TS転生してまさかのサブヒロインに。 作:まさきたま(サンキューカッス)
「は? 何寝言ほざいてんの? 脳味噌えぐり出して糞と一緒に炊き込んでやろうか?」
「・・・うるさい。レイ、お前はとっくに対象外だから諦めろ。アルトはウチのだ。」
「わ、わた、わたたしと! 私に、私にアルト様がぁぁ!!」
「何をドサクサに紛れて抱きつこうとしてる淫乱修道女!」
ああ。オレは、帰ってきた。
もう2度と味わえないと思っていた日常。諦めるしかないと、1度は投げ捨てた平和な光景。
感無量である。
「・・・女狐。ウチのアルトから離れろ。」
「駄シスター!! 不快な乳袋をアルトに押し付けてるんじゃ無いぞ殺すぞ!」
「その、その、私は離れません!!」
「良し分かった。その脂肪の塊をゴッソリ切り落としてやる、ソコに直れ。」
オレが座る円形テーブルの隣では、いつもの様に4人がアルトに詰め寄ってギャアギャアと騒いでいる。
以前は煩くて仕方が無かったこの言い争いも、今のオレにとっては生を実感出来る貴重な光景だ。むしろ、この険悪な空気でこそ勇者パーティと言えるだろう。
だからオレは、このかけがえのない日常をを生きて過ごせる喜びを一杯に噛み締め、万感の思いを込めて呟いた。
「・・・あぁ。なんて平和な光景なんだ。」
「フィオ、お前の目玉腐ってるんじゃねぇか?」
「おかしいなぁ。味方の筈なのに、魔王より禍々しいオーラ放ってるんだけどあの4人。」
ううむ。ルートとバーディは風情を介さぬ奴らだな。このギスギス感が良いのに。
3日前、流星魔法がアルトに叩き切られた事でオレは九死に一生を得ることが出来た。
案の定、星を斬ったアルトは結果を報告すべくオレの部屋に飛び込んできたらしい。そこで、部屋に残してたオレの遺書やら何やらを見られてしまい、全員が色を失ったと言う。
そんな修羅場にノコノコとバーディに担がれ帰って来たもんだから、オレは凄まじい勢いで怒られた。
・・・でも、その時オレは言い訳もせず、嬉し涙を流しながら素直に説教を受け入れた。
死なずに済んだ事、コレからも皆と一緒に笑えること、またアルトの隣に居られること。
いくら泣いても、泣き足りなかった。やがて皆の怒りも収まったのか罵声が止み、号泣しているオレをユリィが微笑みながら抱き締めてくれて、その日は泣き疲れてそのまま寝てしまった。翌日、皆にからかわれたのは少し恥ずかしかった。
その数日後、ルートが帰還し、魔王軍撤退の知らせが王都に届いてからは本格的にお祭り騒ぎとなった。アルトが流星を叩き斬った日にも国中で宴会をやっていたのに、どこに酒が隠してあったのか民衆はまたそこら中で酒盛りが始まっている。オレ達勇者一行はそこら中で宴に誘われ、軽く参加し先々で酒を分けて貰った。
このペースで酒が消費されると、国を捨てて逃げた連中が帰ってくる頃には王都に一本も酒が残っていないだろう。
「アルト様、怖いですー。」
「ああ!? アルトに隠れてんじゃねぇぞ年増駄乳デブが!」
「・・・殺せる。女狐が次の呼吸を終えるまでに、187通りの手段で暗殺が決行出来る。」
「あはは、今宵の我が剣は血に飢えている様だ。シスターの血を吸えば、さぞかし美味であるだろうなぁ!」
オレ達パーティも、気の良い民からお裾分けいただいた酒類をアジトに持ち帰り、ルートの帰還祝いと魔族撤退を祝しての宴を始めた。
その結果がコレである。宴のさなか、”そう言えば、バーディが指定した恋人を指名する期限って今日までだったよね”とルートが呟き、4人娘が豹変し大舌戦が始まったのだ。酔って口が滑ったのだろう、ルートは喋った直後に”しまった”と言った表情で頭を掻いた。可愛い。
さて、以前までのオレならここでさっと部屋を出て、口を滑らせたルートを言葉責めしつつ女装を強要したのだろうが。
オレは、アルトを信じる。今回でアルトの奴は、決める時には決める男だと改めて再認識したのだ。もうオレはアイツを疑わない。そう、だから。
────アルトなら、この凄まじい修羅場も難なく切り抜けて見せるに違いない。
どんな手段で誤魔化しにかかるかはちょっと読めないが、オレを誤魔化しにかかる時はうまく乗っかってやらないとな。アイツ、少なくともレイとマーミャには手を出してるっぽいし。
リンとユリィはどうなんだろ。とっくにヤられてんのかなぁ。2年もパーティ組んでるもんな、オレの攻略が最後でパーティ女子全制覇とか普通にあり得るよな。
別にそれでも良いよ、惚れた方の負けなんだ。オレは黙って見ててやるから、うまくこの場を収めてくれアルト。
「ユーリーィ? はーなーれーろ? 顔を剥いでマスクにしてコレクションしてやろうか?」
「ふ、ふふふ! 嫌です、アルト様は私と、私と結婚するんです! 今日はそれを宣言する日なんです!」
「おやユリィは気が狂ったようだ。我が剣で頭を両断して治してやろう。」
「・・・女狐、嘘は自分を傷つけるだけ。具体的には、私が治癒不能の攻撃で顔面をズタボロにしてやる。」
おお、こわいこわい。
アルトの浮気に気付いていると気が楽だなぁ。胃が穴だらけになりそうな仁義なき女の争いを、のんびり野次馬根性で眺められる。
「・・・おいフィオ、良いのか?」
「あん? ああバーディ、大丈夫大丈夫。」
オレとアルトが恋仲だと知ってるバーディが、こっそり耳打ちして来た。良いのだよ、オレはいちいち浮気に目くじらを立てたりしない女なのだ。都合が良い女ともいえるけど、アルトと恋人で居られるならそれで十分。むしろ、アルト程の色男なら浮気して当然ってもんだろ。
「ほら! はっきり言っちゃってくださいアルト様!! 私とはもう結婚を約束した仲だって!!」
「は?」
「・・・はぁ?」
「・・・・・・・はぁぁぁぁ!!?」
ほほう。
成る程、アルトの本命はユリィだったのか。意外な所だが、冷静に考えるとまぁ納得だな。ユリィは何だかんだあの4人では一番優しいし愛嬌あるし、乳もデカいし。
・・・アルトは真性のおっぱい野郎だ。忌々しい脂肪の塊であるユリィを選ぶのは当然の帰結だったか。
「まままままままままままままみゃああああああ!!」
「・・・嘘嘘嘘。ねねねぇぇぇアルト、どう言う事ととととととと?」
「」(白目)
とはいえ、誤魔化す暇もなく本命がバレちゃったなアルト。この場をどう言い繕う気なんだろう。3人とも、顔面に力が入りすぎて見たことない表情になってるぞ。
「・・・ユリィ。」
「はい、アルト様!」
アルトは真剣な顔で、ユリィと見つめ合う。
・・・ここでキスとか始めないでくれよ。流石に我慢できず妬くぞ、オレも。
「・・・その、本当にすまない、何の話だ?」
「ええええええ!?」
だがアルト、ここでまさかの全否定。これは酷ぇ、つまりユリィは本命じゃなかったって事か? 結婚をチラつかせておいて、本妻は別に居るとかなかなかの外道よな。
「その、すまない。本当に覚えが無いんだ。」
「だって、その、この前アルト様私に買ってくださったじゃないですか!! リリィの花飾り!!」
「え、ああ、そんな事もあったな。それがどうかしたのか?」
「リリィの花は、婚約者に渡す花じゃないですか! え、あれ、そういう意味じゃ・・・?」
・・・って。リリィの花飾り貰った? それだけ?
「・・・確かにリリィの花には婚約する時に渡す、結婚の象徴という文化の土地もある。・・・でもそれ、かなりマイナーな文化。女狐、王都ではリリィは単なる綺麗な花に過ぎないぞ。」
「何だ、くだらない。勘違いして舞い上がるとは、何て恥ずかしい女だ。」
「ふぅ。良かった、ユリィが馬鹿で本当によかった。」
「そ、そんにゃあぁぁ。」
へたり、とユリィがその場に崩れ落ちる。
確かにそんな文化が有るのはオレも知ってるけど、それ確かかなり遠い森の部族の文化とかじゃなかったか。王都でそれは無理があるぞユリィ。
「よし、これで雑魚が一人消えた。さてアルト・・・。っておい、離れろ駄ロリ。私のアルトに抱きつくな。」
「・・・嫌。アルト、だっこ。」
「おいリン。お前のボディではアルトの誘惑は無理だからやめておけ。ついでにレイのボディでも誘惑は無理だ。つまり、2人ともとっとと離れろ。」
「殺すぞ脳筋剣士。」
1人が脱落し、残り3人のデットヒートが始まった。別にフラれた訳ではないのに、ユリィが完全に敗北した扱いになっていて笑える。不服そうにへたり込んでいるユリィが愛くるしい、撫でてあげたい。
「・・・アルト。ウチ、アルトの為にあんなにシたんだよ。だからウチを選んで。」
「なーに盛ってやがる根暗ロリが。意味深な言葉使いやがってどうせ下らない事なんだろ。」
頬を染め、恥ずかしそうにアルトへ肩を寄せるリン。随分と意味深なこと言ってるけど、リンはアルトに手を出されてるのかね?
さて、アルトの反応は、と。うわぁ、めっちゃ目が泳いでる。
「・・・アルト?」
「おいアルト。なぁ、何で今、顔を背けた? 何で今、リンが”シた”とか言った瞬間に顔を背けた?」
「・・・ふふ、アルト、思い出しちゃった? そんで照れてるん?」
「このクソガキ何しやがったぁぁぁぁ!?」
おっとぉ。やっぱリンの奴も、アルトに手を出されてたのか。リンに抱き着かれたまま、アルトが冷や汗をダラダラ流してて超ウケる。
「・・・リン。その、ああいう事はあまり他人にはだな。」
「・・・アルト以外にはしないし。」
「え、待ってアルト冗談だよな? リン如きに発情するような奴じゃないよな? それは犯罪だぞアルトォ!」
「リン、に。出し抜かれた、だと!? この剣術の名門貴族たる私が、リンに!?」
おお、4人娘で最弱と思われていたリンの、まさかの肉体関係に皆大焦りだ。残念だったな、アルトの奴はオレの貧相ボディでも興奮して獣になる変態さんである。リンが守備範囲でも、全く不思議ではない。
「・・・その、ウチ恥ずかしいの我慢して、お風呂場で裸で。」
「なんで私はこのクソガキを放っておいたんだ! 私の馬鹿! 昔から盗賊職は淫乱って決まっていたじゃないか! 身体で情報を抜いてくる色狂いしかいないに決まってるじゃないか!」
「アル、アルト、犯罪だ、これは性犯罪だ、実家の権力を頼って懲役ににににににに!」
「待て、落ち着いてくれレイ、マーミャ! これは違うんだ、俺にイヤらしい下心が有った訳じゃなくてだな!」
リンと風呂場で裸になって二人きりの時点で、イヤらしい下心が無くて何だというのか。どうせ大車輪でもしてたんだろ。
「俺はリンが、死んだ兄を思い出して恋しいって言うから、たまに一緒に風呂に入ってるだけで! それ以外は神に誓って何もしていない!」
「それだけじゃなく、ウチ、洗いっことかもいっぱいシたし・・・。」
・・・って、それだけかい。
「お、驚かせるなよオイ。所詮、お子様か。」
「なぁ、リン。貴様、確かに死んだ兄がいたんだろうが、お前はその家族の事を毛嫌いしてなかったか? 実家が嫌で逃げ出したんじゃなかったか?」
「・・・ふふ、ウチ、嘘は吐いてない。兄が死んだのも、一人でお風呂が寂しいのも、嘘じゃない。・・・くくく、もう遅い。ウチとアルトは裸の関係・・・。」
結局、一緒に風呂入ってたのは事実だけど結局リンと肉体関係無い様だ。なーんだ。
「いや、単に異性として見られてなかったから一緒に風呂入ってたんじゃね?」
「女性として意識されてたら風呂とか断るだろう、アルトなら。」
「!?」
「確かに、俺もリンなら一緒に風呂入っても気まずく無かったから、許可したしな。」
「!!?」
若干目が泳いだままアルトはロリコン疑惑を切って捨てる。その残酷な言葉にリンは目を見開き、喀血して果てた。
・・・絶対嘘だ。アイツ、間違いなくイヤらしい目でリンの事見てたぞ。オレとリン、体型そんなに変わんねーじゃねーか。自分に降りかかりそうなロリコン疑惑を躱すために、敢えて強い言葉を使いやがったな。
ついでにチラチラと、焦りながらオレの方見てんじゃねーよ。オレまで巻き込まれるからやめろ。
「・・・馬鹿、な。」
「駄ロリが死んだか。くく、これで貴様を倒せば私の勝利だな。」
「お前はもう対象外だと気付けレイ。必然的に、残った私がアルトと婚約するんだ。」
「そもそも、生き残ったら勝者と言うルールなんて無いと思います・・・。」
でもアルトが、リンに手は出していなかったようで安心した。体型がオレと変わらないとはいえ、リンはまだ子供だ。犯罪性では、オレに手を出すより遥かに重いと言えるだろう。
リン、精神年齢は小学生くらいだしな。
「私はホテルでアルトと裸の付き合いをした女だぞ、既成事実と言っても過言ではない。」
「レイ、流れるように自分の都合の悪い話を伏せるお前の悪辣さには反吐が出るぞ。」
「とは言っても、事実として私は生まれたままの姿をアルトに見られてしまっている。これは責任を取って結婚してもらうしかない。」
「・・・ウチもお風呂一緒だし、見られてるし。と言うかレイ、お前は無理やりアルトをホテルに連れ込んで裸を見せつけただけ。・・・ただの痴女。」
「そもそも、その件でアルトに凄く怒られたんじゃなかったか?」
・・・おや。
「アルトの人の好い所につけ込んで、相談があると言ってホテルに連れ込んだんだっけか。」
「レイ。俺は正直、あの件に関してはまだ怒ってるからな。」
「え、えっと。でも、私の裸見れたんだし、それでおあいこって────」
「人の信頼を裏切るな、と。何度言わせる? きちんと反省はしているのかレイ。」
「・・・ごめんなさい。」
お、おや? ホテルって、今の話って、ひょっとしてあの日の事か?
アルトは単に、レイに騙されてホテルに連れ込まれただけ? ちょ、ちょっと待って。じゃあ何か、ひょっとしてオレの勘違いなのか、レイとアルトの関係って。
「こうなるとやはり、残された私がアルトの相手にふさわしいと、そういう事だな。」
「待ってください、それは納得できません。生き残り制で勝負を決めるのは間違っているでしょう!」
「とはいえ、なぁ。私は、自分でいうのもなんだがそこそこの家柄と地位のある女だ。強大な力には、嫉妬や煩わしい権力争いが常に付きまとう。だが、勇者パーティで最強の存在であるアルトが、この国に根付いた貴族である私と婚姻することで、色々と面倒が無くなるだろう。」
「ぐぎぎ、ここぞとばかりに権力を使ってくる。駄剣士の癖に、駄剣士の癖に。」
「・・・コイツは、馬鹿の癖に昔からちゃっかり美味しい所を持っていく。」
となると、マーミャはどうなんだ? 確か王宮で、一瞬だけアルトと婚約の噂が流れたんだっけ。
「以前レイが、とても有りがたい噂を流してくれたしなァ。噂の下地が有れば、王宮で私とアルトが婚姻しても誰も文句を言わず祝福してくれるだろうなァ。どうもありがとう、レイ。」
「ぐ、ぐぎぎ、おのれ糞剣士。」
「・・・レイ、本当にタチの悪い事をしてくれたな・・・。」
「なんて、なんて余計な事をしでかしたんですかレイさん! そんなの、そんなの絶対認め────」
レイが噂を流しただと? マーミャとアルトの? ああ、成る程。マーミャを貶める狙いか。
え、じゃあ、アルトとマーミャの間にも、肉体関係とか無いのか? 根も葉もない、噂?
「4人とも落ち着け。マーミャ、すまないが君と婚約するつもりはない。」
「な、何故だアルト!」
「・・・実は、王宮内の教会で噂の火消しをする時に、誤解を解くため金輪際マーミャと男女関係にならないと言った旨を神に誓っている。それを破ってしまえば、教会にどんな顔をされるか・・・。」
「あ!! そう言えばアルト様、そんなこと言っていました!」
「ちょ、えええええ!? アルト、馬鹿、どうしてそんな事を!?」
「すまん、噂の火消しに必死でな。・・・すまん。そもそも、打算で好きでもない男と婚約するなど良くないぞ?」
「そん、な。」
「駄剣士が死んだか。」
「・・・無事全滅。何となく予想出来てたけど。これどうするの?」
そうか。全て、誤解だったのか。
アルトは浮気なんかしていなくて、ちゃんとオレだけを見てくれていたんだ。何てオレは馬鹿なんだ。
何が有ってもアルトを信じるって決心したその日から、アルトを信用して無かったなんて。そうだよ、あんなに真面目で真摯な奴が、恋人を裏切るような真似をする訳が無いじゃないか。
ゴメン、ゴメンよアルト。お前は浮気なんてしてなくて、ずっとオレ一筋で、それで・・・。
それで・・・。
・・・それで、この状況は不味いんじゃないか。さっきからアルトがチラチラ、許可を求めるかのようにオレを見ている。つまり、それって、バラしても良いかって事?
「お、おいフィオ。本当に大丈夫なのか、ここに居て。」
「む? バーディ、フィオがここに居ると何か不味いのかい?」
「・・・はっ!?」
隣に座ったバーディが、珍しく心底心配した表情で声をかけてくる。そうか、さっきの大丈夫かってそういう意味か。間もなくオレとアルトの関係が暴露されるであろうこの状況で、ここに居ても問題ないのかとそう聞いていたのか。
さて、此処で問題です。今、オレとアルトの関係が発覚するとどうなるでしょう。
解答:ミンチよりひでぇや。
こ、ここ、こんなところに居られるか! 逃走だ、オレの明日の為に、せっかく拾った命を長らえる為に、すぐさま戦略的撤退だ!
馬鹿か、馬鹿なのかオレは。どうしてオレは悠長に、4人の言い合いを眺めていた? この状況、地雷原でタップダンスしている方がまだ生存率が高いわ。
いかん、一刻も早く脱出せねば。そうと決まれば、自然に、かつスピィーディーにこの部屋を抜けるぞ。そして、ひっそりとミクアルの里に実家帰りして、ほとぼりの冷めた頃にアルトを呼びよせよう。
そして、一生ミクアルから出ずに幸せに暮らす。めでたしめでたし。よし、このプランだ。
・・・あばよ、4人娘。色々と申し訳ない気持ちで一杯だが、オレは命が惜しいんだ。まだアルトとイチャイチャしたり子供を産んだりとやり残したことが山のようにある。ここで死ぬ訳にはいかないんだ。
よし、ここは音もなく気配もなく移動できるY字平行移動法を使おう。司祭直伝、本来は女湯覗きの為の奥義だが、脱走にももってこいの技なのだ。
「ま、待ってくれフィオ!!」
おろ?
「ご、誤解なんだ! 本当に違う、俺はあの4人とは本当に何でもないから、信じてくれ!」
こっそりと部屋から逃げ去るべく、立ち上がったオレの肩をギッシリと掴む奴が居る。
背中にイヤな汗をかきながら頬をヒクつかせて振り返ると、かなり焦った表情のアルトがオレの肩を掴んで嘆願していた。
「俺が、俺が本当に好きなのはフィオ、お前だけなんだ。だから、見捨てないでくれ!」
・・・知ってる。と言うか、さっき気付いたよアルト。お前は、浮気なんかしない一途な男だったってな。だから、オレの肩を放してくれ。ヤバいってこれ。今、尋常でない悪寒が走ったから早く逃がしてくれマイダーリン。
「・・・どういうことですかー? フィオさーん?」
聞こえない。オレは何も聞こえない。
「・・・は(威圧)? はぁ(疑問)? ほほぉ(理解)」
「・・・・・・。■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■────!!!!」
「めけーも!! めけーも!! クッキー冷やしといたん食ったやろブーン!!」
何も感じていない。オレの背後が阿鼻叫喚な気がするけど、きっと気のせい。
・・・ああ。短い人生だったなぁ。やり残したこと、やり忘れた事、まだまだいっぱいあるのになぁ。なぁ村長、オレもうすぐ、そっちに行くみたいだ。
とんとん、と。アルトに掴まれた腕の反対側を突っつかれる感触。やはりオレは、逃れられなかったようだ。
「フィオさん。」
「何だいユリィ。ふふ、今日の君は一段と可愛いね。ただ、目にハイライトを忘れてるよ。早く付けてきなさい?」
「ねぇフィオさん・・・。」
「何だいユリィ? 一つ忠告だけど、髪の毛を口にくわえるのは不衛生だからやめた方が良いぜ?」
「うふふ、フィオさん。────おめでとうございます。」
「へ?」
オレの耳に流れて来たのは、罵倒や呪詛ではなく、まさかの祝福だった。
「え、あ・・・。ユ、ユリィ?」
ニコニコと、ユリィはオレに微笑みかける、まるで、聖母の如く。
「・・・おめでとう。」
そして。音もなく現れたリンが、やはりオレに祝福の言葉をかけてきた。ま、まさか。許されるのか、オレは。
「おめでとう。」
「おめでとう。」
「おめでとう。」
何時の間にやら、である。
気付けばオレは、4人娘に円状に囲まれながら、パチパチと拍手をされ祝福を受けていた。
ま、まさか、このオレが祝福されるだと? 全員の目にハイライトが無いのが気になるけど、どうやらオレは許されてしまうようだ。
「おめでとう。」
「おめでとう。」
「おめでとう。」
「おめでとう。」
おや。いつの間にかオレの肩を掴んでいたアルトだけが、4人娘の外に弾き出された。おかしいな、こういう時に祝福するならアルトもセットじゃないの? オレばっかり祝福して貰って悪いなぁ。
「おめでとう。」
「おめでとう。」
「おめでとう。」
「おめでとう。」
まぁ、祝福されてしまったものは仕方が無いな。きちんと、お礼を言わないと。パチパチと手を叩く4人娘にオレは満面の笑みを作り、そして、
「ありがっ────」
お礼を言いかけたその瞬間、オレの意識が暗転したのだった。アルェー?
「南無。」
「南無南無。」
「フィ・・・フィオォォォォォッ!?」
完
【あとがき】
本話にて、「TS転生してまさかのサブヒロインに。」は完結となります。まず最初に、ここまで読んで頂いた読者の皆様に、長期にわたりお付き合い頂いたことを厚く御礼申し上げます。
そして、中盤からあまり返信できませんでしたが、連載中にたくさんのご感想・ご評価をいただき本当にありがとうございました。頂いた感想は全て目を通しております、執筆をつづける1番のモチベーションになっておりました。
最後に、投稿前の原稿を目を通して頂いたり助言してくださったりした師匠や兄弟弟子にも感謝を。R18チェックと称してエロ小説を元同級生の男から送信される苦痛に耐え、編集の様な事してもらって本当にありがとうございました。
さて、まずは本編のQ&Aをさせていただきます。感想で頂いた質問とか、裏設定とかをそれとなく解説させていただきましょう。
Q結局魔王に障壁を施した奴は誰?
A魔王の母親です。愛する子供を守るために施した障壁なのですが、その愛する魔王によって殺される可哀そうな人です。
Q結局魔王の正体って?
A転生者です。本来なら勇者の一人でした。彼の前世がサイコパスなので、自分の欲望の赴くまま生きて行こうと考え両親を殺し資財を根こそぎ奪って旅に出ます。真性の畜生です。
Q勇者って全員転生者?
Aその通りです。転生者は、何かしら1芸に秀でた才能を持って生まれる性質が有ります。
Q4人娘の前世の性別は?
A実は決めてません。少なくともレイは、前世は女性です。
多かった質問はこの辺りでしょうか。他にも質問などあれば、感想にいただければ返信いたしますので、ご気軽にどうぞ。
次に、今後の執筆についてです。本作の外伝として、4人娘の過去とかバルトリフの話とかを不定期に更新する予定です。
本編中に投げる予定で、結局投稿するタイミングが無かった話です。あまり内容に期待はしないでください。
最後に、少し自分語りを。本作は元々、師匠に前作の1章の投稿を終えた際に
「こいつがメインヒロイン? モブかと思った。」
と作者的には激萌えキャラだった「エルメ」と言うメインヒロインをディスられ、女キャラを可愛く書くための修行として見切り発車で始まったラブコメです。
終着点も何も用意してませんでした。ランキング入りして、焦ってようやくプロットを組み始めた作品です。なので、序盤では4人娘のキャラは全く定まっていません。レイの挙動がツンデレっぽかったりして、見返すと結構恥ずかしいです。
中盤以降もかなり展開が迷走して、読者の皆様も読み辛い点など多かったかと思います。ご迷惑おかけして申し訳ありませんでした。村長の死とかはその顕著な例ですね。かなりの急展開で驚かれた方も多いと思います。
実は終盤の展開だと、村長が生きてたら老い先短い彼が秘術使えば万事解決すると気付いて急遽死んで頂きました。本当ゴメン村長。
私はまだ小説投稿と言う趣味に手を出して、半年ほどの若輩です。色々と拙い部分もありました。ですが、こんな私の作品をここまでたくさんの方に支えていただいた事に心から感謝いたします。少しでも、この作品を呼んでクスリ笑って頂けたなら本望です。
それでは、次回作でまたお会いできることを祈って。
ご愛読ありがとうございました、サンキューカッスの次回作にご期待ください。