そうして彼らの思いは交錯し、運命は分かたれる《完結》   作:神崎奏河

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はじめての投稿になります(*´∀`*)
ご丁寧にアドバイス等頂けると嬉しいです!オリジナル展開ですが、オリキャラは出してませんし、大きな改変も行ってないので、俺ガイルファンの方やその他の人にも読んで頂きたいですm(_ _)m
新巻も発売延期になってしまったので、暇潰しにでも見て下さいヽ(*´∀`)
①は八幡と小町しか出て来ませんが、②以降ではゆきのんやガハマちゃん、いろはす等もちゃんと登場するので、そこのところのご理解をお願いしますσ(^_^;)


そうして彼らの思いは交錯し、運命は分かたれる。①

換気のために僅かに開けておいた小窓から隙間風が入り込み、昨夜から温かく保っていた部屋に一握の冷気が混合してくる。正反対の温度を持つ空気は、中和するようにして部屋全体の温度を下げていった。

カーテンで外界と隔絶された暗い自室で、俺はおもむろに目を開けた。

 

「寒い………」

 

布団から身体を投げ出している訳でもないのに、全身が薄い雪のベールに包まれたように寒かった。

 

「まだ5時かよ………寝よ」

 

まだ起きるには早い時間だ。布団をさらに深くかぶって、早々に二度寝を決め込んだ。

無意識に早起きするのは、おじいちゃんと社畜だけだ。そう自分に言い聞かせて、瞼を下ろす。

 

「……………」

 

寝られない。

 

寒いせいもあるのか、再び夢の世界に誘われることはなかった。専業主夫志望の俺としては良くない兆候かもしれない。

でも閉じない瞼を無理にまた下ろそうとはしなかった。

今日は高校の卒業式だ。卒業は感動的で、栄光ある未来への第一歩だと考えている奴が多いと思う。

友達と泣いて抱き合って、最後は笑顔でお互いの未来を祝福しあう。

これが卒業式の段取りである。

 

しかし実際、卒業式はただの決済でしかない。終焉であって発端ではないのだ。

 

「しかし寒いな。ホントに誰だよ、冬作ったの…」

 

あまりの寒さに思わず愚痴が零れる。

そんな感じにしばらく布団の中で思惑を巡らせていた。

 

すると不意に設定していた目覚ましが鳴り、俺は現実の世界に強引に引き戻される。

 

「はいはい、起きますよっと」

 

小町と違い親に放し飼いにされて小さい頃から自分で起きていた俺は、慣れた手つきでアラームを止めた。

まだ布団に籠もっていたい衝動を抑えつつ、のそのそとリビングへと向かう。

 

「あー、寒い寒い寒い寒い」

 

寒いと言ったところで温かくなる訳でもないのに、言葉は自然と口をついて出てくる。

 

冷気が百鬼夜行とばかりに吹きぬける廊下はどこか閑散としていた。布団から出たばかりで、寒さに敏感になっている身体にはかなりこたえる。

まあ普段こたつに篭ってるし。というか家に篭ってるまである。

 

突きあたりまで歩いて戸を開けると、香ばしい朝食の香りが鼻腔をつき抜けた。見てみるとテーブルにはパンがすでに用意されていた。小町はパンを口いっぱいに頬張っている。

俺に気付いたのか、小町は食べる手を止めて満開の笑顔で挨拶してきた。

 

「お兄ちゃん、やっはろー」

 

「おう、おはよう」

 

朝一番で少々だらしなくても、やはり小町の可愛さは変わらない。未だにホントに俺の妹なのかと疑ってしまう時もある。無論、俺の妹なのだが。

もしそうでなかったら、俺の家庭が昼ドラみたいなただれた関係だった上に、小町が妹でないという失意で憤死してしまうまである。

 

しかしその可愛い妹の口にはジャムが付いていた。挨拶を返すがてらに教えてやる。

 

「おい小町、口。ジャム付いてるぞ」

 

「えっ、ジャムってる?」

 

「お前の口は自動機関銃か」

 

このやりとりにすごいデジャヴを感じる……そう思うのは俺だけだろうか。

 

小町はきょとんと首を傾げた後、ごしごしと口もとをぬぐった。

しかしさすがは我が妹、こんな何気ない動作も可愛く映る。

 

「…ん…んんんっ。どう、取れた?」

 

「あー、大丈夫、大丈夫。取れてるぞ」

 

なんとなく上目づかいな小町のハニートラップを難なくかわし、しっかり拭けているかを確認してやる。

 

「ん、ありがと。でも小町的にはお兄ちゃんが拭ってくれると嬉しかったんだけどね。今の小町的に超ポイント高い!」

 

「勝手に言ってろ……」

 

漫才まがいなことをしながら、いつものように小町の正面の席に座った。

 

今日は卒業式ではあるが比企谷家の朝は変わらない。テレビを適当につけて、天気とかを確認しながら朝ごはんをいただく。小町も雑誌をペラペラと無作為にめくりながら、せっせとパンを頬張っていた。

 

「3度ってマジかよ」

 

そりゃ寒い訳だ。リア充も外出を控えるレベル。

いや、嘘。多分あいつらなら天候、温度、その他諸々一切気にせず一年中わいわいやってるわ。戸部とか。

 

そんなつまらないことを考えていると、小町が反応してきた。

 

「いやぁ、寒いねぇ。お兄ちゃん引き篭もりだから、寒さにやられて風邪ひかないでね」

 

「小町……」

 

君はなんていい子なんだ。お兄ちゃんの心配をしてくれるなんて。俺は感動のあまり目元をそっとおさえた。おー、おいおい。

 

「風邪ひかれると凄いうっとおしいから」

 

「おい……」

 

前言撤回、こいつは悪魔だ。お兄ちゃんにうっとおしいなんてあんまりだと思う。

 

いや案外妥当かもしれない。

 

リビングのソファー占拠して、テレビ見ながら寝てるだけだし。考えてみると確かにウザい。思わず引き攣った笑みが漏れた。

 

どうやら今日の天気は曇りらしい。ちなみに星座占いは12位で、ラッキーパーソンは人付き合いが上手い人だそうだ。

葉山とかかな―そんな奴と話すなら開運しない方がいいなーなどと、くだらない考えをしながらただぼーっと見ていた。

 

「あ、お兄ちゃん。はい、これ」

 

「はいって言われても………」

 

唐突に俺の皿の上に置かれたメロンパン。

どういうことか意図を図りかねない。

 

「小町、メロンパン好きじゃなかったのか?お腹いっぱいなの?それともお兄ちゃんに毒味をしろってことなの?」

 

しかもこれはリッチなメロンパンだった気がする。我が母がそう話していた記憶がある。それを突然渡されたので、どういう風の吹きまわしか気になった俺は小町に尋ねた。

 

途端に小町は、にこぱーっと笑顔になる。

 

「いやいや、メロンパンは小町大好きですし、毒も入ってないですよ。それは小町からの卒業祝いなのです!お兄ちゃん、卒業おめでとう!どんどん、ぱふぱふ」

 

「お、おう……なんかありがとう」

 

小町によると、どうやらそういうことらしい。

受け取るか悩んだが、心遣いを無碍には出来ないのでありがたく頂戴することにした。

 

ってか、メロンパンが御祝いの品とか可愛いな。アンパンマン見てた頃を思い出すぜ。誕生日プレゼントがあんパンと食パンとカレーパンだったこととか。

なんと国民的ヒーローの顔入り!食べずに置いておいたら、腐って皺くちゃになってたけどな。

 

「しかし、お兄ちゃんが卒業できるなんて……」

 

「小町ちゃん?お兄ちゃん別に素行不良児じゃないからね?」

 

問題児ではあるかもしれないがな。そこは黙っておこう……

 

「まあ、じっくりと味わいなされ!」

 

「おう、ありがとな」

 

リッチなメロンパンはやはりいつものメロンパンより香ばしく、まろやかな甘さがあった。そしてほんのり温かく、その美味しさが何倍にも引き立てられていた。小町が温めてくれていたからだろうか。

しかしキッチンを見ると、電子レンジのコンセントは刺さっておらず、不思議に思う。

 

「卒業式終わって帰ってきたら、もっとちゃんとしたものも渡すけどね」

 

兄の卒業式にプレゼントを用意しているとは、さすがは世界の妹と言ったところだろうか。お兄ちゃん、嬉しくて泣いちゃう。

 

「小町の卒業式の時は期待してるね!」

 

やっぱそういうことかよ……やはりいつもの計算高い妹でした。

 

無事、卒業式セレモニー(?)を終えた小町は、なおもにこにこ笑顔でこっちを見ていた。

しかし不意に大きく息を吐くと、小町の顔が引き締まる。そして真顔になって牛乳をぐいっとあおったかと思うと、コップを勢いよくテーブルの上に置いた。

 

いやいや、仕事終わりの会社員かとつっこみたかったが、小町がなかなか真剣な顔をしていたので喉元まで出かかっていた言葉を引っ込める。

そして何かを感じ取ったので、いったん持っていたスプーンをテーブルに置いてすっと姿勢を正す。

 

テレビだけが喋っている状態。小町と俺はテーブルを挟んでじっと見つめ合う。

 

「…………………………」

 

「…………………………」

 

……気まずい。

 

コミュ症の俺は人と目を合わせることが得意ではないのだ。目をそらさないようになんとか踏ん張る。

 

「…………………………」

 

「…………………………」

 

沈黙が続くことしばし。そして小町は何を思ったのか大仰にため息をついて、外人みたいにやれやれというように肩をすくめた。

あまりにも拍子抜けしてしまい、目を細めながら小町に説明を求める。

 

「何だったんだよ、先の間は……」

 

小町は先の真剣な顔は何処へ行ったのやら、たははと笑いながら答える。

 

「いや、何か言おうと思ったんだけど、お兄ちゃんの顔見てるとまあいいやと思ってさ」

 

「なんだよそれ、そんなに俺を見てると気力なくしちゃうの?」

 

「違う違う!」

 

手をぶんぶん振って否定する。

そして少し間をおいてから小町はこう続けた。

 

「何か言ったところで、お兄ちゃんは多分分かってるだろうなと思って」

 

独り言のように小町は静かに呟いた。それを聞いた俺は、先ほどの沈黙の中にある小町の思いやりに気付くことが出来た。

短い静寂の中で、きっと色々なことを気遣ってくれたのだろう。

小町はそんな細かい気配りが出来る子だ。俺には到底できない。

いや、きっと小町しかこんな気遣いは出来ないだろう。俺と長年付き合っている小町だからこそ、沈黙による気遣いという選択肢を選びとることが出来たのだ。

 

俺は目を閉じて大きく息を吐きだす。

 

やはりこの妹は、俺には過ぎたる妹だ。改めてそう確信する。

ついでに誰にも嫁にやらないことを心で誓った。

 

それ以降はまたそれといった会話もなくなる。お互い黙々と朝食を食べ進め、俺は朝一番のMAXコーヒーを一杯頂いた。

 

「うんめぇべ」

 

戸部語が飛び出すレベルの美味しさ、素晴らしさ。これ、千葉の専売にしたら、千葉もっと栄えるんじゃないの?と、つくづく思う。

 

「キモいよ、お兄ちゃん……」

 

支度をしている小町からそんなツッコミを受けたので、これ以上の宣伝は自主規制しておく。

 

準備を整えた後、俺は自慢の愛車(自転車)を横目に歩いて学校に向かった。今日は卒業式なので、きちんとクリーニングに出された制服にシワが出来ないように、学校へは歩いて行くことになっているのだ。

 

「すまんな、我がチャリ。今日はお前と一緒に行けない」

 

3年間学校への道を共にした相棒を置いていくのが非常に辛い。なんとなく申し訳なさから、そっとかごの部分をさすってやる。

自転車がだめなら車で行きたいところだが、両親はどうしても抜けられない用事があり、さっと終わらせてから式に間に合うように来るらしい。

社畜ってかわいそう……両親に改めて同情する。

 

小町は入試に無事合格し、今では立派な総武高校生だ。しかし自転車で一緒に登校する事はあるが、歩いて一緒に行くというのはこれが初めてになる。そう考えると、この最後の通学路にもそれなりの情趣を感じることが出来た。

 

玄関のカギを閉める。そしてゆっくりと学校への行程についたのだった。

 

***********************************************

 

花が咲くにはまだいささか時分が早いようで、道ではつむじ風が枯れ葉を巻き上げるのみ。木々は僅かに蕾をつけているだけで、まだ一輪の花も咲かせていない。

 

「まだ咲いてねーのか。まあ今年は結構寒かったし仕方ないか」

 

マフラーに顔を埋めながらそう呟く。

 

通学路は所謂、殺風景な景色だった。しかし絵に描いたような満開の桜よりは、よっぽど季節を素直に感じることができる。

 

俺は葉をつけていない木の方が好ましく思えるのだ。

 

『あの姿こそが葉や花という隠れ蓑も粉飾も取り除いた、木自身の姿である』

 

そう考え初めてからというもの、花をつけた状態の木も好きだが葉を落とした木の方が好きになった。

装飾を取り払った状態でもそこに佇立し続けることが出来る様に、なんとなく感銘を受けたからだ。

ただ俺が捻くれているだけかもしれないが。

 

「お兄ちゃん~、置~いて~くよ~」

 

小町の呼ぶ声が聞こえる。

ふと前を向くと、隣を歩いていた小町がずいぶんと遠くに見えた。周囲を眺めながら思いに耽っていたので、歩く速度が落ちてしまっていたようだ。

 

追いついて来ない俺を気にしてか、小町が足を止めて振り返り声をかけてくる。

 

「お兄ちゃん、ホントに置いてっちゃうよ?」

 

「……ん、ああ。すまん、すまん」

 

待ってくれている小町のもとに、やや急ぎ足で向かう。

両親が卒業式のために用意した新品に近い借り物の革靴は少々歩きづらく、距離を縮めるのに苦労を要した。

 

追いつくとまたやれやれという顔をされたが、特に小言なども言われることなく、また隣に並んで歩くような形になった。

 

「お兄ちゃん、今日で卒業だね。小町泣いちゃう……くすん」

 

「やめろ。言葉に詰まりながらも、横目でこっちを見る妹を見たくない」

 

相変わらずのあざとさだが、兄たる俺は難無く演技を見破る。

 

ナメてもらっちゃ困る。小町のことなら何でも知っているつもりだ。

好きな食べ物も、好きなタイプも、最近は自分のシャンプーを使われないよう、ノズルの向きを調整してることも!

……ここまでくると変態だな。まあ妹への愛だけは確かである。

 

一方の小町は看破されて興が冷めたのか、大きくため息をついた。

 

「お兄ちゃんはつれないなぁ~。これだからごみぃちゃんは……」

 

「黙らっしゃい……」

 

ここでいったん会話が切れる。

すると何がおかしかったのか、小町は笑いはじめた。

 

最初は引いていた俺も、だんだん可笑しくなってきて小町と一緒に笑った。

何が可笑しいのかは自分でも分からないが、何故か無性に笑いたくなったのだ。

小町と俺の笑い声が細く小さな川べりの道に響く。

 

「ふぅ、何だかスッキリしたよ~。お兄ちゃんはどう?」

 

「まあ、確かに笑うと気持ち良いわな。小町ちゃん、俺たち誰かに見られてないよね?」

 

「ふふっ、どうかな?」

 

そういって笑う小町は何だか大人びて見えた。

声も少し変わっただろうか、心なしかそんな気がする。

 

日頃一緒に居るからこそ気づけないちょっとした変化に気付き、今日という日が自分にとっては非日常であることが胸に染みた。

そう思い始めると、改めて卒業というものを考えてみたくなる。

 

「卒業ねぇ……」

 

そう言葉が漏れた。

 

俺も思わず高校生活を振り返る。

始業式に事故に遭って、入学ぼっちが決定して、予想通り毎日教室で寝たふりをする日々……あ、これ全部ダメな思い出じゃん。おかげでスニーキングスキルは極みに達したと思う。

CQCが得意なおじさんにも、負けないくらいかもしれない。

 

しかし先ほどの言葉をあざとく聞き付けた小町は、にやっとしながら脇を小突いて来る。

 

「へぇー、流石のお兄ちゃんも自分の卒業に興味あるんだ」

 

「いや、小町ちゃん?お兄ちゃんでも自分の進級くらいは気にするよ?」

 

「分かってるくせにー。やっぱりお兄ちゃんは捻くれてるなぁ」

 

頬をぷくっと膨らませて拗ねる小町。

軽口でかわそうとしたが、やはり小町には見抜かれてしまった。聡い妹は困るものだ。まあ俺の妹なんですが!がはは。

 

「で、実際のところどうなの?」

 

小町はそう言って俺の前を塞ぐように立った。

これは何かしら答えないと進めないパターンなのかしら。小町ちゃん、急いでるんじゃなかったの?

とりあえず正直な感想を口にする。

 

「……まあ、何か思うところはあるかもしれん」

 

「えっ」

 

「えっ」

 

何も驚くポイントのないコメントのはずなのに、妹が心底驚いた表情を浮かべているのは何故かしら。お兄ちゃん、驚いてオウム返ししちゃったよ?

 

「何か俺、変なこと言った?」

 

「あ、いやそんなことはない?…こともないんだけど」

 

「どっちなんだよ……」

 

「えへへー」

 

照れた風に頭をかく小町。

こら、可愛さで誤魔化される俺じゃないぞ!…なんてことは全然ないし、なんなら可愛さにグラグラ来てるけど、目で答えを促す。

 

「いやー、お兄ちゃんなら、卒業は日常の学校生活となんら変わりはねぇよ。気にするような奴は、いつも騒ぎまくってるリア充くらいだろ……とか何とか言うかと思ってたよ」

 

「ほとんど合ってるんだけどな。いやむしろ全部合ってるまである。……で、小町ちゃん?後半俺の声真似した?全然似てないんですけど………」

 

別に敵意は無いが、じとっと小町の方を見る。すると小町はこほんと咳ばらいして、こう続けた。

 

「似てなかったかしら?で、比企谷君のその目、魚類の真似でもしているの?」

 

「それは似てる。しかも発言内容も雪ノ下そっくりだな」

 

「やったー!」

 

小町は年端も行かない子供のようにジャンプして喜んだ。しかし内容まで当ててくるとは……我が妹ながら恐るべし。

 

「でもお兄ちゃん傷つくから、もう雪ノ下の真似はやめような」

 

「それってお兄ちゃんが、日常的に雪ノ下先輩に傷つけられているような言い方に聞こえるよ」

 

「それ間違ってねぇわ……」

 

また少し笑って一息ついたあと、小町はふっと小さく息を吐きだして空を見上げた。その姿はさながら、空に浮かんでは消えていく吐息を惜しむようだ。

そして吐息が完全に空に吸い込まれたのを確認したのか、空を見上げたまま小さくそっと告げる。

 

「まあ、お兄ちゃんが卒業するのは本当に寂しいんだけどね」

 

「………」

 

その言葉に俺は返事をする代わりに目を細める。

俺はなんとも思わないが、小町は小町なりに感じるものがあるのだろう。それを考えると容易に返事をすることが出来なかった。

 

「あ、お兄ちゃんモンシロチョウ」

 

そう言って小町は足を止めた。先ほどの時を懐かしむような姿はもう消えている。見てみると、白い蝶が3匹草むらにいた。

 

「これはルリシジミだ。確かにモンシロチョウに似てるけどな」

 

「へぇー」

 

モンシロチョウかどうかはあまり気に留めていないようで、適当に返事をしつつ、小町はしゃがんで眺めていた。

早く家を出たので時間に余裕はある。俺もしゃがんで一緒に眺めることにした。

 

「何か探してるのかな?」

 

蝶を見つめながら、小町はそう呟く。

確かに2匹はすでに吸蜜しているのに、もう1匹は花に止まろうとせず、先から花の周りをふらふら飛び回っているだけだ。

 

「もう吸蜜を済ませたんじゃないか?」

 

「そうかもしれないね」

 

結局その1匹は花に止まることなく、他の2匹が吸蜜を終えると一緒に飛んで行った。

 

その蝶の姿がある思い出と重なり、場面を鮮明に想起させる。

 

 

『寄る辺も無ければ、自分の居場所も見つけられない…隠れて流されて、何かについていって、…見えない壁にぶつかるの』

 

 

一年ほど経った今でも忘れることはない。

気高く、美しく生きてきた彼女のものとは思えない言葉。困難な状況も全て自らの力で打開してきた彼女が吐いた言葉。

 

脳裏にこびりついては離れず、心の奥底では救済を求めていながらそれを隠そうと踏ん張る彼女の姿が思い浮かんだ。

自分が押し付けた理想とは違った、本当の彼女の姿を知るにつれて、何か胸をわし掴みにされたような心地がする。

 

「お兄ちゃん、どうかした?」

 

小町が心配そうに声をかけてくる。

勝手な想像をしているうちに、いつの間にか難しい顔になっていたようだ。

優秀な兄は妹を悲しませてはならない。先の光景を頭から振り払うようにすっと立ち上がる。

 

「別に何もないぞ。むしろ日常的に何もないまである」

 

訝しむ小町に対して、矢継ぎ早にこう告げる。

 

「さて、そろそろ行くか」

 

「う、うん」

 

俺が聞いてほしくないことを察してくれたのか、小町もそれ以上は追及することはなく、俺の隣に並んで歩き始めた。道に2人ぶんの靴音が再びテンポよく響く。

 

頰を裂くように、道に沿って風が吹き抜ける。朝の寒さそのままの気温だ。吐いた息もすぐには消えることなく、しばらく空気をたゆとうてから吸い込まれるようにして消える。

俺はそっとマフラーを押し上げて、顔をその中に埋めた。

 

空は漫画のような卒業式らしい快晴とは程遠く、空をほとんど埋め尽くすような暗い雲が高速で空を横断していた。




やはりはじめての投稿は緊張しました(´;ω;`)
今回は卒業式の朝を描いただけなので、序章に過ぎませんf^_^;
②もある程度出来上がっているので、近いうちに投稿します!
1週間以内に②が出せるよう頑張ります。
そちらも読んで頂けるととても嬉しいです(*´∀`*)
②以降ではゆきのんも、ガハマちゃんも、いろはすも出せる場面なので自分でもウキウキしてます( ̄∇ ̄)
励みになるので評価を頂けると嬉しいです!
では今回はこの辺りで失礼します…
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