どうもはじめまして沙条 士道(6歳)です。沖田さんとノッブのマスターやってます 作:トキノ アユム
え? ぐだぐだコンビ? 大体いつも通りだけど是非もないよネ!!
僕の保護者二人は実は結構有名人だったりするらしい。
沖田さんこと、沖田総司さんは新撰組と呼ばれる組織の一番隊隊長で、剣の天才。
ノッブこと織田信長は、戦国時代にその名を轟かせた戦国大名で、第六天魔王と呼ばれた程である
……と、本人達が自己申告していた。
普通なら、こんな言葉を信じることはあり得ないだろう。
だが僕は『姉』から彼女達がどういうものなのかを知らされていた。
二人は英霊という存在らしい。
「英雄が死後、祀り上げられた存在」で、とても大雑把に説明すると、聖霊みたいなものらしい。そのため世界の 法則から解き放たれており、世界の外側にある「英霊の座」と呼ばれる場所から過去・現在・未来を問わずあらゆる時代に召喚される。
だから過去の人間である沖田さん達がこの現代にいるのだと。
荒唐無形な話である。
だが彼女達の力と人格を知る僕は少しの疑問は残ったものの、むしろ納得した。
(ああ、やっぱりこの人達は凄い人なんだな)と。
だがしかし、
しかしである。
その凄いを相殺してマイナスに到達させてしまう程、うちの保護者サーヴァント二人は残念な人達なのである。
だってほら、
「行きますよノッブ!! 種子島の貯蔵は十分か!」
「思い上がるな! 病弱!!」
小学校の屋上で最終決戦しようとしてるし。
止めなければならない。あの二人が本気で戦ったら、学校なんて簡単に崩壊する。
だから――
「止めなくていいの?」
それを一番理解しているはずの、『もう一人』の保護者に、僕は声をかける。
「あら。止めて欲しいの?」
隣に顔を向けると、そこにはいつの間にか、女の人が立っていた。青いドレスを身に纏う少女はお伽噺の妖精のようにキレイな人だ。
ずっと一緒にいる家族なのに、見とれてしまいそうになる。
「愛歌お姉ちゃん」
沙条 愛歌。僕の義理のお姉ちゃんで、最後の保護者。そして魔術の師匠でもある。沖田さん達がどういう存在なのかの詳しい説明も、お姉ちゃんから教えてもらったのだ。
「当たり前だよ」
「優しいのね。でも私は止める気はないわ」
「どうして?」
愛歌お姉ちゃんなら、簡単に止めることが出来るはずだ。
「だって止めない方が面白そうでしょう?」
「――下の階の人達が巻き込まれるかもしれないけど?」
「あら。なにか問題かしら?」
「……」
絶句。などはしない。この人がそういう人だということは、よく知っている。
基本的に『悪い人』なのだ。人によっては吐き気を催す程に。赤の他人である下の階の人間が何人死のうが、どうでもいいし、気にもならないのだろう。
だが僕は違う。愛歌お姉ちゃんのように、物語のラスボスみたいな割りきった考えは出来ない。助けられるものは助けたい。
方法? そんなものは『検索』すればいくらでも……
「駄目よ。士道」
「!」
名を呼ばれ、はっとする。
「あ、僕……また――」
「ええ。思考が、
「――」
忠告され、僕は頭を振る。まただ。最近とても多い。
少し油断しただけで、無意識の内に接続してしまう。
「嫌なんでしょう? あれに接続するのは」
「うん」
僕が欲しいのは、全能なんかじゃない。平穏だ。
どこにでもいるただの六歳の男子として、今を生きたいのだ。
……だから、
「二人とも――」
それを誰よりも分かってくれているはずの、
「そこに正座しなさい」
令呪というものがある。
マスターはサーヴァントに下せる絶対命令権を3つ所持している。
当然僕も沖田さんとノッブに対して『絶対命令』を使うことが出来るのだがーー
「士道ぅ! 令呪はもっと大事につかわんか!」
「いや。一晩経ったら一画は回復するし」
使わない方が勿体ない。
「そうね。コンティニューが必要な程の高難易度でなければ、温存していても無駄になるわ。というか、結局使わないことの方が多いし」
「愛歌お姉ちゃん。それ以上はいけない」
なんのことを言っているのかは分からないが、ヤバい事を言ってるのは分かる。
「ノッブの方はまだしも。どうして沖田さんまで!? は! もしかしてこれが巷で噂のドメスティックバイオレンスという奴ですか! 歪んだ愛情表現ですか!?」
「ダァニィ!? 士道! 貴様ショタマスターの分際で、ドSキャラじゃったのか?」
「それ以上わけの分からない事を言うなら、最後の一画を使って、どちらか片方を全裸待機させるよ」
「「まじすいませんでした」」
掌返しはやすぎるなこの二人。
「さあ士道。お馬鹿さん二人は置いておいて、教室に戻りましょう?」
「うん。そうだね」
隣に立った愛歌お姉ちゃんが手を握ってくれたので、僕も握り返す。
「また漁夫の利ですか愛歌さん! いつもいつもずるいですよ!」
「まさか何もしてこなかったのは、これを狙っていのか貴様!?」
「さあ――なんの事か分からないわ」
愛歌お姉ちゃん。そのブラックスマイルまじで怖いです。
「行きましょう士道」
「うん」
僕達は屋上を後にした。
「え。私達、ナチュラルに放置ですか!?」
「うろたえるな人斬り! これはあれじゃ! あれをこうして、ああするんじゃ!」
「ノッブが一番てんぱってるじゃないですか!?」
「あらあら。ホームルームが終わってしまったみたいね」
教室に戻ると、ちょうどクラスメイトとその家族が廊下に出ているところであった。
「みんな特に変わった様子はないけど、愛歌お姉ちゃん。沖田さん達のやらかしたさっきの記憶を操作でもしたの?」
愛歌お姉ちゃんならその程度造作もないだろう。
「ええ。少しだけね」
それなら安心だ。明日からは平穏な学校生活をおくることが出来るだろう。
「窓から飛びだしたのではなく、奇声と共に、ブレイクダンスしながら屋上に行ったことにしたわ」
「むしろ悪化してない!?」
グッパイ。僕の学校生活。
「冗談よ。普通に出ていったことにしたわ」
「ほ、ほんとだよね?」
たまに愛歌お姉ちゃん、笑えないレベルの悪戯をしてくるからすごく不安なんだけど。
「本当よ。まあでも、あなたはトイレに出た事にしたのに、生徒を一人残して、ホームルームを終わらせるなんてあなたの担任はいい度胸ね。ちょっと待っていて士道。お姉ちゃん、ちょっと先生と『お話』してくるわ」
「やめて下さい。死んでしまいます」
主に先生が。
「仕方ないよ。僕一人の為に、全体に迷惑をかけるわけにはいかないだろうし」
「大人ね。六歳児の発言じゃないわそれ」
「そう教育したのはお姉ちゃんでしょ」
後屋上のくだぐだコンビ。
「まあそうだけど。お姉ちゃんとしては、もう少し甘えて欲しいわ」
「十分甘えてるよ」
例えば今も、僕は愛歌お姉ちゃんの手をぎゅっと握っている。
「ねえ愛歌お姉ちゃん」
「なにかしら?」
ぽつりと、呟いてしまう。
「みんな、お父さんと、お母さんが一緒にいるね」
視線の先には、廊下を一緒に歩くクラスメイトと、その父と母の姿がある。
「あれが普通なんだよね?」
それは言っても意味のないことだ。両親の顔すら見たことのない僕が言った所で栓のないこと。
「ええ。そうね」
愛歌お姉ちゃんは肯定する。両親の事を聞く時、愛歌お姉ちゃんはいつも同じ顔をする。
憐れむとは似ていて違う。ただ申し訳ないように僕を見るのだ。
「お父さんとお母さんが恋しい?」
「どうなんだろう」
そもそも両親がどんなものかを知らないのだ。概念は知っている。だが、それはあくまで外枠にすぎなくて、肝心な中身を僕は知らない。
「でも知りたいとは思ってるよ」
だが両親の事が気になるのは確かだ。どうしようもなく、僕は両親の事が知りたい。
「僕のお父さんとお母さんはどこにいるの?」
それは何度も繰り返した質問であった。
だから僕は愛歌お姉ちゃんが、どう答えるのかを知っている。
「知らない方がいいわ」
そう。愛歌お姉ちゃんはいつもこう答える。
知らないではなく、知らない方がいいと。
全能の力を持つ愛歌お姉ちゃんが知らない方がいいと言う程だ。
間違いなく、僕の両親にはそれ相応の理由がある。
だがである。
「いっつもそう言って誤魔化すんだね」
それで納得出来るほど、僕は大人ではない。
「ずるいよ愛歌お姉ちゃんは」
拗ねたように、言ってしまう。
この発言に、なんの意味もない事は分かっている。いくら言葉を重ねても愛歌お姉ちゃんは決して口を割らないだろう。
しかしそれでも言わずにはいられなかった。
さっき愛歌お姉ちゃんは僕の事を大人だと言ったが、そんなことはない。
目の前の不条理になにも出来ない脆弱な子供でしかない。
だから余計に――
「仕方がない子ね」
こうして愛歌お姉ちゃんに抱き締められると、泣きそうになってしまう。
「時が来れば、必ず話すわ」
何度も繰り返された説得力がない言葉だ。
何かを言おうと、口を開く。とるに足らない子供の苦言を。自分勝手な発言がいくつも浮かぶ。
「それまでは私を信じて」
だが全てその一言で沈黙させられる。
「……」
殺し文句だと思った。大切な家族に、そんな事を言われてしまえば、なにも言えなくなってしまう。
「それまでは私がずっとそばにいるから」
抱き締める力が増し、より深く愛歌お姉ちゃんと密着する。
「……うん」
僕はただ頷いた。
納得したわけではない。だが僕は愛歌お姉ちゃんを信じている。
いつかは話してくれるという言葉で、今は十分だ。
そう自分に言い聞かせる。
だから今はもう少し愛歌お姉ちゃんの腕の中に――
「二人とも、学校のど真ん中でなにやってるんですか!?」
「オネショタじゃ! 学校のど真ん中でオネショタ展開が始まっておる!!」
いられなかった。とても聞き慣れた声が、耳に入ってきたからだ。
「あらあら。困ったわね。見られてしまったわ」
全然困った風ではなく、むしろ楽しそうに、愛歌お姉ちゃんは笑う。
抱擁が解かれたので、声がした方を見ると――
「なにやってるの二人とも」
そこには正座状態のまま、腕の力だけでこちらに接近してくる沖田さん達の姿があった。
「この程度の令呪で、最強無敵の沖田さんを止められると思わないで下さい! 足が使えないのなら、腕を使うまでです!! こふっ!!」
「皆殺しじゃ!! オカン系お姉さんの皮を被ったラスボスは皆殺しじゃ!!」
「面白い事をするわね。あの二人は」
いや、どちらかというと怖い。
正座したまま、凄い速度でこちらに接近してくる二人は、シュールを通り越して、ホラーだ。沖田さんなんて吐血しながらこっち来てるし。
「さあ、行きましょう士道」
さっきみたいに手を繋がれる。
「え、どこに?」
「決まってるでしょう? 怖い鬼さん達から逃げるのよ」
「あー」
成る程。そういう遊びか。
「うん!」
手を引かれながら、僕は走る。
さっき感じた寂しさがなくなるわけではない。
だが――
「沖田さんからはごばぁ! 逃げられま――ごぱぁ!! せんよ!」
「明らかに致死量の吐血をしながらそれでも止まらない病弱は置いておいて、第六天魔王の儂からはまじで逃げられんのじゃ!!」
それをなくしてくれる家族が僕にはいる。
今はそれだけで十分すぎる。