【黒い鳥】の羽休め   作:\°∪゜/

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四休み 血は争えぬおさな鳥

 

 

 ——サイドオペレーション起動 システム 再起動します

 

 

 緊張し静まり帰った空間の中ポツリと、そんな機械音が呟かれた。それは合成された女性の声だった。

 それと同時につん裂くような銃声いや、砲声がした。先ほどシャリス達トライアドが集中砲火した時の物よりも、何倍も煩かった。

 ガーゴイル型アビスは悪魔の執行具を手放し黒い煙を出して倒れてしまった。

 

 

 ——意味が分からない。

 

 

 この場の一同が思った事だった。

 先ほどまでガーゴイル型アビスが装甲機竜を蹂躙していて、今まさにトドメが刺されようと言うところなのに。一体何処のどいつがあんな砲声を響かせたのか。

 

 窮地に追い込まれたシャリス達はふと、援軍の事を思い出した。

 もしかしたら王都の部隊が到着したのかも知れない。淘汰は少し遅れていたようだがついたのならば問題ない。文句は言いたいがそれは生き残ってからだ。

 王都の部隊とは周知の通り、王都にて駐屯するエリート部隊の事だ。アビスの討伐経験もある。彼らならば、このアビスも打ち取れるだろう。

 何よりも武器の火力が違う。王都部隊はあれほどまで高火力な武器を持てるのか。

 

 そう思いシャリスは砲声の方向、自分の真後ろを振り向いた。

 

 

「——え?」

 

 

 ピンク色の唇から動揺が零れ落ちた。目は見開かれ、その瞳は真っ直ぐ壁を見つめている。

 いや、壁ではない。彼女が見ているのはその手前に立ち尽くす人影。

 血を身体中から滝の様に流し続ける青年の姿だった。

 

 

「な、なん——!?」

 

 

 シャリスは驚いて駆け寄ろうと動きもしない装甲機竜を操縦するが、それより先に青年が動いた。

 青年は血で滲み軋んでしまう関節を強引に動かして地を蹴った。そのスピードは生身だと言うのに装甲機竜のそれに等しかったが、一歩進む度に赤い液体が勢い良く宙を舞った。

 

 青年はアビスの目の前まで一瞬で跳躍し、青年の身体半分はあろうかと言う顔面前まで移動する。

 そしてそのまま膝関節思い切り前へ突き出し飛び膝蹴り、左脚が変な方向へ曲がった事を代償にアビスの顔面を陥没させる事に成功した。

 

 

 ——ガァァアアアアアア!!!!

 

 

 アビスは怒り狂い、無造作に腕を振るった。力を制御しない巨人の剛腕だ、姿勢が保てず右肩を潰されるように吹き飛ばされた青年はライグリィが吹き飛ばされた壁の別地点で陥没する。

 お、お返しだ……! 顔を片手で抑えるアビスは槍斧を持って空高く飛翔する。そしてある程度上がったらすぐさま青年の元へと向かった。

 

 青年の意識は無い。頭を揺らされ右側の視界がブラックアウトしている彼の目には何も映っていない。しかしそれは最初からであった。

 青年は最初から身体が狂っている、狂ってしまうを知りつつ戦いを挑んだ。身体は戦いの雰囲気を再認識しまったせいだ。

 彼は自らの体から何リットルもの血液を噴射させる。表情が歪み、その痛みは見ているだけの者にも錯覚的に感じさせるほどにものだった。

 

 

「ダメだやめろ! それ以上やったらお前が……!!」

 

 

 藍色の髪の少女が必死の形相で叫んだ。それは死に急ぐ雑兵を心配する、衛生兵のようだ。

 しかし青年は辞めない。辞めずに更に血を流れ出して。

 パッと、眼光を光らせた。

 

 周囲の背景がニヒルに光った。ライグリィが気絶している壁やアビスの身体、その他点々と戦闘エリアの至る場所で何かが激しい発光を始め、それらは徐々に青年の元へと近付いていく。

 よく見ればそれは青年の血液だった。吹き散らして無くなった赤血球達は主人の元へと戻って。

 

 

 新しく、主人の手となった。

 

 

 全ての赤絵の具が青年の周りに陣取った瞬間、全てのものが飛び上がって青年に襲い掛かった。

 その瞬間だった。傷だらけの青年を中心に激しく発光したのは。直視するだけで焼け焦げてしまうのではないかと思ってしまうほどの光を前にシャリス達は目を瞑る。超常生物である筈のアビスもだ。

 

 そして暫くすると青年を渦巻く光は消え去る。視界は普通に戻り、ノクトは彼の身を見つめて驚愕する。正確にはその手に握る重厚な物体を見つめて。

 

 

 ——システム 戦闘モード

 

 

 機械音が空虚に鳴り響く。

 それに続く様にしてまたしても莫大な重厚音が彼らの耳に突き刺さった。それは先ほどシャリスがアビスに斧を振り下ろされた瞬間にも聞こえた、あの砲声だった。

 アビスは瞬間、胸元に焼き切れるような厚みを感じた。

 鋼鉄以上の強度を誇る錆び切った鎧が有る筈なのに、何故これだけの痛みを感じるのだ。言い澱めない困惑に頭を痛くして、すぐに尋常ではない怒りが湧いてくる。

 

 

 目の前の青年だ。

 

 

 あいつが、その手に持つ3連装の筒から何かを連続してぶつけているんだ。アビスは戦いに慣れているが為にそれは見た瞬間に直感した。

 そもそも、奴は何だと言うのだ。アビスは考える。

 自分に対して飛び膝蹴りで傷を負わせ、機械仕掛けの竜のトドメを二度も邪魔し、現在進行形でこの胸焼けを発生させている。

 

 頭にくる奴だ。アビスは頭に血が登りつつ、ふといい事を思いついた。

 これだけの能力がある者を食せば、どれほどまで自分は進化出来るのだろうか。

 身体の大きさが倍以上違う自分に対してあれだけの行動と度胸のあるものだ。人間だと言う事を差し引いても、かなりの物になると言う事はすぐに叩き出せた。

 

 しかもそれでいて、美味い。

 生物の"生命"そのものである【ソウル】はその者が過ごした人生を小さく凝縮したもので、その経験が高いほど美味であるとされる。

 

 それを得られるのならば、これまでの事は無かった事にしてやろう。

 今自分に振りかけている石ころを飛ばすのも許してやろう。

 此方の事を一切眼中にいれず作業しているような目をしているのも許してやろう。

 

 

 だから——さっさと、死ね。

 

 

 アビスは本能に任せて真っ直ぐ滑空した。

 

 

 

 

 そしてそれを、血に汚れた黒い瞳が真っ直ぐ覗き込む。

 その手に握る大口径砲に入りもしない力を入れ、自分に降りかかろうとするアビスに照準を合わせる。

 彼が砲身を握っているのは右腕だ。先ほどアビスに景気良く砕かれてしまった右腕部。それで握っている遠距離兵器など、トリガーを引く事すら出来ない。

 出来ない筈なのに——青年は何度も引き金を引いた果てに神経が逝かれてしまった左腕を力任せに動かして照準を付ける。

 

 遅い動きだ。

 

 それも当然、砲身を動かしているのは実質的に壊れ掛けた左腕だ。本来こんな用途を想定しない武器であるの関わらず、動かせる唯一の腕は損傷大。

 動かせない物を強引に動かしている以上、当然と言えた。そして普段以上に消費が激しいのも、当然だ。

 

 青年は左腕からダラダラと滴る血液を気にも留めず、背中、太もも、首、脇腹から更に血液を噴射させる。また、右腕に接続された≪輸血プラグ≫がそれを更に手伝って徐々に青年の意識を深淵へと導いていく。

 

 まだだ、まだ持ってくれ。

 

 血液が徐々に無くなっていく。それに比例して視野も狭く、暗くなっていく。

 ああ、奴は何処にいる。初めから碌に見えもしない眼に力を入れてなんとか視認しようと目を見開く。

 瞬間、青年の目に何かが動くのが見えた。

 

 

 ——今だ

 

 

 輸血プラグから左腕に握る砲身、ULC-40 LAUGHLIN(レーザーキャノン)へと流し込まれるエネルギーをストップさせ、コンマ数秒で完遂する一次ロックを付ける。

 輸血プラグが地に堕ちて先程まで砲身に流れていた紅いエネルギーを垂れ流す。が、今更気にすることもない。

 フルチャージされたエネルギー塊は既に一発、砲身内部へと格納されたのだ。ロックは一次ロックまでしか掛かっていないが、一直線に向かっている飛来物に当てる程度の技量は、壊れ掛けた左腕にもある。

 

 青年はアビスをギリギリまで引き付ける。見えない目で敵を見つめ、身体で感じ取る雰囲気を伝って。

 

 

「——だ……! おま———ぬ!!」

 

 

 何かが聞こえる。聞き慣れた言葉だ。でも、なんて言っているか分からない。

 青年の流血は更に激しくなった。でも、あとちょっとだ。そんな所まで行って初めて、青年は右手に力を力を入れた。

 

 極端に折れた人差し指。壊れた人形の指が机の上から落ちるように曲がった指先は動く事はない。

 が、それを気にする者は誰もいない。皆ジュゥ、ワァ!!! と勢い良く飛び出した綺麗な蒼色の閃光に夢中だった。

 

 アビスの身体にぽっかりと大穴が空いた。放たれた弾頭の口径に見合わない、巨大なトンネル。

 超常生物の意識が削がれる。先ほどまで獲物を付け狙う強者の矛と意志は既に無い。そこにはただただ、空虚のみがあった。

 アビスは自身の体重を支え切れずに地に伏せた。

 

 シャリス達はこれを見て、息を呑む。

 自分たち学園を守る騎士団が、教師たちがあれだけ抵抗しても勢いすら殺せなかったと言うのに、装甲機竜を持ち得ない男の彼は、たった一発の弾丸で一瞬にて息の根を止める事が出来てしまった。

 こんな事に前例は無い。学園を狙って襲うアビスも、謎の力を持った青年も。

 

 ノクト達は困惑して、青年の方を向いた。あれだけの強さを見せつけた、彼を。

 そんな普通の人間である筈の彼は、

 

 

「——!!」

 

 

 大量の血液を垂れ流して、倒れていた。

 

 

 

 

 ■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 爽やかな朝、窓辺から差し込む眩しい日光。

 それに当てられて青年はパチリと目が覚めた。

 随分と長い間寝ていたような気がする。青年は目元を右腕でゴシゴシと擦って……擦ろうとして、気が付いた。

 

 

 ——何故、私の右腕は上がらない?

 

 

 それどころでは無い。全く力が入らなかった。

 これは何かあったに違いない。腕が全く動かなくなるなど、記憶喪失である青年にとっては前代未聞だ。

 

 仕方ないから青年は左腕で目を擦ることにした。此方も何故か多少動きが鈍いが、全く動かない右腕に比べればマシと言うものだ。

 とりあえずは起きて、朝の運動から始めよう。早寝早起きラジ体操。これは生活の基本である……と、記憶の初期化がされた脳内メモリの片隅に残っている。

 青年はベッドから降りて、そのまま

 

 

  転がり落ちた。

 

 

 痛い。

 素直にそう思った。

 まさか足の自由までもままならないとは、実に驚いたものだ。青年の残った記憶の中にはあの少女に赤い紙束を貰った所までの記憶しかないというのに、一体何があったと言うのだろうか。

 まさかアレは呪いの書的なアイテムなのか。青年は自然と赤い紙束を処分したくなった。

 

 がしかし、動けないのでは処分することも出来ない。残念ながら今の青年には何かをする力すら残されていない。自ら崩れ落ちたベットの位置に上がる事すら、彼の筋肉では難しい。

 

 それでも彼は諦めない。

 青年はなんとか元の位置に戻ろうと試行錯誤を繰り返す。

 ベッドの端に布団を縛り付けてそれを伝って……そもそも縛れない。

 両腕を強引に動かして登り詰めつ……右腕が動かない。

 ……どうにかして登らなければ行けない。

 

 

 とは言ったものの、怪我人(重症)に残された力などありはしない。身体中が軋むように痛い。

 一体何が起こったんだ。そう思いながらもベッド登りに奮闘する青年が頂上に登れたのは最終的に、ある一人の少女が来てからだった。

 

 

「——……!!」

 

 

 青年がベッドに上がる補助をした生徒は、彼の姿を見てあたふたと慌てている。何をしているんだと青年は冷ややかな視線を彼女に向けた。

 

 

「……!!」

 

 

 すると此方の眼差しに気が付いたのか、その場で静止して静かに黙り込んでしまう。その恥ずかしさは頰をピンク色に照らすまでのものらしい。

 空気が悪くなってしまったと思った青年はささやかに苦笑いを浮かべた。最低限の笑顔だ。

 

 それから暫く、青年と少女は静かな空間を過ごした。

 言葉は相変わらず全く噛み合わず話にはならないが、一緒に過ごす空気だけは一際美味しく思えた。

 こんな感覚は初めてだ。青年は彼女の事を少しだけ知りたくなった。

 が、どうやら彼女はもう、行かなくてならないらしい。

 少女は寂しそうな眼差しを此方に向けて一言、呟く。

 

 

 ——さようなら

 

 

 そんな事を呟いたような気がした。

 それは存在が何処か遠くに行ってしまったような錯覚を覚え、なんだか虚しい風穴を開けられたような気分。

 

 青年はそれから何をすることもなく、静かに一夜を過ごした。働かずに一日中ゆっくり出来たのは、いつぶりだろう。

 ふと彼は、例の藍髪少女の事を思い浮かべた。

 

 あの少女は自分が働く仕事に関して全て指示を出し、監視している。ならば自分に何があったのかも分かるかもしれない。

 彼女ならば………青年はそんな所まで考え、ああダメだと考えを改めた。

 

 青年と少女の間には、共通言語が存在しない。あるのは噛み合う事のない言語のみ。

 それで会話しようとした所で、互いに相手の姿が気持ち悪く見えるだけだろう。

 それを解消する為に少女はあの赤い紙束を青年に託したのかもしれないが……生憎と、まだ解読が終わっていない。

 しかも発音も分からないのでサッパリだ。ああ、どうしたものかと青年は静かに絶望した。

 

 だがそれでも、コミュニケーションは取れるものだ。

 あの少女が去った次の日、藍髪少女はいつも通りの時間帯にやって来た。

 

 

「——!?」

 

 

 やあ、久し振りだな。

 そんな感じで軽く手を挙げたのだが、何故だか少女は顔の全体に驚愕を浮かべてしまっている。

 どうしたのだろう。何かおかしい事でもあったのか。

 

 なんだか昨日も似たような事があったなと思いながら青年は再度苦笑い。藍髪少女に届きもしない声を掛けようとしたのだが。

 何故か大急ぎで部屋を飛び出してしまった。急用なのだろうか。

 

 と、思ったらまたしても大急ぎで戻ってきた。しかも今度はお連れの黒髪少女と茶髪少女をも引き連れて、だ。何やら表情が険しい。

 どうやら自分を連行するらしい。彼女らは自分がここの庭で捕まっていた時と同様にして手錠を掛け、青年は重たい足を引き摺らせて歩かせられた。

 

 気の毒そうに此方をチラチラと確認する所を見るにどうやら、この行動は彼女らの意思ではなさそうだ。

 まあ、それでなくとも青年の頭に血は登っているが。

 

 なんの説明もないままこの扱いなのだ。

 自分が傷を負って包帯でグルグル巻きの理由も、肩からお腹に掛けてズキズキとした痛みがあるのも、四六時中クラクラと目眩がするのも。

 そこに来ての、この連行。全くもって不愉快で、意味不明。

 

 

 ——私が、何をやったと言うのだ

 

 

 青年は声の出ない叫び声をあげるが——そんなものに気付く者は誰一人として、いなかった。

 

 

 

 

 ■□■□■□■□■□■□■

 

 

 ——あなたは、本気なのですか!?

 

 

 王立士官学園 学園長室。広々とした広間からつんざくような、荒げた女性の声が響いた。

 その声色は非常に大きく、力強いものだ。彼女が覚えている感情は恐らく、怒り。

 机をバンと強く叩いたレリィ・アイングラム学園長は意見の食い違う者に対して鋭い眼差しを向ける。

 それを受けて彼、王都から派遣された第6部隊隊長ラルド・アッカーマは両手を中腰に挙げて彼女を挑発するように吐き捨てる。

 

 

「ええ、勿論ですよ学園長。あれほどの人材だ、活用しない訳にはいかない。

 それに強力な兵器を召喚する力もあるようだ。軍事力に乏しい我が新王国の手札にそれを加えようと思うのは当然の判断だと思うのだがね」

 

「それでも彼は純粋な人間です! いつからあのような力を持っていたのかは私も知りませんが……今日までそれを使わなかったのは、それなりの理由がある筈です!」

 

「それなりの理由、ねぇ……。それは君が創り上げた建前じゃないのかね、強大な力を持つ彼を此処へ繫ぎ止める為の。

 言葉が通じ合わないと言うも、もしかして——」

 

「——違いますっ!!!!」

 

 

 彼らの会話は平行線だ。絶対にわかり合う事はない、それは実際に話している彼らにも分かった。

 

 そもそも彼らが言い争っているのは先の青年によるアビス撃退作戦が原因だ。

 あの時青年は自らの身体を犠牲にして強力な兵器を使用し、大型アビスに生命の引導を渡した。学園を、生徒達を守ったという功績その他諸々合わせて、彼の活躍は目紛しい。

 

 だがそれと同時に、彼は表舞台の劇場へと出演してしまった。

 今までは少しばかり隠蔽された存在であったが今回の騒ぎでそれが明るみに出てしまった。しかもそれは生身でアビスを撃退すると言う前代未聞の方法で。

 

 この時に学園に応援へと来ていた王都部隊隊長であるラルドは彼の力を、目の前で見ていた。

 チューンされた装甲機竜を纏っている自分でも後退りしてしまいそうな巨大で恐ろしいアビスに対して怖気付かず単身で突っ込み、強力な武装を用いすぐさまソイツを撃破するその能力。

 

 彼は知っての通り、言葉が通じない。

 この世界に精通していないからだ。それを見抜いたレリィは雑用という面倒な仕事を押し付けながらも、彼に社会科見学させる気でいた。

 最初は少しの間だけ働かせて野に返そう。そう思っていたのがいつか、子を見守る親鳥のように感情的に見てしまい、中々に手放せない状況になり。

 先日、その目でアビス相手を蹂躙する圧倒的な力を見せつけられた。この時レリィは彼に、恋をしたと言っても過言ではない。

 

 あれほどの力だ。彼が居てくれれば新王国の助力になるのは間違いない。

 その為には彼にこの国を、世界をよく知って貰わねばならない。知って、その上で力になってほしいのだ。

 

 つまり、彼らが争っているのはその方法のみなのだ。その果てに来る結果など、彼らは当然の物だと思っている。

 本当の意味での結末は彼らが決めるのでなく、青年が決めるべきなのだ。それを意図せず無視してしまっている彼女らは、少しだけ管理職としての「当たり前」が習慣ついているだけなのだろう。

 

 故にこの争いに意味などはありはしない。青年が受け入れる筈もない方法を言い争って何になるのか。

 だがそんな事を知らない彼らは続けて、言い争いを続ける。それは例の青年がこの部屋へと入るまで続いた。

 

 

 ——扉からノックが聞こえた。

 

 

 どうやらもう、彼は来たらしい。

 それを察したラルドはレリィに向けて冷ややかに、

 

 

「まあそれじゃ、この件は張本人である彼に聞いてみるとしますかね。通じるかどうか疑問でありますが」

 

「ええ、そうね。……でも彼は貴方のような強引な者に、彼は絶対に従わないわ」

 

「くくく、それは面白そうだ」

 

 

 かくして、運命の扉は開けられる。

 そこに居たのは三人の三和音(トライアド)。その一人が手に持つ縄の先には首が繋がれている。

 そしてその首に縄を繋がれている人物こそが、

 

 

 例の青年であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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