ウルトラ姉弟(笑)の黒一点~胃痛と戦え!ウルトラセブン!~   作:三途リバー

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グッダグダ…ヴァンパイアさんに申し訳ないレベルです…


過去編その4 四人暮らしとそもそもの経緯 後編

「はぁッ…はぁッ…ぐぅっ…」

 

「ミクラスっ!!」

 

それは、最早戦いとすら言えない一方的な物だった。怒りに燃えるミクラスの大振りな攻撃を簡単にいなし、赤い鎧の女は急所だけを徹底的に狙う。

水月にあたる部分へのパンチ、顎へのアッパーカット、首をへし折らんとする蹴り…

既にミクラスは息も絶え絶えであり、防御もまともに取れていない。容赦のない拳撃がその稚拙なガードを崩し、さらに彼女を追い詰めていく。

 

「やめて…やめてぇっ!!」

 

あらん限りの声を上げるが、ミクラスを襲う拳はいっそう激しさを増す。

 

「レッドぉ…」

 

今までとは違い、奴の右手が紅く輝く。避けて、と呼びかける暇もなかった。

 

「パンチぃ!!」

 

「……!!!」

 

悲鳴を上げることすら出来ず、砲弾のようなスピードでミクラスが吹き飛ぶ。アギラは咄嗟に怪獣態を取り、彼女を受け止めるべく力を込めた。

 

が。

 

「うぁっ!?」

 

いくら怪獣態とは言え、俊敏さが売りのアギラにパワータイプのミクラスをとどめるだけの力はなかった。

情けなくミクラス諸共団子状態となり、ふたりして地面を転がる。

 

「ご、め…アギ…」

 

「ミクっ…ラ、ゴホッ!」

 

肋だろうか。骨が折れたらしく、喋ろうとすると咳とともに血の塊が喉をせり上がってくる。大丈夫と伝えたいのだが、とてもそんな事は言えない。仰向けの状態から指1本動かせない。

 

「あ、あ…」

 

1人、遠くでへたり込むのはウインダム。こちらへ向かって必死に手を伸ばしているが、その指先は震え、歯の鳴る音が聞こえるかと思うほどだ。

 

「え〜…もう終わりぃ?つまんないよぉ。これから私自慢の武器達が火を噴く所だったのにぃ。」

 

(素手であんなに強いのに、飛び道具まで使うの…!?)

 

「殴る蹴るも嫌いじゃないけどぉ…やっぱりトドメはコレだよねぇ〜。」

 

「「「!?」」」

 

右手を突き上げ、その手に槍が現れるまで僅かコンマ数秒。無から槍が生まれたようにしか見えない。

持ち手や石突は十字架を摸し、毒々しい赤色がその存在感を際立たせる槍。その穂先が、ゆっくりと自分達へと向いてくる。

 

「っ…っ…!」

 

動け、と体に言い聞かせても何の反応も返ってこない。ミクラスは何とか膝を突き、辛うじて起き上がっている状態だ。

 

「いっくよぉ…レッドア「当たれェッ!」っ!」

 

槍の投擲を防いだのは、ウインダムのビームだった。相変わらず震えているが、彼女の目には最早恐怖より怒りの色が強い。

しかし防いだと言ってもダメージを与えたわけではなく、敵に防御を取らせただけだ。

それでも、その一瞬は土壇場では千鈞の重みを持つ。

 

「うおぉぉぉぉ!」

 

助走を付け、轟音を伴ったミクラスの拳が一直線に飛んで行く。あれを喰らえば死なずとも、全身の骨が砕け散る事だろう。

家族と、親友の家族の味わった苦しみの万分の一だろうが…

 

「い…けッ…!」

 

(とくと味わえ!!)

 

激情をはらんだミクラスの一撃が、敵のどてっぱらにめり込む…寸前。

 

「レッドナイフ!」

 

またもや無から取り出されたとしか見えない短剣が、それをがっちりと受け止めていた。

 

「くっ…そ!!」

 

ミクラスの開ききった体勢を見逃す敵ではない。右手に持ったままの槍の石突で、正確に胸骨を叩いた。

肺の空気を全て吐き出したミクラスは、ビクリと震えて動きを止めてしまう。短剣が彼女を袈裟斬りに斬り倒すには、充分すぎる時間…。

 

血飛沫を上げて倒れ込むミクラス。その間にも、敵はウインダムに向かってナイフを投げつけていた。撃ち落とそうとレーザーを乱射しているウインダムだが、その一つとして当たる事は無くナイフは彼女の足元に突き刺さる。

 

外れた、アギラが胸を撫で下ろしたのも束の間。着弾地点から突如として爆発が巻き起こり、ウインダムはその爆風にまともに煽られ、軽く30mは吹き飛ばされてしまった。

 

「ミク…ラス…ウイン…ダム…」

 

アギラの声も、手も、傷ついた親友には届かない。

悔しさ、悲しみ、怒り。様々な感情が胸の中で綯い交ぜになり、その奔流は涙となって溢れ出てゆく。

 

「ふふふ…思ったより楽しかったよぉ。じゃあ最後の仕上げ…。」

 

仇も討てず、友を助ける事もできず…自分はただ無様に死んでいくのか。本当に、殺されるのか。

 

(畜生ッ…畜生畜生畜生ッ!)

 

「レッドアロー!」

 

今度こそ、自分へ向かってその槍は飛んでくる。赤い閃光を纏い、死を告げる風切り音と共に、それはアギラを貫く…彼女は、強く目をつぶった。

 

ガキンッ!!

 

「…へ?」

 

しかし、想像していた物とは違う硬質な音により彼女の目は開かれた。

 

「だぁれぇ?」

 

見れば、槍は中ほどから真っ二つに割れて地に落ちている。そして、空に向かって昇ってゆく謎の光…。

 

「ご覧の通りの風来坊…なんて冗談通じねぇか。」

 

その光と入れ替わるように、赤い鎧がアギラと敵の前に降り立つ。光だと思われたそれは鎧の後頭部に収まり、そこでようやくブーメランだったのだと理解出来た。

 

「んー…あ。もしかしてウルトラマン?宇宙警備隊の犬が何の用かなぁ。私は怪獣…悪を倒そうとしてたんだよぉ?それを邪魔するってぇ…それでも正義の味方ぁ?」

 

怪獣、悪という言葉に反応し、その鎧の男は静かに周りを見渡す。

一瞬、バイザー越しにアギラの涙目と彼?の視線が交錯した。

また理不尽な正義とやらに、私達は淘汰されるのか。怪獣と言うだけで…その遺伝子を持つだけで、私達の命は奪われるものなのか。

その心の叫びが彼に伝わったのかは分からない。だが、彼が女に向き直り、発した言葉は…

 

「このふざけた真似が正義だってんなら…そんなもんは知らねぇな。」

 

彼女達の望む、正義への反逆(抗いの意思)を体現していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ご覧のw通りのw風来坊wwwお気に入りかw」

 

「な、何笑ってんだよアギラ。」

 

「だってさ…思い出してみれば僕達を助けてくれた時もそう名乗ってたじゃん。この間だって車の上に乗って言ってたし。」

 

「!?べ、別にお気に入りじゃねえし!ただ何となく…そう、その…」

 

「はいはい分かった分かった。」

 

「ホントだからな!?気に入ってる名乗りなんかじゃねぇから!」

 

必死こいて否定しちゃって…全くかわいいご主人様だなぁ。

 

『正義だの悪だの知った事かよ!俺は手前ぇの勝手でアンタを倒す!アンタを倒して、否定してやる!』

 

…やる時は、あんなにカッコイイのに。

 

「お、おい…!くっつきすぎ…!」

 

「えー…眠いから良いじゃん。ご主人様あったかいし。」

 

出会いはあんなに悲しいものでも…僕はあなたに会えて良かったよ。

 

顔の赤さを見られたくなくて、僕はより強くご主人様の背に抱きついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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アギラ達との出会いか。思えばあれが悪友(あいつ)以外との初めての喧嘩だったよな…。

傷つくのも傷つけるのもゴメンだと思ってた俺が、初めて力ずくでも否定したいと思ったあの時。

 

『それでも正義の味方ぁ…?』

 

あの言葉…あの女。今でもこの胸に刻み込まれてる。

本当に苦しいのは、怒りを感じてるのはアギラ達だろう。だが、俺はあの言葉を聞いて何かがおかしくなった。

 

 

 

 

 

 

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「ほざかないでくれるぅ?そんなテレフォンな動作で私に喧嘩売るとかぁ…有り得ないよぉ。」

 

当然の如く、軽くあしらわれて地に転がるのはセブン。だがその闘志は…彼にとっての初めての感情は、収まることを知らなかった。

 

(有り得ない事は、俺が一番分かってんだよ…!)

 

「吠え面かくなよ正義の味方ァ!!」

 

「後悔しないでよぉ悪者さぁん!」

 

立ち上がり、駆ける。拳を振り上げ、手を伸ばして。

かわされ、いなされ、逆に攻められ、それでも彼は止まらない。

 

「しつこいなぁ…」

 

呆れ交じりの、イラついた声音とともに乱暴にナイフが振るわれる。しかし…

 

「がっ!?」

 

「ッー!!!」

 

素人の拳が、女の顎をかち上げる方が一瞬速かった。敵がぐらついた隙にセブンは距離を零に詰め、そして―

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

自身を突き動かす衝動に従い、あらん限りの連打を叩き込んだ。

面白いように突き刺さる拳。左右上下に揺れる的。喉を潰さんばかりの咆哮とともに、セブンは激情を吐き出す。

 

「正義だの、悪だの!知った事かよォォォォッッ!!」

 

渾身の右ストレートが、顔面を捉えた。

独楽のように錐揉みしながら女は吹き飛ぶが、セブンは尚も収まらない。

 

「俺は手前ぇの勝手でアンタを倒す!アンタを倒して、否定してやる!」

 

彼の右手は後頭部へ。ゆらりと立ち上がった女も、両手にナイフを召喚する。

 

「あっははは!面白いなぁ、君!ダイヤの原石みたぁい!戦えば戦うほど強くなってく…。私も、本気出しちゃうよぉ!」

 

二つの赤が、同時に地を蹴る。金属のぶつかり合う音、そして刃噛みの火花を残して、2人の姿は目視不能の領域へ達していく。

 

セブンが薙ぐ。それを女が切り上げる。更にセブンは拳を交える。

永遠とも思える打ち合いは、突然発せられた緑の光によって終わりを告げた。

 

「光線っ…!?」

 

セブンの額から撃ち出されたのは、後にエメリウム光線と呼ばれる事となる熱線。女の顔を直撃し、更に後ろへ下がらせた。

 

「まさか…コレを使うことになるとはなぁ。君、地獄で誇っていいよぉ?」

 

両手を掲げ、大きく腕を前に回す女。直感で危機を察したセブンは全力を以って飛び下がる。

余裕を持って防御体勢を取ったセブンだったが、次なる一手は彼の想像を遥かに超えるスケールだった。

 

千重の紅槍(サウザンド・クリムゾン)!!」

 

宙空から撃ち出されるのは、宣言通り千本の槍。それぞれが必殺の威力を持つ暴力の嵐を前に、セブンは…

 

「地獄に行くのはどっちの方か…」

 

伸ばした腕をL字に組み、

 

「試してみるかよ!!」

 

その立てた腕から、光の奔流(ワイドショット)を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ご主人様…?」

 

「あ、あぁ。」

 

ウインダムの呼びかけで、俺はふと我に返った。

気が付けば長々と初めての戦闘を振り返っていた。痛いほどの罪悪感に苛まれる事になった、あの戦い…

 

「…あいつの事、思い出してたの?」

 

「まぁ…あの時の俺はホントにモヤシだったと思ってな。」

 

「で、でもご主人様はあの悪魔に勝たれたじゃないですか!」

 

そう。結果からいけば、万に一つの偶然がいくつも重なり、俺はあのクソ女に勝利した。それでもトドメはさせず、捨て台詞と共に去られちまったんだが…まぁそれは良い。俺が後悔しているのは、()()()()()()()()()()()()()()()()。戦士だとかそんな大層な役目の前に、俺は恒点観測員としての責務すら果たせなかった。コイツらの親を、むざむざ殺してしまった。

 

「今は、ご主人様がいるから。」

 

「…?」

 

「僕達は寂しくなんかないよ。」

 

「っ…アギラ…」

 

「はい。私も、同じ思いです。ご主人様がいるなら、大丈夫ですよ。」

 

「何の話ー?よく分からないけどミクラスはご主人様好きー!」

 

 

はは…俺は本当に…

 

 

「俺もミクラスの事好きだぞ!だけど飯の食いすぎは勘弁な!」

 

「えぇ!?」

 

「当たり前でしょう、ミクラスはいい加減遠慮というものを…そ、その、ご主人様。私の事も…す、すk「僕の事は好きー?」あ、アギラ!私がお聞きしようと…!」

 

「早いモン勝ち〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『家族になろうとか、軽々しく言えねぇけど…一緒に、来るか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おう!アギラもウインダムも好きだよ。」

 

良い家族に恵まれたな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ふふっ…うずくなぁ…あの子から貰っちゃった傷…。次に会ったらぁ、確実に殺してあげるんだからぁ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オマケ

頂いたタロウの支援絵…なんですが。

なんと!今回は本作の三次創作を書いて下さっているアンギラスの息子さんから頂きました!!

アンギラスの息子さん、ありがとうございました!

 

 

 

【挿絵表示】

 




もうこれ馴れ初めっていうかセブンの初めての喧嘩じゃん!書いてて泣きたくなりました。番外編でレッドマンに必ずリベンジします!

あ、セブンの割り込みはFERのアイスラッガーをイメージして下さいませ。

リメイクしたとして、どの時期のセブンが見たい?

  • 5姉弟時代
  • 6姉弟〜レオ指導時代
  • メビウス時代
  • ゼロ誕生以降、ベテラン時代

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