もっと速いペースで書けているつもりだったですがね……(白目)
【春日雄也・ボーダー本部】
「嵐山さん、お待たせしました」
「来たか。早速だが迅から連絡があった。急ごう」
「はい」
遊真たち3人が玉狛に所属して3日目の朝、迅さんから声をかけられたことから話は始まる。
―――
――
―
「雄也、ちょっといいか?」
「どうしたんですか?」
「悪いが、今晩嵐山たちと行動してくれ」
「何かあるんですか?」
「太刀川さんたち遠征部隊が今夜遊真を狙って襲撃に来る。正直俺一人じゃ止められないだろうから、忍田さんに頼んで嵐山隊を応援に出してもらうようにしてるんだが、お前もそこに加わってくれ」
「……確かに遊真は近界民ということに加えてかなりのやり手ではありますが、三輪の件があったにしてもそんな面子でくるようなほどのことですか?」
「……遊真は黒トリガーの所有者だ」
「なるほど、そういうことですか。わかりました」
―――
――
―
遊真が三輪隊とやり合ったということも最近聞いていた。
近界民ということもあるため、恐らく三輪たちは再度襲撃に来るだろうと予測はしていたが、思った以上の大所帯で襲撃に来るらしい。
冷静に考えれば三輪隊の4人を1人で相手して退けたくらいだから、遊真が黒トリガーを使っていたとしても不思議ではないし、むしろ筋が通る。
そして、そうなってくると本部の人間も黙ってはいないだろう。
近界民と隊員の小競り合いという次元ではなくなり、一定の戦力をかけて黒トリガーの回収にかかるだろう。
それだけ、黒トリガーというものは特別だということだ。
色々と思うところはあるが、嵐山隊の4人と共に迅さんの元へ急ぐ。
「嵐山隊、現着した!」
数分も駆ければ、迅さんのいる場所に到着した。
既に迅さんは太刀川さんたちと相対している……。
遠征部隊に加え三輪隊の面子……そして、なるほど。俺が呼ばれた理由はこれか……。
「さて、なんでお前はそっちにいるんだ? 清隆」
「城戸指令からの命令。お前には悪いけど通させてもらうよ」
「すまないが俺としてはお前を通すわけにはいかないんだよ」
「近界民を匿ってるのはよくないと思うんだけど? それに黒トリガー持ちとなれば、本部としては黙ってられないのも理解できるでしょ?」
「そうかもしれないけど、そんな不安視するなよ。別に何も悪いことはしないって。俺の言うことを信じろよ」
「うん、雄也のことはボーダーの中で誰よりも信頼しているよ」
「だったら」
「だが、これはまた別問題だ」
清隆の口調が変わる――臨戦態勢に入ったようだ。
「ったく、こうなるとお前は頭固いよな……どうしてもやるのか?」
「それはこっちの台詞だ。道を開けないなら――お前を斬る」
そう言うと清隆は弧月を起動した。ヤバい、あいつ目がマジだ。
「迅さん、嵐山さん、すいません。清隆の足止めで手一杯でしょうから、残りの面子の相手をお願いしてもいいですか」
「ああ、こっちは迅と俺たちで抑える」
「おう。あ、そうだ雄也」
遠征部隊の面々を迅さんと嵐山隊に任せ、清隆の相手をするべく場所を移動しようとすると、迅さんが声をかけてきた。
「何ですか?」
「使ってもバレないだろうだから、もしもの時は使っていいぞ。じゃあそっちは任せた」
「わかりました……少し場所を移そうか。ついてこい」
「仕方ない……太刀川さん、雄也は俺一人でどうとでもなりますので、迅さんと嵐山隊をお願いします」
「行ってこい」
――最終手段を使う許可は出た。……なるべく使いたくはないが、もし清隆が今回の襲撃に積極的なのであれば最悪使うしかないか……。
―――
――
―
迅さんたちと少々距離を取るため、清隆を連れて駆けた。
ある程度駆けたところで、程々の距離は取れただろう、と一旦足を止める。
「この辺でいいか」
「ああ、さっさと終わらせるぞ」
「……そんなに近界民が憎いか?」
「家族の仇ではあるし恨みはあるさ。ただそういう感情は別にしたとしても、上からの命令ならばやるしかない。通させてもらう」
「そうか……」
家族の仇――実際に遊真がやったわけではないのだが、三輪のようにどうしても近界民であるということだけで許せないと思う隊員も多々いる。
清隆にしても表向きはそんな素振りは見せないが、実際のところは三輪のように、近界民そのものに対して何かしら思うところはあるのだろう。
「お前だって4年前に母親を近界民に殺されてるだろ? 恨みはないのか?」
「まぁ思うところがないわけじゃないが、ネイバー殺すために母さんに命張ってもらったわけじゃないしな」
「お前の母親はそんなことは望んでいない、みたいなお約束の展開か?」
「そんなマンガみたいな展開じゃねぇよ。それに――」
「それに?」
「もし恨みがあるとすれば、あの時自分の力を過信して調子に乗ってしまった馬鹿なクソガキだった俺に対してのみだ」
思い出す――4年半前のこと。
中途半端に力を持って……そして自分の力を過信し……挙句母親を失う羽目になったあの日……
「そうか。まぁどうあれお前を倒して任務を遂行させてもらう」
「チッ……来やがれ!」
清隆が突っ込んでくるのを見て、こちらも弧月を起動させ振り下ろされる一撃を防ぐ。
一合、また一合と弧月がぶつかり合う。
一進一退の攻防が続く。
清隆の方が相変わらず上手いが、単純な力なら俺の方が上。
……次に甘い一撃が来たら思いっきり切り上げて清隆のトリガーをぶっ飛ばす。
そこから数合の後――
ここしかない!
片手で振り下ろされる一撃。これに合わせて力一杯に両手で切り上げを決める。
ガッ、っと激しい音を立てると同時に、清隆の持っていた弧月が手元から離れ天高く舞う――はずだった。
「残念。お前の負けだ。読みが浅かったな」
『戦闘体活動限界。戦闘体解除』
勝利を確信した次の瞬間、清隆のその一撃により俺の弧月は破壊され、そのまま振り下ろされた一撃をモロにくらってトリオン体が解除された。
トリガーが、しかも耐久力も高めな弧月が破壊される――思い当たる節はあった。
「お前、マジかよ……」
「諒もなかなかいいものを開発してくれた」
弧月のオプショントリガー、断海。
諒が開発した2つのトリガーのうちの1つ。
詳しい理屈は本人がよくわかっていなかったため推測になるが、使用したトリオン量に応じて瞬間的に硬度と威力を大幅に上げているのだろう。
――例えば、諒ほどの腕前なら自分のタイミングで自由に使うことができるだろう。
しかし、清隆の戦闘におけるセンスが高いとは言え……こんな上手いこと狙い撃ちができるのだろうか……
「お前の弧月を振るう時の癖、戦闘時の反応速度や間合いの取り方、立ち振る舞いは全部覚えている。ともすれば詰将棋のようなものだ。その場の最善手を打てば簡単に倒せる。案の定、エサに食いついてくれたしな」
普通に考えて到底できるとは思えないことを、当たり前のことのように、淡々と事実として語る。
「まったく、なぜわざわざ普段使わない弧月をセットに入れた? 何で射手トリガーを使わない? 私物のトリガーの方を使っているのだから、きちんと戦えば俺に勝つことだってできたはずだ。警戒区域内とは言え、街を壊してしまうかもしれないような戦い方は嫌か? だからお前は甘いんだよ」
「とても街を守るような立場にいる人間の発言とは思えないな……まるで俺を倒すためならそこら辺の建物壊しても構わないみたいな言い方だな」
「物事には優先順位がある。今回お前が最も優先すべきは俺を止めることだろう? 違うか?」
「違わないが……だとしてもそうじゃねぇだろ」
「全く……今回のことは別にしても、お前は物事の優先順位を見誤ることがたまにある。今後それで取り返しのつかないことにならないか、正直心配だ」
「余計なお世話だ。それに――」
――こいつはここで止めないといけない。
清隆はあくまでも盲目的にならないというだけで、根本的には比較的三輪に近い考え方を持っている。
黒トリガーの奪取という指示の下に動いているだけだから、「近界民だから」と遊真を殺して黒トリガーを奪う、と言うことすらやれるだろう。
――そうはさせない。
「どうした」
「お前はここで止める」
「そうだな、それが今現状の最適解だな」
そして俺は、首にぶら下がった黒いドックタグを握り――再び清隆の前に立ちはだかった。