【完結】ふぇいとほろーあたらくしあてきな?   作:劇鼠らてこ

45 / 54
「衛宮邸で過ごす(5)」

 夜。

 シロウが、訪ねてきた。

 

「アスカについて、ですか」

 

「ああ。セイバーが野場をどう思っているか……それが知りたいんだ」

 

「それは構わないのですが。

 ……はたして、私の話が今のシロウに意味があるものか。既に知り得ていることだとおもいますが」

 

「意味なんかなくていいよ。今日はセイバーの話を聞きに来ただけなんだ。

 再確認と、俺が知ってなきゃいけない事を教えてくれるんじゃないかなと思って」

 

「……そうですね。では、話しましょう」

 

 はたして、深呼吸をする。その意味は。

 私は分かりきっていた事を口に出す。恐らく、私を含めた全てのサーヴァントが気付いていた――否、彼女と一度も(まみ)えた事の無いアサシン以外のサーヴァントが気付いていた、彼女の秘密。

 

「アスカ。ノヴァ・アスカ。彼女は、私達の知る彼女ではありません。呼吸、足運び、気配、思考や言動、その全てに至るまで――彼女は別人だ。

 少女であるかどうかも、怪しい程に」

 

 直感だとか、そういうものを使うまでもなく。

 彼女が半年前の彼女と別人であることなど、わかりきったこと。

 

「……じゃあさ、セイバー。アイツは、誰なんだ?」

 

「それは誰も知らない、というのが正解かと。ライダーも、ランサーも、シロウの学友も。

 彼女自身しか、それは知り得ない事。もしかすると、彼女自身もわかっていないかもしれませんね」

 

 私では知り得ない。

 癪だが、赤くない方のアーチャーであれば、知り得たのかもしれないが。

 それは私達ではわからないことだ。

 

「それなら、アイツは何なんだ? セイバー。アイツは、何だと思う?」

 

「それも、私の口からは。当人に直接聞くべきです、シロウ。あの雨傘を持って、彼女が指定した場所へ行きましょう」

 

「野場が、指定した場所……?」

 

 真実を映す鏡が置いてあるあの場所。

 シロウはそこをしっているはずだ。

 

「あ」

 

 まだ早い。彼女はそう言ったのだろう。

 ここで会っても意味が無い。彼女はそう言ったのだろう。

 

「ありがとう、セイバー。

 もう遅いし、そろそろ部屋に戻るよ」

 

「はい。ゆっくり休んでください」

 

 引き留めることはしない。

 シロウも、“彼”も。歩き出した。

 ならば、私はサーヴァントとして、マスターの身を守り、邪を払う剣となろう。

 

「おやすみ、セイバー」

 

「おやすみなさい、シロウ」

 

 そして三は四に、そして五に至る――。

 

 

 

 

 

ノイズ

 大きな音を立ててソイツは降ってきた。

7.5/Taken Note

 ソイツはソレにぶつかって下へ落ちた。

「奇跡的に、息を吹き返したようです」

 ソイツとソレには縁が生まれ、ソイツの起源も塗り替えられた。

「元気な女の子ですよ。本当に、良かった」

 ソイツには知識があった。けど、ソイツは自ら眠りに就いた。

「ヘンな声が聞こえる? 辰巳、もしかして頭に何か異常が」

 ソイツは自分が用済みだと知っていた。もう十分に生きたとも。

「心配し過ぎだよ縁。大丈夫、この子は強い子だよ」

 ソイツは上から落ちてきた者としての運命力を、全て明け渡した。

「大丈夫、パパ、ママ。悪い人じゃない」

 ソイツに力は残っていなかったけど、時たま目覚める事ができた。

「……初めまして。あなたがあの子を救ってくれたのね」

 ソイツは何もできない。ただ、見ているだけ。観測しているだけ。

「僕は辰巳。こっちは縁。君とは友人になれたらいいと思っている」

 それでも、ソイツはそこにいたのだ。

「君に……お願いが、あるんだ」

 たとえもう、また目覚める力すら使い果たしてしまったとしても。

「あなたに、最後の……お願いが、あるの」

 ソイツはようやく、思い出したのだ。

 

 

「あぁ……約束するよ」

 

 

 

 

 

「……今のは」

 

 夢……?

 サーヴァントとマスターの記憶が混線する事は多々ある話だと知っているけれど……今の夢は、セイバーの夢でも、どこかの女魔術師の夢でもないだろう。

 

 一瞬だけ見えた、内装。

 古物がずらりと立ち並んだそこ。

 最後に聞こえた声。

 

「……」

 

 衛宮士郎以外の、誰かが――どこかで。

 自分を取り戻したような、そんな気がした。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。