1話3000字以内を目処に書くつもりがもう崩壊だよ……
調子に乗ってたら筆も乗ってなんか書きあがりました。
溜めてても仕方ないので投稿します。
【春日雄也・ボーダー本部・訓練室】
事は1年くらい前にさかのぼる。1年のとき同じクラスになった奈良坂透が声をかけてきたことから始まる。
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「春日。ちょっと相談があるんだが少しだけ時間いいか?」
「ん? どした、奈良坂。めずらしいな」
奈良坂透――三輪の部隊に所属している狙撃手。狙撃手事情はよくわかっていないが、ボーダーにいる狙撃手の中でも5本の指に入るほどの腕前とは聞いている。
「実は従姉妹がボーダーにいるんだが射手をやっているんだ」
「ほー、初耳だ。それで?」
「B級まではかなり順調に上がれたみたいなんだが、最近伸び悩んでいるらしい」
「なるほど。で、俺にそいつの面倒を見ろってことか?」
「すまないが頼めるか? 弟子として採ってくれとまでは言わないから、少し手助けをしてやってほしい」
「わかった。時間が取れるときにでよければ」
……とは言ったものの、俺に指導役なんて務まるのだろうか。
自分で言ってて悲しくなるが、俺はトリオン量とサイドエフェクトに任せてゴリ押しする脳筋な戦い方を主としている。
もちろん、ランク戦では清隆の立てたプランに沿った、さながら詰め将棋のような技巧的な戦い方を心がけてはいるが、戦闘そのものはやっぱり基本ゴリ押しだ。
……ん?そういや名前まだ聞いてなかったな。
「で、名前くらいは教えておいてくれないと俺も動きようがないんだが……」
「すまない、言い忘れていた。名前は――」
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「あ、春日くん。わざわざごめんね」
那須玲――奈良坂の従姉妹で俺の弟子でもある射手。
最初は奈良坂に教えを請おうとしたみたいだが、射手については門外漢で指導ができなかった奈良坂が、たまたま同じクラスだった俺に依頼してきたことに始まり今に至る。
彼女を隊長に据えて部隊を組みランク戦に参加し、B級の中位に食い込める実力、また部隊の面子の容姿も相まって、ボーダー内では割と話題になっている。
「お気になさらず。とりあえず入ろうか……美奈ちゃん、お願い。ついでに的もいくつか出してくれると嬉しい」
「了解ー! 仮想戦闘モード、入るよー!」
本人の資質や努力もあり、射手としての基礎的な部分や戦い方は大分詰め込めた。
ここから先は那須自身の戦い方にダイレクトに関わってくることを指導していくフェイズに入っても問題ないだろう。
というわけで――
「ちょっと今日は一つ見せておこうと思うものがある」
「何?」
「まぁ見たことはあるんだろうけど、とりあえず実際にやってるところを見せておこうかな、と」
そう告げると、いくつか合成弾を披露した。
俺は基本的にはバイパーよりはハウンドを多用する派なので、普段はあまり使わないのだが、那須はバイパーをメインで使っているし、とりあえずその辺りを使うやつを見せておくことにした。
「やっぱりすごいね……。でもなんでいきなりこんなもの見せてくれたの?」
「んー、まぁ基礎的な部分で教えることって実はもうあんまりないんだよな。立ち回りや間合いの取り方みたいなことは粗方教えたし、射程の最大飛距離の延長とかもうあとは鍛錬あるのみで特別教えられることはないし」
那須が弟子入りしてから、射手の基本的な戦い方や、射出の精度の向上を主に指導してきたが、かなりの水準には達したと思う。後は基礎的な能力の底上げなどの、本人の努力が肝となる部分ばかりだ。
「あとは今までどおり、一人でも戦えるように、機動力ガンガン上げてスピードと手数で制圧する感じのやり方を模擬戦を通して洗練していってもらう、ってくらいかな? ただ那須隊のコンセプトとかも考えると、1つどうしても身につけておいてほしいことがある」
「それが合成弾ってこと?」
「正確には確実に点を取りにいける必殺技みたいなもの、かな? 合成弾はあくまでも手段の一つだな」
「必殺技……」
「そ。必殺技。那須隊は基本的に他の二人が那須のサポートに回って、那須が点数を取りにいく戦い方をしてるよな?」
「うん。もしかしてこの戦い方ってあんまりよくなかったかな……」
「いや、むしろかなり評価できるポイントと思う。部隊の戦闘スタイルが確立できているからこそ、B級の中位グループとも戦えているわけだから」
1位の俺が言うのも嫌味に聞こえてしまうかもしれないが、実際B級のチームランク戦で、中位に居座り続けると言うのも大変だと思う。ただ、那須のポテンシャルとかを考えると、もうワンステップ上を目指せるだろう。だが――
「ただ、今のままじゃB級の上位に入ることは正直厳しい」
「えっ……」
「理由は大きく2つ。1つはB級上位と較べたときの単純な経験値不足。上位陣の皆は実力もさることながら、それ以上にB級の上位、なんなら今はもうA級に昇格したような連中と戦い抜いてきた経験がある。1つのアクションに対する反応の速さや、戦況や自分の状況を鑑みてからの次の動作への判断の速さが1テンポ以上那須隊よりも速い。戦いの中で、そういった面で遅れを取るっていうのはかなり手痛いことだな」
チーム戦である以上、1対1のように目の前の相手にのみ考えていればいいものじゃない。全体的な視野を持ち、どう動くのがベストかということを可能な限り素早く判断し続けなければならない。リーダーとして指示を出す那須にとっては余計に必要なものだ。
これに関しては志岐のオペレーターとしての能力の底上げも必要になってくるが、今のように那須をエースに立てて戦うのであれば、彼女自身も今以上に周囲に目を配りながら、的確で素早い判断をしながら戦うことが今後より重要になってくるはずだ。
「そっか……そこは頑張って差を埋めていくしかないよね」
「ああ。まぁこれは志岐含めて、那須隊皆に宛てた宿題みたいなものだな」
「じゃあもう1つは?」
「那須隊は強いとは思うけど、さっき言った上位陣みたいに怖くないことだな」
「えっ」
「ごめん、これじゃあちょっと言い方悪いな。うーん、そうだなー……B級で言えばうちの諒や影浦さんや生駒さん、あとは最近急上昇した鈴鳴の村上さんみたいに、まともにぶつかったらマズイ、と相手に思わせるだけの何と言うか、突き抜けたレベルのエース級の隊員がいない」
「……確かにそれは否めないわ」
「少なくとも上位に入ってくる隊には少なからずそういう隊員かそれに準ずるレベルの人がいる。他にも戦闘中はあんまり目立ったことしないけど東さんもそうだし、かなりムラッ気強いけど、調子いい時の葉子もその近いレベルにはあると思う」
那須は那須隊のエースではあるけど絶対的なエースにはまだなりきれていない、というのが俺の見立てだ。
今言ったとおり、諒たちみたいなバトルジャンキー共に較べると、例え1対1で戦うことになってもこいつが相手なら何とかなる、と思えてしまう。
というよりも、広報のお偉さんぶん殴って懲罰受けた影浦さんはともかく、今挙げた隊員はA級にいてもなんらおかしくない人たちばかりだ。
……まぁ、那須に彼らみたいになれとは言わないし、言うつもりもない。
さすがに「弟子が修羅と化した」なんて事態を起こすつもりはないし。
ただ、それでも彼女には他を寄せ付けぬ強みもある。
バイパーの軌道設定をマニュアルで行なえることだ。
これができるのはボーダー内で俺とA級の出水と彼女の3人だけ。まぁ俺は実戦ではバイパーたまにしか使わないし、きちんと実際に実戦で武器として使っているのはこの2人だけになる。
「今日はとりあえずまずは合成弾を撃ってみよう、ってことで。じゃあやってみようか。今のトリガー那須のセットだとトマホークかコブラだけど……コブラはいいや。とりあえずトマホークだけでいいと思う。ちょっと撃ってみようか。やり方は――」
「うん、じゃあやってみるわ」
バイパー、メテオラをそれぞれ起動し合成を始める。しかし、やはり射出にはなかなか移れないようだ。
そして数十秒経ってようやくそれは発射された。
「……変化炸裂弾(トマホーク)!」
発射された弾丸は的に向かって飛んでいき、的に触れた瞬間爆発を起こした。
「まぁ大体20秒か。うん、初めてにしては上出来だ。何より的にしっかり命中しているし、きちんと弾道をコントロールできてるあたりセンスある」
「ありがとう。でも春日くんほど上手くはいかないね」
「まぁ初めてだから時間かかるのは仕方ないし、これから練習していけばいい。それに俺はサイドエフェクト使ってるってのもあるから、比較対象にはならないし」
「そう言えば前もチラッと言ってたけど、春日くんのサイドエフェクトってどういうものなの?」
「なんだったけな、たしか高速計算処理みたいなことを診断で言われたな。とりあえず、合成弾を作る上での弾丸の設定とかがめちゃくちゃ速く済ませられるものと思ってくれたらいいよ」
俺のサイドエフェクト――高速計算処理。名前の通り、『計算』という限定的な事象に対しての処理能力が著しく速いという、すごいと言えばすごいけど一見微妙なサイドエフェクトだ。
日常生活では数学の授業時間、あとはスーパーの値引き品の値段計算以外では役に立たないし。
ただ、これが射手用トリガーに非常に相性のいいサイドエフェクトだった。
弾丸生成・設定から軌道計算、更には射手トリガー合成のプロセスの高速化など、射手としてのあらゆる能力を底上げするものだった。
そんなこともあり、入隊後は最初のうちは攻撃手だったが、これに気付いてからは射手として戦うようになった。
「そうなんだ……それ、すごいね」
「まぁね。それに、防衛任務で使ってる方のトリガーはもっとズルいシステム入ってるし、今度防衛任務のシフト重なったらちゃんと見せるよ。……さて、とりあえず夜のシフトまでは時間取れるから、それまでは気の済むまで付き合うぞ」
「ありがとう。でもその前にちょっといい?」
「何?」
「『葉子』って……」
「ん? 香取隊の隊長のこと? 隊長会とかで顔は知ってるとは思ってたけど……まぁB級の中位と上位行ったり来たりしてるからタイミング次第では来期は直接当たるだろ」
「そうじゃなくて、なんで名前で呼んでるの?」
急に温度が下がった気がする。まだたまに肌寒さを感じる日もある時期ではあるが、基地内が寒いのはおかしい。きっと気のせいだ。そう思いたい。
「あー、なんか名前で呼べって言われて。それ以来苗字で呼ぶと何か不機嫌になるから名前で呼ぶようにしてるだけ」
葉子については、過去に何度か防衛任務でシフトが一緒に以来、何かと絡んでくるようになり、たまにではあるが、特訓に付き合え、とせがんでくるようになった。訓練とか嫌いなくせに……あ、そういえば、夜の防衛任務も香取隊とシフト被ってたな……。
「そう……。ねえ、雄也くん」
「ん? あ、ああ。何?」
「知ってると思うけど、私の名前は玲よ」
「知ってるけど……」
「……」
あ、これはいけない。那須が若干イラっとしている……。
「な、那須?」
「もう一度言うわ。私の名前、玲」
「あっ、はい。えーと……玲?」
「うん。じゃあ雄也くん、もうちょっと練習したいから付き合ってくれると嬉しいな」
「わ、わかった……」
通信を通して聞こえてくる『雄也くんって頭いいのに馬鹿だよねー』という美奈ちゃんの声を聞き流しながら、有無を言わせぬ那須……じゃなくて玲の迫力に、俺はただ頷くしかできなかった。
あ、はい。お察しとは思いますが、次回はカトリーヌ出てきます。