そうして彼らの思いは交錯し、運命は分かたれる《完結》   作:神崎奏河

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お読み下さっている皆さん、お待たせしました!
②話の投稿になります(´∀`)
今回は卒業式前の学校での話となっています。
ガハマちゃんなどもようやく登場します(´;ω;`)
はじめての方も読んで頂けると嬉しいですヽ(*´∀`)


そうして彼らの思惑は交錯し、運命は分かたれる。②

 

卒業式。

なんと言おうか、俺はこの日を待ち望んでいたと思う。

 

全ての関係はこの行事をもって切れる。

 

そう信じて、この日まで決して日を浴びようとせず陰で学校生活を送ってきた。

なんと人に思われようとも、自分を貫いてきた。

 

そうして今、卒業の日を迎えて、派手に飾り付けられた校門を過ぎる足は果たして軽かったかどうか。

自分ではない自分がそこにいるような気がした。

 

下駄箱に向かうにつれて喧騒も広がる。

忙しなく移動する雲と同様、人々はその営みを止めることがない。

 

ご苦労なこった。天気がどうだろうと、家で床と一体化して寝ている俺は感心する。

我が妹よ、床で寝てる時に俺を踏むのはやめろよな。流石のお兄ちゃんも傷付いちゃう…

 

下駄箱で靴を履きかえようと手を伸ばす。

手に取った上履きは3年間使い続けたもので、何度か洗ってはいるが汚くてぼろい。

 

この上履きが洗っても元のように綺麗になることがなかったように、過去も決して元通りにはならないのだろうと考えると、過ぎ去ってしまった過去が嫌が応にも思い出された。

 

なんとなく踵に気をつけて上履きを履く。

下駄箱を少し出たところで、肩越しにややアホっぽい声で声をかけられた。

 

「ヒッキー、やっはろ~」

 

ふっと彼女特有のシャンプーの匂いがする。

この呼び方をするのもただ一人。振り向くとやはり由比ヶ浜だった。

シャンプーの匂いで誰か分かるとか、我ながらちょっとキモいな。

 

見るとお団子髪などは変わっていないが、さすがに卒業式の今日はきちんとした服装をしていた。

きちんと制服を着こなした由比ヶ浜を想像したことがなかったが、ちゃらちゃらしたアホっぽい感じが少し消えた由比ヶ浜には別の魅力が引き出されており、少し戸惑いを感じてしまう。

 

かける言葉が見つからなかったので、とりあえず挨拶を返す。

 

「お、おう」

 

悩んだ割にはしっかりと最善を尽くして返事をしたつもりなのに、由比ヶ浜は気に入らなかったのか、顔をずいっと前につきだして怒ってくる。

 

「いやヒッキー、朝から超暗いし!おう、だけで返すなし!」

 

むきーという感じに言ってきた。

これが俺のナチュラルなのだが、とりあえず謝る。

 

「なんか、すまん」

 

「分かればよろしい!」

 

由比ヶ浜は胸を張ってそう答える。

 

しかしこんな寒い日なのに、朝から元気だなコイツは。若いって良いなぁ……と昔の元気だった自分に思いを馳せて、しみじみと感慨に耽る。

あれ、俺、今何歳だっけ。

 

「じゃ、ヒッキー、一緒に教室行こう!」

 

「あいよ」

 

由比ヶ浜は俺の横に移動し、並ぶようにして歩く。俺は由比ヶ浜に歩調を合わせて歩きながらも、考えごとをしていてどこか上の空だった。

 

***********************************************

 

そのうちいつの間にか教室に着いていたようで、由比ヶ浜に呼びかけられて、現実に引き戻された。

 

「ヒッキー、先からどうしたの?気分でも悪いの?なんかぼーっとしてるよ?」

 

「いや、なんでもない」

 

「ほんとに?まあ確かにヒッキーは何時もぼーっとしてるけど……もし何かあったら言ってよね?」

 

さり気に失礼なことを言われた気がしたが、由比ヶ浜は思索に耽っている俺を心配してくれたのだろう。

人様に心配をかけないのが信条である俺は、いったん思索に耽るのをやめて、目の前のことに集中する。

 

俺は自分の席へと向かい、背もたれに深く寄りかかって座った。

由比ヶ浜は俺の前の空いている席に座って、机を挟む形で話しかけて来る。

 

「奉仕部に入ってもう2年かぁ。すごい早かったなあ。特に3年生なんか、一瞬で終わっちゃった感じがするよ」

 

「まあ実際、最後の1年はほとんど活動出来なかったしな。そりゃ短くも感じるだろ」

 

しかも途中から文理や志望校、就職などで分かれていったので、誰かと一緒に何かをするという時間は、3年生では極端に短かった。

すなわち、3年での日々はぼっちに優しい1年と言えるだろう。

 

「確かに最後の1年は、全然3人で揃って活動出来なかったもんね」

 

結局、奉仕部は俺たちが3年生になっても、最後まで細々と活動を続けていたが、3人が同時に集まることは滅多になかった。

その代わりといってはなんだが、あざとい奴の出席率が上がっていた。

ホントにあの子、仕事してるのかしら。

 

「でも奉仕部で過ごした2年の間に、本当に色んなことがあったよね。今じゃ、どれもこれもいい思い出だなぁ。ヒッキーは楽しかった?」

 

「そうだなぁ……」

 

由比ヶ浜にそう言われて、奉仕部での日々を思い出してみる。

 

平塚先生にレポートを酷評され、謎の教室にぶち込まれ、美女と教室に2人だけというラブコメ展開の中、初対面なのにいきなり罵られる。その後も日常的に罵られるほろ苦い日々……

 

「……思い出すとぞっとするわ。」

 

「ぞっとするんだ!?」

 

由比ヶ浜からが鋭いツッコミが飛ぶ。

 

確かに由比ヶ浜は俺が入りたての頃はいなかったし、雪ノ下は由比ヶ浜には甘い節があるから知らないと思うが、当時、突然奉仕部という荒野に放り出されて小動物のように震えてた俺を、雪ノ下さんは容赦なく叩き潰しに来たからね?

 

しかしツッコミを受けて改めて考え直すと、2年間を通してみると、なかなか悪くない日々だったと自分でも思えた。

その思いを正直に口に出す。

 

「まあ、悪くはなかったんじゃねぇの?」

 

「良かったぁ……またいつの間にか、うわべだけの関係とかになってたりしてたのかと思ったよ」

 

そう言って由比ヶ浜は安堵のため息を漏らす。

 

俺は由比ヶ浜の言葉で、そんな日々があったことを思い出す。

あの時は由比ヶ浜だけが、虚ろな関係から抜け出そうと一人で頑張り、最後には俺の思いを受け止め、雪ノ下の気持ちも救ってくれた。

 

今になって、まだしっかりと感謝の言葉を言えてなかったことに気付き、忘れないうちに言っておくことにした。

今日言わなかったら、次にいつ言えるか分からないしな。

 

「あの時は助かった。ありがとうな」

 

「えっ?いや……私は……何もしてないよ?」

 

急に感謝の意を伝えられて、由比ヶ浜は少しうろたえてしまっているようだ。

何もしてないと謙遜しているが、もし由比ヶ浜がいなければ、あそこで全てが終わっていただろう。

 

「そんなことはないぞ。実際ここにお前に救われた奴がいるんだ。この事実が変わることはない」

 

「う、うん……ありがと」

 

由比ヶ浜はそう言って俯く。

頰が少しピンク色に染まり、彼女の可愛らしさがより一層引き立てられていた。

 

「………パフ………」

 

由比ヶ浜が俯いたまま小さな声で呟いた。

俯いて口もとが見えない上に、あまりにも小さな声だったので聞きとれず、俺から聞き返す。

 

「うん?何か言ったか?」

 

「……じゃあ、お礼に駅前のパフェ奢ってくれる?」

 

今度はしっかり聞きとれた。

さっきよりやや上を向いて、モジモジしながら上目遣いでこちらを見てくる。

 

ふむ、これは感謝するなら、虚しい言葉よりも物で示せということだろうか。

……やるな。由比ヶ浜の成長が見てとれる。

 

俺はポッケに手を伸ばして財布を取り出し、そこからなけなしの千円札を取り出す。

 

「……分かった。これで思う存分食ってこい。」

 

「なんでそうなるの!?」

 

由比ヶ浜は勢いよく顔を上げて、ツッコミを入れてきた。

 

やや、これはどういうことだろうか。全く予想外の反応だ。

もしかして0が1つ足りないのだろうか。

………やるな、ガハマさん。取れるとこはしっかり取ろうという魂胆ですな。

しかし今の俺は諭吉を持ち合わせていないので、容赦してもらうしかない。

 

「すまん、今は勘弁してくれ。近いうちにきっちり足を揃えて払うから」

 

「なんかおかしな方向に話が進んでる気がするんだけど……まあ、ヒッキーらしいといえばヒッキーらしいから良いや」

 

由比ヶ浜はそう言って、椅子に座ったままぐーっと背伸びをする。

俺も冗談はこのくらいにして、1度座り直して制服にシワがつかないようにした。

 

背伸びを終えた由比ヶ浜は、はっと思い出したようにでっこでこで重そうな携帯を取り出して、俺の目の前で軽く振ってみせる。

 

「ヒッキー、分かってるよね?」

 

一緒に写真を撮るんですよね、分かってます。

 

だが言われるがままに、本人の言う事をはいはい聞かなければならないことはあるまい。

少しだけ抵抗を試みる。

 

「おう、もちろん。今日の星座占いなら12位だったぞ」

 

「全然違うし!しかもなんか最下位だし!こっちまで悲しくなるから、そんなこと言うのやめて!」

 

怒涛の勢いで否定される。

 

「写真だよ、しゃしん!」

 

写真がどちらかと言うと嫌いな俺だが、雪ノ下をも落とした彼女に敵うはずもあるまいと観念し、言われるがまま由比ヶ浜の携帯のカメラに一緒に入る。

 

………こら、そんなに引っ付くな、引っ付くな。その……胸の辺りとかが気になっちゃうからね。

普通の奴なら動揺してしまうだろうが、そこは熟練のぼっち、脳内で「これは胸パッド、胸パッド」と念じて理性を保つ。

 

「はい、チーズ!」

 

目を射るような一瞬のフラッシュと同時に、シャッター音がした。

ふと目をつぶってないか不安になる。目をつぶってるからもう一回、とかなったら面倒だし、精神的な意味で困るし……

 

しかしそういった様子はなく、撮れた写真を確認し終わって興奮した様子でずいっと前に出てくる。

 

「なかなかいい写真撮れてるじゃん!」

 

そう言いながら携帯をつきだしてくる。

……近い。やっぱり近いよ、ガハマさん!おかげでまた理性の危機に陥るが、「これはおかんの胸、おかんの胸」と唱えてなんとか乗り切ろうとする。

何度も復唱しながら写真を見ると、キョドった自分の顔があった。

 

「これが俺のベストショットって思われてるの?え、何それ、辛い」

 

「いや違うけど!ってか、なんでそういうとこには敏感なの……」

 

こんな変な顔がベストと言われるとは少々不満を感じる。

しっかり朝、ギャ○ビーで洗顔してきたから、イケメンになってるはずだ!まさかイケメンが使うと逆にブサイクになってしまうのか……そんなことを考えながら写真を見つめる。

 

でもまあ変ににやけて無いだけマシだし、何より由比ヶ浜が嬉しいのならそれで良いだろう。

 

じっくり見終わったのか、由比ヶ浜はいったん携帯をしまう。

そして空いた両手で俺の手を握ってきた。

 

「まだ時間あるし、ゆきのんのとこ行く?」

 

柔らかく、なぜか温かい手のひらに思わず動揺してしまう。

しかし俺はすぐさま平静を取り戻し、そっと自分の手をすり抜けさせる。

 

「あいつもクラス内だけでやることあるし、式後に行くべきだろ」

 

なんだか写真家魂が燃えている由比ヶ浜を抑えて、ゆっくりと席に腰を下ろした。

いや、さすがに女子ばかりのクラスに入るのは気が引けるし……。納得したのか、由比ヶ浜はこくんと頷く。

 

「んー、確かに。じゃあ優美子達と撮ってくるね!」

 

「おう、行ってらー」

 

そう言って送り出したのも束の間、由比ヶ浜は何かを思い出したように立ち止まり、バタバタとこちらに戻ってきた。

そして一呼吸置いてから、由比ヶ浜はいつもの軽い感じとは違って、丁寧に俺の名前を呼んだ。

 

「ヒッキー」

 

俺の目をしっかり見据えながら、突然改まって由比ヶ浜が俺の名前を呼んできたため、少し怯んだ形となり反応が遅れる。

 

「……ん、なんだ?」

 

「卒業式が終わって、写真とかも撮り終わった後、ヒッキーと話したいことがあるの。二人だけで。良い……かな?」

 

由比ヶ浜は躊躇いながらも、丁寧に一語一語言葉を紡いでいた。

俺は戸惑いつつも、懸命に紡がれた言葉を前にして沈黙を保つのは失礼なので、なんとか言葉を返す。

 

「ん……前向きに考えとく………」

 

俺の返事を聞いた由比ヶ浜は、満足そうに笑う。

 

「うん、ありがとう……じゃあ、また後でね」

 

と言って教室の後方に陣取る、上位カーストの集団の方へと足早に向かっていった。

由比ヶ浜に先の張り詰めた様子はもうすでになく、今はいつもと同じ笑顔をしている。

 

「優美子、姫菜、やっはろー!」

 

後ろから聞こえてくる由比ヶ浜の声はいつもと変わらず、先ほどの言葉の真意をはかりかねる。

ただ二人で会いたいのかもしれないし、渡したいものがあるだけかもしれない。

 

予想をしはじめるときりがないので、切り替えて周囲の声になんとなく耳をすませてみる。

 

「あ、結衣じゃん。あーしの卒アルになんか書いといてよ」

 

「あ、私もお願い〜」

 

「もちろん!優美子と姫菜も私のに書いてね!」

 

どうやら後ろでは由比ヶ浜とあーしさん、海老名さんの三人組が、卒アルにメッセージの書きあいをするようだ。

 

性格の良い由比ヶ浜のことだ、きっと友達と写真を撮ったり、卒アルにメッセージを書いたり、色んな予定があるのだろう。

ちなみに俺にそんな予定は無い。自由って最高ッ!そう心の中で叫んだ。

 

***********************************************

 

由比ヶ浜がいなくなり一人で伸びをしていると、教室に戻ってくる奴とばっちり視線があった。

そいつはにこやかな笑顔を浮かべながら、こちらに近づいて来る。

 

「やあ、比企谷。元気か?」

 

葉山隼人。学校のカリスマ的存在で、俺の敵だ。

今も俺に話しかける葉山を見て、クラスの女子がきゃーきゃーと沸き立っている。

また教室後方からはグ腐腐とか、ウマウマとか不穏な声がした。

 

葉山と話すくらいなら、一人の方が良いと思った俺は、葉山の質問に対して少し皮肉を交えて答える。

 

「別に元気ではないな。むしろ少々疲労を今感じてる」

 

「ははは、それは良かった」

 

皮肉を交えたのだが葉山に動じた様子もなく、笑って受け流す。

やはり本物のイケメンは防御力や回避力が高い。

 

追い払うことに失敗した俺は、諦めて葉山にここに来た理由を問う。

 

「いったい俺に何の用だ?」

 

「別にこれといって用は無いけど、卒業する前に君から嫌味を1つでも聞きたいと思ってね」

 

「なんだよそれ……嫌味とか、頼まれて言うもんじゃないだろ。」

 

え、なんなの?俺の嫌味って、俺の知らないところで学校名物か何かになってるの?それとも俺を煽ってるの?

俺はジト目で葉山を睨みつける。

 

「確かにそうだな。まあそう睨むなよ。別に悪意があって言ってるわけじゃないんだ」

 

そう言って苦笑を浮かべる。

そして寂しげな微苦笑を湛えたまま、携帯をポッケから取り出して言う。

 

「まあ先のは半分冗談さ。本当は一緒に写真撮って良いか聞きたかったんだ」

 

「別に勝手に撮ってくれれば良いけど………」

 

葉山からの予想外の要求に俺は面食らい、簡単に承認してしまう。

本当に卒業式を前に、はやはちストーリーがはじまってしまうのだろうか。

 

葉山は俺の答えに爽やかな笑顔を浮かべる。

 

「君ならそう言ってくれると思ったよ。ありがとう」

 

そう言って、俺の隣に移動し、携帯の内カメラで手際よく写真を撮影する。

海老名さんが、はやはち万歳!とかなんとか言いながら鼻血を吹いて倒れ、三浦に看護されているのが画面に映って見えた。

 

写真を確認した葉山は、携帯をポッケにしまい、写真を撮るためにいったん下ろしていたカバンを再び手にとる。

 

「ありがとう。じゃあ、またいつかな」

 

「こっちはもう懲り懲りだけどな」

 

俺の返事に葉山は軽く微笑んで、彼の本来の居場所である後ろの集団へと戻っていった。

 

「隼人くーん、早く来て俺の卒アルにも何か書いてくんね?」

 

「もちろん。戸部も俺のによろしくな」

 

「もちろんだべ!」

 

「はやとー、うちのにも書いてよ」

 

「隼人くん!私のにも、ヒキタニくんと一緒にメッセージ書いて!ぐ腐腐腐…」

 

「海老名、また鼻血出てる。ちゃんと擬態しろし。はい、鼻ちーんして」

 

教室後方では、ちゃんと見慣れた光景が広がっていた。葉山を中心に、戸部や三浦達が囲むように集まり、談笑する。

何気ない光景だが、俺はその様子に安堵のようなものを感じた。

 




式直前の学校編ですが、次も続きますヽ(*´∀`)
③ではいろはす達が登場し、徐々に役者が揃っていきます!
近いうちに出せるよう頑張りますので、よろしくお願いします(´;ω;`)
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