「それにしても野場氏の交友関係は不思議ですなぁ」
「だろー?」
昼休み。
何の脈絡も無しにそう話しかけてきたのは同じクラスの後藤
基本的にノリで生きていて、誰とでも仲のいいあだ名は後藤くんである。
「うむ。衛宮
「衛宮はホラ、色々とアレだし遠坂もアレじゃん? 柳洞はホモで、蒔寺と氷室は論外。やっぱ三枝だろ。オレ、三枝の胸よく揉むくらい三枝好きだぜ?」
「通報した」
まぁ、彼女は普通にノンケらしくレズには興味無さそうなのだが。
ちなみにオレと後藤くんの近くで
「レズで一人称オレとは業が深すぎでは? それに、目撃情報によれば何やら紫髪のお姉様と仲よさげに会話していたと聞く。まさかの二股か?」
「あぁライダーさんの事? ありゃアレだよ。ウチの店でバイトしてるだけ。まぁキレイな人だけど、背ぇ高すぎるし……。あとあの人美綴が好きみたいだから、範囲外だな。オレのオレって一人称はアイデンティティだ気にすんな」
「弓道部元主将はレズ、と……むしろ誘い受けか」
オレは今朝購買で買ったパンを、後藤くんはコンビニの売れ残りらしいグラタンを食べている。オレが今朝購買最後の1つだったパンを買ったが故に、一度登校したにもかかわらず後藤くんはコンビニまで走るはめになったらしいのだが知らぬ存じぬカエリミヌ。
一応朝練をしていた陸上部の1人をコピったらしく、かなりの速度で行って帰ってきた。割合一般人ではない後藤くんである。
「そういえば野場氏は、新都にできたレジャー施設『わくわくざぶーん』を知っているか?」
「あぁ、この前行ったよ。それこそさっきの話に出てきたライダーさんと」
「野場氏は貧乳だが、そのライダーさんとやらは巨乳と聞く」
「貴様Bが貧乳だとでも? ……まぁライダーさんに比べれば極貧だけどさ」
「せめてC、Dが理想」
「高望みっていうか、お前の場合は氷室のEカップだろ」
「貴様ァァァアアアア!!」
先程探偵擬きの一環として後藤くんに訪ねごとをしに来た氷室と楽しげに会話をしていたのを思い出す。どちらも時代がかった口調で、とても生き生きしていた。
入れ替わるように衛宮&間桐&柳洞がやってきたのには吹いたが、オレはオレで三枝の胸を揉めて満足である。
「柳洞某も人柄的には問題ないのでは? 何故親交が無いのでござるか」
「柳洞の想い人は衛宮だろ? ホモじゃん? あとホモっぽいじゃん? ってことはやっぱりゲイじゃん?」
「つまり拙者は尻に気を付けるべきだったか」
「さっきから言い掛かりが過ぎるぞ野場! あと、決して俺の想い人は衛宮ではない!!」
「落ち着けって一成。野場の言動に一々ツッコミを入れてたら持たないぞ。後藤くんみたいに受け流さないと……」
「野放しにしておけないってか? 野場だけに」
「野場氏、今のは寒い」
うるせー。
親父ギャグはな、寒いからいいんだよ! 場を凍らせることが目的なんだよ!
……チラりと衛宮士郎を見る。
おー。
訝しまれている。中の人に、盛大に。
そりゃあそうだ。
選択肢を変えていないのに、役通りの動きをしない奴なんて怪しいに決まっている。
「話は変わるが野場氏」
「なんだ後藤くん」
「衛宮某の爛れた実生活について……どう思うでござるか」
「なんでさ!?」
「……三枝以外はあげるから、三枝ください」
「いや俺に言われても……っていうか、なんだよ三枝以外って!?」
「え、セイバーさんにブロッサムさんにライダーさんに魔女に銀髪幼女に虎にメイドに美綴に蒔寺に間桐に柳洞に……」
「何ぃ!? 衛宮、お前はそんなに爛れた生活を送っていたというのか……?」
「サラっと僕を入れないでくれないかなぁ!? 今帰って来たけど、なんで衛宮の爛れた実生活の中に僕がいるんだよ! 僕は普通にかわいい子が好きなんですけど!?」
あ、慎二が帰ってきた。
うーむ、半年がたって丸くなったもんだ。
そもそも本編の中で最も人間らしいのが慎二だし……。
「――そういえば、衛宮。柳洞の寺で合宿やるって聞いたけど」
「無視!? 野場お前、僕を無視するとはいい度胸だな――」
「ついにホモが動いたでござるな」
「……? 何の話だ? 俺は知らんぞ、衛宮」
「いや、俺も知らないけど……。どこで聞いたんだ野場?」
「月で丸出しシンジ君が言ってたぜ」
「――さっきからどういう発想してんだよお前の頭!」
いやぁ叫びが似合う声です事。
「野場!」
「ん、なんだ衛宮」
「あ……っと。……あれ、なんで呼び止めたんだ俺」
衛宮が後頭部をガシガシと掻く、
土蔵に来る時と全く同じ様に、カラである彼は自身が何故オレに声を掛けたのかわからない。
単なる真実という意味では自らに問いかける事とオレに問いかける事が一番の最短ルートだからこそ、恐らく中身の彼はオレを呼び止めたかったのだろうが……。
「衛宮」
「ん?」
「まだ早い、って奴だ。オレと学校で会っても多分意味は無い。オレの店に来いよ、そこならもっと話せるだろうからさ」
オレだって確信があるわけじゃない。
けど、オレにとってのホームも一番縁深い場所も
ならば、あそこで話すのが筋という物。
昼間は真経津鏡が内を向いているのだ、彼も入って来られる……はず。
「野場の店って……あの骨董屋か?」
「あぁ、オレが店長の野場飛鳥だ。場所がわかんねーんなら、ライダーさんに付き添ってもらいな」
「いや、場所くらいはわかるけど……」
「セイバーさんとかブロッサムさん連れてきてもいいんだぞ。デートコースに。そんでなんか買ってけ」
「なんでさ」
ちなみに安い物で5000円くらいの物もある。
これなら学生の手に届くね!
「そんじゃ、また明日」
「ただいまー」
「おかえりなさい、アスカ」
ライダーさんに出迎えられる。
相変わらずオシャレの落の字も知らないような格好(仕事着エプロン)で、小さな眼鏡がキラリと光る。
そのまま店番を任せて、一度上にあがる。
ロフトへ続く梯子。
その根元に、鈍い金色の台座があった。
「~♪」
持ち上げて布で拭く。
頬を寄せてみる。
「……アスカ、何を」
「ハッ!? い、いやこれはだなライダーさん。頑張ってくれた子供に対する愛情表現というか……」
だって、オレを守ってくれたわけだし。
ねー?
「さて、今日はこれを拭こう」
「それは……また銅像?」
「いや、真銅像」
よくあるブロンズ像や銅像とは違う、100%銅で作られた像。
結合がとても緩いらしく、仕入れ時に「ぜったいにしょうげきをあたえないようにね!」と言われたのが懐かしい。
「……」
「……いつも思うのですが、アスカはどこからその品々を」
「企業秘密です」
縁によるコネであるのだから、そうそう漏らしはしまい。
あぁ今は亡き言峰神父。あなたに最大の感謝を。
オレはあなたがくれた
成仏してくれよ!
「さぁ、また始めよう」