【完結】ふぇいとほろーあたらくしあてきな?   作:劇鼠らてこ

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10月10日 (56)

 昨日の静謐な気配にアテられてか、起きてすぐの磨きにも気合が入る。

 子供達なんて呼んではいるが、その実オレよりも遥かに歴史を積んだお歴々方々である。

 改めて、信念と敬意を持って整備させてもらおう。

 

 ……別時空でオレが頑張っているだろうから、埋め合わせもしないといけないし。

 

 今日の夕方から合宿なのだから、より一層身を入れて行う事にしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 時が経つのはハヤーイ物で。

 

「うし……終わりかな?」

 

「お疲れ様、飛鳥君」

 

 サ、サと掃掃除を行っていたオレの背中に声がかかる。

 零観さんだ。

 

 衛宮達が来る前に、とっととぱぱっとくるっと柳洞寺に向かって境内の掃掃除を手伝っていたのだが、存外早く終わった。集中力はあるアスカちゃんです。

 なお、山門にいたのだろうアサシンさんは姿を現さなかった。まぁ、当たり前か。

 零観さんに竹箒を返して、中の掃除を手伝う事にする。ちなみに碁の誘いをかけてきたが、時間があったら、と返しておいた。なんでも柳洞……一成の奴からオレと将棋で対決した事を聞いたらしい。

 正直勘弁してほしい。勝てるワケないじゃん。

 

 靴を脱ぎ寺の中へと、大部屋へと向かう。前方にいつもの2人。

 

「おはようございます」

 

「おはよう」

 

「いらっしゃい。ま、ゆっくりしていきなさい」

 

 珍しくもあんまりネコを被っていないキャスターさんと、いつも通りな葛木先生に挨拶。

 あ、いや、被っている方なのか?

 物凄く物腰柔らかいし……でも、うーん?

 

「野場。零観が碁に誘いたいと言っていたが……」

 

「あぁ、さっき話聞きました。一応合宿の(てい)で来てるんで、時間があったらで、って返事させてもらいましたよ」

 

「うむ。それがいいだろう」

 

 それでは、と短く会釈を交えて、さらに奥へと進む。

 合宿の(てい)なんて言って良かったのだろうか。

 

 大部屋のふすまをスパコーン! ……と、開けるワケがない。

 そんな行儀の悪い事はせずに、静かに開けて中へと入る。

 

 部屋の中にいたのは、たった1人。

 

「柳洞。お前だけか?」

 

「……野場か。まったく、この件に関しては一番の部外者であるお前が一番乗りとはな」

 

 柳洞一成その人だった。

 柳洞は胡坐で目を瞑る――まぁ、いわゆる瞑想をしていたようだ。

 

「外、掃除終わったんだけど、中手伝う事あるか?」

 

「いや、中も終わっている。その上で零観兄がお前を上がらせたという事は、しばし休めということだろう」

 

「ありゃ、気を遣われちゃったかな。オレ、この程度じゃ一切疲れないからいーのに」

 

 といいながら、適当な所へ座る。

 上下共にスウェット生地のだぼーっとした服を着ているので、皺になる事などは考えなくていい。ついでにスカートじゃないので体勢も自由自在である。

 

 生憎と携帯ゲーム機なんかは持ち込んでいないので、やはり柳洞同様瞑想でもするしかない。

 

「……」

 

 どうせなら、本格的に瞑想をしてみようか。

 体勢はまぁ楽な格好で、目を瞑り、一度全身を意識する。

 血流の脈動を部位ごとに感じるまで集中する。意識を向ける、というのはこういう事だと思っている。指先一本一本、足や首、顔に至るまでの全ての鼓動へと意識を向けた後、今度は中――臓物、そして心臓へと意識を向けていく。

 

 血の気が引く、という表現は恐ろしい物などを見た時に使うと思うのだが、文字通り血の気を辿って引き上げていくことで、自己に理没する。

 イメージだけではあるが、体表の活動を少しずつ停止させ、動いているものが心臓だけになるようにする、という感じである。

 

 オレは魔力というものがわからない。

 魔術回路など、本当にあるのかすらわからない。

 だからもしかしたらこの瞑想は、特に、別段、全く意味の無いものなのかもしれない。

 

 けど、落ち着くんだ。

 コレをやると、落ち着いて……落ち着いて、再確認できる。

 

 ――あぁ、オレはまだ、あそこにいる。

 

「……ふぅ」

 

「ふむ……普段の野場にしては見事な瞑想をする。誰かに教わったのか?」

 

 一息つくと、なーぜか目の前に移動していた柳洞がそんな問いかけをしてきた。

 やめろよ、なんか仲良いみたいだろ。

 

「いんや、我流だよ。我流と書いてオレ流と読む」

 

「やはり普段の野場だな」

 

 そらそうですわい。

 そう簡単に変わってたまるかってんでい。てやんでい。はっぴーばーすでい。

 

 そんな風に軽口を叩いていると、またも襖が開きもうした。

 

「ぁ……おはようございます、柳洞先輩、野場先輩」

 

「ちょりーっす、ってあり? 柳洞と野場だけ?」

 

「やっはろーブロッサムさん&美綴。相も変わらず楽しそうで何よりだよ」

 

 美綴とブロッサムさんである。

 ちなみに襖を開けたのがブロッサムさんで、そんなブロッサムさんの肩口から顔を出したのが美綴である。

 

「……姦しい」

 

「おーっと柳洞、今オレを美綴と同じカテゴリに入れたな? オレは割と分を弁えるタイプの女の子だぞ。寺じゃあ静かにするさ」

 

「だといいのだがな」

 

 早速畳へダイブしている美綴を余所に、柳洞は溜息を吐く。

 これにはブロッサムさんも苦笑いである。

 そこへ、

 

「おはよう。わるい、遅くなった」

 

「お、衛宮? おはよ――っ!」

 

「むう。遅いぞ衛宮」

 

「おはようございます、先輩」

 

「おはよーさん、衛宮」

 

 主人公様ご登場である。

 さぁ、節目の始まりだ。

 

 がんばるぞいっ。

 

 

 

 

 

 

 

 衛宮の後三枝+2がやってきて、柳洞がため息を吐いて奥へと行ったあと。

 未だに来ない遠坂さん家の凛ちゃんの話題で少し盛り上がる。

 

 オレの家にも来た、クソ長い台本FAX。ファクシミリ。

 

「野場さんの家にはぶぶぶぶって来なかったの?」

 

「来たよー。今朝読みおわったし、頭ン中入ってる。もち睡眠時間もばっちし」

 

「わ、すごい!」

 

 邪気のない笑顔で褒めてくれる三枝がかわいすぎて辛い。からい。

 

「速読か? いや、そもそも野場は早起きなのだったか」

 

「んーん、遠坂にオレの家への送信方法だけ懇切丁寧にメモ帳に書いて渡してあったからな。一番に来たんで、夜中に半分今朝に半分でカンペキだぜ」

 

「……お前、それ全員分やれよ」

 

 蒔寺があんぐりとした口で言う。

 しかもテンションが低い。心底思っている事なのだろう。照れる。

 

「……家の方は出ない。寝てんのかな」

 

「にゃあにぃぃぃい!!」

 

 携帯で遠坂へと電話を掛けた美綴の言葉に、蒔寺がキレる。

 が、奴が騒ぎ立てる前に、あの人が現れた。

 

「念のため、迎えにまいりましょうか」

 

「おうわあんたうわわ!」

 

 ものっそい勢いで美綴が後ずさる。

 顔は動揺を動揺で割ったような、「これどうよ?」という感じで、不覚にも可愛いと思った。待てオレ。オレが愛でるのは三枝。いいな、三枝だぞ。

 

「ライダーさん、おはろー」

 

「おはようございます、アスカ」

 

 恐らくはまぁ霊体化してブロッサムさんの背後にでもいたのだろうが、それを隠して美綴をからかう姿はカエルを狙うヘビそのものである。ナメクジは誰になるのか。

 そんなこんなでライダーさんは遠坂と、それからセイバーさんを呼びに行く事になった。

 アサシンにキャスターにライダーにセイバーと、冬木市のサーヴァント大バーゲンである。さらにあの二人と、既にいる奴までいるのだから手におえない。

 

 入れ替わるようにして柳洞と零観さんが来て、寺の説明を始めた。

 境内の掃除こそ終わらせたが、寺というものは広いのだ。

 柳洞の言った「手伝う場所はない」というセリフには、今は、という冠が付いていたのだろう。

 

「そうそう、飛鳥君」

 

「はへぃ?」

 

「君だけは、今から自分に付いてきてもらいたい。

 どうにも時間が取れそうにないのでね」

 

「アッハイ」

 

 あ、行かないつもりだったのバレたね。

 まぁ早めに掃除をしたから、免除という事にしてくれたのだろう。

 精神疲弊はむしろ掃除の方が少ないのだが。

 

「んじゃ、みんな。また後で」

 

「ん、なんか知らんけど頑張れ」

 

 美綴だけがエールをくれた。

 蒔寺は不満そうに、三枝は心配そうにこちらに視線をやってはくれたが、他のみんなはスルー。君子神に近寄らず。触らぬ危うきに祟りなしである。

 

 コン、と襖が閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 囲碁も多少なりとは覚えがあったために、全敗にはならなかった。ボロ負けではあるが。

 正直先を読む力というもにおいて彼に勝てる気はしないのだが、それでも金ぴかや魔術王や花の魔術師よりは下のはずである。というかどこぞの元爆弾魔にすらも勝てないはずだ。

 つまり、相手は頭が良いだけの人間である。

 オレは頭のよくない人間である。

 

 つまり最初から考えるのではなく、運に頼る。

 なんだかんだいってオレは運が良いので、偶然の勝利が3回ほどあったというワケである。

 柳洞にも零観さんにも3勝したぞ!

 

「ふむ……石に嫌われたか、いや……飛鳥君が好かれているのか」

 

「ふぁい?」

 

「いいや、なんでもないよ。そろそろ良い時間だ、皆の元へ帰るといい。流石に今日はコレを行くのは無理であろうからね」

 

 コレ、といってクイッという動作を口元でする。

 そりゃあダメでしょうよ。色々と。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな感じで帰ってきました大広間。

 

「よ、嬢ちゃんも来てたんだな」

 

「ういっす。まぁ集まらにゃ損でしょうよ。同じ馬鹿なら踊りましょってね」

 

「違いねえや」

 

 陸上部・弓道部の面々と親しげに話していたランサーさんに挨拶をし、

 

「君は弁える部類だと思っていたのだが……」

 

「弁えた上で悪ノリするのが大人ですよ」

 

「……ふぅ、なるほど。流石は穂群原の生徒だ」

 

 壁の花に徹しようとしていたアーチャーさんに溜息を吐かれ、

 

「アスカ。今日はよろしくお願いします」

 

「料理はオレ担当じゃあ無いぜ?」

 

「む、わかっています。……ご武運を」

 

 セイバーさんに不吉な事を囁かれて。

 

 まぁ、いろいろあって。

 文化祭演劇の練習は幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

「オホンっ。

 さてさて、桃太郎が三匹のお供をつれて鬼退治を果たしてから早十年――」

 

 そんな遠坂のナレーションから始まった演劇。

 オレは御大層にも主人公の1人を配役されていて、出番はもう少し後だ。

 最初は蒔寺のシーン。

 

 鬼の復活を感じ取った蒔寺がイヌサルキジと六人の太郎を求めて旅立つシーン。

何故か実体化して参加してくれたアサシンさんによる名演あいまってか、蒔寺の良く通る声がまるで名優のソレにさえ聞こえてくる。

 彼女の配役は、「桃太郎」。

 アサシンさんの配役は、「クマ」。

 

 セイバーさんがマジモンの鎧を纏って蒔寺とぶつかる。手加減抜きで手を抜いたセイバーさんと蒔寺の殺陣は、蒔寺の運動神経もあってかよく映える。

 なるほど、確かに奴は主人公に向いているのかもしれない。

 セイバーさんの配役は、「竜の子太郎」。

 誰だよ、とか言わない。

 

 道中で、ようやく出会えたのはイヌ……の、配役のランサーさん。

 イヌ役は心底嫌そうだが、多分遠坂の嫌がらせなので我慢してほしい。

 流石に何も知らない一般人だ、イヌ呼ばわりされても怒り狂ったりはしない。

 ランサーさんの配役は、「イヌ」。

 

 さらにそこへ、ミュージカルな演出で以て美綴が現れる。

 なんとイヌは美綴の配下だった。おじゃる口調で桃太郎を糾弾する。

 鬼の復活は桃太郎の仕組んだことなのではないかと。

 美綴の配役は、「信濃の三年寝太郎」。

 

 そんな太郎同士のいがみ合いを止めたのは、これまた同じく太郎だった。

 アサシンさんを連れた三枝が、これまたアサシンさんと一緒に自身のテーマソングを歌う。

 かわいい。

 三枝の配役は、「金太郎」。

 

 金太郎が陰陽術師・安倍清明の卜占によって明らかになった事実を朗々と述べる。

 その言葉に、ようやく桃太郎と信濃の三年寝太郎、竜の子太郎が意気投合し、金太郎と従者たちを含めた太郎ズは、残る最後の太郎”浦島太郎”と――未だ彼らに名を知られぬ、もう一人の太郎を探しに行く。

 

 

 

 

 

 

「んー、エミヤん青春だね」

 

「しかし、のぞきとは感心しないぞネコくん」

 

「と言いながら、しっかり自分も見守っている零観さんである」

 

「そうそう、見守ってるだけですよ。

 将来有望な青少年を、あんな放任主義を通り越して、ほったらかしな教師だけに任せておけますか」

 

「かかる期待が大きい、というのも大変だ。

 自分の目には、衛宮くん本人が一番しっかりしているように映るのだが。いやむしろ、手間のかかる大人達の世話にあけくれているようにもみえる」

 

「大人びた少年でしかないですからねー、アイツは。ま、藤村先生が懐いてるのはもっと別な所な気もしますけど」

 

「そう? 藤村はエミヤんにベタ甘えに見えるけどねぇ。

 って、アレ、もしかしてアタシも含まれてる?」

 

「んー、こっちから士郎のカレーの匂いがするー」

 

「噂をすれば虎」

 

「おや、三代目。ご名答だが、こちらは勝手口ですぞ?」

 

「なんなの今頃アンタはー」

 

「おお? 零ちゃんとオトコだ? しかも野場さんまで!」

 

「うん。一足先に様子見をしていたんだ。士郎くんの手伝いを少しばかりね」

 

「オレはまぁ、もとから参加部員ですから」

 

「あ、そうなんだー。

 それはご苦労様でした」

 

「……まったく、人が後方支援に駆り出されてるってのに、のんびり殿様出勤?」

 

「まぁまぁ、にゃんこさん。この時期は教員ってのは書類仕事に追われるもんですから。むしろこの時間にここに来れたってのは、褒められる事だと思いますよ」

 

「きゅふーん、そう、その通り! 今はみんな大切な時期だからねー、普段のお仕事と違ってテキトーにやるわけにはいかないのよー」

 

「ふむ。今は受験生を担当しているのだったか?」

 

「そうよ」

 

「うっわ信じられない。こんなのに受験生任せるなんて世にも無謀な学校! って、アタシらの母校か。なら仕方がない……のかも?」

 

「これが穂群原ブランドですねわかりません」

 

「っていうか、オトコこそ、油売ってないで早く店に戻りなさいよ。もう稼ぎ時なんじゃない?」

 

「はいはい、そろそろ時間だし、藤村と話してたら体力使い切っちゃうし、言われなくても帰るわよ。 

 あと、他のメンツの前でオトコ言うな。飛鳥ちゃんはもう仕方ないけど」

 

「下まで送ってしんぜようか。あいにく石段は暗いのでな」

 

「それはかたじけのうござる。

 じゃね、藤村、飛鳥ちゃん」

 

「じゃあねー。

差し入れありがと、ネコ」

 

「お疲れ様です、にゃんこさん」

 

 

 

 







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