どうもはじめまして沙条 士道(6歳)です。沖田さんとノッブのマスターやってます 作:トキノ アユム
やはり物欲センサーは実在する!
「の、のう士道?」
「なにノッブ?」
「沖田の奴――どうしたんじゃ?」
「あー」
「……あ?大きな星がついたり消えたりしている……あっはは。……あぁ、大きい!彗星かなぁ?いや、違う。違うな。彗星はもっとこう……バァーッて動くもんな!」
訳の分からない事を言いながら、焦点の合わない目で視線をさ迷わせている。
うん。これ――
「ちょっと変だね」
「いやちょっとどころじゃないじゃろう!? 明らかに魂をどっかに連れていかれてるレベルの精神崩壊をしとるではないか!!」
そうだろうか? いつも大体こんな感じなような気が――
「そんなことないよ。ね、沖田さん」
「私、魔法少女になる!」
「会話が通じてない所かキャラが変わっておるぞこいつ……」
「うん。いつもと変わらないね」
「どこが!?」
むう。朝からノッブはテンションが高いな。
「沖田さんからも何か言ってやってよ」
「私はいつも通りだよ。ホムラちゃん」
「誰がホムラちゃんじゃ! おい愛歌! どうせ貴様の仕業じゃろう!?」
「ひどいわノッブ。何かあったら私を黒幕にするのは、あなたの悪い癖よ」
「なら貴様は無関係と?」
「ええ。ちょっと『お話』しただけだから」
「やっぱり貴様の仕業じゃねえか!!」
まあ、確かに。僕の周りで起こる不思議な事は大体愛歌お姉ちゃんが黒幕だからな、うん。
「なんとかせよ! 折角の旨い飯がまずくなる!」
「あら。誉めてくれるのは嬉しいけど、却下ね」
「……その心は?」
「私は今の沖田さんを見ていて、ごはんが美味しいから」
「この腐れ外道が!!」
……仕方がないな。このままじゃ、静かに朝ごはんも食べられそうにないから、自信はないけど、戻してみるか……
「沖田さん」
立ち上がり、沖田さんの背後に移動する。
「あ、キュウ――」
「ちょっとくすぐったいよ」
そして沖田さんの後頭部の一点を、神速の速さで突く。
「あべし!?」
「なにしとるんじゃ士道!?」
「え。愛歌お姉ちゃんに教えてもらったツボを突いたんだよ?」
「ツボというか秘孔じゃないのか? 今明らかに世紀末的な声が出てたんじゃが――」
「そんなことないよね沖田さん」
「ひでぶ……」
「やばいレベルの痙攣をしておるぞ!?」
これは――
「んー間違ったかな?」
愛歌お姉ちゃんに教えてもらった通りにやったつもりだったのだが。
「間違った? おい愛歌! このままだと沖田はどうなるんじゃ!?」
「え。頭がパ――んん!! いいえ。何も起こらないわ」
「今パンって言おうとしたよな!? 洒落にならんことをさらっと言おうとしたよな!?」
「そんな事ないわ。でも朝からそんなスプラッターな光景を士道に見せる訳にもいかないから、元に戻してあげる」
立ち上がり、沖田さんの前に立つと――
「士道。それはね――」
目にも見えぬ速度で愛歌お姉ちゃんは、沖田さんの額の一点を突いた。
「ほぶへぁ!? ……は! 私は何を――」
凄い。流石は愛歌お姉ちゃん。一発で沖田さんを元に戻した。
「……と、このようにやるのよ。士道覚えておきなさい」
「うん」
「もうやだ。この姉弟……」
なんて事も終わり、その後は静かにご飯を食べれた。食器も片付けられ、食後の温かいお茶を飲んでいると――
「そういえば士道。学校とやらが始まって一週間ほど経ったが、お主友は出来たのか?」
「え……」
ノッブの問いに、僕は思わず手に持つ湯飲みを落としそうになった。
「む。なんじゃその反応は? まさかお主、ボッチなのか?」
「いや、大丈夫だよ。ちゃんと友達作れてるよ。うん」
……本当はその逆だが。家族の皆に知られるわけにはいかない。
幸いノッブと沖田さんなら誤魔化しきれ――
「それは私も知りたいわ」
るのだが、食器の洗物を終えた愛歌お姉ちゃんが帰ってきてしまった。
「友達は……うん。たくさんいるよ」
「じゃあ、その友達の名前を言ってみなさい。大きな声で」
流石は愛歌お姉ちゃん。的確に僕の痛い所を突いてくる。
いつもなら嘘は割と得意なのだが、愛歌お姉ちゃんの前だと、どうも上手くいかない。
「確かゼパ――いや、ごめん。ド忘れしちゃったや。いやあ、ちゃんと友達はいるんだけど、しまったなー」
辛い。自分でもこの言い訳には無理がありすぎる。
「「「……」」」
そして痛い。保護者達からの憐れみがこもった視線が、心に痛すぎる。
「いやほら、僕にはロボがいるし……」
「あ奴は犬みたいなものじゃろう。というか士道。ここであれの名前しか出ないということはお主、本格的にボッチ――」
「やめてノッブ」
その言葉は僕に効く。
「「「……」」」
「あー、えと、うん」
これはもうあれだ。
「学校行ってきます!!」
「待てい! いつもより三十分は速いではないか!」
「今日は速く学校に行きたい気分なんだよ」
そういうのって普通にあるはずだ。
「いや、ぎりぎりで行くのが普通の子供っぽいって言って、いつもぎりぎりで出るじゃないですか!」
「今日は速く行くのが普通なんだよ」
そういうのも普通にあるはずだ。
「はい士道。今日はお弁当の日でしょう? 作っておいたから持っていって」
「ありがとう愛歌お姉ちゃん」
いつも助かってます。
「というわけで行って来ます!」
「士道!」
「待って下さい!」
待てと言われて待つ人は普通はいない。
僕はノッブ達の制止を振り切り、僕は家を出た。
「なんじゃ士道の奴、怪しさがトランザムしとるんじゃが……」
「もうアルティメット怪しいですね」
サーヴァント二人は怪訝そうな顔で家を出て行ったマスターの事を話していた。
「そう言えばこの前、うちの近くの公園の水飲み場で士道を見ました。何かを水で洗っているようでしたが、私が近くに行くと、上手い具合にはぐらかしていました」
「言われて見れば儂もその公園で上履きを洗っているのを見たな……」
「「……」」
二人は顔を見合わせ、首を傾げ合う。一体何が起こっているのかがさっぱり分からない。
こういう時はあれだ。
「というわけで何が起こっているのか教えるのじゃ愛歌」
我が家の全能さんに聞くしかない。
「ノッブ。あなた、私の事をなんでも出来る猫型ロボットか何かと勘違いしていない?」
「似たような物じゃろう」
いやむしろそれよりも勝っているとも言える。
猫型ロボットは『万能』であるが、この少女は『全能』なのだ。
「というわけでさっさと教えろマナえもん」
「しょうがないわねノッブ君は……士道が隠そうとしているんだから、気付かないフリをしてあげてね」
自分用の湯飲みに口をつけ、喉を潤すと、
少女は笑みを浮かべた。
それは見る者によっては、妖精のように見えただろう。
だがその本質を知る物から見れば、地獄すら生温い悪魔の笑みであった。
事実、かつて第六天魔王と呼ばれた信長でさえ、少女のその笑みには一瞬、背筋が凍る。
「あの子、学校で虐められているみたい」
いじめっ子達、超逃げて!!