そうして彼らの思いは交錯し、運命は分かたれる《完結》 作:神崎奏河
いよいよ卒業式パートです( ´∀`)
ようやくって感じですよね…すいません_:(´ཀ`」 ∠):
今回は卒業式なので、会話が少ないです…
卒業式ではあまり喋ってはダメですからね(笑)
八幡の独白のような感じになってます!
毎度お馴染みの駄文ですが、どうか最後までお付き合い願いますm(_ _)m
「卒業しても友達でいようね!」
教室に戻るとそこかしこから聞こえてくる、卒業式の日の常套句。無論友達のいない俺は、皆の言う友達に含まれていないのだろう。
寂しさこそ感じないが、卒業式の今日だけはなんとなく虚しい感じがした。
教室内は暖房がよく効いていて、窓には少し結露ができている。
「あーあ、とうとう降り出したか」
結露で曇った窓から外を眺めやると、先ほどの雲が雨を降らしているようだ。飽和点に達してはちきれたのだろう。
しばらく雨が降っていなかったが、何もこんな日に降ることは無いだろうと思う。
卒業式に大した思い入れの無い俺が思うのだから、劇的で感動的な卒業式を期待していた奴はさぞかし不満に思っているだろう。
晴れそうもないし、ソーラービームも威力が減りそうだ。ポケモンやりてぇな……
しばらくすると周囲のざわめきが小さくなり、ぽつぽつと着席する奴が出はじめた。
時計を見るまでもなく、卒業式がもうすぐ始まることを感じさせる。
俺も襟だけ確認して最低限の備えをした。
「行きたくねぇ……」
思わずこんな声を漏らしてしまった。
というのも、こんな春らしからぬ寒い日に暖房もない体育館に行って、長い長い話を聞きたいとはどうしても思えない。知らん人ばっかだし…
そう思っていると、体育館への移動指示がスピーカーから流れた。
面倒くささを些か感じながらも、体育館へと向かう流れに従い俺も体育館へと向かう。
寒いのを覚悟して身体を縮こまらせて教室を出たが、込み合っているためか廊下は意外にも暖かかった。
会話で発せられる吐息も、きっと廊下を温めているのだろう。周囲の賑やかさとは対照的に、俺は誰とも話すことなく静かに歩いて行く。
足取りには何の重みも感じない。
だが胸に水が貯まったような鈍い感覚を覚えた。俺の胸もあの雨にあてられたのだろうか。
この不安のような違和感を紛らわせたくて、気晴らしのために周囲を眺めてみる。
通路の床は結露で濡れていて滑りやすく、上履きの汚れが水に溶け出していて汚くなっていた。
昨日、小町たち下級生がここを大掃除していたはずだが、その綺麗さは見る影もなくなっている。
一方窓の外は教室で見た風景と別段変わったところはない。雨がかなりの勢いで降っているだけだ。跳ね上がる飛沫が雨足の強さを物語っていた。
一通り周囲を見終わると少し落ち着けたのか、違和感を紛らせることが出来たようだ。
俺は一つ、大きく息を吐く。
ゆっくりと吐き出された息は、ゆらゆらと大気中にたゆとうていた。
しかしそんなことに誰も気をとめる様子は無く、みな躊躇うことなく歩みを進めている。
自分の未来に一抹の不安も感じていないように。
「こいつらの未来設定、明るいんだろうなぁ……」
俺は専業主夫を希望しているが、なんだかんだで職について社畜生活を送る未来が見える。
決して多くないが、家族を養うには十分な賃金を貰って、デスクでマッ缶飲みながら、ふっ、こんな生活も悪くないな……とか呟いてそうで怖い。
移動中のかしましい話し声も、体育館に近づくにつれて自然と尻すぼみになっていく。
俺もポケットから手を出して、恥ずかしい行為だけはしないよう注意喚起をしておいた。
終わりよければ全て良しというように、今日ヘマをしない限り俺は青春の勝者となる。
そんな感じでノリ気じゃない自分を鼓舞して、体育館へと入場していった。
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「……………でありまして、えー、……………です。」
声は小さくないのに、先からどの文章も頭に入ってこない。
通路を移動している時の胸の鈍い感覚が、今になってまた戻ってきたのだ。
しかし例えそうだとしても、この感覚を引き起こしている胸のつかえが何なのか分からない以上、俺には何の解決策もない。
歯痒さに無意識に視線が下がる。
今日のために綺麗にアイロンがかけられたズボンにはシワが寄ってしまっていた。
ただ意味の無い時間が流れていく。
時計を確認せずにはいられない。
この卒業式が終われば、今のこの違和感も無くなるのではないか。そんな淡い希望をどうしても抱いてしまう。
それでは解決しないことを、何となく分かっているのにも関わらず。
時の流れに取り残されたような感覚に襲われる。
世界から切り離された空間……いや何も無い空虚な箱に一人でいる、そんな心地だ。
一人でいることにはもう慣れていたはずなのに、言いようの無い孤独感に何故か苛まれる。
心臓も跳ねうつように激しく鼓動する。まるで一人でいるのを嫌い、自分の存在を訴えるように。
「落ち着け、落ち着け、落ち着け………」
いつのまにか自分に言い聞かせるように小さく呟いていた。
おかしい、これはいつもの自分ではない。そう気付くのは容易であった。
しかし幸か不幸か、今の自分には考える時間が用意されている。
一度大きく深呼吸をする。
隣の奴が怪訝な目を向けている気がしたが、気にとめない。
何度か繰り返すと、少し落ち着くことが出来た。
俺は最大限この時間を活用して、この虚しい箱から抜けだそうと足掻くことにした。
通路ではうやむやにして先延ばしにした問いを、俺は落ち着いた心で改めて問い直す。
何がこの感覚をもたらしたのだろう。
周囲に何の変化も感じられなかったから、少なくとも問題事は無かったはずだ。
虚ろで仮そめの時間を過ごした覚えも無いし、自分の選んだ選択肢を気にして、出口のない逡巡を繰り返してるわけでもなさそうだ。
もしそうなら自分が一番分かるはずだ。
幾多もの考えが脳内を渦巻く。
しかしいくら考えても、この違和感をもたらしている原因が突き止められない。
むしろ考えれば考えるほど、思考の渦潮に巻き込まれていくような感じがする。
深く暗い底へ沈んでいくような……そんな感じだ。これまでとは違う違和感に不安を煽られる。
自分のことなのに分からない。
自分のことをかなり知ったつもりだったのに、不安の原因すら分からない。
それが悔しかった。無意識に手に力が入る。
---ガタンッ!---
不意に何かが落ちる音がした。
観覧の誰かが物を落としたのだろうが、かなり大きな音が体育館に響いた。
俺も思わず反応して、びくりと身体を奮わせる。
すると、さっきまで聞こえてなかった周囲の音が次々に混沌と耳に入り込んできた。
「くっそ……」
自らの思考を妨害する音が耳障りで、さらに苛立ちが募っていく。
一度破られた沈黙は元に戻ることはなかった。
何度考えを浮かべようとしても、騒がしさに煽られて気泡のように弾けて消える。
躍起になって探そうとすると、考えはより簡単に割れていってしまうのだ。
落ち着いたつもりでも、焦りや雑音は容赦無く俺の思考をかき乱してくる。終わりの見えない戦いに、精神が摩耗していくのを感じていた。
悪戦苦闘している最中、先生への謝辞を伝えるための起立の号令がかけられた。俺は慌てて立ち上がり、先生のいる方向へと身体を向ける。
すると今になってようやく、泣いている奴の存在に気付いた。
色々な場所で啜り泣く声が聞こえる。
俺の近くでは、金髪のような茶髪でちゃらちゃらしてる奴が泣いていた。
「……っべーっ。んんっ……っべー。」
お前、泣き方もそれなのかよ……ってか、ホントに泣いてるのかコイツ。少し疑いの目をヤツに向ける。
しかししゃくりあげているあたり、多分本当に泣いているのだろう。
しかし泣き方が面白かったせいか、張り詰めていた糸が少し緩んだような感じがした。
そのせいか、思考力も少し戻ってきた。
泣いてるとこ笑ってすまんな、戸部。まあどうでもいいけど。
これを良い機会に、いったん考えるのを中断して、前を向いて先生達のところへと適当に目を向ける。
といっても知らない先生も多くいるので目のやり場に困ってしまった。
正面を向くと完全に目があってしまう可能性があるので、なんとなく正面より右の方を見てみる。
……戸部。
また戸部が視界に入ってきた。
今はキリッとした顔で涙を流している。
何故かまたウケる。不謹慎かもしれないが、どうしてもウケてしまう。
これも彼が高カーストで人を笑わせるための経験を積んできたからなのだろうか。それともただのバカなのだろうか。それは分からない。
だが戸部のおかげで、心がだいぶ楽になった。サンキュー戸部!
戸部は見飽きたので、次は正面より少し左の方を向いてみる。
戸部はもういない。しかし次は他の先生と違い、身体を少しこちらの方向に向けている先生が目の端に映った。
誰だろうかと思い焦点を合わせて見てみると、平塚先生が微笑を湛えてこちらを見ていた。
俺は驚いて咄嗟に目をそらしてしまう。
何故だか分からないが、目を合わせたく無いと瞬間的に思った。
しかしもう一度目を細めて、ゆっくりと平塚先生の方を向く。やはり平塚先生は俺の方を見ていた。
このまま目を合わせずにいようか、そんな考えが頭をよぎる。
しかしこのままこっちを永遠に見られても困る。平塚先生が贔屓していると他人に思われてしまうのも癪だ。
頭を軽く掻きむしった後、諦めて先生の顔を伺うように見る。
顔が合わさると、先生はむふんと満足げな笑みを浮かべて、ふむと頷いた。
そして俺と目があったことを確認した後、また違う方向を向いて微笑んだ。そしてまたもう一方。
おそらく由比ヶ浜、雪ノ下の方を向いていたのだろう。
彼女達はどのような面持ちで、どのような気持ちで先生と向き合ったのだろうか。俺の席からは顔は見えないが、何となく二人の表情を察する事が出来た。
彼女達は酷く素直だからきっとしっかりと平塚先生の目を見返して、一人は泣きながら、そしてもう一人はなるべく平静を保ちながら微笑みを返したのだろう。
二人と向き合った後、平塚先生は再び俺の顔を見つめる。そこにはただ優しい笑顔だけがあった。
思わずまた目を反らしてしまう。しかし今度は嫌だったからではない。また目をあげると先生は面白そうに笑っていた。
ひとしきり笑った後、俺に何かを呟いた気がした。
そして呟き終わった後、平塚先生はまたニッと笑みを浮かべた。
一度では理解できずもう一度しっかりと見つめようとするが、着席の号令がかかったのでいったん椅子に座る。
平塚先生は何を伝えようとしていたのか。他愛も無いことではなさそうだ。何か重要なことを俺に教えているような気が直感的にする。
後で聞いても良いのだが、不思議と今で無くてはいけないような気がして、考えてみることにした。
平塚先生は何を呟いたのか。
先生との距離は遠くもなかったが、決して近くでもなかった。その上、式中であるが故に当然大きな声に出して言ってはいない。
読唇術を身につけて無い限り、発音時の唇の形から推論することは不可能に近いだろう。
ではどうやって考えていくべきか。
与えられた手がかりはほとんど無いに等しい。
一度整理するために緊張をとく。
耳には自分の呼吸音だけが聞こえる。
肌は雨の影響で乾燥することなく、しっとりと潤っている。
また意識も奥へ奥へと沈んでいくのを感じとれた。
先ほどとは違って集中が出来ている、そのことをしっかりと確認することができた。
そして再び僅かなヒントを頼りに、丁寧に答えを紐といていく作業へと戻る。
少しずつ手がかりを探しては消化していく。
答えに結び付くような手がかりは無いか、それをひたすら記憶から探す。なぞなぞ感覚で悪くはない。
すると一つの疑問にたどり着いた。
最後の笑みは何だったのだろうか、という問いだ。
まるで知っているだろうというような、先生の挑戦的な笑みだった。
いつもは挑戦なんかには乗らないのだが、どっちにしろ八方塞がりなので乗ってみることにした。
思わず笑みが零れる。
まずは思い当たる言葉を幾つかあげてみた。
俺が困った時、平塚先生が贈ってくれた言葉の数々。その言葉に何度助けられたか、今振り返ると数えきれない。
そしてその言葉の一つ一つを、再び今の行き詰まった自分の状況と照らし合わせていく。
するとこんな考えがふと頭をよぎった。
ーーもしかして考える点を間違えてはいないだろうかーー
これも過去に、俺が思い悩んだ時に受けたアドバイスの一つだ。
もしかすると平塚先生は式中も俺を見守り、心境を感じ取っていたのかもしれない。あの人ならやりかねない。
平塚先生は決して悩みのある人を放っておかない。先生はそんな人だ。
悩みが浮き出た顔を見られたと思うと恥ずかしさが込み上げて来るが、同時に心から感謝の念を抱く。
そして今はありがたくそのアドバイスを頂戴することにした。
考える点を問い直し、改めて原点に戻る。
そもそもの問いは「何を間違えたか」ではなく、「何がこの違和感をもたらしているか」であったはずだ。
これまでの考えからするに、間違いや誤りの線もなさそうだ。
では「何を間違えたか」という問い自体が成立しなくなり、「間違いが故に違和感をもたらしたのでは無い」ということになってしまう。
全ての可能性が消えてしまったのだろうか。
いや……まだ一つだけ考えていない可能性がある。
それは何か。
発想を逆転してみよう。
「間違いを選んだからではなく、正解を選んだが故に違和感をもたらした」としたら……?
俺はここまで来てはっとした。
思い当たる節があったのだ。
平塚先生は他にもヒントを与えていた。
そう、俺の不安の答えは、きっと雪ノ下と由比ヶ浜に関わることだろう。
そう確信すると、胸を満たしていた重い水のような感覚は、水が引くようにすっとなくなっていった。
久しぶりに取り戻した平静の感覚に喜べるかと思ったが、新たに彼女達のことを考え始めると、次は胸が厚い靄に覆われていくような心地がした。
以上が卒業式パート1です(о´∀`о)
駄文に最後までお付き合い下さって、ありがとうございました(๑>◡<๑)
あとお気に入り登録して下さった皆さん、本当にありがとうございます!
嬉しくて天にも上るどころか、本当に昇天しそうな心地です(笑)
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