そうして彼らの思いは交錯し、運命は分かたれる《完結》   作:神崎奏河

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みなさん、おはこんにちばんは。奏河です(*´ω`*)
とうとう最終話の投稿となりました!
ここまで読んでくださった皆さん、本当にありがとうございました(;▽;)
書いてる私も、何故か途中で泣きそうになりました笑
最終話はある意味短編集みたいな感じになってます。
長々と書いてもあれなので、本編にどうぞ(*´д`*)


そうして彼らの思惑は交錯し、運命は分かたれる。⑩

 

卒業式の日の夜更け、比企谷くんは私のもとを訪れた。

 

姉さんたちは少し前に帰ったので、寝る準備を終わらせて布団に入る。

今日はそのまま眠りにつくのではなく、なんとなく読書をしようと思って本をぱらぱらとめくっていた。

 

ぼーっと読書すること数刻、突然インターフォンが鳴ったのであった。

 

「俺だ……開けてくれ」

 

出ると比企谷くんの声。

きっと走ってきたのだろう、その声は息があがって途切れ途切れだった。

 

急いで外履きを履いて、昇ってくる比企谷くんをエレベータの前で出迎える。

 

「遅くなってすまん」

 

顔を紅潮させながら、そう呟く。

 

「どうして……?」

 

来てくれるとどこかで信じていたが、何故だか理由を問いたくなった。

すると彼は恥ずかしそうに頭をかきながらーー

 

「あんな状態の雪ノ下を一人で家に帰したんだ。だから、その……なんだ?」

 

「だからなに?」

 

その先が気になり、恥ずかしいのか先から視線が定まっていない彼の目をじっと見つめる。

彼も私の視線に気付いたのか、しっかりと向き直ってこう呟いた。

 

「……埋め合わせはしないといけないかなって」

 

不器用ながらも正直な言葉。

それが何よりも嬉しかった。

 

「ありがとう、比企谷くん……」

 

そう告げると、胸が温かくなるのを感じた。

 

不意に大切なもう一人の姿が頭を過ぎる。

 

「でも……由比ヶ浜さんは大丈夫なの?」

 

大丈夫な訳がない。

 

彼女は計り知れない程の痛みを負っているはずだ。そんなことは自分でも分かっている。

なのに聞いてしまうのは、自分の痛みを和らげるための人間の本能なのだろうか。

 

「由比ヶ浜が行けと言ってくれたんだ」

 

「えっ……」

 

自責の念が津波のように再び私に襲いかかろうとしていた時、彼はそう告げた。

 

「由比ヶ浜が雪ノ下のところへ行ってこいと言ってくれたんだ」

 

「……………」

 

由比ヶ浜さんが……

 

感情がこみ上げて来る前に、目から自然と何かが零れ落ちるのを感じた。

次から次へととめどなく零れ落ちる。

 

「泣くな、雪ノ下」

 

そう言って彼は私をそっと抱く。

 

私の感情はいまだに追いつけておらず、ただただ涙が流れるだけだったが、私の肩に温かい雫がぽとりぽとりと落ちているのを感じていた。

 

「あいつは涙なんかきっと望んでいない。笑顔のために選択をしたんだ」

 

彼は耳もとで話す。

温かい吐息が耳をくすぐる。

 

こそばゆくて彼の顔を見上げた。

 

そこにあったのはーー

 

「だから、由比ヶ浜のために……笑おう」

 

優しい笑顔だった。

 

初めて見たかもしれない。

 

いつもの皮肉めいた表情ではない。

 

本物の、魅力的な、優しい笑顔。

 

そんな彼の笑顔に私はまた魅せられて。

 

「そうね、涙なんてあの子は望んでないわ」

 

そう言って袖で目もとを拭う。

これ以上、彼の顔を見ていたら恥ずかしくなるからというのもあったかもしれない。

 

「……笑わないとね」

 

「ああ」

 

そう言って、静かな玄関先で二人は慣れない笑みを浮かべた。

その表情に繕ったものはなく、彼ら彼女らの思いそのものだった。

 

リビングの方から小さく0時の鐘が聞こえている。長い長い卒業式の日は、名実ともに終わりを迎えたのだった。

 

マンションにさし込む淡い月光の下には、唇を交わし合う二人の姿だけがただあった。

 

***********************************************

 

卒業式の翌日、夕方頃に携帯が鳴った。

 

開いて確認してみると相手は友人だった。

 

「由比ヶ浜さん……」

 

電話にでて話すべきなのに、でて話したいのに、体がかたまったようにして動かない。

腹の底に巣食う底知れぬ恐怖のようなものが、纒わりついているような感じがした。

 

静かな部屋に響くバイブ音。

 

応答ボタンを押そうと震える手を伸ばす。

 

「あっ……」

 

しかしその次の瞬間には着信が切れていた。

部屋に響いていた不快なバイブ音が止む。

 

同時に身体の硬直も解け、へたり込むようにしてベッドに倒れ込んでしまった。

 

「電話……かけ直さないと」

 

そう思って電話帳を開く。

そして電話帳を下にくだっていき、由比ヶ浜さんの番号を探した。

 

かなり下ったところでようやく見つけて、発信ボタンに手をかける。

 

「逃げちゃダメだから」

 

そう呟いてひとつ深呼吸をする。

お腹に溜まった息をゆっくりと全て吐き出して心をできる限り落ち着けた。

 

そしてもう一度相手を確認してから、発信ボタンをそっと押す。

 

静かな部屋に響くコール音。

それを聞いて、相手の応答をじっと待った。

 

刹那、電話とは違う電子音が部屋に響く。

 

ーージリリリリリリ

 

独特の緊張感が漂う中で突然エントランスのチャイムが鳴ったのだ。

 

「あっ……」

 

張り詰めた空間を切り裂くようなチャイムの音。彼女は反射的に電話を切ってしまった。

これでは彼女の携帯に着信履歴が虚しく残るだけだ。苛立ちが募る。

 

発信音に代わり、依然として鳴り続けるエントランスのチャイム。

苛立ちを隠しつつチャイムに出た。

 

「はい、雪ノ下です」

 

見知らぬ妨害者に対する、刺々しい自分の声。

だが返ってきたのは聞き慣れた声だった。

 

「私、結衣だよ。ゆきのん、開けて!」

 

ーー由比ヶ浜さん?

 

黄昏時の思わぬ来訪に驚きを隠せない。

 

「おーい、ゆきのーん。開けてよー」

 

エントランスのカメラに対して、ジャンプしながら大きく手を振る彼女。

その無邪気さに心のしこりがとれた気がした。

 

「ゆきのーん、いるんでしょー?ボタンをポチッと押してー」

 

「え、ええ」

 

きっと解錠のボタンのことだろう。言われた通りボタンを押して由比ヶ浜さんをロビーに通す。

 

そして私は慌てて玄関に向かい靴を履き、エレベーターの前へと出迎えにいった。

 

エレベーターがゆっくりと昇ってくる。

きっと由比ヶ浜さんを乗せているのだろう。

 

何を言われるのだろうか……

 

エレベーターが近づくにつれて、そんな不安が脳裏を過ぎった。

 

エレベーターが止まり、空中要塞のような思い音を立てて扉が開く。

 

その瞬間、中から黒い影が襲いかかってきた。

 

「……ッ!」

 

武術の心得もある私は反射的にそれを避ける。

 

「わわわっ!」

 

飛びかかった本人もまさか紙一重でかわされるとは思ってなかったのだろう。

そのまま寄る辺もなく、可愛らしい声とともに地へと墜落した。

 

「ぐえっ」

 

そう、雪ノ下雪乃に抱きつこうと華麗に空を舞った由比ヶ浜結衣は、エレベーターの前で派手にすっ転んだのだ。

 

「ゆ、由比ヶ浜さん!?」

 

「はうぅ……」

 

床で大文字になっている由比ヶ浜さんを慌てて助け起こす。

 

「ご、ごめんなさい!大丈夫!?」

 

「あ、ゆきのん!やっはろー!」

 

「あ、えっと、やっはろー……」

 

痛そうな素振りを一切見せず、いきなり挨拶されたので思わずやっはろーと返してしまった。

 

「とりあえず中に入りましょ」

 

「うん、ありがとう」

 

由比ヶ浜さんの服についた汚れを一緒にはらい家の中へと移動する。昨日の反省はしっかり活かしている。

 

「近くまで来てたから寄っちゃった」

 

玄関の扉を閉めながら話す彼女。そんな姿を見て、先ほどまでの不安はどこかへと消えた気がした。

 

だが扉を閉めたあと、靴を脱ぐことなく、恥ずかしげにそらしていた目をしっかりと見据えて言い直す。

 

「……というのは少し違って、これだけは直接言っておきたいなって思って来たの」

 

その言葉に背筋が凍るのを感じた。

 

自分の卑怯な行いを批難されるのだろうか。

自分の下劣な裏切りを断罪されるのだろうか。

 

私自身、自分の行為を彼女への裏切りだと考えていた以上、そのような恐怖を感じずにはいられなかった。

 

「何……かしら?」

 

覚悟して問い返す。

 

何を言われようが仕方ない。

悪いのは私だから。

 

「何を言ってくれても構わないし、何をされても構わないわ」

 

そんな思いから出た私の言葉に、彼女も小さく頷きを返す。

 

「分かった」

 

静寂の帳がおりる。

 

罵倒されようが、殴られようが仕方がない。

それで彼女の気が済むなら。

 

「私は……」

 

何がきても受け入れるためにそっと目を瞑る。

 

…………………

 

…………………

 

…………………

 

目を瞑って数十秒経つが何も起きない。

 

彼女に何か起こったのだろうか。

不安になって、目をあけようとした。

 

その時だった。

 

自分の腰にそっと柔らかい手が触れ、温かい息が首のあたりを撫でるような感じがした。

 

そしてひとこと。

 

「ゆきのんのことが大好き」

 

耳もとで優しく囁かれる。

 

「昔も、今も、そしてこれからも、ずーっとゆきのんのことが大好き」

 

「由比ヶ浜さん……」

 

頬に温かい雫が伝う。

彼女の告白に、自然と涙が零れていた。

 

「そしてヒッキーのことも」

 

温かく、そして優しく、彼女は私を抱きしめてくれる。

 

「だからね……」

 

一度言葉を区切り、腕を掴んで私の顔を正面からしっかりと見つめた。

 

「私とこれからも仲良くしてほしいなって!」

 

彼女はそう言って悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 

その瞬間、私を何重にも縛っていた鎖が解け、初めて世界に出会った時のような爽やかな風が心を吹き抜けるような感じがした。

 

「由比ヶ浜さん……ありがとう……!」

 

次は私が彼女に抱きつく番だった。

全ての鎖から解放されて、身も心も何もかもが軽く感じた。

 

「ゆきのーん!力が強いよー!」

 

「ごめんなさい、嬉しくてつい……」

 

「そういう可愛いゆきのん、私は大好きだよ」

 

そうやって由比ヶ浜さんはにやっと笑う。

何か、可愛い妹を見るような目をしているので少し悔しい。

 

「ほーら、ゆきのーん。お姉さんにもっと甘えていいんだぞー」

 

悪ノリをしだしたわね……

 

珍しくお姉さんぶることができた由比ヶ浜さんは、ここぞとばかりお姉さんアピールをしているようだ。

ここは少しこらしめた方がいいだろう。

 

「お姉さ……んッ!!!」

 

「いたたたたた!痛い、痛いよ、ゆきのん!」

 

由比ヶ浜さんのお望み通り、思いっきり抱きしめてあげた。

豊かな双丘が密着して嫉妬も覚えたので、もう少しだけ強く抱きしめる。

 

「あいたたたた!調子乗ってごめんって、ゆきのーん!」

 

悲鳴をあげながらも、どこか嬉しそうな彼女。私もまた、こんなくだらないことをしている時間がとても幸せだと感じた。

 

しばらくこのままでいよう。

私はそっと笑顔を浮かべ、そう決意した。

 

***********************************************

 

私だって辛くなかった訳じゃない。

 

昔から想い続けた好きな人と一緒にいられないのは、やっぱり辛い。

全てに絶望してしまうくらいには辛い。

 

全てに目をそらして、どこか遠くへ行ってしまいたくもなった。

 

でもね。

 

好きな人が、大切な人が、苦しむ姿を見るのはもっと辛かったんだ。

 

冬の朝、凍ってしまった花びらに触れるとばらばらに壊れてしまうように、私の心が音もなく砕けていくのを感じた。

 

大好きだったあの場所、大好きだった時間、大好きだった人たち。

目をそらして逃げ出すことは、その全てを自分で否定してしまうのと同じなんだと思う。

 

そんなの、私は嫌。

 

三人で過ごした日々は全てが私の宝物なの。

だからそれを否定したくないの。

 

私は奉仕部が好き。

 

私はゆきのんが好き。

 

私はヒッキーが好き。

 

全て私の本当の気持ちなんだって気付いた。

 

ふたりの苦しむ姿はやっぱり見たくない。

大好きなふたりが苦しむ様を見たくなかった。

 

ふたりとも私の大切な友達で、大好きだから。

 

三人でまた楽しく話したいし、遊びたい。

まだまだ色んな話をしたい。

まだまだ色んなところに行きたい。

 

その未来のためなら、私はなんだってできる気がした。

 

だからね……

 

これが、私なりの、ヒッキーとゆきのんへの愛の形。

 

***********************************************

 

「明日、何時に集合か分かってる?」

 

「あー、分かってる、分かってる。千葉駅に10時集合だろ?」

 

明日は雪ノ下と買い物の予定だ。

卒業&合格祝いを奉仕部と奉仕部に関わりが深い面子でやることになっており、記念品みたいなのを贈りあおうみたいな話になってるので、その品を買いに行くという感じである。

 

奉仕部の三人だけでなく、戸塚や材木座など主だったメンバーはみな志望校に無事合格し、このパーティーに出席予定だ。

いろはすがそこに混じっているのがよく分からないが、「文句がある人は殺します☆」というオーラが出ていたので黙認した。

 

「分かってるならいいわ。また私を待たせることのないようにね」

 

前回会った時のことを言っているのだろう。

それに関しては俺にも反論がある。

 

「いや、私も15分前には着くように行ってたんですよ?」

 

「私と約束する時は30分前には来るべきよ」

 

雪ノ下さん、マジパネェっす。

千葉駅で30分も何しろってんだよ。

 

「いや、俺だって忙し……」

 

「あら、先週予定表が真っ白とか鳴いていたのはどこのヒキガエルかしら?」

 

「相変わらず容赦ねぇ……」

 

今日も今日とて雪ノ下雪乃は絶好調である。

ウニばりの刺々しさは以前より切れ味を増しているかもしれない。

 

まあ明日の予定も確認したし、話を切り上げようとする。

 

「ん、それじゃ明日な」

 

「あ、あとひとつだけ」

 

「ん、なんだ?」

 

先とは違って少し歯切れ悪く話が区切られる。

何か問題でもあったのだろうか、訝しむように問いかけた。

 

「由比ヶ浜さん…誘ってもいいかしら?」

 

「………」

 

雪ノ下の意外な問いに思わず黙ってしまった。

 

というのも、嫌だからとか避けていたかったからとかでは全くない。

 

雪ノ下が気持ちを整理して、由比ヶ浜と三人で新しい関係を築いていくにはもう少し日がかかると思っていたのだ。

何週間か様子を見て、俺から三人で会うことを提案するつもりだったのだが……

 

「比企谷くんがいいと言ってくれるなら、私は由比ヶ浜さんを誘いたいの」

 

俺の想像以上に雪ノ下雪乃は強かった。

 

いや、もしかしたら俺の知らないところで、二人で何か話したのかもしれない。

そう考えると自然と笑みが零れた。

 

「由比ヶ浜が来たいって言うなら、全然いいんじゃないか?まあ俺と二人でデートしたいってのなら別だけどな」

 

柄にもなくそう軽口を付け足す。

するとふふっと小さく笑う声が聞こえーー

 

「あら、由比ヶ浜さんを誘おうと言ったのは私の方よ?二人でデートしたかったのは、本当はあなたの方じゃなかったのかしら?」

 

「馬鹿を言え、先に告白してきたのは雪ノ下の方だろ?贈り物を買わないといけないし、俺は流行に詳しい由比ヶ浜についてきてほしいね」

 

「あらあら、あんな熱い告白をくれたのは誰かだったかしら?私も一人だと貞操の危機を感じるから、由比ヶ浜さんについてきてほしいわ」

 

相変わらずの口論に発展する。

といってもこれが日常だし、どこか楽しい。

 

「じゃあ由比ヶ浜に来てもらうということで反論はないな?」

 

「もちろんよ。あとで私と二人でデートしたかったって泣いても知らないわよ」

 

というあんばいで由比ヶ浜を誘うことが決定した。

まあ俺としては最初から真意を見抜かれていたようで、なんとなく恥ずかしかったが。

 

「じゃあ朝早いから、また明日な」

 

「ええ、また明日」

 

そう言いつつも通話は切られない。

 

電話で話す時、二人で決めたこと約束があるのだ。

頭をかきながらあさっての方向を向いて、通話口にこう告げる。

 

「おやすみ、雪乃」

 

「おやすみ、八幡」

 

返ってきた声もやはり少しよそよそしい。

相手もきっと同じような思いなのだろう。

 

「慣れねぇなぁ……」

 

そう窓の外を眺めながら呟いた。

 

当然のように言い合えたら……

そんな日が早く来ることを空に瞬く星々に願った。

 

***********************************************

 

「うーん、暇だなぁー」

 

ため息混じりにそう呟く。

 

合格発表も無事終わり、やることがなくて退屈な日々が続いている。

学校のようにみんなで集まる場所がないので、連絡をとらなければ会う機会がないのだ。

 

みんなと話すことが何よりも好きな私にとっては、退屈以外の何物でもなかった。

 

そんな時、手もとの携帯が鳴る。

 

「ん、お母さんかな?」

 

そう言って携帯を開いて確認すると『ゆきのん』の文字があった。急いで電話にでる。

 

「はい、もしもし!」

 

「もしもし、由比ヶ浜さんですか?」

 

「うん!ゆきのん、やっはろー!」

 

「ええ、やっはろー」

 

ゆきのんもしっかり「やっはろー」と返してくれるようになりとても嬉しい!思わず笑みがこぼれた。

 

「で、で!ゆきのん、どうしたの?」

 

踊る胸を抑えきれずに先を促してしまう。

ゆきのんに対しては、どうしても心がどんどん先に行っちゃうんだよね。

あとヒッキーに対してもかな?

 

そんな私に対してゆきのんは穏やかに続けた。

 

「由比ヶ浜さん、来週、比企谷くんと買い物に行くの。由比ヶ浜さんも一緒にどうかしら?」

 

「えっ……」

 

あまりにも意外で言葉が出なくなっちゃった。

 

だってゆきのんとヒッキーで買い物でしょ?そんなデートみたいなものに私が行っていいのかな?

いろんな考えが頭の中をぐるぐると巡る。

 

「遠慮ならする必要ないわ。パーティーの記念品を買うためのただの買い物だし、比企谷くんも賛成しているわ」

 

黙ってしまった私を気にかけてくれたのか、ゆきのんはそんな言葉をかけてくれた。

 

でも本当に行っていいのかな?

私に気をつかってくれてるのなら、とっても嬉しいけど断らないといけない。

 

「ふふっ」

 

そんな感じで真剣に考えていると、ゆきのんが小さく笑う声が聞こえた。

 

「どうしたの?」

 

そう尋ねるとゆきのんが可笑しそうに答える。

 

「由比ヶ浜さんのことだから、きっと気をつかってるとか考えてるんじゃないかしらと思って」

 

「ええっ!なんで分かったの!?ゆきのんってもしかしてエスピーなの!?」

 

さすがゆきのん!

私の考えが完璧に見透かされてる!

 

「少し惜しいけれど、それを言うならエスパーよ。私はそんなに屈強じゃないわ」

 

あ、ほんとだ!エスパーだ!

……ん、じゃあエスピーってなんだっけ?

まあ細かいことは気にしない。

 

「ちゃんと由比ヶ浜さんに来てほしいのには理由があるのよ」

 

「理由?」

 

「ええ」

 

私についてきて欲しい理由!?

理由を聞きたくて耳をすませる。

 

「比企谷くんと買い物が進まなさそうだし、二人だと身の危険を感じるし、それに……」

 

「それに?」

 

一度言葉を切るように黙ってしまったので、先を促すようにゆきのんの言葉を反復する。

すると恥ずかしそうにゆきのんはこうつけ加えた。

 

「それに、由比ヶ浜さんがいてくれるときっと楽しいし、私も嬉しいのだけれど…」

 

「ゆきのん……」

 

今の彼女の精一杯の告白。

そんな風に感じた。

 

「だから……」

 

彼女はさらに何か言おうと言葉を探しているようだった。

 

でも、私はもう十分。

 

友達が私を必要としてくれるなら。

 

「ふっふっふっ」

 

「…………!!!」

 

なぜか怪しげな笑いが零れてしまい、ゆきのんが驚いてしまったようだ。

はっと息を飲むような声が電話越しに聞こえた。

 

そんなことは気にせず声高に話す。

 

「そうですか、そうですか!あのゆきのんが、私の意見を聞きたいというのですか!」

 

「…………」

 

気まずい沈黙。

 

調子に乗ってテンションを変えすぎた。

多分ゆきのん、電話越しで目をぱちくりさせてるんだろうなぁ……

 

ということでいつもの声に戻す。

 

「じゃあ、仕方ないですね」

 

優しく、子供を慈しむようなイメージで。

 

「一緒に行ってあげるよ」

 

「由比ヶ浜さん……ありがとう!」

 

声でゆきのんの喜びは伝わってきた。

喜ぶと同時に安堵するような声だ。

 

「ううん、やっぱりそうじゃない」

 

「??」

 

うーん、でもちょっぴり違うなあ……

そんな感じがしてそう呟いた。

 

「ちょっと待ってよ……」

 

「え、ええ……」

 

困惑するような感じのゆきのん。

心配かけてごめんね、別に大したことはないんだけどしっかり私の気持ちを伝えたいなって。

 

しばらく考えた末、しっくりくる言葉がようやく閃いた。

 

「お待たせ、ゆきのん!」

 

「ええ。どうしたの?」

 

「先の言葉、言い直したいなって!」

 

納得したようにくすりと笑うゆきのん。

エスピーのゆきのんなら、どの言葉を言い直すかも分かっちゃってるんだろうな。

 

そう、一緒に行って『あげる』じゃない。

 

私だって、三人で行きたかったんだ。

 

あの日のように、三人で会いたかったんだ。

 

だから本当の思いを、私らしい声で届けた。

 

「私も一緒について行ってもいいかな!」

 

「ええ、あなたなら喜んで!」

 




はい、以上です!本当に終わりです。
うわーん、とても寂しいです(;▽;)
年月というのは早いもので私が書き始めてから、今までの間に彼ら彼女らより年上になってしまいました笑
投稿スピードが遅いからだろ( º言º)
…などといったツッコミも受け付けてますので、コメント&評価よろしくお願いします(*´ω`*)
改めて、ここまで読んでくださった皆様に厚く御礼を申し上げます。どこかでまた出てくるかもしれませんが、その時はまたどうかよろしくお願いします!
不肖、神崎奏河より、素敵な読者の皆様へ……

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