ウルトラ姉弟(笑)の黒一点~胃痛と戦え!ウルトラセブン!~   作:三途リバー

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今回の話を読む前に、番外編の『かくして修羅場は幕を開け』、『狙われた男』の2篇を読むと、キャラが良く分かると思います。



⚠8月9日16時45分、サブタイトルを変更しました。申し訳ありません。
(旧題『第2の戦い』)


セカンド・スタート

『無茶しないでって言ったじゃない!!なんで…なんでよ!!』

 

『兄さんっ!目を、目を開けて下さいっ!!』

 

『うわぁぁぁぁん!!セブン兄がぁぁぁぁ!』

 

『冗談、ですよね…?兄、さん…?』

 

『体内のエネルギー循環が出来ていない!生きているのが奇跡だ!一刻も速くマリーさんの所へ運ぶぞ!この馬鹿者が、だからあれほど帰ってこいと…!』

 

…これ、は…地球から帰ってきた時の記憶か…?

シルも、ジャックも、タロウ、エース、ゾフィーまで…わんわん泣いて大変だったな…。

俺は昔から空回りすることが多かった。ジャックやエースを助けに行って、逆に俺がボロボロになって心配させて…なんてザラだった。その度にシルには投げ飛ばされたし、ゾフィーにもお小言を言われた。酷い時にはヒカリまで説教してきたな…。

 

だけど…待ってくれてる奴らが、心配してくれる奴らがいるんだ。まだまだ死ぬ訳には、いかないよなぁ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん…」

 

「弾っ!!」 「セブンさんっ!」

 

病、院?

それに、レオと…

 

「メトル…?」

 

目を真っ赤にして、俺の名を呼ぶのは旧知の宇宙人…メトロン星人メトル。地球に滞在してるのは知ってたが、なんで…

 

「君の目撃情報をアテに、方方探し回ったんだぞ…!やっと見つけたと思ったらこんなボロ雑巾みたいになって!」

 

「運んで、くれたのか…」

 

「君を背負って歩く梨奈を見つけたんだ。そこからは私がここまで連れて来た。2日も目を覚まさないから本当に心配したんだぞ!!」

 

梨奈…レオの地球名か?何にせよ2人に感謝だな…

 

「ありがとな…。そうだレオ、傷は大丈夫だったか…?」

 

「そんな…!私の傷は大した事ありません!それよりも…私の力不足でこんな事になってしまって、本当に申し訳ありませんでした。素人のくせに私が出しゃばらなければ、セブンさんがこんな傷を負うことは…!」

 

「よせ。お前が来てくれなかったら俺はグロリアに殺されてたよ。お前は転んだ後にちゃんと立ち上がったんだ。やっぱり、腐ってなんかなかったな。」

 

地下シェルターで出会った、亜麻色の髪を持つ少女…思った通り、それがレオの素顔だった。

 

「…!ありがとうっ…ございますっ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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セブンの目覚めから遡る事2日、火星付近にて…

 

「ノン…マルト…!?」

 

驚愕に支配され、完全に動きを停止する2人のウルトラマンがいた。

 

「ま、さか…あなたは、地球原人…!?」

 

ノンマルトとは、M78星雲で地球人を指す言葉。

彼女達は、かつて義兄がその『地球人』を名乗る敵と交戦したとは聞き及んでいた。光の国のデータベースに地球の原人の情報は無かったことから、その敵は原人の名を語る侵略者だと断定されたのは記憶に新しい。

もしその敵が本当に原人だと言うのならば、セブンは星の歴史抗争に関与した存在として厳罰どころか未来永劫罪に問われることになる。

姉妹達は、セブンの行動に非はなしとの上層部の判断に喜んだものだが、ただ1人セブンだけは詳しい調査を再三申請していた。自分に不利になるかもしれない案件を自ら掘り返すなど、狂気の沙汰だと当時光の国でも有名になったのだが…

 

「本当に…兄さんは…」

 

星の歴史に、介入してしまったと言うのか。

 

その一事に囚われたジャックの隙を、見逃すザバンギではない。

10mはあった距離を一瞬で詰め、カラータイマー目掛けて掌底を放った。

 

(!!)

 

彼のスピードも然ることながら、意識を持っていかれたジャックにはそれを受け止める、もしくは躱す暇がない。

 

一直線に後方へ吹き飛ぶジャックを尻目に、ザバンギは強烈な回し蹴りをエースに放つ。

受けきれる威力ではないと判断したエースは咄嗟に下へ飛び、必殺光線の発射予備動作へ。

 

「墜ちろ…!」

 

7色の光波熱線がザバンギを襲うが、彼は腕の1振りで悠々とそれを打ち消した。

だが今更驚くエースではない。すぐさま交差した腕を下から上に、そして手のひらを合わせるようにしてその間にエネルギーを圧縮する。

 

最強最大の切断技…ギロチンショット。

三つに分かれた光の輪は一つ一つは並の威力ながら、三位一体となる事により凶悪とさえ言える殺傷力を誇る。

 

ほぼ零距離で撃ち出された切断魔の最強技に、流石のザバンギも後退せざるを得ない。

2つを両腕で、残り一つの刃をバク宙の要領で蹴り飛ばす間にエースは次の行動に移っている。

 

斜めに交差させたサーキュラーギロチンを放った直後には、既に大刃のバーチカルギロチンを。そして手裏剣の如く八連発のマルチギロチンを。

 

切断魔の名に違わぬ、流れるような刃の連撃。少しずつ、本当に少しずつだがザバンギの防御にも無理が出てきた。無尽蔵に撃ち出される攻撃に、段々とエースとの距離が開いていく。

 

(たとえ…ザバンギ(あなた)が本当に地球の原人だったとしても!)

 

追随の手は緩まない。右手からはウルトラスラッシュが、左からは再度具現化したエースブレードの投擲が、息付く暇も無く敵を追い詰める。

 

(今の私には、関係がないんですよ…!!)

 

彼女の目は、本当の意味ではザバンギを捉えていない。

エースの目に映る唯一のもの、それは…

 

「私は!!地球(兄さんの元)へ行かなければいけないんです!!」

 

エースの叫びに呼応して、光のような速さの槍が正確に振り上げられたザバンギの腕を貫く。

高速で振り抜かれる腕を捉える驚異的な動体視力と、光線をものともしない装甲を貫く威力が並存しなければなし得ない、ジャックの美技…

 

「ッ…」

 

「エースちゃん!」

 

ザバンギの、エースブレードに対する対応が遅れた。

鋭利な長ドスは彼の左肩にその刀身を突き立て、ジャックとエースがそれぞれエネルギーを貯める時間を見事に作った。

 

「シネラマショット!」

 

「スーパーメタリウム光線!」

 

乱暴に腕を凪いでそれを防ごうとしたザバンギだが、全く別方向からのコンビネーション技を片手で受け止める事は出来ない。

左からジャックの最強光線を、正面からエースの強化必殺光線を浴びた彼は、大爆発に飲まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし。

 

「まだ!?」

 

「なんて硬さ…」

 

紅蓮の炎の中から現れたザバンギは、多少の傷は受けているものの戦闘続行が不可能と言うほどのダメージは無かった。

ジャックとエースは知る由もないが、ザバンギ本来の力はこれ程強力ではない。暗黒宇宙人連合最強の力を持つババルウ星人メギド、その体を持ち、なおかつ怨敵への憎しみを燃やす今の彼だからこその、この馬鹿げた程の力だった。

 

「アアァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

彼の心情を表すかのような火柱が彼を中心に巻き上がる。

ジャックとエースはその余波に飲まれないよう、バリアを貼るのが精一杯だった。

「っ…ぐぅぅっ!」

 

「まさしくワンマンアーミーですね…!ぐ、う…!」

 

タロウの炎を軽く上回る程の熱気…2人が戦慄に包まれた時、事態は急転した。

 

『フォッフォッフォッフォッフォッ…….』

 

「「!?」」

 

ジャックの耳朶を打つのは、聞き覚えのある不気味な声。思わず視線を声の方向に向けると、想像通りの宇宙忍者が分身してザバンギを取り囲んでいた。

 

「バルタン星人Jr!?」

 

『久方振りでこざるな、ジャック。今すぐ切り結びたいのは山々ながら、拙者にも連合が一角としての役目がござってな。今はそなたを相手にしておられんのだ。』

 

複数の声が重なり、不快な音響が辺りを支配する。エースがヘッドギアの下で顔を顰めるが、メギドには大して効き目はないようだった。

 

『やはりこの程度のまやかしではどうにもならぬか…テンペラーの!』

 

テンペラー!?と2人が驚くより速く、上空から凄まじい速度で()()は飛来し、打撃をメギドに食らわせる。

青を基調としたアーマーに身を包み、両手には地球を襲撃した個体とは違ってメリケンサック。ヘッドギアから流れる髪は長かったが、その体型は紛れもなく男。

 

(貧乳(仲間)…?)

 

エースが全く関係ない事を思ったが、どうやら違うようだ。Jrに投げかける声は高いながらもしっかりとした男のものだった。

 

「だァめだこりゃ!攻撃が通る気がしねぇ!バレル、もういっちょ!」

 

「相分かった。」

 

長年連れ添ったパートナーのような動きで、2人は的確にザバンギに攻撃を当てていく。そして…

 

「グリップホールド!!」

 

1度は姿をくらましたリーネの光線が、ザバンギを拘束した。シルのキャッチリングにも似た攻撃だが、見ただけで効果が段違いだと分かる。

 

「ノスフェ!やれ!バレルは仕上げだ!」

 

「アイ・アイ・サー…テンペラル・バニッシャー!!」

 

テンペラー星人の拳から撃ち出されたのは、青白く光る電撃光線。装甲がいくら厚かろうが、相手が電気では意味を成さない。痺れたザバンギの下に、抜刀したJrが飛んでいく。

 

「…そこ!!」

 

体を左に開くと同時に、真っ直ぐ刀を突き出した。

吸い込まれるように紋章に刺さった刀から、閃光が迸る。

 

「しばし…眠れ…!」

 

「グァ…!?」

 

なるほど忍者を名乗るほどの事はある。刀身を通して催眠物質を、突き合わせた目から催眠音波を流し込むと言う2重の『仕上げ』。

 

 

「ァ…グ、ォォ…!!俺は、セブン、を…!」

 

刀身を掴み、暴れるザバンギだがその抵抗は段々と弱くなっていき、とうとうその動きを完全に停止した。

 

「やれやれ…なんとかなりもうした。さて、メフィラスの。まさかこれで撤退などとは言うまいな?」

 

3人の連携に呆気に取られていたウルトラマン2人だったが、憎悪に塗れたJrの声に意識を引き戻される。

ウルトラ族と地球人に怨みを持つバルタン星人が、ここで退く訳がない。ジャックがウルトラランスを、エースがギロチンを生成するが、あれだけのコンビネーションを見せる3人を相手に手負いの自分達が勝てるかどうか…。

しかし、続くリーネの言葉は意外だった。

 

「いや、退くぞ。こちらに向かってくる厄介な虫が2匹いる。隊長殿と…む?スパークアーマーではないが、ウルトラマンらしき人影だな。U40かどこかか?」

 

(ゾフィー姉さんに、ジョーニアスさん…!)

 

ジャック達からすればこれ程心強い味方はいない。宇宙警備隊最強の戦士と、その異郷の親友。2人とも星雲を代表する強者、彼女達がいれば今からでも地球へ行ける。

 

「俺はやれるけど?」

 

「馬鹿、万一死んだらどうする。この後の計画がおじゃんだ。おいバレル、聞いているか。」

 

「…無念。なれどいつか必ず、同胞の仇は討つ。首を洗って待っておけ、ウルトラ族(痴れ者共)。」

 

不満を押さえ込み、バレルもそれに従った。

だが、これでと思った2人の期待はあっさりと裏切られる。

 

「そうそう、今頃ヤプール()がお前達の母星を襲撃している頃だぞ。星雲中に戦力を分散させたのは失策だったなぁ、ククク…。さてどうする?自分達の故郷と愛する兄上の、どちらを取る?」

 

「…!!」

 

「お気楽ですね、本部には父さんがいますよ。ヤプールの超獣如きが束になっても敵う人ではありません。」

 

「ふふ、やはり貴様らウルトラマンは()()を知らんと見えるな。戦闘ならば力の強い者が勝つ…当たり前の事だ。だが、戦争ならば。力の強い者が勝者になるのではない。機動力、兵力を擁する側が必ず勝つのだよ。かつての大戦ではケン以外にも軍を率いる将が五萬と居たが…今の警備隊は奴が核に()()()()()()()。ウルトラの星がどうなるか、安全な所から見学させて頂こう。では、また近いうちにな。ふふふ、ははははは…」

 

笑い声を残し、影に溶ける3人…いや、4人。その場に残されたのは、引き裂かれた超獣の残骸と全滅した警備隊員達、そしてボロボロのジャックとエース達だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は、現在に戻る…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

「街の様子はどうなってる?俺が寝てる間にグロリアの動きはあったのか?」

 

現在俺は、ベッドの上に体を起こしてメトルに話を聞いていた。因みに梨奈は職場の方に顔を出してなかったから、安否連絡に行った。

2日も寝てりゃあその間に何かが起こっても別に不思議じゃない。あの口ぶりからするとグロリアは俺一点狙いで来るっぽいが…

 

「ギラスだったか、赤と黒の怪獣が離島部で暴れていた。MAC…今の地球防衛チームだが、それが迎撃したものの大した効果は上がらず逆にかなりの打撃を被った。梨奈も駆けつけたのだが…」

 

「梨奈が戦ってたのか!?」

 

「あぁ。戦闘が苦手な私が言うのもなんだがな、あの子は向いていないぞ。聞けば一星のお姫様と言うじゃないか。いくら宇宙拳法と王の鎧があると言っても、あれじゃあ到底戦えない。惨敗だったよ。」

 

グロリアとの戦いでは、梨奈の攻撃は奇襲以外一切当たっていなかった。

まじまじと見てた訳じゃないから、突っ込んだ事は言えない。だが恐らくそれは動体視力と相手の動きを読む能力の不足が原因だろう。

 

「そうか…ん?」

 

「どうした?」

 

「いや、さり気なくこんな話してるけどさ、俺あの技使ったら大体いつも1週間は動けないんだが…しかも骨折してない所を探すのが大変な位な状態だったろ?」

 

傀儡化を使うと、受けたダメージにもよるが大体1週間は指1本動かせない。今回は今まででも指折りのダメージだったし、こんな風に起き上がっているのが奇跡のようだ。

 

「あぁ、そのことか。私は今、薬剤師をして生計を立てているんだ。勿論基本は地球人向けだが、来る客の中に異星人もチラホラいる。それで宇宙人にも薬を配合したりしているもので、宇宙薬物には詳しい。君には折れた骨が結合するのを促進する薬、痛み止め、死んだ筋肉を蘇生させる薬など手持ちのものをありったけぶちこんだ。後は献身的な看病の賜物だな。私の愛に感謝してくれ。」

 

ゑ…タバコに幻覚作用物質を配合するような奴の薬…?

それ大丈夫かオイ。副作用で凶暴化するとか夜な夜な人の生き血を求めてさまよい歩くとかないよな…?

 

「命の恩人に失礼じゃないかい!?」

 

「悪い悪い、感謝してるよ。本当に助かってる。痛みも確かに少ないしな。」

 

「…地球に来たなら、声を掛けてくれても良いじゃないか。寂しかったぞ。」

 

あー…まぁ、たしかに…

 

「それに…血だらけの君を見て、どれだけ私が絶望したか。幸い息はあったからいいものの、本当に怖かった。君がもう二度と起きないんじゃないかって…この2日間、本当に怖かったんだ…!」

 

「メトル…」

 

「情けない、けれど…その、手を握ってくれないかい?君が生きている…私の目の前にいると、実感したいんだ。」

 

差し出された手は、細かく震えている。本当に、心の底から心配させてしまった。

 

「ありがとう。そして、大丈夫だ。俺はここにいる。」

 

メトルの細い手を、俺はできる限り優しく取った。これ以上、悲しませないと伝える為に。

 

「あ…ふふっ。現金だな、我ながら…」

 

「?」

 

「こっちの話だ、気にしないでくれ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………

 

「そう言えば、どうするんだい?」

 

「地球防衛の事か?」

 

「あぁ。申し訳ないが今の彼女にこの星を守れるだけの力は無いぞ。」

 

そんなのは簡単だ。俺はこの怪我で防衛チーム入隊なんか出来っこない。幸か不幸か時間が有り余ってる。

 

「無いんだったら付ければいい。弱いようなら強くなればいい。あいつは俺が鍛えるさ。」

 

 

 

戦いを押し付ける…出来ればしたくなかった。だがもう、そんな事は言っていられない。光の国は現在何らかの原因で地球に手を回せないようだ。地球に今、ウルトラマンはいない。ならば…ウルトラマンがいないなら。

 

 

 

 

「俺が、レオをウルトラマンにする。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オマケ

 

アンギラスの息子さんから頂いた、ジャックさんのイラストです。今回もありがとうございました!

 

…この小説より、三次創作の方が話数が多いっていう…

 

 

【挿絵表示】

 




次回からレオの修行がスタート!
乞うご期待!

第2回アンケートの方、まだ受け付けておりますので是非よろしくお願いします〜

リメイクしたとして、どの時期のセブンが見たい?

  • 5姉弟時代
  • 6姉弟〜レオ指導時代
  • メビウス時代
  • ゼロ誕生以降、ベテラン時代

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