【完結】ふぇいとほろーあたらくしあてきな?   作:劇鼠らてこ

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10月11日 (1)

「邪魔するぜ、嬢ちゃん」

 

 朝っぱら、今日も客は少ないだろうなぁと思っていた所、珍しい事に珍しい人(?)が入ってきた。

 アロハシャツに、気怠い目をした男。

 ランサーさんだ。

 

「いらっしゃい、ランサーさん」

 

「ほー……骨董品屋ってのは本当だったんだな。まさかとは思うが、嬢ちゃんが切り盛りしてんのか?」

 

「ああ、オレが店主だぜ。と言っても働いてるのはオレだけじゃなくて――」

 

「――おはようございます、アスカ。あぁ、お客様が居ましたか。すぐに対応、を……」

 

「もうバイトさんがいるから、今は募集しちゃいないぜ」

 

 絡み合う視線。

 一瞬走る緊張。

 けれどそれはすぐに霧散した。

 

「……別に雇ってもらおうなんて考えてねぇよ。客として来たんだよ客として」

 

「へぇ。ランサーさん古物骨董に興味あんの? あ、古代中国の釣り具とかあるけど見ていく?」

 

「釣りは好きだが別に古い釣竿に興味はねぇ。ちょいと店内ぶらつかせてもらうだけだから、気にしないでくれ」

 

「はいー」

 

 ちなみに古代中国の釣竿……本来の名を太公望の釣竿と言う。

 頭良い上にカリスマAくらいありそうな宝貝使う男が持っていた物だ。

 ちなみに太公望はド畜生である。いやー憧れるね。あと四不象(ムーミン)かわいいね。

 

「……アスカ。あの男とはどういう知り合いで」

 

「ナンパされて一緒にご飯行った釣り仲間?」

 

「……アスカはああいう男が好みなのですか?」

 

「いや、好きなのはロリだから。飯奢るって言われたら付いていくでしょ、普通。他人の金で食べるメシ程美味い物は無い」

 

「……士郎が聴いたら怒りそうですね」

 

 一度食ってみたい感はあるが、残念ながら奴と飯を同じくするというのは選択肢に無い。

 120%くらいの確率で後藤某含めたクラスメイトがデバガメしにくるからだ。

 オレのロリコン具合をファッションだと思ってやがるのである。失敬な、オレは心から三枝が好きだというのに。

 三枝はロリじゃないんだけどね?

 

 店内をぐるぐる見て、「へぇ……」だの「あー、懐かしいわな」だの「アイツの触媒になりそうだな……」だのと呟いていたランサーさんだったが、ある程度すると、

 

「邪魔したな」

 

 と言って店を出て行った。

 客だ客だと言った割に何も買って行かない。

 というかアレ、もしやこの四日間売上/Zero?

 

「ちょっと早いけど、昼食にするかー」

 

「はい。ではお湯を沸かして来ますね」

 

「あいよーん」

 

 ウチではなんとバイトにもランチが出るのだ(カップ麺)。

 これこそ衛宮士郎に怒られそうなランチだが、早くて美味いのだからいいのだ(謎理論)。

 なおライダーさんはシーフードカレー、オレは緑のた○きである。

 

 お湯が沸くまでの間、オレは奥の部屋に或るテーブルを拭いてコップを出す。

 普通に麦茶。

 

 ピー! という音。お湯が沸いたのだ。

 コポコポとお湯を注ぐ音がして、ライダーさんが紙カップを2つ持ってくる。

 

「4分たぬー」

 

「私のは3分ですね」

 

 世の中には5分ど○兵衛や10分きつねなんてことをする猛者もいるらしいが、伸びきって汁を吸い切った麺なんぞを食べて美味しいのだろうか。

 食わず嫌いヤーとしては、絶対に食べたくない物No.1に入る。ちなみにNo.1は幾つかある。

 

「アスカはいつも緑の○ぬきですね」

 

「他の食べた事無いからなー。これが一番おいしいと思っている」

 

「食わず嫌いはいつになっても治りませんね」

 

 治す気が無いのだから仕方がない。

 ほら、ナポレオンも食わず嫌いだったらしいし。クレオパトラも味にうるさかったらしいし。

 ナポレオンに関してはわからんが、クレオパトラはどこぞのカルデアに居る可能性はある……あ、いや、世界線が違うんだったか。

 

「では、お先に頂きます」

 

 ふたを開けると広がるカリィの芳醇なかほり。

 シーフードカレーラーメンという名前がもう欲張り過ぎているよね。こっちなんてただの体色が緑なだけの狸だぜ?

 実際に居たら妖魔の類いだろうけど。

 

「……」

 

「……」

 

 5分の仮眠より1分の待ち遠しい時間の方が長い。

 秒針があと半周。デジタル時計で言えば30秒。

 おもむろに机の上の小銭箱から50円玉を取り出し。親指にそれを乗せて、ピンと弾く。

 

「……表!」

 

「裏でしたね」

 

 手の甲に叩きつけたそれは――裏。

 運がどうこうではなく、サーヴァントに動体視力で勝とうと言うのが無理な話。

 

「まぁいいや。御開帳~」

 

 さぁ、飯の時間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特筆する事も無いランチタイムは終わった。

 オレは拭き作業に、ライダーさんは店番に戻る。

 無言の時間が過ぎる。

 今朝来たランサーさんは夢か幻だったのだろう。今日も野場骨董品店には閑古鳥が鳴いている。いや、客が全くいないわけではないのだが。

 

 そうしている内に、定時になった。

 

「お疲れ、ライダーさん。これ昨日の分の時間外付け足しといたから」

 

「……ありがとうございます。時に飛鳥(・・)

 

 あれ、普通に発音できるじゃんと――4日前に突然呼び方をアスカに変えたライダーさんに対して突っ込もうかとおもったけど、目が真剣なので止めた。

 

「?」

 

「……いえ、明日もよろしくお願いします」

 

「あぁ、よろしくな」

 

 何かを言いかねて、しかし言わなかった。 

 ライダーさんも思う所があるのだろう。いや、思う所というよりは――自分に対する恐怖か。

 オレは一般人だから、とか考えてるのだろう。

 5円玉を取り出して、親指でピンと弾く。

 

 くるくると天井付近まで上がる5円玉。

 それを手の甲でパシっと止めた。

 

「表か裏か?」

 

「……どちらも裏です。ですから、裏ですね」

 

 ニヤァと笑う。

 手を開けたそこにある5円玉は――表。

 

「残念。ライダーさんの負けー、そしてオレの初勝利!」

 

「……ではアスカ。その上げている左手を下に向けてください」

 

「げ」

 

 一瞬でバレただと!?

 ……まぁいいか。

 

 腕を降ろすと、ちゃりーんという音がしてどちらもが裏の5円玉が出てきた。

 無論偽造したわけじゃないぞ。製作時にどちらもが裏になったマニア涎ものの5円玉というだけで、ぶっちゃけると商品なだけだぞ。昭和24年発行。

 ちなみにだが日本の硬貨の裏表は年銘が書いてあるほうが裏だ! お姉さんの豆知識な!

 

「ありがとうございます、アスカ。それではお先に失礼します」

 

「ういー。また明日~」

 

 また明日――10月8日に、会いましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真経津鏡を外へ向け、シャッターを閉め、磨いた勾玉と台座を傍らに2階へ上がる。

 元両親の部屋。今は物置……というか、生活用品の置き場となっているここ。

 ここの隅は洋風志向を取り入れたがっていた両親の名残である吹き抜けが存在していて、さらにはロフトもある。外から見た野場骨董品店の出っ張っている部分がちょっとした屋根裏部屋になっているのだ。

 台座は梯子の下に置いて、磨いた勾玉だけを持ってソレを上がっていく。

 静かな夜。誰の気配も無い。

 強いて言えば、誰かがどこかで自死したような気がしたが――些細な事だろう。

 

 丸い天窓が月明かりを取り入れる。

 けれど、天窓に映る月は余りにも黒い。

 オレにこれが見えている理由はなんなのだろう。

 それとも、全ての人間が見えているけれど――気にならないだけなのかもしれない。

 

 黒い太陽に対する、黒い月。

 衛宮士郎に対する、復讐者。

 

「あぁ……そうか」

 

 この時間まで起きていた理由が自分でもわからなかった。

 だって、あの獣は起きている物を襲う。

 置いて行かれたくないから。

 

 でも、獣に殺されるよりも。

 

「怖いなぁ……」

 

 聖杯などというわけのわからない力で、自身の意識を持っていかれるのが――怖くて仕方がない。

 実際の仕組みが『そう』でないことはわかっているけれど。

 次のオレはオレの記憶を持っているのか。

 いや、今のオレでさえも――2周目以降の誰なのだろうか。

 そういう事を考えるのが怖い。

 

 怖いから。

 

「私を守ってください……」

 

 一番信頼できる骨董品(こども)達に、頼って眠ろう。

 なんだか暖かみを感じるし。

 なんだか温もりを感じるし。

 柄でもない私、なんて一人称を使って、子供達に守ってもらおう。

 

「おやすみ」

 

 

 

 こうして最後の夜が終わる。

 

 オレの知らない聖杯戦争は終わった。

 オレの知らない戦いは勝者を生むことなく、

 オレの知らない異常は解明されることなく、

 

 オレの知っている楽園は、今もこうして回っている。

 

 


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