国家(わくわくざぶーん)に招待された客人なわけです。客人を持て成すのも王の務めでしょう?」

 

「わーいありがとう王様ー」

 

 いやぁ良い王様だな。この子がそのまま王になっていれば……まぁ、古代バビロニアは一瞬で滅びたんじゃないだろうか。

 あの傲岸不遜にして唯我独尊こそがウルクを発展させた要因だと思うし。

 

「ほら、そちらのお姉さんもどうぞ。このお姉さんのお店で働いているのでしょう? なら、あなたも客人ですよ」

 

「……わかりました」

 

 要は警戒解きやがれ、って事なんだろうな。

 しかし妙に評価高いなウチの店。そんなに良い物があったのだろうか。

 

「僕とて、自国の品々があそこまで大切に扱われていれば機嫌も良くなりますよ」

 

 わぁい日頃の行いの成果だった。

 よし、ちゃんと磨かないとな!

 

「……常々思っていたのですが、アスカはあの品々をどこから得ているのでしょうか……」

 

「企業秘密デェーイス」

 

 それくらいは隠させてほしい。

 俺が貰ったアンパン味のアイスとライダーさんが貰ったチョココロネ味のアイス。

 ぶっちゃけあんこの味とチョコの味しかしないわけだが、十二分に美味しかった。

 それでは以後も楽しんでください。あ、売店は全部無料でパスが通っていますので、なんて言って金髪少年は去って行った。アレ実は別人じゃないのだろうか。あそこまで気前のいい英雄王は英雄王じゃないと思うんだ。

 

「食べ終わったらウォータースライダーいこーぜライダーさん」

 

「はい、今度は普通に」

 

 このあとめちゃくちゃざぶーんした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕焼け空を1人行く。

 ライダーさんはブロッサムさんを迎えに行くと言って途中で別れたのだ。

 いつもより長く拘束してしまった事だし、明日は時間外を上乗せして出すとしよう。

 

 日が落ちるのが早くなっているのを身にひしひしと感じつつ、家路を急ぐ。

 完全に夜にならなければ大丈夫だとは思うのだが、それでも急ぐに越したことはない。

 

 東の空には真っ黒い月(・・・・・)天の逆月(テンノサカヅキ)

 オレの耳には何も聞こえない。何も見えない。

 故に、オレの周囲にはナニも存在しない。

 

 見えない物は存在しないのだ。

 

「~♪」

 

 鼻歌と喉で和音を奏でるのはoutbreak。

 こればかりは特技の一つといえるだろう。特定の音階しか出来ないけど。

 

 オレの視界には何も映っていない。

 オレの耳には何も聞こえない。

 

 なら、オレの周りにはダレモイナイ。

 

「ただいまーっと」

 

 外に向けていた真経津鏡を通り過ぎて、遮光率100%の眼鏡と耳栓を外せば、途端に感じる歓迎の空気。ソロモンよ、私は帰ってきた!

 シャッターを閉める。勿論、目を瞑ったまま。可能性の獣は見なければ存在できない。

 

「~♪」

 

 10月10日も何事も無く終わった。

 


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