そうして彼らの思いは交錯し、運命は分かたれる《完結》 作:神崎奏河
今回は2週間で投稿できました!
…前回、間隔開けすぎですよね、はい。
えーと、6話は式後の話になります( ´ ▽ ` )
かなり話が動き始めますよ!
…話が動くの遅いですよね、はい。
改めてお詫び申し上げます(笑)
では本編の方、お楽しみくださいm(_ _)m
卒業式が終わり、皆が銘々に教室に戻る。泣いている奴もいれば、晴れ晴れとした様子の奴もいた。
「さてと、俺も下働きに行きますか……」
俺はそうした人達を横目に、いそいそと自分の教室へ荷物を取りに向かっていた。
遅れたら雪ノ下さんに何か言われそうだし。
この後は奉仕部に行って片付けもしないといけないので、意外と大忙しだ。
これは社畜への第一歩かしらと思うと、引きつった笑みが零れる。
「ヒッキー、待って!」
すると後ろから俺を呼び止める声が聞こえた。そこまで急ぐ必要はないので、教室に向かう列を外れて待ってやる。
「ヒッキー、歩くの早いよ!」
ぼっちは歩く速さを合わせる人がいないから、自然と歩みも洗練されるのだ。
とりあえず謝っておく。
「おう、すまんな」
「いや、別にいいけど……」
謝られたのが意外だったのか、由比ヶ浜は少し目をそらせて髪を手櫛ですく。
こちらもそんな反応をされては対応に困るので、益体のない言葉を続けてみた。
「でもいいか、由比ヶ浜。ぼっちは歩くスピードを人にあわせることなんて滅多にないから、必然的に歩くスピードも速くなる。競歩の選手とか高確率でぼっちだぞ」
「なんか理由が悲しい!しかも最後のは絶対嘘でしょ!?」
ガバッとこちらを向いてキレのいい突っ込みを返してくる。
これでこそ由比ヶ浜だな。よきよき。
調子を取り戻したのか、しばらくするとはっと思い出したように尋ねてくる。
「あ、っていうか、ヒッキー卒業式の時、なんか悶えてるみたいな感じだったけど、どうかしたの?」
ぐはっ。あれを見られていたのか……
恥ずかしさのあまり、目をそらさずにはいられない。
「み、見てたのかよ……」
「まあ、ヒッキーも卒業式に何か感じるところがあったのかなとか思って、なんとなく嬉しかったんだけどね」
どうやら由比ヶ浜は、俺にとってはまだ都合のいい解釈をしてくれているようだ。
「まあ、そういうことにしておいてください……」
「えっ、違うの?」
由比ヶ浜が驚いたように口に手を当てる。
変に追及されても困るので、とりあえずそういうことにしておく。
「いや、それで良いです。そう思ってくれる方がありがたいです……」
「う、うん」
由比ヶ浜もこれ以上聞いてほしくないという気持ちを察してくへたのか、怪訝な顔をしながらもそれ以上追及することはなかった。
一人でこれからのことに煩悶してたなんて、由比ヶ浜には恥ずかくて言えない!
「で……でさ!ヒッキー!」
式中の自分の様子を思い浮かべてバッドトリップしはじめちゃいそうな時、由比ヶ浜の突然の呼びかけで現実に連れ戻される。
意外に大きな声量だったので驚いてしまい、反射的に変な返事をしてしまった。
「お、おお……な、何か御用かな?」
言った後にすぐさま恥ずかしさで死にたくなったが、いつものようなツッコミが由比ヶ浜から返ってくることはなかった。
不審に思い由比ヶ浜を見ると、何か思いつめたような表情をしながら、下を向いてもごもごしている。
そして意を決したのか、ばっとこちらを向いた。
「あの!えーと、朝の話の!……その……続きになるん……だけど!えーと……今日学校が終わったら、その……」
意を決したが、まだ躊躇いがあるのか、声が段々尻すぼみになっていく。
自分も覚悟を決めたはずのに、その先を言ってほしくないとどこかで願ってしまう。
ずっと避けて来たこの未来。彼女が言いさえしなければ、このままこの関係が続くのではないかと、そんな馬鹿馬鹿しい希望が湧く。
そんな俺をよそに、由比ヶ浜はとうとう覚悟を決してその先の言葉を紡ぎ出した。
「その……校舎裏に来て……くれないかなって話……。だ、ダメかな?」
朝は少し曖昧に答えたが、今は明確な答えを求められている。だから由比ヶ浜の求めに応じて答えた。
「校舎裏に行くだけなら……構わない」
心なしか「だけ」の部分が少し語気が強いような気がした。まだ愚かな希望に縋ろうとしている自分に嫌気がさす。
しかし由比ヶ浜は承諾の返事を聞けただけでも嬉しかったのか、とても満足そうに微笑んだ。
「うん……ありがと、ヒッキー」
屈託のない笑顔に不覚にも心が惹かれてしまう。
だがまだその時ではない。なんとか自分を取り戻し、いったん頭の片隅にそっと置く。
そんな時、後ろから軽快な足音が聞こえてきた。由比ヶ浜は満足感に浸っているのか、まだ気付いていないようだが、その足音は段々と近づいてきている。
「なんか嫌な予感がするぞ……」
「えっ?」
何か危険を察知した俺は、由比ヶ浜と後で会おうと声をかけようとする。
「ゆ、由比ヶ浜。またこの続きはまたあと……」
だが素早い猫からは逃れられない。全部を言い終える前に、背中を軽くぽーんと叩かれた。
「あれれー、先輩と由比ヶ浜先輩じゃないですか。ピンク色のオーラ振りまいて何してるんですかー?」
「一色……」
「いろはちゃん!?」
事前に察知できなかった由比ヶ浜は、体をびくんとさせて驚く。それはまさに猫に見つかった獲物のようで、少し笑ってしまう。
一色も由比ヶ浜のその反応に満足したのか、ふふふと胸をそらしながら誇らしく言う。
「恋バナあるところに一色ありですよ」
「何言ってんだお前……」
「ははは……」
いろはすか……こいつに捕まっては厄介だ。何を聞き出されるか分からん。
というか、こいつなら最初から聞いてて、タイミングを見計らって途中で出てきた可能性もあるから恐い。この話題でゆすられたら、何枚かお札出しちゃいそうになるまである。
しかし一色は、にっこにっこにーと笑顔を浮かべながら、ただ俺の顔をじろじろ見てくる。
う、うぜぇぞ。こいつ、うぜぇ……
しばらく一色は矯めつ眇めつしていたが、突然ニヤッとして口を開く。
「で、先輩。何話してたんですかー?なんかすごい幸せそうな感じでしたけどー」
「うっ……」
こ、こいつ、やっぱ聞いてただろ……
思わず答えにつまってしまう。
いやらしい笑顔を浮かべながら追及する一色に対し、俺は目をそらせながら適当な言い訳を探すが、良い文言がなかなか見つからない。
一色は俺の方が与し易いと考えたのか、俺を集中攻撃する。俺の周りをくるくる回っては、時折んんっと顔を覗き込んできた。
由比ヶ浜はしばらくどうしようかとあたふたしていたが、やがて何かを思いついたように顔をあげる。
おっ、助けてガハマさん!
「あ、いろはちゃん?私……えーと、優美子や隼人くん達と写真撮ったりする約束があるから、もう行くね!ヒッキーもゆきのんと待ってて!ヒッキー、いろはちゃん、また後でね!」
なんて奴だ…こいつ、俺を見捨てる気だ!
一色も由比ヶ浜には追及する気はないのか、いとも簡単に解放する。
「はいはーい、由比ヶ浜先輩、了解でーす」
由比ヶ浜め、体良く逃げやがった……
俺も続かねば。
由比ヶ浜と同じ言い分で解放を要求する。
「お、俺も予定あるかr……」
「先輩に予定なんてある訳ないじゃないですか」
「おい」
言い終わる前に放たれる弾丸。
こいつ、オーバーキルとか気にしないのか。材木座なら泡吹いて死んでしまうぞ。
しかし、こいつ本当に失礼だな。
俺がいつもは予定無いみたいに言いやがって。あ、いや、間違ってませんわ。今月の予定表、真っ白でしたわ。がはは。
いつもならすでに投了だが、今回に限っては違う。天下の雪ノ下さんがお呼びなのだ。
「いや、それが本当に予定があるんだな、これが。あいつがお呼びなんだよ」
しかし一色は信じてくれた様子はなく、ぷくーと頰を膨らせながら疑いの目を向ける。
「私以外に、誰がいるんですか?」
「雪ノ下だよ。ってか、私以外にって……お前は俺の何なんだよ」
「可愛い後輩です☆」
「はいはい」
一色はあざとさを全面に押し出して、きゃるんって感じにアピールしてきた。
なので俺もいつものように軽くあしらう。ほんの一瞬ときめいたのは秘密だ。
すると一色は露骨に嫌な顔をして、声のトーンを下げて言い放つ。
「は?何ですかそのうっすい反応」
ふえぇ、いろはす怖いよう……
威圧の仕方とか、先輩たちから悪いところだけ学ばないで!
ちょっくらビビっていると、いろはすはそんな俺をよそにまた声のトーンを戻す。
「まあいいです。で、雪ノ下先輩がなんで先輩なんかをお呼びなんですか?」
「教室の片付けを手伝えだとさ。あと先輩なんかって酷くない?しかも俺、部員だからね?」
すると一色は記憶を掘り起こすように、人差し指をたてて右頬のあたりにつけ、視線をやや上に向ける。
「あれ?奉仕部の教室なら、前に片付いたとか言ってませんでした?」
「雪ノ下が言う以上、何か残ってるんだろ」
「そーいうもんですかね」
まあ俺も疑念の残っているところだが、あの部屋を管理する雪ノ下が言う以上、何かしら片付けが残っているのだろう。
いよいよ社畜適正が開花してきた俺は、部長に黙って従うのみなのだ。
「まあ先輩、頑張って下さいね!」
「ん、何をだ?」
一色は笑顔で唐突にそう告げる。
俺もいきなりすぎて答えに戸惑ってしまった。
真意を確かめようと一色の目を見る。一色は俺と目があったのを確認すると、目を瞑って一つ大きく息を吐く。
そして再び目を開いた時には、真剣な表情でまっすぐ俺の目を見つめていた。
少し俯き加減ながらも、射止めるような鋭い眼差しは絵画じみていた。
そして一言だけ、こう告げる。
「逃げちゃ……ダメですよ」
「………」
その一言だけで十分だった。
その言葉だけで彼女の思いは十分伝わった。
きっと彼女もまた、好きだった奉仕部を守ろうとしているのだろう。
彼女なりの方法で。
一色はそう告げたあと、少し顔をほころばせて優しい顔でこう続けた。
「私、応援してますから」
「……おう」
計算高い彼女の目には、いったい何が見えているのだろうか。きっと彼女だからこそ見えるものもあるに違いない。
だか先が見えなくても、俺は何かしらの答えを出しに行かねばならない。
ではではと手を振る一色を背に、俺は奉仕部へと向かう廊下を突き進んでいった。
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先輩の後ろ姿をひらひらと手を振りながら見送る。今から残酷な選択を迫られるだろう先輩の背を、目を細めながら見ていた。
「うーん、行っちゃった」
先輩が奉仕部へ向かう廊下を進んで行ったのを確認すると、どこかこわばっていた身体の力が抜けた感じがした。
ふと窓の外を眺める。先ほどまで強く降っていたのが嘘のように雨はすでに止んでおり、所々で日差しが雲の隙間から溢れている。
なんとなく空に手を伸ばしてみる。
小さい頃は雲や星、月を手にとってみたくて、届かないと思っていてもよく手を伸ばしていた。
雨上がりの空に浮かぶ雲はどうしてか掴めそうに見えて、ぎゅっと手を握ってみる。
でも当然手には何も握られていない。自虐的な笑みを浮かべてだらんと手を下ろす。
「あーあ、ひと際輝く大きな星に目をとられて、近くの小さいけど素敵な星を見逃しちゃったなぁ……」
自分の心にはいつもの輝くカッコいい先輩ではなく、ジメジメしてカッコ悪いけど不器用で優しい先輩の姿が浮かんでいた。
「でも……先輩達なら仕方ないか!」
無理やり明るい声を出してそう言う。
だって私の好きな先輩たちは、きっと私よりもずっと辛い思いをするだろうから。
−頑張ってください−
そう呟きながら、私は先輩の向かった先とは逆の廊下を進んでいった。
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皆が写真会の続きやアルバム埋めをするために、教室や部室のある第一校舎へ向かう中、俺は硬質の床を踏み締め、一人第二校舎へと向かっていた。
由比ヶ浜は三浦達との撮影をしてからこちらに向かうそうだ。
目的地が近付くにつれ喧騒が遠くなる。
これも彼女が纏う独特の雰囲気……オーラ故なのかと今だに思う。
窓が空いている訳でも無いのに廊下はひんやりとしいて、体の芯から俺を冷やそうとしているようだ。
廊下を曲がって少し進み、扉の前に立つ。
あの作文を書いてから1年ちょっとの時間をこの教室で過ごした。
今日という卒業式の日でも、彼女はいつもと寸分違わず本を静かに読んでいるのだろう。俺はそっとノックをして返事を待つ。
「どうぞ」
静かだが、思わず耳を済ませてしまうような凛とした声が中から聞こえて、俺はそれに従うように扉を開ける。
少し遅れてしまったので、片付けはもう済んでしまったのだろうか。
彼女、雪ノ下雪乃は窓を開けて、少し冷たい教室の中で一人本を読んでいた。
雪ノ下の姿はあの日から1年以上経った今も、やはり絵になるほど美しかった。初めて出会った日も、騒ぐ俺と対照的にこうやって雪ノ下は一人で読書をしていた記憶が蘇る。
そして今もまた、不覚にも見とれてしまうのであった。
目を奪われていたことに気付かれて、後で馬鹿にされないようになるべく平常心を装って、いつもの席に向かう。
だが意識すると、逆に足取りがおぼつかなくなってしまうもので、バランスを崩して机に軽く脚をぶつけてしまった。
しかし、いつものように雪ノ下から鋭い口撃が飛んでくることはない。
安堵とともに仮初の雰囲気を感じる。
扉からそう離れて無いのに席が遠く感じた。やっとのことで椅子に座る。
一息つくと、もう少しあの光景を見ていたい衝動に襲われる。
いつもとそう変わらない光景なのに、静かに本を読む雪ノ下の姿はいつもより美しくも、どこか儚いように見えた。
これも今日が卒業式だからなのだろうか。
衝動を抑えて、雪ノ下に倣い、持ってきていた本を取り出して読書を始め、由比ヶ浜が来るのを待った。
しかしそんな精神状態で集中して読めるはずもなく、いつのまにか視線は文字列から雪ノ下へと向かっていた。
「……………」
「……………」
物音を立てることも憚られるような静寂。音も空気も時も、彼女一人ののために流れを止めている、そう錯覚するような時間が流れる。
ただ俺の視線だけが腰掛けて本を読む彼女を見つめていた。
彼女が本を手繰り我に返った俺は、決まりが悪くなって慌てて視線をそらす。そこでようやく雨が止んでいることに気付いた。
切り替えてしばらく本を読んでいると、不意に開けていた窓から風が入り込んで来て、置かれてあった本のページを無造作にめくっていった。
意外だったのはその本は、さっきまで雪ノ下が手にしていた本であったことだ。
俺は不信に思って雪ノ下を見ると、彼女はただ沈黙を保って目をつむっていた。
俺はこの沈黙の意図を探ろうとして、雪ノ下を見る。雪ノ下の姿はまるで何も外に零さずに、ただ自らの内で何か答えを出そうとしているように見えた。
俺も読んでいた本を机に置いて、雪ノ下に首だけで顔を向ける。雪ノ下は俯き加減で目を瞑り、俺はその雪ノ下をじっと見つめるだけ、そんな時間が流れた。
教室に静寂の帳が落ちる。
いつもは気にならならないこの静寂に、何故か決まり悪さを感じ思わず口を開く。
「雪ノ下、片付けは良いのか?」
そんな俺の問いにも、雪ノ下は沈黙を守り続けた。無視……というわけでもなさそうなので、反応に困る。
スピーカーから僅かに低い機械音が聞こえる。卒業音楽でもかかるのだろうか。
普段なら気付かないような小さな音だが、沈黙で満ちたこの教室にはよく響いた。
数秒後、教師達の記念撮影の召集の放送がかかり、教室の静寂が破られた。
雪ノ下を見ると、ふっと大きく息を吐いて目を開いていた。雲間から差した光芒を受け、幻想的なその姿は、まるで何か悲愴な覚悟をしたかのようにも見えた。
そして放送が終わり、スピーカー音の余韻が教室に響く。その余韻が再び静寂に吸い込まれるのを確認すると、雪ノ下が口を開いた。
「そうね……そろそろ始めましょうか」
そう言って、そっと立ち上がる。
「私……いいえ、私自身の片付けを」
ここで俺はようやく異変の正体に気がついた。だがそれも遅かった。
雪ノ下は少し笑みを浮かべて、すでに次の句を発していた。
「比企谷君、私と付き合ってくれないかしら。恋人として……」
儚げに揺れるその双眸は、ガラス細工のように美しかった。
如何でしたでしょうか?
今回はなんか自分で書いてても緊張しました(^^;
本当、どうなるんでしょうね…(目そらし
次の投稿は年明けになると思います!
…え、また待たせるのって?
いや、本当に申し訳ないです_:(´ཀ`」 ∠):
でもここは、読者の皆さんのご厚意に甘えさせて頂きます_(:3」z)_
感想、評価を頂けると嬉しいです!
では、残り少ないですが、良いお年をです(*´ω`*)