そうして彼らの思いは交錯し、運命は分かたれる《完結》 作:神崎奏河
ありがたや〜(´∀`)
引き続き、卒業式前の学校の様子を描いてます(*゚▽゚*)
葉山もいつものグループに戻ったので、また暇な時間が訪れる。
辺りを見回してみると、みんな写真を撮ったり、メッセージを書き合うために駆け回っていて、教室も廊下も戦場のように目まぐるしく人が移動していた。
「みんな忙しそうだなぁ」
そう独り言を言いながら、いつもの通り寝たふりをそうそうに決め込んで、3年間の集大成となる睡眠の形を取る。
俺ほどの熟練のぼっちとなれば、卒業式の日であっても寝たふりをすることに変わりはない。
長年の研究からある程度顔を高い位置に置かないと、高確率で首が痛くなることが(個人的に)証明された。頬杖をつくのもありだが、ずり落ちた時が(個人の体験的に)怖い。
やはりワールドスタンダードでベーシックなスタイルの、腕枕がベストだと(個人の快眠度的に)思う。
「さて、寝るか」
両腕を曲げて机のやや前方に置き、そこにそっと頭を沿える。
……完璧だ。寝たふりどころか、本当に寝てしまいそうするのが欠点なので、ここ注意な。
頭の位置を微調整してベストポジションを見つけると、ゆっくりと目を閉じる。
そしてようやく周囲の喧騒が遠くなって来た時、耳もとに生暖かい吐息がふれた。
俺はビクッとして、がばっと起きる。
「わっ、先輩!いきなり頭を上げないで下さいよ。危ないじゃないですか!」
そう言いながら、あざとい後輩はぷくーっと頰を膨らませながら怒っていた。
一色いろは。通称いろはす。
何かにつけて、俺に絡んでくるあざとい後輩だ。
ベストポジションを崩された俺だが、怒ることなく冷静に先輩として注意してやる。
「お前なぁ……寝てる人の耳に息を吹きかけないってのをどっかで習わなかったのか?」
「先輩だからしたんですよ。他の人にやる訳ないじゃないですか」
小首を傾げながら、上目遣いで放つこのコメントは一見すると喜ばしいものだが、一色に関しては深い意味はない。
多分聞いたら、反応が面白いから〜とか、手持ち無沙汰だったから〜とか、平気で答えてくる。
特にやることもないので、実際に聞いてみる。
「なんなの?俺は君のペットか何かなの?」
「当たらずとも遠からずって感じですかね!」
屈託のない笑顔で普通に答えてくるところに、もはや恐怖を感じます……
この子はきっと、将来ビッグな女になるだろう。
「まあとりあえず、先輩、卒業おめでとうございます」
一色の祝福に対して、素直に謝意を述べる。
「ん、ありがとな」
「は?」
唐突に声と顔にあざとさがなくなり、何言ってんのコイツみたいな顔をする。
いろはす怖い……
金髪ロールと川なんとかさんの影響だろうか、迫力が増しているように感じる。
こんなところだけ、先輩から学ばないで!
一色は徐々にあざとい鎧を再装しながらも口元に手を当てて、うわ〜コイツ無いわ〜という感情を、相も変わらず全面に押し出してくる。
「何ですか、そのうっすい反応……こんな可愛い後輩が話しかけているのに、その反応は大減点ですよ。まあ私はもう諦めてますから、良いんですけど」
「すまんな。でも仮に俺が、『いろは、今までありがとう。お前がいてくれて嬉しかった。これからもよろしく頼むな』とか言ったらキモいだろ?」
そう言うと一色は数秒固まっていたが、すぐに両手を前に出し、俺と距離をとった。
「なんですか口説いてるんですか卒業式でもう学校では会えないからってのを武器に攻めるとか考えが甘いです確かに一瞬寂しく思っちゃった自分がいたけどやっぱ冷静に考えたら無理ですごめんなさい」
丁寧に頭を下げられ、口説いても無いのに拒絶されてしまった。
「だから仮にって言っただろ……なんで卒業式の日まで、お前にフラれなきゃダメなんだよ」
一色いろはは相変わらずどころか、むしろあざとさも逞しさもこの1年で成長しているかもしれない。
呆れを通り越して尊敬する。
一色は1つ大きなため息をつき、諦めたように続ける。
「やっぱ先輩は、いつまでも先輩のままでいて下さい」
呆れ半分に放たれた言葉のようだが、それは何処かそうあることを俺に期待しているようにも感じた。
「もとよりそのつもりだ」
俺は自信をもってそう答えた。
その答えに一色は満足したのか笑顔を零す。
その笑顔には以前見た時よりも、少し大人の魅力があるような気がした。
一色にはどこか妹のように感じて世話を焼いてしまう節があったが、これならもう俺が手伝わなくても大丈夫だろう。安心して卒業できる。
話にひと段落がついたところで、一色は再びぱっとこちらを向く。
「えーと、私から言いかったことはそれだけです。後は卒業しても時々、生徒会に来て下さいよ?先輩が私を生徒会長にしたんですから。しっかり下働きして貰わないと困ります」
一色はそう言って、少し間をあけた。
え、まだ安心して卒業出来ないの?
しかも先輩をこき使う気満々だし………
そんな俺の不安をよそに、一色は「ですから………」と続けて俺の方に顔を近づけ耳もとで囁く。
「最後まで、責任……とって下さいね?」
耳に生温かい吐息が流れ込み、なんだかくすぐったい。一色を見ると、いつものように小悪魔のようなあざとい笑顔を浮かべている。
俺はなんとか平静を保とうと、無理やり手伝いの話を続けた。
「い、いや、2年目は自分から立候補してたよね?まあ1年目はそうだから、たまに手伝いには行くけど。で、さっき地味に下働きとか言わなかった?」
「先のに無反応とか、正直信じられないです……」
一色は先の行動に対する返事が得られなかったのを不満に感じているのか、少し仏頂面だった。
……あんなのに理想的な答えを出せるのなら、俺はそもそもぼっちなんてしてないし、そもそも『俺の青春ラブコメは間違っていない』になってしまうだろう。
恋愛に不慣れな俺は、沈黙という選択肢しかないのだ。許せ、いろはす……
仏頂面な一色だったが、まあ手伝いに来るという答えを聞いて妥協したのか、それとも諦めたのか、はぁとまた一つ大きなため息をつく。
「まあ先輩が手伝いに来てくれるなら良いです。じゃあ私は送辞を確認したいのでもう行きますね。卒業式後も良かったら来てください!では!」
「……聞いてねぇし」
にこやかな笑みを浮かべた後、俺の話を待つことなく一色はぱたぱたと駆け出す。
大人の色香も身につけて来たいろはすだが、やはりそういうところにはまだ幼さが残っているのだなぁと思った。
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一色が教室から出るのをしっかり見送った後、ようやく一息つく。
そしてまた教室で唯一の1人となり居心地が悪かったので、寝たふりを再開する。
今日は朝早く起きてしまったので身体に疲れが残っている。それを癒すためにも、ゆっくりと目を閉じてリラックスする。
徐々に身体に入っていた力も抜けていき、少しずつ体力が回復しているのをなんとなく感じた。
目を閉じてしばらくすると、後ろから肩をつんつんとつかれた。
今日は来客が多いなぁ、うぜぇ……と思って、嫌々後ろを向く。
「あはっ、ひっかかったー」
そう言って、俺の頬に指を突っ込んで笑顔を浮かべる天使がいた。先ほどまで目を閉じていたからだろうか、いつもより輝いて見える。
「お帰り、戸塚」
「あ、うん、ありがと!……お帰り?」
きょとんとした顔が可愛い。所謂、とつかわいい状態である。
戸塚がいたら紛争の一つや二つ止まるんじゃないかなと思うレベルに可愛い。止まらなくても、むしろ俺が止めてみせるまである。
「まあ、良いや。でも八幡、僕たち今日で卒業だね。寂しいなぁ」
上目遣いで見てくる戸塚がとても愛らしい。卒業を間近にして戸塚ルートに入ってしまいそう。
「俺も戸塚と離れるのは寂しい」
そっと戸塚の部分を強調しておいた。卒業よりも戸塚の将来が正直気になる比企谷八幡です、はい。
すると俺の返事を気に入ってくれたのか、戸塚の顔が天上の花が咲くようにぱあっと明るくなる。
「そう言ってくれると僕も嬉しいよ!卒業した後も絶対会お……」
「ああ、勿論だ。」
「あはは……速いね、返事」
即答。戸塚と会わない訳が無い。同棲も選択肢の一つに……などと襲い掛かる煩悩を振り払う。
どうして戸塚はナチュラルに自分のルートに引きずっちゃうのかな~?ホントに彩加は悪い子だね!めっ!そんなやりとりが脳内で行われていた。
「あ、八幡、写真撮ろうよ」
「写真……もちろんだ。今すぐ撮ろう」
戸塚が不意にそう言ったのに対し、俺はにやけそうになるのをおさえながら返事をする。
戸塚が携帯を取りだす僅かな間に、写真が大好きな俺はしっかりと服装を正しておいた。
えっ、写真は嫌いじゃなかったのかって?なんのことやら、さっぱりですな。しつこいと目つきの悪い薬草学の教授に怒られるぞ。
携帯を見つけた戸塚は、フレーム内に入るよう俺にひっついてくる。同時にすべすべで良い匂いがする戸塚の肌が俺に接してきた。本当にボディソープ何使ってんの?
「じゃ、行くよー。はい、チーズ!」
無邪気な声に俺の顔も自然に綻ぶ。
俺の携帯に転送してもらい、永久保存版にした後、送られた写真を早速確認してみた。しかしそこには幼女を何人も誘拐する凶悪犯のような、恐ろしい自分の笑顔が写っていた。
これは酷ひ……思わずohという呟きが漏れる。
しかし天使の戸塚は酷評することなく、八幡の顔変だよ~とかなんとか言って笑い、テニス部の所に行ってくるから、またね、と告げて行ってしまった。
今ほどあの百人一首の「天つ風~」の詩に共感した時はない。残念ながらしばしとどめることは叶わなかったが。
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天使(戸塚)も行ってしまったことなので、俺は今度こそ寝たふりを決め込む。もう訪ねてくる人も他にはいないだろうと思っていると、再び肩をつんつんとつつかれた。
「お帰りなさいませ戸塚様~」と誠心誠意のお出迎えを心でしながら、これまでにないほど爽やかに振り返った。
「八幡ッ!今日こそ我と決着をつけるのに相応しい日は無いぞ!いざ勝負だ!」
いや、一人いたわ。なんかいた。僕、こんな子、知りません。
無言で反転し、時間を巻き戻したかのように全く同じ態勢に戻る。
一瞬の沈黙の後、Z君は慌ててつっこんできた。
「いやいやいやいや。振り向いておいて何も返事せずに寝るって、どういう了見をしておるのだ!」
「うるせぇ……天使と牛頭を間違えた傷心の俺に近づくんじゃねぇ………」
そもそもお前の脳内設定においてはお前の臣下なのに、決着をつけるってお前こそどういう了見してんだよ。もちろん材木座の臣下になるくらいなら、俺は自刃するがな。
そう思いながらも持ち前の腐った目で材木座を睨みつける。
「ぴぎゃっ」
弱ぇ……一睨みで怯んじゃったよ(設定上)俺のライバル。寂しそうにもじもじと俺の顔を伺っているぞ、コイツ。
流石の俺もドン引きするレベルの気持ち悪さに、思わず動揺する。
コマンドで「なかまにしますか?▷はい▷いいえ」が選べるなら、躊躇いなしに「いいえ」を選ぶのだが…
しかし動揺した俺を見て勢いを取り戻したのだろうか、大仰な咳払いをした後、材木座はカメラをずいっと俺の方につきだしてくる。
「げふこん、げふこん、おこぽーん。まあ八幡、とりあえず写真だ。写真を撮るぞ!」
「やだ」
「ぐほっ」
俺の速攻の否定はクリティカルヒットしたようで、材木座は開始早々に戦闘不能となった。
先の堂々とした態度はどこにいったのやら、上目遣いで写真を一緒に撮ろうと無言で訴えてくる。
先ほどの戸塚の上目遣いとは違い、可愛いというよりむしろ気持ち悪さ、気味悪さを感じたので、さっさと嘘だとばらす。
「嘘だよ。だからそんな小動物のような顔で訴えかけるな」
すると先の弱腰な態度を挽回するかのように、命令口調で再び写真を要求してくる。
「と、とにかく写真だ。大人しくフレームに入れ、八幡ッ!」
「はい、はい。入りますよーっと」
こんな寒い日なのに汗をかいている材木座が気持ち悪かったが、俺はおとなしくフレームに入った。
まあコイツには生徒会選挙とか、なんだかんだで世話になってきた。これくらいのことは聞いてやらないと男が廃るだろう。
目だけで無く、男まで廃ったら流石にヤバいしな。
「では行くぞ。はい、ピーナッツ!」
心地好い音と共にシャッターが切られる。
ってか、お前もその掛け声なのかよ。まあ俺もだけど。やっぱ千葉県民はこれでなくちゃな。
千葉のピーナッツはまじ神。ソースは俺。
「むふん、よく撮れているようだな。これは我らが友情の証だ」
「お、おう、ありがとう」
あまりにも屈託の無い笑顔に少し戸惑ってしまった。いつもの中二病じみた演技よりも、何倍も良い笑顔をしている。
これなら普通にやっていけそうなのにな……
しかし実際の材木座はむふんと息をして、人差し指を俺に向け、声高に宣言してくる。
「では我は他の戦友と約束がある故これにてさらばだッ、我が親友の八幡よッ!」
体面を気にしてかコートを大仰にばっと翻して、材木座は去っていった。
…しかし材木座よ、一眼レフで自撮りはどうかと思うぞ?まあ他の人に写真を撮って、などとお願い出来ない気持ちは俺もよく分かるがな。
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材木座の背中が見えなくなるまで見送ったあと、先ほど気になった言葉をなんとなく呟く。
「親友ねぇ……。」
しかし親友とは言ってくれる。材木座への呆れの気持ちもその言葉によってほとんど掻き消されてしまい、むしろ俺には少し笑みが零れていた。
一人でにやにやしてる……コイツ気持ち悪いとか言わないでね?
“親友”
それは友達以上の関係だと俺は解釈している。
しかし友達とは何か?こんな問いにぶちあったことは無いだろうか。
考えたことがある人は、この疑問を前にしてきっと苦戦したはずだ。
現代では友達という言葉は安売りされている。
「一度会えば友達」などとも言われていたりするが、少し待ってほしい。
話を合わせるためにお互いに騙しあう関係が、ちょっとしたことで態度を変えてしまうような関係が、本当に友達と言えるのだろうか?
俺は違うと断言したい。
では友達の定義とは何なのだろうか。
煩悶の末に、俺はとうとう一つの結論を自らの内に出した。
ーーー本物の自分を晒すことが出来て、お互いの幸せを心から願える関係ーーー
世の中は偽物に溢れている。本物か偽物かも分からないものだらけだ。
だって世界は自分に厳しいから。
生き延びる為には、俺たち人間は多くの虚像を用意する他なかった。関係を維持するために、仕事をこなすために、出世するために、などと適切な用途に応じた仮面使い分ける。
それもある意味は仕方ないかもしれない。
しかし友情とは虚像同士が交わることで生まれるものなのだろうか?
それは言うまでもなく違うだろう。当然、本物同士でなくてはならない。
本物同士を見せあって初めて交わりが生まれるのだ。
俺たちも一度はあの奉仕部という虚ろな箱の中で、偽りの時間を過ごし続けたことがある。
俺も由比ヶ浜も雪ノ下さえも、不自然で不気味な時を甘受してしまったのだ。全ては「壊したく無い」と願ったがために。
誰も、そして何も傷付かない世界。
聞こえは良いが、その実何も無い。
人間は行動する以上、故意過失に関わらず誰かを傷付けてしまう。
しかし傷付けないように、継ぎ接ぎだらけの会話をしても友情は生まれない。生まれるのはきっと小さくて脆い何かだろう。
しかし本物を得ようとしても、人間は警戒心が非常に高い生物だ。最初から本物を晒す奴なんてほとんどいない。
寧ろ晒さない方が安全で正しい選択かもしれない。
故に友情を得たければ、人間に与えられた限りある時間を精一杯割いて、お互いを理解しあって警戒を解き、本当の自己を解放しあう必要があるのだと俺は思う。
だからこそ友情は価値のあるものだと言えるだろう。仮りそめの友情を語って、青春を作り上げようとする輩が俺にとって滑稽に映るのも当然だろう。
本当に友情を作り出したい奴が、相手の悪口を陰で叩くはずが無いだろうが……
その点で材木座はビミョーな所はあるが、俺がピンチの時嫌々ながらも必死に助けてくれたし、俺に素を晒してくる辺り友達と言えるだろう。
俺もケッコー材木座には素を晒しちまってるし。
けどあの気持ち悪い絡み方だけは控えて欲しいです。(神頼み)
度々の来客に寝たふりをする気を失った俺は、そんな感じで机に頬杖をつきながら、益体も無いことを考えていた。
やはり俺は少し変わったのだろうか。なんとなく疑問を投げかけてみる。
「卒業か……」
色々と考えていると、思わず口をついて出た。
卒業が俺に何をもたらすのか、俺から何を奪って行くのかは分からないが、何か重要な転換点になりそうな気がなんとなくした。
不変を望んでいてもやはり変化は訪れる。己の身にさえも。しかもたとえ自分が変わらなかったとしても、自分を取り巻く世界は変わっていくのだ。
あらゆるものは諸行無常・諸法無我の理に従うと言うが、やはりその通りになってしまうのだろうと思うと、思わず自虐的な笑みが零れてしまう。
「ほんと、俺らしくねぇよなぁ………」
そう呟きながら、俺は椅子に座って、廊下を交差していく人波をぼうっと見つめていた。
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材木座が去ったあと、俺の周囲だけまた静寂に包まれていた。
こう言うと神秘のベールっぽくて強そうだが、ただ俺が誰にも相手にされなくなっただけである。
でも状態異常にならないのは便利。状態異常ダメンタルとかなったら、布団にくるまって部屋を転げ回ったりしちゃうし。
母の諦めた目が痛かった覚えがある。そう、末期か……という諦めの目。いや簡単に見捨てるなよ、我が母よ。
寝たふりをする気は失ったが、このまま教室にいるのも何か気まずい。
教室から出るついでに、別に腹痛がする訳ではないが、式中に急に腹痛に襲われることのないようトイレへと向かう。
「湿気が鬱陶しいなぁ」
不快な環境に愚痴りつつ、教室を出て湿気で濡れた廊下を移動する。
トイレの前まで来ると、凛とした声に俺は呼び止められた。
「あら、比企谷くん。偶然ね」
「おう、雪ノ下」
雪ノ下雪乃。才色兼備にして冷徹な奉仕部部長だ。
「何してるのかしら?」
「どうみてもトイレに来ただけだろ」
俺がそう答えると、肩にかかった髪を手で後ろに払いのけながら、俺に言い放つ。
「比企谷くんのことだから、てっきり私をつけてきたのかと思ったわ」
「んな訳あるか………」
相変わらず自信家だなこいつは。
しかし実際、雪ノ下が髪を払った時の様は絵になるほど美しく、俺も一瞬見とれてしまっていた。
「まあ、良いわ。許してあげる。で、あなたも由比ヶ浜さんも教室に来なかったのは何故かしら?」
「お前もクラスメートとすることがちょっとはあるんじゃないのか?……で、俺、ストーカーなんてしてないからね?」
「ようやく合点がいったわ。あなた達が来ないから、何かあったのかと思ったわ。」
「心配させてすまんな」
俺のストーカー容疑は晴れなかったようだが、雪ノ下さんの疑問は解決したようだ。
こんなことは雪ノ下といると日常茶飯事なので、気にしない。
「まあそれは良いとして……」
俺がそんなことを考えていると、雪ノ下が何か改まって話を切り出した。
俺は不思議に思ったので続きを催促する。
「うん、どうしたんだ?」
すると雪ノ下らしからず、何か落ち着かない様子でこう続ける。
「比企谷くん……あなた、式が終わったらやることないのでしょう?……教室で最後の片付けがあるから、出来るだけ早く奉仕部に来なさい」
「確かに予定は何もないし、全然構わないが……片付けなんか残ってたか?」
「あるわ。まだ私の片付けが残ってるの」
「ティーポットとかか?まあなるべく早く手伝いに行くわ」
あの用意周到な雪ノ下が、持ち物を卒業式の日まで残しておくとはあまり思えなかったが、最近は学校からの配布物が多かったので、いくつか残ってしまったのかもしれない。
とりあえず手伝うと返事をしておいた。
「ありがとう、比企谷くん」
「お、おう……」
こんな些細なことで、雪ノ下から感謝の言葉を受けるとは思ってもおらず、少し面食らう。
廊下は比較的温かいからだろうか、雪ノ下の頰はほんの少し紅潮していた。
お読み下さってありがとうございました(*´∀`*)
少しずつですが、卒業式後のラブコメ展開も含ませています。
展開がどうなるか、台詞や心情描写などから皆さんがそれぞれ
自由に予想して下さると、とても嬉しいです!
④は少し遅くなるかもしれませんが、最後までお付き合い
頂けると、作者としてこれほどの喜びはありません(´;ω;`)
どうかよろしくお願いします!