そうして彼らの思いは交錯し、運命は分かたれる《完結》 作:神崎奏河
段々と暖かくなってきて、風にも優しい春の香りがするようになりましたね!私も野原かどこかに寝そべって、ひなたぼっこをしたくなります(*´ω`*)
お待たせしました7話です!
前話あたりから物語が終盤を迎え、大きく動きだしました(´・ω・`;)
長々と語ってもアレなので、本編の方、お楽しみ下さい!
「比企谷君、私と付き合ってくれないかしら。恋人として……」
突然の雪ノ下の告白。
俺は言うまでもなく混乱し、狼狽し、完全に言葉を失った。
完全に計算外である。
計算していれば対応も出来ただろうが、式中でそんな想定はしていなかった。故に、俺は完全に停止してしまったのだ。
大きな瞳はなおもしっかりと俺の目を射止めており、その目は先程の告白が冗談ではないことを雄弁に物語っていた。
困惑した俺を見て、雪ノ下はそっと付け足す。
「すぐに答えを出せとは言わないわ。でもこの場所で、この私に答えを聞かせて。それまで私はいくらでも待つから」
停止した俺を察しての発言だろう。眩しい陽光を嫌うように少し細めに目を開けながら、雪ノ下は微笑んだ。
「ああ……」
そう答えながら、依然として俺を見つめる瞳を避けるようにして一度雪ノ下から背を向ける。
考える猶予を与えられ、まず俺は平静を取り戻そうと思考を巡らせる。
計算外の出来事であったが、自分の出した選択を変えるような出来事ではない。そう自分に言い聞かせて心を落ち着かせる。
時間とともに徐々に思考が回復し、周囲のものがしっかり見え始める。
ふっと小さく息を吐いて、自分なりに仕切り直し、事態を自分の中で改めて捉え直す。
「取り乱してすまん、雪ノ下。もう大丈夫だ」
「ええ、それは良かった」
後ろを向いたままながらも、しっかりした返事か返ってきたことに満足したのか、雪ノ下の声色はいつもより温かいように感じた。
そして一呼吸置いてから、雪ノ下はこう続ける。
「一応改めて聞いておくわね」
ここまで言って躊躇したのか少し間があく。
しかしすぐに躊躇いを振り払い、問いを投げかけた。
「……結論をここで私に聞かせてもらえるわよね、比企谷くん」
一方的に要求するのはアンフェアだと思ったのだろうか、雪ノ下は一応俺に確認を入れてくる。
「ああ、大丈夫だ」
その確認に対して、雪ノ下の視線を正面から見据えることは出来なかったが、前を向いてしっかりと頷きを返しながら答えた。
もとより逃げることは俺に許されていない。
どの道を選ぼうと、どんな結末であろうと、俺は進むしかないのだ。
その意味で、雪ノ下が逃げ道を予め塞いでくれたのはありがたいと言えるだろう。
「よかった」
その返事を聞いて安心したのか、雪ノ下は軽く微笑み、窓からの風で肩にかかっていた髪を手で軽く払った。
俺がやるべき事は一つ。
雪ノ下の問いに答えること。
数語の言葉を口から発すればきっと終わる。
「ふうーっ」
ひとつ大きく息を吐く。
溜め込んできたものを全て吐き出すことが出来たら…と思って大きく吐くが、息以外のものは当然出てこない。
やはり言葉にするしか道はない。
時計の針が告げる時間よりも、俺自身の鼓動が答えを急がせる。
色々考えて出した答え。
その用意してきた答えをここで出せば、雪ノ下はきっと満足してくれるだろう。
「じゃあ……返事を聞かせてくれるかしら」
最後の1歩が踏み出せないままでいる俺の背をそっと押すように、優しい声音で問いかける。その言葉には棘も何もない。
俺の選ぶべき道は何か。
最後にもう一度だけ問い直す。
雪ノ下が俺の答えを望んでいる。
怯える背中も押してもらった。
なら躊躇う理由はもうない。
短い沈黙のあと心を決めた。
覚悟を決めて顔をあげる。
最後くらいはしっかりと目を合わせて話そう。
「雪ノ下、俺は……ッ!」
そう言って雪ノ下の顔を見上げた俺は、衝撃を受けた。そして続けるはずだった言葉を、寸前でとりこぼしてしまう。
彼女は微笑んでいた。
不器用に作られた優しすぎる笑顔。
全てを受け入れるような柔らかい笑み。
透き通るような彼女の白い肌や、ガラス細工のような瞳、艶やかな唇。
全てが美しく、そして儚く揺れていた。
「比企谷くん……?」
「………」
ああ、これは欺瞞だ。
優しい嘘で飾った欺瞞だ。
顔も言葉も巧妙に取繕われているが、雪ノ下雪乃の全てが、この告白が付き合うことを望むが故の告白ではないことを雄弁に物語っていた。
ならこの告白の意図も容易に推測できる。
きっと、俺の決意を固めさせるためのものだろう。躊躇う俺の背中を押すための。
そう考えると先程までは見えなかったものが、段々と見えてきて色々なことに合点がついた。
なら俺は、この告白をしっかりと否定すべきなのだろう。
それが雪ノ下雪乃の意図に沿う行動だ。
だがこれは雪ノ下雪乃の願望に沿う行動なのだろうか。
俺の知る雪ノ下雪乃は、こんな目をしていなかった。
俺の中の雪ノ下雪乃は、世の中の不条理に屈することなく、自分の信じる道を貫こうとする意思が伝わってくるような美しい目をしていた。
だが今の彼女の瞳は……
彼女の大きな瞳からは、色が失われているように見えた。
ああ、そうか。
儚げに見えた目は、ただただ全てを諦めていただけだったのか。
透き通って美しく見えたあの瞳は、ただ中身がなかったからだったのか。
「……比企谷くん?どうかしたの?」
反応がない俺を心配したのか、再び雪ノ下が声をかけてくる。
「……いや、何もない」
「でも……」
「俺は大丈夫だ」
「そう……」
その声は俺のよく知る雪ノ下雪乃のもので、先程の偽りの彼女が発した声とは違った。
今は心配する声にも凛とした輝きが声にある。
「……………」
様子のおかしい俺に対して、雪ノ下はもう催促することは無い。
心配そうな目で俺を見つめるだけだ。
この目もやはり先程のものとは違った。
本物と偽物。
ここで用意した答えを出せば、あの凛として美しい本物の雪ノ下雪乃は消えてしまうのではないかと、どこかで感じとった。
俺はあの美しい雪ノ下雪乃が好きだった。
そんな雪ノ下雪乃に恋していた。
本物の雪ノ下雪乃を守りたい。
そう思うと、自然と口は動いた。
「雪ノ下」
「えっ?」
突然の呼びかけに雪ノ下は戸惑っているようだった。
しかし俺は気にすることなく続けていた。
「雪ノ下……俺はお前が好きだ。だから、俺と、付き合ってくれ」
雪ノ下が自分を貫く様は何よりも美しく、貴いものだと俺は思う。
だからこんなどうしようもない俺のことで、今まで貫いてきた信念を……美しい花を手折ってほしくない。
雪ノ下雪乃の本物を守りたい……
そう思えば自然と身体は動いていた。
「嘘……だってあなたには……」
雪ノ下はひどく怯えた顔で、肩を震わせて俺の方を弱々しく見つめる。
これがきっと本当の雪ノ下雪乃なのだろう。弱さを全て自分の内側に封じ込めて、他人に見えないようにしている。
そんな雪ノ下の姿もまた美しいと思った。
「いや、俺はお前が好きなんだ、雪ノ下」
「違うッ!」
聞いたことのないほど大きな声で、彼女は叫んだ。身体を震わせ彼女は絶叫した。
「そんなはずない!そんなことあってはならないの!悪い冗談はやめて!」
「いや、冗談じゃない」
「いいえ、嘘よ。貴方は由比ヶ浜さんが好きなはずよ!」
「嘘でもない。これが俺の今の気持ちであり、紛れもない本心だ」
まともに俺の顔を見ることが出来ないようで、ただひたすらに下を向いて叫ぶ。そんな彼女の叫びに対して、俺は冷静に言葉を返していった。
「やめて……」
短い沈黙のあと、彼女はまた声を絞り出すようにして叫び始める。
「貴方はあの子と結ばれるべきなの!私は独りでいるべきなの!それがあるべき姿なの!」
繕う心の最後の抵抗だろう。
「違うの!これじゃダメなの!あの子こそが幸せになるべきなの!」
まくし立てるように叫ぶ彼女を俺はじっと見て、その言葉を聞いていた。
そして一言だけ返す。
「その結果、お前が幸せになれなくてもか?」
彼女は一瞬たじろいだが、すぐに否定する。
「違う、違う、違う、違う!」
すでに彼女には続けられる言葉が残っていなかった。だからただひたすらに彼女は否定する。
だがそれももう終わりにしよう。
彼女の心はもう壊れる寸前まで行っていると自然と察することが出来た。
「もういい、雪ノ下」
「………ッ!」
もう彼女が無理して偽り、傷つく姿は見たくなかった。楽にしてあげたいと思った。
だから最後の言葉として……
少女は斜陽の中で本を読んでいた。
世界が終わったあとも、きっと彼女はここでこうしているんじゃないか、そう錯覚させるほどに、この光景は絵画じみていた。
それを見たとき、俺は身体も精神も止まってしまった。
―――不覚にも見惚れてしまった。
あの時は言えなかった、自分の正直な気持ちをぶつけた。紛れもない俺の本心を。
「俺はお前が好きなんだ。もう……無理しなくていいんだ」
彼女の本心を封じこめる氷を溶かすには、きっとこれで十分だろう。そう思った。
沈黙が訪れる。
その沈黙は悠久の時を感じさせた。
長い静寂の後、沈黙を破るように鼻をすする音がしはじめ、雪ノ下の澄んだ双眸からすっと一筋の雫が落ちた。
「……比企谷くんッ!」
そして雪ノ下は声の限りで叫び、感情のまま胸に飛び込んできた
雪ノ下の本心を閉じ込めていた氷が、音を立てて砕けた瞬間だった。
泣きながら倒れるように懐に飛び込んできた雪ノ下を、抱くようにしてそっと受け止める。
今まで一人で溜め込んで背負ってきたものを全て吐き出すように、雪ノ下は泣き叫んだ。
「私は…私は………ッ!」
「ああ、分かってる…全部分かってる」
「あああッ!」
全部分かってるだなんて傲慢にも程がある。
だが不思議とそんな気がしてしまい、思わず口に出てしまった。
決壊して溢れ出した感情の洪水は止まるところを知らず、ただただひたすら自由に暴れ回る。
俺は懐で泣く雪ノ下をそっと抱き寄せた。
「……………」
俺は結局、異なる選択肢を選んだ。
割り切れず残った答え、すなわち感情。
しかも他ならぬ自分の感情を、俺は計算式に入れるのを忘れていたからだろう。
だがこれは計算間違いなのだろうか?
懐でいまだ泣き叫ぶ雪ノ下を見ると、そんな気持ちにはなれなかった。
今はただ、彼女を抱きしめていたいと思った。
温かい体温が柔らかい肌を通じて伝わる。
きっと雪ノ下雪乃の心を覆っていた氷も、この温かみで完全に溶けてくれたのだろうか。
雪ノ下の叫び声が教室に響く中、かすかに入口の扉がかたかたと揺れる音がした。
はっと目を向けた時には遅かった。
扉のガラス越しに映っていた陰は、床を蹴る大きな音と共に消え去っていった。
うん、もうクライマックスだね(´・ω・`;)
自分でもこのあとどうなるのかなって…(他人事)
一応、最終話までの構想はある程度出来てますが、まだまだ練りに練りたいと思います!ってことで、次回か次次回くらいが最終話です(*´ω`*)
ここでまた謝罪を…所属するサークルの新歓代表に任命されてしまい、次話の投稿が遅くなると思います(^^;)
毎度長くお待たせしてごめんなさいm(_ _)m
ではまた次話もよろしくお願いします(〃▽〃)