TS転生してまさかのサブヒロインに。   作:まさきたま(サンキューカッス)

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※注意
前半には残酷描写が含まれます。苦手な方は▽▽▽▽▽の間を読み飛ばしてください。
後書きに、読み飛ばした部分の内容を短く纏めて記載しておきます。


「落星。」

▽▽▽▽▽

 

 魔族に、ロルバックと言う者がいた。

 

「魔王様、どうかお願いがございます。」

「なぁに?」

 

 彼は竜をその身に宿した魔族であり、筋骨隆々のその肩からは翼を生やし、鱗に覆われたその肉体はどんな強力な剣戟をも防ぐと言う。

 

 彼は、先代の魔王が目の前の少年に殺されてしまうまでずっと、魔王軍の切り込み隊長として働き続けていた。

 

 魔王の座が、人族の少年に乗っ取られてからもなお、彼は魔族全体のために奮戦し続けた。それは、彼の種族が”実力主義”でかつ”全体主義”と言う動物的な性質を持つからである。

 

 そんな龍族の長であるロルバックは、齢10にみたぬ人族の少年に頭を下げ続けていた。

 

「どうか、魔王様もご出陣を。」

「やだ、面倒くさい。」

 

 他の、好戦的な魔王軍は皆ミクアルを落とすべく出撃していった。自分達も彼らと共に出陣したかったのだが、ロルバックはグッとこらえ、魔王となった少年に必死で懇願する事にした。

 

 この少年が参戦してくれれば、きっと魔王軍の勝利は揺るがない。例え勇者達が出てこようとも、この少年一人で返り討ちにできるだろう。彼は、そう信じていた。

 

 ただし問題は、この魔王の戦意である。魔王となってからこの少年は、傍若無人に好き勝手に振る舞い、ロクに戦いに参加しようとしない。それを咎め、食ってかかった魔族は皆ボロ雑巾のようになるまでいたぶられ、しばらくの間魔王の玩具として扱われた。

 

 この少年は、人族でありながら、弱者をいたぶり快楽を得ると言う魔族の性質を体現していた。生まれついての勝利者で、生まれついての人格破綻者。

 

「このロルバックに出来ることなら、何でも致しましょう。玩具が欲しいのであれば、俺を存分にいたぶっても構わない。どうか、魔王様のご助力を。」

「ふぅん。」

 

 だが、この少年の実力は本物だった。ロルバックは、自分たち魔族のため、魔王軍のため、一人頭を下げる。本来なら蔑み、虐げてしかるべき人族の子供に、手を地面について頼み込む。

 

「・・・つまんないんだよなぁ。覚悟した人間をいたぶってもさぁ。あ、そうだロルバック、君には妻がいたよね?」

 

 その情けないロルバックの様を見た魔王は、加虐的な目でニンマリ笑う。どうやら彼の嗜虐心に火が付いたようだ。

 

「ソレ、ちょっと僕に貸してよ。何でもするって言ったよね?」

 

 ロルバックの顔が、ここで初めて動揺を見せた。

 

 

 

 

 

 

「うーん、やっぱ魔族の女にはあんまり興奮しないなぁ。僕、人間だしね。」

 

 ロルバックは、黙って見守る。彼の妻が、人族の少年の玩具となり痛めつけられるその様を。

 

 ロルバックの妻は、気丈にも受け入れたのだ。自分が魔王の玩具となることで、彼が戦意を高められるのなら耐えてみせると。魔族全体の為を想い、自己を差し出したのだ。

 

 それを聞いた少年は、それはそれは楽しそうに彼女の腕を引きちぎった。龍族である彼女の強靭な体を、まるでスルメを裂くかのごとくバラバラに裂いていく。

 

 辺りには蒼い血の海が広がり、彼の妻は目を虚ろにしながらも、悲鳴すら上げず懸命に、唇を噛み耐えていた。

 

「ま、魔王様。これ以上やると、妻は蘇生すらできなく・・・。」

 

だが、妻の生命力はどんどん弱っていく。 思わず、ロルバックは呻くように魔王に嘆願した。このままだと、一分持たずに妻は失血で死ぬだろう、だからどうかそろそろご容赦を、と。

 

「それが?」

 

 ・・・だが。魔王と呼ばれる少年に、そのような些細なことは関係ない。青ざめたロルバックの顔を嬉しそうに眺めながら、どさりと痙攣する彼の妻を地面に落とし、そしてその顔面を、嬉しそうに踏みつぶしてしまった。ぐしゃりと血飛沫が舞い、呆然としたロルバックの頬を濡らす。

 

「ねぇ、僕もうコイツに飽きちゃった。そういえばロルバック・・・。」

 

 機嫌良さげに笑う少年は、彼にあどけなくおねだりする。

 

「君、息子がいたよね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがて、日が暮れる。

 

 ロルバックの目の前には、次期頭領として大事に育てた才気あふれる我が子の、その千切り取られた四肢で乱雑に組み上げられたオブジェ。

 

 顔を踏み潰され物言わぬ骸となった、ともに生涯を誓い合った妻。

 

 それを楽しそうに眺めながら、魔王は血塗れになって遊んでいた。

 

「ちち、うえ。」

 

 彼の息子の口から、細い声がこぼれる。それは怨嗟か、懇願か。ロルバックの心境は、如何なるものか。

 

「なぁロルバック。この血まみれで苦しんでいるかわいそうな子供をさ、殺してあげなよ。」

「・・・魔王様。ど、どうか。」

「そしたらさ。僕も出陣するのを、考えてあげてもいいかな?」

「・・・あ。」

 

 妻は既に死んでいる。ここで拒否をすれば、きっと魔王は闘いには出向かないだろう。それでは何のために妻が死んだのかわからない。

 

 だが、息子は、我が子は既に自らの半身と言える。自分を継いで一族を纏め上げる、未来への希望なのだ。

 

「・・・息子よ、すまん。愛していたぞ。」

 

 ロルバックは、その半生をかけ育て上げた我が子を。血の涙を流し、震える手でグサリと串刺しにした。

 

 

 

 

「あーあ、本当にやっちゃった。」

「・・・。」

「いいねぇ、その顔。んー、僕も高ぶってきちゃったかな。」

「・・・。」

「抜け殻みたいだね、いいねぇいいねぇ。ああ、疼いてきちゃった。」

 

 少年は、無垢な笑顔で立ち上がり、大きく一度伸びをする。

 

「強者は他者を虐げてこそ、生を実感するのさロルバック。ああ、いい気分だ。盛り上がってしまった。これじゃ戦場に行かなきゃ収まんないよ。よかったね、君の奥さんと息子さんの死は無駄じゃなかったよ。」

「・・・。闘って、くださるので?」

「うん、良いよ、戦ったげる。ああ、ミクアルの人達が苛めがいのある連中だといいなぁ。このモヤモヤした欲望を受け止めてくれるような、そんな反応を見たいなぁ。ああ────」

 

 頬を染めて、ワクワクと何かに期待する少年。魔王は立ち上がり、そして歩き出す。

 

「楽しみだなぁ。」

 

 それは魔族にとっての闘いの転機となり、人族にとって最悪の顕現となる。

 

 ミクアルの里へと向けて、魔王が、出陣した────

 

 

 

 

▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて。

 

 我が故郷、ミクアルの里に魔王軍が接敵しているらしいこの状況。流星魔法が発動し、王都を直撃せんとしている今の状況。

 

 そんな時、ミクアルの里の(次期)村長で流星の秘術の継承者たるオレは。

 

「やっぱりユリィの作るブラウニーは美味ぇなぁ。」

 

 自分の部屋でまったりしているのだった。オレの部屋の周囲には十重二十重に防御結界が敷き詰められており、誰も出入り出来ない様になっている。そして食料も3日分もう既に部屋の中に備蓄されており、アルトが流星を何とかするまでオレの役割は自室謹慎である。

 

 ・・・何というか、暇です。やる事がなさすぎてユリィが作り置きしていたお菓子をボソボソと食べています。自分がゴネたせいでこうなった罪悪感というか、自分だけみんなが修羅場ってる時に何もやってない焦燥感というか、様々なアレで今の状況が針のむしろです。

 

 でもなにか手伝おうにも、攻撃魔法は専門外でそのへんの魔道士と知識量変わらないんだよなぁ。資料を入手できるようなツテもない。精々、修行から帰って来たアルトが怪我してたら癒してあげられる程度。

 

 やべぇ。勇者パーティの無能担当とか言われかねんぞオレ。

 

 まぁ、万一。万一アルトでもどうにもできなさそうなら・・・。ほっといても流星魔法で死ぬこの状況で命を惜しむ意味はなく、アルトの為に秘術使うっていう割と大事な役割もあるけど。どうせ死んじゃうならアルトだけでも生き残って欲しい感情はある。アルトはオレ以外にも恋人いるし、その人と睦まじく生きていくだろう。

 

 ・・・うわぁ、そう考えるとすっごいヤダな。アルト、マジで何とかしてくれよ?

 

 

 

 その日は、アルトが修行に出かけたまま結局帰ってこず。4人娘も忙しそうにワタワタと走り回っており、バーディも部屋の外で一日中見張りをしてくれていた。

 

 その日の、夜。暇すぎて昼間にごろごろ寝ていたオレはまるで寝付けず、暗い夜を一人寂しく耐えていた矢先。突如、部屋にしかけられた結界が発動した。即座に飛び起きて、戦闘態勢を取る。

 

 結界魔法の発動後、俄然として部屋の外が騒がしくなり戦闘音が木霊していた。部屋の中に敵が入ってきた気配はない。念のため数分の間構えていたが、やがて音は鳴りやむ。

 

「・・・バーディ、どうなってる?」

「起きてたのかフィオ、心配はいらん。案の定、誘拐目的の裏の人間が襲ってきやがったのよ。だがもう鎮圧してるぜ?」

「そっか、ありがとな。・・・本当にスマン。」

「何だ、らしくねぇな。いつもなら”うるせぇんだよ、音もなく始末しろ”とか意味わからねぇ文句垂れる癖に。」

 

 戦闘直後で高ぶっているであろうバーディは、含み笑いをしながら何時もの様に冗談を飛ばした。

 

「オレは恩知らずじゃないんでな、義理と人情に生きる清廉潔白なフィオちゃんなんだ。」

「性欲と金銭欲に生きるゲスロリがなんだって?」

「・・・はは。もう寝るよバーディ、おやすみ。」

「ああ。あんま、気にすんなよフィオ。」

 

 明らかに、気遣われている。本当に良い奴だ、バーディは。いやアルトも、あの4人だって今日は一日中オレの為に奮闘してくれていた。ルートなんか非戦闘員なのに、たった一人でミクアルへ行ってくれた。

 

 みんな本当に良い奴だ。死ぬのが怖くて、部屋に篭ってるオレは何なんだろう。

 

 結局その日は、よく眠れなかった。

 

 

 

 

 

 次の日。昼前にアルトは帰ってきた。

 

 部屋の窓から見下ろすと、外の庭で何やかんやと皆が騒いでいる。何やら、4人娘とアルトがかなり複雑な紋様の魔法陣を描いている様子だ。

 

 オレはあまり攻撃魔法に詳しくは無いのだが、一応は魔法使いだ。見るからに難解なその術式の、その意味の端くれなら理解できる。

 

 相反する属性の魔力をかち合わせ暴走を意図的に引き起こし、その結果生まれる大規模な爆発に指向性を持たせた上で、更にソレを歯車のような回路で威力を増幅させる。・・・正気の沙汰では無い、あんな複雑な魔法をオレが起動したら、間違いなく制御しきれずに此処ら一帯を更地にするだろう。

 

 目と耳を塞いだ状態で平均台の上を全力疾走しつつ、片手で針に糸を通しながら、もう一方の手でジャグリングし、同時に口で長々と暗記した漢文を諳んじる。

 

 例えるなら、そんな馬鹿げた作業。あのアルトとは言え本当に出来るのか、疑問ではある。まぁ奴なら成功させるんだろうけど。

 

 有り得ない難易度の術式を呆れながら眺めていたら、更にレイが悪ふざけとしか言えないような魔力のブースト機構を外付けし始めた。それにユリィが乗っかって、別の回路で魔法陣を補強していく。

 

 アルトはソレを満足そうに頷きながら、魔法陣の中心にドサリと腰を下ろし瞑想を始めた。集中力と魔力を高める心算だろう。何せ、あんな術式、少し失敗しただけで王都丸ごと吹っ飛ぶからな。

 

 ・・・何でレイはニヤニヤしながら、そんな超危険な回路を弄り倒せるの? そもそも、本気であんな核兵器染みた魔法陣をウチの庭で行使するの?

 

 攻撃魔法オタクの考えることはよく分からん。その日は、いつ魔法陣が暴発するか恐ろしくて寝られなかった。

 

 

 

 

 

 そして、3日目。昼間だというのに、空には巨大な光が燦々と煌めいているのが見える。あれが、タイムリミットの権現。遂に流星が、この星の目前へと迫ってきてしまった。

 

 朝日が照りつけた頃に庭を見下ろすと、魔法陣は更に難解になっていた。その術式は既にオレの理解できる範疇を遙かに超えており、場所が足りなかったのか庭から魔法陣がはみ出して公道にまで広がっている。

 

 何だあれ。仮に成功しても、余波だけでこのアジトごと吹っ飛ぶだろ。

 

 レイとユリィは、その魔法陣の外郭にやり遂げた顔でぶっ倒れていた。リンとマーミャは、二人を介抱している。

 

 そしてアルトは一人、庭に座り、空を見上げていた。昨日からアルトの位置が変わっていない、恐らく一日中瞑想していたのだろう。奴から、凄まじい魔力を感じる。人間の蓄えられる魔力のその限界を、二回り位超えている気がする。

 

 凄まじいな。あんな馬鹿魔力をマジで制御できるのか。しかも、そんな馬鹿魔力を複雑難解な魔法陣に、正確無比に流せるのか。

 

 

 

 そしてアルトが、ゆっくりと立ち上がった。奴の周りに、見ているだけで気が遠くなりそうな魔力の渦が立ち込める。

 

 そして、詠唱が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ヒヤヒヤするなぁ、本当に。所々、魔法陣が焦げ付いてるじゃねーか。」

 

 その様子を窓から眺めているだけで、冷や汗が止まらない。膨大過ぎる魔力を、クモの糸の様に繊細な陣に正確に走らせるその制御力は、オレでは真似できん。魔力制御には自信ある方、と言うか王国トップクラスの実力はあるつもりなんだが、アルトは本当に格が違う。

 

 所々魔法陣がショートしかけてはいるが、今のところちゃんと制御は出来ている。我が家の庭全体にに凄まじいほどの魔力が濁流の如く這いまわり、庭の草木がボロボロに舞い上がっている。うちの庭をいつも手入れしてくれているメイドさんが見たら発狂しそうな状況だ。

 

 そして、最後の回路となるアルトを中心とした魔法陣に差し掛かり、アルトが光に飲まれ、

 

 

「天元は我の定めに従わん・・・星砕き(スターブレイク)!!」

 

 

 その詠唱と共に、一筋の極光が流星を包み込んだ。人知を超えた、現代の魔術師に出せる最大火力であろうその大魔法は、この庭のみならず王国全体を眩く照らしあげる。

 

 特筆すべきは、発動したその魔法が完璧な指向性を持っている事だ。太古の勇者が失敗したときの様な、反動で山が消し飛んだりする不細工な術式ではない。完全に統制され、制御されたその魔力の奔流は正確無比な一筋の光となって流星と相対した。

 

 地上より空へ飛ぶ流れ星。アルトの放ったその魔法は、例えるならばそんな大魔法。流星に流星をぶつけたのだ、アイツは。

 

 

 そして、その結果。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────あ。」

 

 

 その大魔法により、迫りくる流星の外殻の、その僅かな体積が削り取られ蒸発した。

 

 ほんの少し流星は小さくなり、勢いもそのままにアルトの放った魔法を貫いて、魔族の放った流星は空に妖しく君臨している。

 

 

 

 ────失敗。

 

 

 

 庭を窓から見下ろすと、アルトはドサリと気を失う所だった。無理もない、あんな馬鹿げた魔法を制御したら、誰だってそうなる。

 

 これが流星魔法。かつて、数多の人族の国を滅ぼした、魔族の究極技法。

 

 結局、アルトの大魔法は、300年前の勇者達の迎撃記録の再現となっただけだった。

 




次回更新は10月22日です。

☆前半の内容☆

上半身裸、筋骨隆々のイケメン魔族ロルバック(新キャラ)は、魔族全体を慮り、魔王に出陣を嘆願していた!

ロル「お願いします! 出陣してください! 何でもしますんで!」
魔王「ん? 今何でもするって言ったよね?」

 迂闊に何でもすると言ったばかりに魔王の欲望をそのまま受け止める事になったロルバックは、そのあまりの激しさに白目を向いてビクンビクンしてしまう。

 だが、そんなロルバックにエクスタシーした魔王は「しょうがねぇなあ」と慈悲の心満載でミクアルの里へ出陣を決意するのだった。

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