そうして彼らの思いは交錯し、運命は分かたれる《完結》   作:神崎奏河

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久しぶりの投稿になりました!本当にお待たせしてすいませんm(_ _)m
ジャンピング土下座でお詫びいたします…次回以降の作成と、最近出た12巻との調整をしてたら遅くなってしまいました_| ̄|○
高評価、感想ありがとうございます!読者の皆さんには感謝しかありません(´;ω;`)
では改めて今回のあらすじを…
今回は卒業式が終わります( ´ ▽ ` )
回想では多くの名セリフを引用してますので、原作ファンの方に喜んでいただけるかと(*´ω`*)
遅くなりましたが、本編をどうぞお楽しみください!


そうして彼らの思いは交錯し、運命は分かたれる。⑤

 

正解を選んだが故の違和感。

自問自答の結果導き出された解は、驚くべきものだった。

 

「マジかよ……」

 

そう呟かずにはいられない。

 

次は問題ではなく完璧な答えが存在しない問い。

しかも解決策が無ければ最高の結末も待ってはいない、そういった問いだ。

 

数年前では存在もしなかっただろう問いを前にして完全に歩みが止まる。

おそらくこれが高校生活最後の、そして最大の問いであろう。

 

俺のこれからの行動次第で、彼女らの歩む方向が変わる。自意識過剰な考えかもしれないが、耳もとでそう囁かれている感じがするのだ。

 

体育館の温度がすっと下がっていくような気がする。式中なのでマフラーや掛け布団などの防寒用具は持ってない。

身を震わせながらも寒さに晒されるしかなかった。

 

思わぬ問いに俺の思考は止まったままだ。

凍えてしまった両手をさする。しかし一向に温かくならず、道を示す火が燈されることもない。

 

今度は焦りを感じることはないが、解決の糸口が全く見えない。

また答えが見えてこないからか、これは俺が考えたところでどうしようもない……という思いも芽生えはじめた。

 

体育館に響く雨音は強くなるばかりで、もう壇上に上っている人の話は俺の耳には聞こえていなかった。

 

半ば諦観してぼーっとしていた時、前方から自分もよく知る声が聞こえてきた。

 

「在校生を代表して、生徒会長の私が送辞を述べさせて頂きます」

 

前の方を見てみると、一色が在校生代表として送辞の文を朗読していた。

わざと余らせた袖で、ぎゅっと送辞の原稿を両手で握っている。

 

「辺りを吹く風の中に、若葉のみずみずしい香りが感じられる季節となってきました。その風は不思議と先輩方の巣立ちを私に感じさせます」

 

なかなか挨拶も様になっている。俺達が助けないと何も出来なかったあの頃の一色は見る陰もない。

 

「卒業生のみなさん、ご卒業おめでとうございます。在校生一同を代表して心よりお祝い申し上げます」

 

一色がぺこりと礼をする。

何故か一色のお辞儀は事務的ではなく、心が篭っているように感じられた。

俺も一色の声に引き込まれたのか、いったん思考から解放される。

 

一色の送辞は続いていく。

 

送辞の中に出てくる文言を聞いていると、自分が今日で卒業しこの学校を去るということがようやく実感された。

 

周囲は皆、しんとして一色の送辞を聞き、涙を流している者もやはりいた。

一色の声はいつもの猫撫で声ではなく、一色本来の綺麗な声で送辞を読んでおり、その透き通った音色に魅かれる。

 

ある程度読み終えたところで、一色は少し間をおいた。

体育館に沈黙の帳が落ち、俺は何事かと一色の方を見るが別段変わった様子はない。

 

数秒間の沈黙で一色により一層の注目が集まる。しかし一色は意に介した様子もなく、過去を懐かしむようにまた話し始める。

 

「私はとある事情で1年生から生徒会長をやらせて頂くことになりました。1年生というのもあり何をすれば良いのか全く分からず、会長としても全然頼りなかった私に先輩方は優しく手を差し伸べて下さいました。私は2年間、生徒会長を務めさせて頂きましたが、先輩達の協力があったからこそ私は会長としての責任を何とか果たすことが出来ました」

 

かなり謙遜しているが、一色は本当に頑張ったと思う。奉仕部として2年間、一色の苦労を近くで見て来た俺たちはそれがよく分かる。

 

一色いろは。

 

最初はあざとく計算高い嫌な奴だと思った。

だが2年経った今、前で送辞をする彼女は酷く魅力的に見えた。

 

一色は特に、と続ける。

 

「私を生徒会長になるようそそのかした先輩は、私が困った時はいつでもいつの間にか側にいて、献身的に私を助けてくれました。私は先輩にとても感謝しています」

 

なかなか素晴らしいスピーチだなぁ、と感心していた所にボディーブローが一発入る。

驚いて前を見ると、反応した俺を見つけた一色はこちらを向いて軽く片目をつぶってみせる。

 

不覚にも一瞬ときめいてしまったが、すぐに冷静さを取り戻す。

いろはすー、送辞で個人の話をするのはやめとこうなー。

 

多くの人が、誰そいつ。ストーカー?みたいな感じで少し考える中、一色は気にすることなく文化祭や運動会などの思い出を交えながら、感謝の言葉を滔々と述べる。

 

「私……いや、私たちは先輩方が私達の先輩で良かったと心から思います。私達にとって、総武高校で一緒に過ごした1日1日は素敵な日々でした。本当にありがとうございます」

 

そして最後にこう締めくくった。

 

「最後になりますが、私達は先輩方のこれからの活躍を心から願っています。どうか夢へと力強く羽ばたいて下さい。これで在校生からの送辞を終わります。」

 

一色は深々とお辞儀する。

それと同時に、式場から大きな拍手が送られた。俺も成長した一色に拍手を送る。

 

「俺も……逃げちゃダメだな」

 

決して自ら望んだ生徒会長就任ではなかった。

なのに彼女は逃げることなく最後までやり遂げた。

難しい試練も諦めることなくやり抜いた。

 

なら俺もこの問いと逃げずに向き合わなければ、先輩としての面目が立たないだらう。

そう考えた俺は席に戻る一色を横目に着席し、手を擦り合わせてかじかんだ指先を温め、思考を再開する。不思議と長時間の思考による疲れは感じなかった。

 

***********************************************

 

雨音をはじめ、周囲の物音が聞こえなくなる。今度は集中しているが故の無音だ。

ゆっくりと考えを心の奥へと沈めていく。

 

今度は道標がある。迷わずに行けるはずだ。

 

しばらくすると視界が開けてきた。そこで俺が見たものは奉仕部で過ごした時間だった。

 

今日が卒業式だからだろうか。答えを求めているのに、奉仕部での思い出が次々と浮かぶ。

 

『青春とは嘘であり悪である』

『ちゃんと全部叶ったじゃん。だからさ……、二人で遊びに行くのも叶えてね』

『誰かを助けることは、君自身が傷ついていい理由にはならないよ』

『……あなたのやり方、嫌いだわ』

『だからさ、小町のために、小町の友達のために、なんとかなんないかな』

『わかるものだとばかり、思っていたのね……』

『計算できずに残った答え、それが人の気持ちというものだよ』

『俺は、本物が欲しい』

『そう、あれは信頼とかじゃないの。……もっとひどい何か』

『隠れて流されて、何かについていって、……見えない壁にぶつかるの』

『ずっとこのままでいたいなって思うの』

 

キャンプ、文化祭、修学旅行………

色々な思い出が溢れ出す。

 

答えに直接結びつかないものばかりだが、今度は苛立ったり焦ることなく、ゆっくりと思い出を俯瞰してみる。

 

この思い出が何を意味しているのか。

そこに意識を向けながら、1つずつ奉仕部での出来事を眺める。

 

奉仕部に持ち込まれた依頼、俺の行動、彼女たちの反応など1つ1つに目を向ける。

所詮空虚なものに過ぎない「言葉」という手段では、俺たちが過ごしてきた時間は表現出来ないだろう。ただ、その時間を共有した者が持つ記憶のみが、感覚質の一部を再現しうる。

 

一つ一つの出来事が今を型作っている。だから今に繋がる鍵も、当然過去にあるはずだ。

俺は奉仕部で過ごした時間の感触を俺なり再現し、それを追体験しながら答えを探した。

 

そのような作業を続けていると、ふと気がついたことがあった。

 

それは、俺がこの奉仕部という空間を心地よいと感じていたことだ。

というより、彼女たちと一緒にいる時間が幸せだったと言う方が正確だろうか。

 

極めて単純な答え。

 

でも俺にはそう簡単に見つけられなかった。

 

見つけられなかった理由は今ならわかる。

それはきっと俺が捻くれているからだろう。

 

思わず笑みが零れる。

 

俄かには信じられなかったが、今まで奉仕部に通い続けた以上そういうことなのだろう。

もしそう思ってなかったとしたら、たとえ平塚先生になんと言われようと、俺なら途中で通うのをやめていただろうしな。

 

あの仮初めの日々に奉仕部に通い続けたのも、何かふとしたきっかけでこの状況が打開されて、いつものような心地よい空間が戻ってくると期待していたからだろう。

そう考えれば合点がいく。

 

俺はどこかで彼女たちを大切に思っていたのだ。

 

今まで家族以外をそのように思ったことはなかった。

全ては自分の為に行動してきた。

誰も俺を大切だとは思っていなかったから。

 

でも彼女たちは違う。

これは俺の誤解かもしれない。

だけど誤解なら誤解でも良いとすら思うほどに、俺は彼女たちを大切に感じていた。

 

今の関係をどうか守りたい。

そう思った。そう思えた。

 

なら自分がこれから選ぶべき選択肢は、この関係を極力守ることができるものであろう。

 

それが俺の選びたい選択肢。

 

その選択肢がどのようなものなのか、まだはっきりとは分からないが方針は定まった。

 

進むべき方角が見えたところで、ひと息つくためにいったん集中をとく。

なんとか最善策を選ぶための鍵を手にし、ひと安心といったところだろうか。ひとつ大きく息を吐く。

 

心持ちゆったりと椅子に腰掛け直す。

 

周囲を確認すると、どうやら卒業式は終わりに近づいているようだ。だがまだ時間はある。

 

外では雨が先程よりも勢いを増し、依然として降り続いている。きっと今もその勢いで、あらゆるものを削っていっているのだろう。人間の目には見えない程度に少しずつ。

 

俺達のこの記憶も、そのように時間とともに削られて薄れていってしまうのだろう。それは自然の摂理であり、人間の性でもある。

しかしそのことを知っていてなお、俺はどこかで奉仕部で過ごした日々を守りたいと願っていた。昔の自分とは打って変わって。

 

バケツをひっくり返したような大雨を横目に、俺は自分の選ぶ道を考えることにした。

 

ここからはモテない奴が考える妄想のような思考になるが、きっと必要なことなので恥ずかしさを我慢して思考に入る。

 

仮に……仮にだ。

いや、本当に仮定の話ね?

仮に俺がYさんから告白を受けたとする。

ではその時、俺はどういう答えを出すか。あるいは出すべきか。

 

式場で考えに考えた結果、自分の求める結末は「今の関係を出来るだけ守る」だと分かった。

これはあくまで俺の意思であり、他者に突き動かされた結果ではない。

 

しかし不変であり続けるのも普通は不可能だ。

超能力者か未来人かを見つけて、似た出来事を8回ほど繰り返してもらうくらいしか方法はないだろう。

 

なら俺の出すべき答えは何か。

 

言うまでもなく俺には、答えを出さずに曖昧に終わらせるという選択肢もとれる。

 

しかしこれではただの延命措置に過ぎないし、その間はまた虚ろな時間を過ごすことになる。彼女達もそれでは決して納得しないだろう。

すなわち、これはただの逃げの一手だろう。結果になんの魅力もない。

決して選ぶべきではない選択肢であろう。

 

では答えは「YES」か「NO」かに絞られる。

 

今まで一緒に過ごしてきた時間を手掛かりに、それぞれの選択を選んだ時に得られる結果を予想していく。自分なりに計算する。

 

まず「NO」を選んだ時だ。

こちらの方が簡単な気がしたので先に考える。

 

これは一見、今までの関係を維持できる可能性があるようにも見えるが、彼女達であれば決してそのような結果にはならないだろう。

 

おそらく……いや、確実にもう一人に叱られる。停滞、仮初めの安定を望んで答えから逃げたと見なし、本気で怒ってくると思う。

実際に「NO」を選ぶ理由として、今の俺が考える口実はそれくらいしかない。

 

また当然「NO」という答えを突きつけられた方も、並みならぬ傷を受けるに違いない。

 

長い目で見ても、あまり良くない結末が待ち受けているはずだ。

断ったのを機に関係が終わる可能性もあるし、仮に関係が続いた場合でも、それはきっと表面を取り繕った虚ろなものだろう。いわば偽物の関係だ。

 

では「YES」を選んだ場合どうなるか。

 

他の「NO」が推奨されない選択肢である以上、俺の選ぶべき答えは無論消去法で「YES」となる。

 

しかし焦る必要はない。

この答えを選んだ時の結果も考えてみる。

 

おそらく「YES」を選べば1人は喜び、もう1人はそれを祝福するだろう。大切なものを守るために、その時の自分の気持ちを時間をかけて飲み下して、そのエンドを受け入れる。

1人と1人とが結ばれるというのは運命だから。きっと2人も覚悟はしているに違いない。

 

だが友人関係そのものは続くだろう。お互いにお互いを本当に大切に思っている。だから相手の大切なものを壊すような真似は絶対にしない。

それが彼女達だ。共依存などではなく、彼女達は「友達」なのだ。

 

結果生み出された関係も、偽物の関係にはならないだろう。全員が覚悟をもって臨んだ道だから。

時間はかかるかもしれないが、きっと全員が受け容れる。妥協などではなく、しっかりと心で受け止めて、新しい本物の関係を築いていくはずだ。俺はそう信じてる。そう信じたい。

 

俺は答えを出さなくてはならない。

辛くても、逃げたくても、これだけは答えを出さなければいけない。

これは俺の高校生活で唯一、つけなければいけないケジメなのだ。

 

「YES」か「NO」か。

 

時間をかけてじっくりと両者を天秤にかけた。

共に過ごしてきた時間から、選択によって導かれる結末をなるべく正確に推測した。

師の言う通りに割り切れず残った余り、すなわち2人の感情も、計算で導き出された結果に忘れることなく添えた。

 

自分の選ぶ道はもう決めた。

俺はゆっくりと目を開けて、目の前の風景を確かめた。寒いからか眠気などはなく、視界ははっきりしている。

 

ステージでは先生がピアノへと向かっていた。そろそろ卒業式の歌なるものを歌う頃合なのだろう。

 

自問自答して答えを出し、何かを失う覚悟をして、未来へと進む。

 

『そうやってたくさん諦めて大人になっていくもんよ』

 

いつだったか、ある人に大人になるということは多くのものを諦めるということだと聞いた。

 

しかし俺は、「どうせ失われるから何もしない」という諦観的な道を選ばず、「何かを守るために、何かを捨てる」という覚悟が必要な道を選ぶ。

どうやらまだ大人になれそうにないようだ。まあ大人になりたいという気持ちは、そもそも無いがな。働きたくないし。

 

いつものくだらない思考回路が復活した頃には、校歌斉唱が終わって卒業式は終わりを迎える。

万雷の拍手が式場に沸き起こる中、卒業生が堂々と退場をはじめる。俺も席からすっくと立って、列に従って歩いていく。

 

さっきまでは泣いていなかったが、退場するに至り、涙を零し始めている奴がちらほら見える。

自分の目には涙こそないが、なんとなく感慨深いものがあった。

 

やるべきことはやったはずだ。

そう心の中で呟き、俺はゆっくりと退場した。

 




5話、いかがでしたでしょうか?
待たせた割にクオリティー低いぞ(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾
などの感想も承っております(笑)
今回は卒業式も終わり、八幡もある程度まで決意を固めました。次回、次次回くらいから物語が大きく動きはじめます(*´ω`*)
おい、いくらなんでも展開が遅くないか!?(´・ω・`)
などの感想ももちろん承っております!
よろしければ、評価、感想のほどよろしくお願いしますm(_ _)m
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