そうして彼らの思いは交錯し、運命は分かたれる《完結》 作:神崎奏河
のぞいてくれてありがとうございます!
今回は意外に早く投稿できました(笑)
というのも、長くなりそうなので短く分けたからなのですが(^^;)
長くなるのもあれなので…
本編お楽しみください!(唐突)
私だって知っていた。
彼女が我慢してそう見えないようにしてるけど、彼のことが大好きなんだって。
彼女はいつでも自分のことは後回しだから。
今回だってきっとそうなんだろう。
私のためを思って、彼に告白したんだよね。
だって上手く誤魔化そうとしてたけど、あの時の目はもう全てを諦めた感じだったもん。
彼はきっとそんな彼女を見捨てない。
だって私が好きになった人だもん。
これはこれで良かったのかもしれない。
でもなぜだろう。
祝ってあげようと思ったのに、祝ってあげるべきだったのに。
私はその場を逃げるように走り去った。
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「比企谷くん……」
ようやく少し落ち着いたのか、雪ノ下が埋めていた顔を起こして俺を呼んだ。
先ほど泣き叫んだばかりだからだろう、その声はしゃくりあげる中で絞り出されており、ひどく小さかった。
「私は、由比ヶ浜さんを裏切ってしまった。由比ヶ浜さんこそが幸せになるべきなのに、それを私は……」
ひどく小さな声は、罪を告解して懺悔するような響きを伴っている。
いつもは気丈な瞳も、今は弱々しい小動物のようだ。
弱っているところになんだが、間違いは訂正しておくべきだ。
未だに涙がぽろぽろと零れている雪ノ下に向かって、静かに言い放つ。
「雪ノ下、いい加減にしろ」
「!!!」
傷心の身には少し堪えたのか、ぱっと離れて怯えたように身構えた。
そうと分かりながらも、俺はキツい言葉を投げかける。
「由比ヶ浜が雪ノ下に対して、俺にフラれろなんて言ったのか?そうあいつと約束したのか?勝手にお前が裏切ったなんて思ってるだけだろ。独りよがりも大概にしろ」
雪ノ下は先のとはまた少し違った、辛い表情を浮かべた。
それに気付いていながらも、その先を続ける。
「そもそもあいつが、誰かの不幸のもとに成り立った幸福を望むと思うか?」
きっと雪ノ下は、自分でも分かっている。分かっていてなお、見えないフリをして行動を起こしたのだろう。
これが由比ヶ浜のためになると盲信して。
だからその間違いをつけつけてやった。
そして、もとの雪ノ下雪乃を取り戻すための一言を付け加える。
躊躇いはあったが、初めて会ったあの日、俺の心を掻き乱したあの温かくて眩しい風が、その躊躇いすらも吹き飛ばした。
「分かったら、めそめそするのはやめたらどうだ。俺が惚れた雪ノ下雪乃は、もっと凛として美しかったはずだ」
「………ッ!」
意外な言葉を聞いたように目を見開く。
今までの俺なら、決して言うことは出来なかっただろう。だが、あの半ば衝動的な告白をして以降、もう完全に腹は決まっていた。
「そうね……」
不意に雪ノ下が言葉を発する。
「比企谷くんの言う通りだわ。無様なところを見せてしまったわね」
その声はどこか懐かしい響きがした。
昔、ここでよく聞いていた、何気ないやり取りをする時の声。
「嘆いたところで何も変わらない。もうとっくに分かっていたと思っていたのにね」
軽く嘆息して、雪ノ下は軽く微笑む。
そして短くひとことだけ。
「ありがとう」
「ああ」
何に対する感謝か具体的に言わなかったが、なんとなく分かったような気がした。俺も深く考えることなく軽く返事をする。
ようやく場が落ち着きを取り戻す。
窓の外を見やると、式中の雨雲はどこに行ったのやらちらほらと空が見えた。日もかなり傾き、西の空は少し赤みを帯びている。
緊迫した時間が続いていたので意識していなかったが、かなりの時間が経過していたのだろう。
俺にはまだやることが残っている。それも一番大切なことが。
「もう落ち着いたか?なら俺は用事があるから今日は先に帰っていてくれないか?多分遅くなるから。また会える日があれば俺から連絡する」
その用事を済ませるべく、何気なく雪ノ下に話しかける。中身を具体的に伝えることはせず、ただ野暮用に断りを入れたように振る舞う。
しかし雪ノ下雪乃はやはり聡かった。確信に近い様子で問いかける。
「隠そうとしても無駄よ。由比ヶ浜さんのところでしょう?」
「……ああ」
悟られた以上、隠すのは無駄だろうと思い、俺は早々に観念した。
「なら私も行くわ」
雪ノ下は静かに目を閉じて、そう言ってドアへと向かった。だか俺は行く手を塞ぐように手を伸ばして、それを引き止める。
「ダメだ」
「私もあの子と話さなければいけないことが沢山あるの。だから私も行く」
「いいや、ダメだ」
抵抗する雪ノ下を俺は再度制する。
「どうして止めるの?」
そんな俺に対して疑問をぶつけた。
雪ノ下の疑問はもっともだ。雪ノ下もまた俺と同じく、由比ヶ浜と話すべきことは沢山あるだろうし、出来るだけ早く済ませるべきだろう。
だが俺はどうしてもまずは自分の手でケリをつけたかった。
だからこの場は譲れない。柄にもなくきっぱりと俺の思いを告げる。
「この件は俺自身でまずケリをつけたい」
「でも……!」
「雪ノ下……いや、雪乃」
雪ノ下は俺の言葉に驚いたのか、続ける言葉を失い、じっと俺の顔を見つめた。
「俺にさせてくれ。頼む」
これはあくまで俺の要求であり、雪ノ下が呑む必要性はない。だがどうしても、まずは俺が由比ヶ浜と話したかった。
だから頭を下げて、雪ノ下に頼み込む。
そんな俺を見て唖然としているような様子だったが、しばらく考えたあと、雪ノ下は静かに返事をくれた。
「……分かった。本当に無責任だけど、あの子のこと……あなたにお願いするわ」
「ありがとう」
苦渋の決断といったように、雪ノ下は俺の要求を呑んでくれた。その返事に対して俺は素直に感謝の意を伝える。
「いってらっしゃい……」
「………」
心配する目を振りはらうかのように素早く身を翻し、ドアへと向かう。レールが古くなっているのか、少々扉が重く感じた。
外へ出ると冷気が背筋を伝う感覚がして、思わず身震いしてしまった。身体が温かい部室を求めるが、その誘惑を断ち切って後ろ手に扉を閉める。事を為すまでここには戻るまい。
由比ヶ浜のいる場所へ。
なぜか場所は検討がついていた。それも確信に近い自信があった。
既に他の生徒は外へと出払ったのだろうか、校舎はしんと静まり返っており、小さいはずの足音がよく響いた。響く自分の足音がぴんと張りつめたような自分の神経を刺激し、鼓動を無意識に加速させる。
一段、また一段。
徐々に目的地へと近づいている実感がした。
階段を上り終え、扉の前に立つ。手を伸ばそうとして、一度躊躇うようにその手を引っ込める。
選んだ道に今さら恐怖したのではない。
扉の向こうに立っているだろう彼女に、俺はなんて声をかけるべきなのか。何を話すのが正解なのか。俺と話すことで彼女は傷ついてしまうのではないか。
そう考えると安易に扉を開けられなかった。
扉の前まで来て、思考の波に襲われる。
様々なパターンを想定し、それに対する答えを論理的に考えていく。そして準備した答えでいつものように自らを武装した。
これで大丈夫だろう。
そう思って再び扉に手をかける。
だがここでまた動きが止まる。
果たして考えて用意した言葉が、自分の思ったように相手に届くのだろうか。
心理と感情は別物。
かつて師はそう言った。
心理ならば空欄を埋めるようにして考えれば、正しい答えに辿り着ける。
だが感情は違う。
心理や合理性を超えたところにある自己決定要素であり、定理のように決まった答えが導き出されるとは限らない。また心理と同じように考えれば空回りしてしまう。
もしこれから対峙するのが由比ヶ浜の感情なら、俺の用意した答えは予想とは違った方向へと向かうだろう。
ならどうするか。
俺はすっと扉を開けた。
あの時と同じ場所。
そう、俺…俺たちが本物を求めた場所へ。
準備した答えを全て忘れて。
感情には感情を。
それが俺の出した答えだ。
馬鹿らしいがそれが正しい気がする。
暗い廊下から外へ出たため、斜陽に視界を奪われる。すぐに目を覆ったが、視界全体がぼんやりと闇に覆われた。
徐々に目が順応して世界が色を取り戻していく。
「由比ヶ浜……」
その世界に少女が一人、夕陽を眺めるようにして佇んでいた。
はい、8話はここで終わりです_( _´ω`)_
えっ、こんなとこで話を切るな、嫌がらせかって?
やだなぁ、そんなことないじゃないですか(-∀-`;)
でも、次の話が気になるって方が一人でもいらっしゃってくれれば、作者名義に尽きるというか、私としてはとても嬉しいです(*´д`*)
どうか彼、彼女たちの行く末、歩む道を最後まで見届けてあげてください!私も大学の空き時間を使って書いていきますので!
心の声…英論文は終わったけど、次は新歓なんですよね…
では9話でお会いしましょう(*´∇`)ノシ ではでは~