【黒い鳥】の羽休め 作:\°∪゜/
今日も爽やかな朝がやってくる。
質素な窓辺から囁く光の化身に当てられパチリと目が覚め。
窓に目をやればその奥には小鳥たちが楽しそうに喉を鳴らしている。可愛らしい歌声は青年の身体に心地良くすぅーっと入って来た。
青年はベッドから降りて、軽く背伸びをする。
はあ、なんて気持ちの良い朝なんだろう。ここ最近は仕事量も減って、青年にも自由の時間も出来た事により彼の心は窓辺から見えるあの大空のように晴れ晴れとしている。
仕事が減った。
確かにそれ自体は良い事だ。しかしどうにも青年には、それに裏があるように思えてならない。何せ仕事量が急に減り出したのはあの連行事件で連れて行かれた次の日なのだ。
となるとあの日に何か自分か、ピンク頭の女か目つきの悪いあの男が何かやったに違いない。
藍髪少女やそのお付きの少女が何かやったとも考えられるがこの社会だ、彼女らはピンク頭の下についているからその意思決定は彼女が握っていると考えられる。故に論外である。
しかし結局、何をやって仕事量を減らしたのだろうか。
その日青年がやった事と言えば、此方へ擦り寄ってこようとする男を振り払う他、ピンク色の理解不能の話を適当に聞き流しただけなのだが。
それにしても結局の所、あの男はなんだったのだろうか。
青年は新しく用意されたスーツを着込みながら考える。
彼は此方を舐め定めるように睨みを利かせた結果イライラしていた自分に差し出した手を跳ね除けられしまい、ピンク頭に睨まれて少し話し込んだ後、その場を出て行ってしまった。
よく考えればあの時、手を跳ね除ける必要はなかったのかもしれない。結局彼が何をしたのかったかなんて分からなかったのだ。別に彼に対して怒って居たわけではない。
だったら適当に話を合わせれば良かったなと今更ながらに後悔するが、それはもう過去の話だ。確定された事象を変える事など出来やしない。
片手間に適当な思考を回していると、彼の準備は終わった。
上から白、青、黒色に別れた服装を纏えばその姿はなんとなく、若返って見える。そう言えばの話、自分も歳は幾つなのだろう。
まあ実際、歳以外にも不明な物は幾つかあるのだが。
名前、此処へ来た経路、言語、知り合い、自分の趣味、その他諸々。
記憶喪失とは、厄介なものである。
暫くするとガチャリと扉が独りでに開いた。
別にそれは幽霊による心理現象だとか、念道力で開けたとかそう言う類いの物ではない。
ただ単に、お迎えが来ただけだ。
「……、——…!」
未だによく分からない言語を喋りながら彼女、藍髪少女は自分に話し掛けてくる。
青年はそれに雰囲気でなんとなく答え、自室を出て行く少女の後をついて行く。
今からやるのは、いつもの雑事だ。少し前まではゴミ拾いや食器洗いが主だったが、何故だか今は就いている仕事が違う。
恐らくまあ、あの日に何かあったのだろう。ピンク頭が何か話してきた次の日にすぐさま転職させられたと言う事を考えると恐らく、あの話は転職についてだったと推測出来る。まあ根拠の無い仮定論であるが。
少しの間廊下や中庭を進んで行くと、ある一つのこじんまりとした倉庫のような建物に辿り着いた。
藍髪少女が大扉下部に付けられた小扉の所まで歩き、コンコンと二度ノックしてから建物の中に入った。それに続いて青年も門を潜る。
中は意外と広々していた。天井までの長さはあの装甲兵器2体分はありそうな程で、倉庫端には予想通りソレがワイヤーロープで2体分吊るされていた。
藍髪少女は奥へ進み、そこである一人の人物に出会った。
滑らかな金髪を後ろで結んだ端正な顔立ちの少女だ。
自分と同じような配色の服を着込んでおり、その上に少しだけ灰汚れたローブを羽織っている。
藍髪少女は金髪少女と少しの間話し、ふと後ろを振り向き青年の事を指差した。金髪少女はなるほど、と言ったように顎に手を置いている。
青年はここまで来て、周りをキョロキョロと見渡していた。
先ほどの彼女らの話し込みを見て、青年は自分がこれから何をするのか大体察していた。詰まる所今回の仕事は、製造作業手伝い、と言った所だろう。
此処に来てから青年は随分経つ。大体の仕事を完璧に仕上げられるようになるまでの時間いると言うのだから、時間の流れは早いなと実感させられる。
その中で彼は発見した事がある。この場所には"男"が全く居ないと言う事である。
子供も、大人も、みんなが女性。この女人世界では男は自分しかいない。その事に非常に驚いた。
世界的に見ても女性と言うのは男性に比べて半分程度しかいない筈である。しかし、此処では男性が全く居らず女性しかいない。
これはある意味、事件である。何故こんな事になっているのか。
青年はある二つの仮説を立てた。一つは女性のみを集めた何かの施設だと言う事。一つは世界中の男性がほぼ死滅してしまった事。
可能性としては前者が高い。後者の場合、社会というシステムが成り立たないからだ。男性という力仕事の担い手が居なければ、作業効率は遥かに下がる。
まあ、だからなのだろう。ここは女性のみが集められた場所だ。工場のような力が大分必要な仕事を出来る人間特に、年増も行かない少女には非常に酷な話だ。
そして自分は雑用を専門とする、仕事屋だ。このような仕事は請け負った事はないが、何事も経験である。
最低限の仕事は果たす。それが今回の目的だ。
藍髪少女が此方に手招きしている。挨拶でもするのだろう。
青年は彼女らの元に歩いて行った。
さあ、今日も楽しい楽しいお仕事の始まりだ。
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「へえ、なかなかやるじゃないかお前」
学園内の機竜工房で金髪の少女が腕を組みながら、目の前でせっせと働く青年の働きぶりを評価した。
その口元は釣りあがっていて三日月型。表情は心なしか嬉しそうだ。
「図面を読んでいるみたいだな。しかし言葉も文字も読めないはずだが……」
「恐らく、、絵とそれに付属する文字を見てなんとなくで組んでいるんだろう
。詳しい事は分かってないと思う、だってほら」
藍色の髪の美少女シャリスの呟きに、流れるように長い金髪が特徴的な美少女、リーズシャルテ・アティスマータは青年の施した作業風景の一角を指差して示した。
そこは機竜の排気口部分だった。
「彼処は機竜を起動している際に発生する熱を外に逃がすファンが入っているんだが、彼は一つだけ見事に忘れちゃっているな。
本当ならばファンとその支柱に熱誘導材と滑り材を仕込んでおかないといけないのdさが」
これを仕込むのと仕込まないでは機体制御面に於いて大分違うとリーシャは言う。
「機体に熱が溜まっちゃうとパーツ各所のパフォーマンスがガタ落ちするんだ。人間が炎に投げ込まれると絶叫するだろ? あれと同じね」
「ほう、だから熱を誘導する排気口が作られているのか。確かに操縦している時は背中に熱みを感じないな」
「最近では他の国も機竜の解析に乗り出しているみたいね、だから技術も日々進歩しているわ。熱誘導材もその結果よ」
彼女達の世間話は少なからず繋がれている。
が、そもそも彼女らが何故こんな所世間話をしているのか。少女だったらもっと遊ぶべきじゃないのか。
その原因は全て、目の前の青年にある。
青年はあたふたとしながら手に持つ図面を眺めながら機竜の各パーツを組み立てている。
何故なら今彼は、彼女らにテストされているからだ。
ここ最近の彼の成長率は、凄まじい。成長と言うよりは潜在能力と言うべきか。
最初は何も出来ない青年だと思われていた。トイレ掃除もあまりの結果で、言葉も通じない。
それが今ではどうだ、本職かと疑う程上達し、料理に至ってはコックレベルにも上り詰めている。一度やれば次の機会にはマスターして帰って来るのだ。言語が通じないのにこの結果という事はつまり。
この結果を見て上の人間は、彼が"使える"と判断した。女ばかりで鍛治仕事は幾分か非力なこの学園にとっては、良い労働力という訳だ。
しかも彼は、ある一定の条件を果たせば装甲機竜のものを優に超える火力の兵器を召喚出来るという。もしかしたら、メカニズムもわかるかも知れない。
そんな淡い期待を込めて彼にはこれから、この工房で働いてもらう事が決定した。これはアティスマータ新王国女王直属の命令である。
「でも……お母様がこんな事を許すなんて、思わなかったわ」
リーシャは呟いて、彼の後ろ姿を見る。
そう、彼女の母親はその女王陛下である。義理の、ではあるが。
それでも母親である事は変わりない。またそれを前提とすると。
彼女は新王国の王女殿下と言う事になるのだ。
王女殿下が治める工房で働く身分不明の独身男性。
これだけ見ればまた不思議な存在である、彼は。
そんな事をやっていると、ついに青年は最後のピースを嵌め終えた。
背部に取り付けられた動力源を正常起動させ、試運転を開始する。
……どうやら運転に問題はないようだ。
「……凄い。まさか本当に完成させるなんて……」
リーシャは人を乗せない状態で起動した装甲機竜を見て、驚愕の言葉を零した。となりのシャリスも同様だ。
彼女達は少し、高を括っていたらしい。まさか彼が、最後まで完成させるとは思っていなかったのだ。
彼の実力を知らないリーシャはちょこっと出来れば良いと、知っているシャリスは中盤までは行けると。
しかし結果は完走。競馬だったらとんでもないくらいの大穴である。
正常に駆動している装甲機竜を見て青年は満足気だ。自分の手で完成できた事に感動しているのか、はたまた動いている姿自体に歓喜しているのか。
そんな彼は機竜の電源を落とし、運転を停止した。
本来ならばこれで彼の仕事は終わりである。今日の依頼はあくまで、彼が使えるかどうかのテストだけだ。そのテストはたった今、終わった所である。
しかし、彼には少しばかり物足りないらしい。いや、終わりだとは思っていないのだろう。
彼は機竜の側を離れてトコトコと此方へと歩いて来る。
「……え? な、なによ……?」
彼は意味もなく、リーシャの美顔をじっと見つめた。無表情で。
彼女はそれに少し怯え気味で、彼はその姿を見て不思議がっている。見ていてなんだか、おかしくなって来る。
サビ塗れの無表情青年に見つめられて、ちょっとだけ赤くなる金髪少女。
シャリスは少しだけ哀れになって、助け舟を出す。
「リーシャ様、彼は少し物足りないのでしょう」
「物足りない……?」
「ええ、彼にはいつも雑事を任せているのですが、今回の仕事は思ったより少ないようで。
以前ならば今回の二倍の仕事量をこなしていたので、その時の名残りで次の仕事があると思っているのです」
「え、えぇ……?」
リーシャは青年の事を何かを見るような目で見つめる。その瞳の中にはなんだか、寂しそうな感情がチラッと合間見えた気がした。
少女は少しだけ彼についての考えを改める。
「(最初見た時は冷たそうな奴だと思っていたが……コイツは流石に、感情が少な過ぎる)」
人間とは本来、喜怒哀楽が浮き出てくる生物である。
苦しければ泣くし、楽しければ笑う。他者の傷付く所を見れば割って入り、身内が傷付けられば自分の事のように怒る。
だが、彼はどうだ。
——無表情。
全くの無表情、無関心のように見える。まるで何も考えていないみたいだ。
だが、案外彼はそんなに冷たい人間という訳でも無さそうだ。
仕事はそつなく丁寧にこなし、トライアドの一人であるシャリスにも慕われている。あのアビス襲撃事件の時にも、教師生徒何方も割って助けに入ったと聞いた。
それに、今見た彼の瞳。彼の目には悪意が全く無かった。無、と言うよりは寂しそうに見える。
「(もしかして彼は誰かに見捨てられたりした事があるのか、私のように……?)」
アティスマータ新王国は、この国の前身であるアーカディア旧帝国をクーデターにより打ち倒す事で成立した国である。
そしてそのクーデターの際に中心となった人物も中に、彼女の父親がいた。
それを狙ってリーシャは旧帝国軍に拉致されてしまう。これを材料にクーデターを失敗させる為だ。
それでもクーデターは決行された。父親にとっては苦痛の判断だった筈だ、国のためとは言え実の娘を選べないなど。
彼女もそれは分かっていた。小の虫と大の虫、何方を取るかなんて。
それでも彼女は人間だ。頭と感情は、相反していた。
「(……彼と、話がしてみたい。同じような境遇なのか、それを知る為にも)」
別に、知ってどうのと言う事はない。彼女の自己満足欲求が満たされるだけだ。
それでも、彼女は知りたいのだ。自分がこれから何をして、掴めない空気のような真なる【答え】が。
もしかしたら彼にそれを求めている節もあるのかも知れないが、リーシャはそれを自覚していない。
今はまだ、話がしたい、というだけの段階なのだから。
——トントン。
リーシャは青年に肩を叩かれた。
見るとその手には一枚の書類が握られていた。それはリーシャが書き下ろした設計図だ。
装甲機竜のメインウェポンである"
しかしその欠点にと消費が激しくなり、反動と重量が増大した為碌に使える物ではなかった。
勿論、それは実際に組んで実射した結果である。汎用機竜を使って試したが、生半可な腕では到底扱えそうにない。
これでは機竜全体に配備して生存率を上げようという目的は達せられない。帰ってお荷物になるだけだ。
「………」
青年は無言無表情で物静かに、工房の隅を指差した。
そこには先ほど言った強化ライフルの試作機がぽつんと鎮座していた。
結局量産の目処が立たずに放置されている試作機だ、どうやって処理しようかと悩んでいたのだが……。
「(……こいつ、アレを作り直す気なのか? 私が一度諦めた、アレを)」
言語も理解出来ていない半端者が、何を偉そうに。
確かにリーシャはそう思う。だが、それ以上に興味が優った。
確かに自分はアレの改良を諦めた。半端な火力強化では無く最低限必要な火力を底上げした程度であれなのだ、素人が扱えるレベルであの火力を出すのは、流石に無理がある。
だが、目の前の彼はそれを諦めていないようだ。その目には不屈の闘志が宿っていた。
「(……面白い。お前がその気ならば、私も手伝ってやろう。私はお前の辿り着く、終着点を見てみたい)」
いつの間にかその闘気はリーシャにまで伝搬していた。
青年は言語が分からない。故に設計図の意図を理解していないのかも知れない。
だがそれでも、彼はアレをどうにかしようと雑多になった机の上からこの設計図を持ってきたのだ。少なくとも、何かの意思はある。
ならばそれに答えるのが、貴族の務めだ。……と、リーシャは心の中で建て前を作った。
本当は彼女にも、アレを作り直そうという闘気が宿ったのだ。
「シャリス、済まないのだが暫くの間彼を使ってもいい?」
「ええ、勿論です。学園長にも同様の事を言われていたので、丁度良いですね」
「学園長が? ……ふ〜ん」
適材適所。
リーシャは何となくこの言葉が頭に浮かんだ。
噂に聞く理解力と呑み込みの速さと、先のアビス襲撃時に使われた強力な兵器の技術、そして何でも言う事を聞く現状を踏まえれば此処へ連れて来られるのは、当然の判断だろう。
彼の力があれば未知の技術を取り入れられる可能性があり、国の戦力が上がる事は間違いない。
本来ならば専用の施設にでも勤めれば良いのだろうが、色々と事情があるのだろう。言語の問題とか。
「ま、そんな事はいいか」
そう呟いてリーシャは彼らを工房から追い出し、学園長室を目指した。
やるとなったならば設備が必要だ。新しい材料、彼用の工具、その他諸々。
彼の為ならば、学園長は投資を止まない筈だ。ならば完成度は高まる筈。
彼が何を求めているのかは分からないが、準備をするに越した事はない。彼は自分が諦めた闘志を持ち、自分にもそれを再び蘇らせたのだから。
「ふふふ、面白い事になりそうだな」
炎天下の中一人にっこりと笑ったリーシャの笑顔は、灼熱の太陽よりも眩しく、愛らしかった。
原作キャラ崩壊が免れない件。
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