どうもはじめまして沙条 士道(6歳)です。沖田さんとノッブのマスターやってます 作:トキノ アユム
僕の朝は早い。いつも早朝には目を覚まし、洗面所に行く。
目的の場所に行くと、そこには先客がいた。
「おはよう愛歌お姉ちゃん」
そしてもっとはやく起きている愛歌お姉ちゃんに、挨拶をする。
「おはよう士道。今日も早起きね」
「お姉ちゃんには負けるよ」
「私は朝食の支度があるから起きてるだけよ」
そう。我が家の食事は基本的な全部愛歌お姉ちゃんが用意してくれている。
「準備、手伝おうか?」
「気持ちだけで十分よ。それよりも、沖田さんが道場で待ってるから、はやく行ってあげなさい」
「う。それは速く行かないとね」
稽古に遅れたら、後が怖い。
軽く顔を洗うと、僕は道場に向かった。
そう。うちには道場がある。
それどころか離れや土蔵まである。
一般的な家と比べたら広すぎるこの家の事を僕はあまり好きではなかったが、愛歌お姉ちゃんらしく『必要なもの』らしい。
「遅いですよ士道!」
道場では愛歌お姉ちゃんの言う通り、沖田さんが竹刀を持って待っていた。
「朝の鍛練はとても大事なんです! 一分一秒の積み重ねが、生死を分ける! つまり遅刻は厳禁ですよ!」
「と言っても、今鍛練開始十分前だけど?」
壁にかけてある時計を確認すると、朝の4時50分。
鍛練は5時スタートだから問題ないと思うのだが――
「遅いです! 三十分前には来るべきです!」
「えぇー」
理不尽だ。
「ていうか、沖田さん気合い入りすぎだよ」
「当たり前です!」
当たり前ときたか。
「私と士道が二人っきりになれる時間はこの時間しかないじゃないですか! なら少しでも長くいたいですとも!」
「はあ……」
よく分からないな。
「言ってくれたら、二人っきりになるよ?」
「え。本当ですか士道?」
「うん」
沖田さんが喜ぶなら、僕も嬉しいし。
「まあそれはそれとして、いつも通り素振りから始めるんだよね?」
「はい! 今日は特別に優しくしてあげますよ!」
「え、ほんと?」
それは助かる。いつもスパルタ気味の朝練だから、その後の学校が辛いんだよね。
今日は疲れなく、学校に行くことが出来――
「とりあえず、素振り一万回です!」
「あ、はい」
やっぱり沖田さんはスパルタだった。
スパルタ気味の朝練で一番きついのはなにかと聞かれれば、僕は迷わず最後のやつと答えるだろう。
鍛練の締め……模擬戦である。
まあ、模擬戦と言っても、勝ち目など微塵もない。
「駄目です! 集中しなさい士道!」
ひたすら殴られる。沖田さんの持っているのが竹刀ではなく、真剣であったのなら僕は今頃ミンチになっていただろう。
無論、反応できる攻撃には対処している。だが、いかんせんスペックが違いすぎる。
大体の攻撃が見えない。何か動いたという感覚は分かるのだが、それを感じた頃には身体を叩かれている。
「っ!」
あ、まずい。特に痛いのが来る。到来する激痛の予感に、思わず瞼を閉じてしまいそうになる。
「!」
だがそれを堪える。閉じた所で痛みがなくなるわけではない。ならば、これから来る痛みを意味のあるものにするべく……
「っ!」
逆に僕は目を見開く。
大上段に構えられた竹刀が、僕の脳天に降り下ろされる。
見えてはいる。だが対処は不可能。ならば――
(いい動きです)
沖田の士道に対する心中の評価は、発している言葉とは真逆であった。
同年代の時の自分をも上回る才能を、幼いマスターが持っているのは疑いようもない。
サーヴァントとして、そして『家族』として、とても誇らしい。
だが師範としては別だ。
教える側がこれでいいと妥協してしまえば、教え子の成長はそこで止まってしまう。
だから、加減はするが容赦はしない。
脳天に振り下ろす一撃も、殺傷とまではいかないが、意識を刈り取る程度の威力を加える。
竹刀での防御は間に合わない。だから、士道はこの一撃を受けるしかない。
そう思っていた。
師範としても。一人の剣士としても。
だから、彼の行動は予想外であった。
「があっ!!!」
振り下ろされる竹刀に対して、彼は逆に思いっきり頭を叩きつけて見せたのだ。
「!?」
砕ける音と共に、竹刀が折れる。
(士道!?)
思わず、士道の身を案じる沖田であったが――
その時、彼女は見た。
士道の目を。意識を失う所か、こちらを撃滅せんとする強い意志を秘めた士道の目を。
ぞくりと、背中に悪寒が走る。
この感覚には覚えがある。戦場では当たり前のように付きまとう感覚。
そう、死の予感だ。
「!」
沖田は咄嗟に構えを変える。
本来の彼女の構え。天然理心流の独特の構えに。
「っ!!」
そしてそこから折れた剣で突きを繰り出した。
(! しまった!?)
反射的にそれらの動作を終えた時には、全て手遅れだった。
「!?」
に付き出した折れた竹刀の剣先。
不幸中の幸いは、士道がこの攻撃に反応してくれたことだろう。
竹刀の剣先が額に達するよりもはやくに、彼は腕を滑り込ませていた。
「士道!」
剣士としての本能を憎みながら、沖田は士道が壁に吹っ飛ばされるのを見た。
世界が瞬間、震撼した。それ程の威力であった。
運が良かったのは、これを食らう前に、手を潜り込ませられたことぐらいだろう。
だがそれでも僕の身体は、吹っ飛ばされる。
背中から叩き付けられる事は、もうどうしようもないので、せめて死にませんようにと、目を閉じると――
「はい、そこまでよ」
覚悟していた痛みはなく、代わりに僕の背中が感じたのは柔らかい感触だった。
「あ、愛歌お姉ちゃん?」
「ええ。危ない所だったわね。士道」
エプロン服を着た愛歌お姉ちゃんが後ろから受け止めてくれたのだと気付く。
壁に吹っ飛ばされる程の速度もがあったはずだが、愛歌お姉ちゃんの事だ。『何とかした』のだろう。
「士道!! 大丈夫ですか!!??」
それよりも心配なのは、沖田さんだ。今にも泣きそうな顔でこっちに来ている。
僕が未熟なばかりに、沖田さんに心配をかけてしまっているのは明白なので、安心させるために僕は腕を上げ――
「全然大丈夫だよ、ほらこの通――」
ぼとりと、何かが床に落ちる音がした。
「きゃああああああああ!!!士道!!!???」
沖田さんの悲鳴を聞きながら、僕は「おや?」と思う。何か落ちるものがあっただろうかと。そう言えば、やけに腕が痛い。我慢は出来るが、気が狂いそうになるぐらい痛い。そのくせ、軽い。すごく軽い。
(ああ、そっか)
床に落ちたのは、僕の――
「見てはだめよ」
背後からの声と共に、愛歌お姉ちゃんの手によって視界を遮られる。
「くっつけてあげるから、そのままにしていて」
そう言われると共に、腕から痛みが失せる。
ああ、助かる。隠していたけど、とても痛かったんだよね。
流石は愛歌お姉ちゃん。僕の事をよく分かってる。
「ま、愛歌さん。それ、くっつきますよね? 何とかなりますよね?」
「大丈夫よ」
多分愛歌お姉ちゃんは、にこりと微笑んだのだと思う。視界が遮られているから、見る事は出来なかったが、僕は自信があった。
「でも沖田さん。私、士道の事は鍛えてあげてって頼んだけど、ここまでやってくれとは頼んでいないわ」
「え? あ、はい。そうですね。すいません。こっちもその、剣士としての直感がやばいと言ってきたから反射的にやってしまったと言いますか、なんと言いますか――」
「沖田さん」
「ひゃ、ひゃい!?」
「後で私と『お話』しましょうね」
そして沖田さんの絶望した顔をしたのを。
こっちは自信ではなく、確信であった。
ちょっとしたアクシデントはあったが、これが僕の朝の日常だ。
うん。普通だよね?