Muv-Luv LL -二つの錆びた白銀-   作:ほんだ

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謬錯の反覆 01/12/29

 

 左右に持つ87式突撃砲だけでなく、背部兵装担架にも下げた合計4門からの砲撃で、武は纏わりつくように集まってくる戦車級を的確に撃ち壊していく。

 脅威となる要撃級は接触直後から隊の皆が優先して撃破しており、いまも動いているのは感覚器たる「タコ頭」を潰された個体だけで、それはむしろ武たちにとっては最も頼るべき「生きた防壁」となっていた。

 

 減り続ける弾薬と、周辺に展開する他小隊人の位置、なによりも横に並ぶ冥夜の挙動を視界の片隅で意識しながら、務めて冷静にBETAを排除していく。

 

 真那を筆頭とした斯衛のブラッド小隊の四人は、九州防衛戦の時などとは違い、いまは少し冥夜の紫紺の機体からは距離を取っている。自身に近付いてくる戦車級への対処しながらではあるが、なによりも冥夜の死角から接近する敵を排除することに注力していた。

 その位置取りは、突撃前衛として冥夜と並ぶ武をも、自身らと同じ護衛だと認識してくれているからの距離感だと、武は理解している。

 

 だからこそ武は突撃前衛でありながら、制圧火力を求めて強襲掃討に等しい突撃砲4門という選択を取っていた。もちろんこれは65式近接戦闘短刀と87式突撃砲が改修され銃剣として使えるようになったから可能となったことでもある。

 

 

 

(時間がかかりすぎてるな。いや、根本的に戦力不足か)

 

 群がっていた戦車級、その最後の一体を武は左腕の87式突撃砲、その前部に取り付けた短刀で両断し、もう一度あたらめて周囲を確認する。

 

 大きく広い主要通路と思しき経路を可能な限り選択してきたとはいえ、所々では狭い箇所もある。いまも脚を止めてしまったのは、そのような箇所で「偽装横坑」に潜んでいた大隊規模のBETA群に隊の横腹を抉られるような形で遭遇戦に持ち込まれた結果だ。

 

 「門」突入からすでに1時間は過ぎたが、いまだ到達深度は1000mに届かない。

 過去の事例から見れば驚異的とも言える進行速度だが、目標たる「あ号標的」は最深部に位置し、想定深度は4000mだ。単純に見ても今のままではあと3時間はかかってしまう。

 

 途中、広めの「横坑」においては連隊規模にもなるBETA群とも遭遇したが、これらは撃破は目指さずに、敵戦車級に習うかのように壁面さえも足場として突破してきた。加えて「横坑」の大半は噴出跳躍で突き進み、「縦坑」に至っては落下に等しい機動で文字通りに跳び続けて来たが、それでも目指すべきところはいまだ遠い。

 

 今回の遭遇戦は小型種を含む大隊規模。ハイヴ地下茎においては小規模とも言える敵勢力だったため、隊に被害はほぼ無い。時間を考えれば対処せずに押し切るという選択肢もあったはずだが、その場合むしろ白の三人の負担が大きすぎると真那は判断したのか、この場での対処が命じられた。

 武もその命令には何ら異存はなかった。中隊の他小隊とはすでに分断されており、これ以上の戦力の損耗は許容しがたい。たとえ全機が武御雷とはいえ、いまこの場にある戦力は一個小隊半、六機でしかない。

 

 排除せずに無理に突破を試みたならば、最後尾に位置していた神代機が大きく損傷した可能性も高い。他の侵攻部隊どころか中隊内でさえ連絡が満足に取れず、補給の目途も立たない状況では、必要最低限の戦闘は許容すべきだった。

 

 

 

 冥夜共々に突撃前衛という役割上、文字通りに隊の最前衛ではあるが、戦闘を可能な限り回避してきたことで消耗は低い。むしろ部隊後方に位置し、追い縋ってくる敵BETA群の対処をしていたブラッド小隊の四機の方が、目立った損傷は無いとはいえ弾薬などは消費している。

 

「フェアリー02からブラッド01へ。弾薬及び推進剤ともにいまだ余裕があります。105mmの損耗は無し」

『フェアリー04からブラッド01へ。同じくこちらにも余裕があります。また機体状況にも問題ありません。105mmも損耗無し』

 

 武たちが持つ87式突撃砲に付く滑腔砲は120mmのGG-120ではなく、105mmの改修型GG-105にすべて切り替えられていた。現在採用されている120mmに対して105mmでは貫通能力に劣るが、弾頭や装薬の向上と改良により開発当初の70年代末とは異なり105mmであってもかつての80年代までの120mm程度の性能は確保できている。

 口径が小型化されることで同型マガジンでも装弾数に優れ10発。いまはすべてAPFSDS弾であり、突撃級か要塞級への対処に限定しての使用に止められている。くわえてのハイヴ侵攻であれば120mmに比しての有効射程の減少はさほど問題視されず、携帯可能弾数の増加の方が望ましい。さらに36mm同様にダブルマガジン仕様に置き換えられていた。

 

 結果的に各員がそれぞれに105mmを100発近く携行していることになり、いまだ遭遇はしていないが、要塞級と接触してもそれなりに余裕を持って対処できるはずだった。

 

 

 

『ふむ……ブラッド01から中隊各位へ。弾薬交換を兼ねてこの場で120秒の小休止とする。分隊内で交互に警戒に当たれ』

 

 ただ機体に損傷は無く、弾薬の消耗も抑えられているとはいえ、それを駆る衛士に負担が無いわけではない。

 真那が各員の状況を確認したのか、僅かに視線を彷徨わせ、そのままに指示を下した。確かに「偽装横坑」からの攻撃を排除したこの場であれば、続けて襲撃の可能性は低い。「門」突入からの緊張を解し、軽く水分補給等をするにはいいタイミングでもある。

 

 それに交戦中でない今ならば、余裕をもってマガジンの交換も行える。

 戦闘を可能な限り回避してきたために弾薬類の消耗は確かに抑えられてはいたが、ハイヴ最深部への侵攻ともなれば補給の目途など当然なく、無駄に使える余裕などない。僅かな弾薬を残したままにマガジンを交換し、捨てていくといった運用は贅沢に過ぎる。

 マガジンへの再度のローディングが可能な設備などもないので、100発未満しか残っていないマガジンであっても、破棄することなく予備ラックへと戻していく。

 

 もちろん近接戦闘中に誤って満載していないマガジンを交換しないように、今まで使っていたものの優先度はその残量に合わせて下げてはいく。歩兵であれば咄嗟の行動で間違える可能性もなくはないが、戦術機ならば残弾数の記録共々、ほぼ自動化して処理できる程度のことだ。

 

 

 

『フェアリー04から02。こちらは完了した』

「02了解、もうちょっとゆっくりしても良いんだぞ?」

『ふふ、そなたに感謝を。だが、今はこれで十分だ』

「分かった、少し任せる」

 

 割り当てられた60秒を使い切ることなく冥夜から連絡が入ったが、こちらから確認できる程度では補充も完了しているようだ。時間に然程の余裕もないために、二人ともに言葉少なく周辺警備を交代する。

 

 武も左右に持つ突撃砲のみならず、背部兵装担架に懸架している二門までマガジン交換を進める。合わせて自分自身のために、ドリンク剤を口にする。あとは狭いコクピット内ではあるが、軽く背を伸ばし硬くなりつつあった身体を意識して解していく。

 

「ふぅ……ッ」

 わざと声を出すように深呼吸もする。

 

 焦りはある。

 いまだ行程の三割弱ほどしか侵攻できておらず、先行きは不透明だ。戦力の補充が見込めないハイヴ攻略である。時間を掛ければかけるほどに事態は悪化するだけで、なによりも速度が必要だ。

 

 それでも、これから先を考えれば、今は休むべきだった。「大広間」まではまだ遠い。どこかで休まねば、肝心の時に緊張を保てない。

 

 

 

 

 

 

 しかしその余裕は与えられなかった。

 

『フェ……、前……、…大規……ッ』

 

 CPからの通信はノイズが交じり過ぎで、ほとんど聞き取れない。だがいまCP将校を務めているはずの霞にしては、普段の落ち着いた姿とは異なり、どこか切迫したような声が聞こえてきた。

 

 咥えていたドリンク剤を一気に飲み切り放り出す。全域警戒に割り振っていたセンサーを右前方に集中させる。武の機体単体では索敵に穴はできるが、それは小隊の他の誰かが埋めてくれるはずだ。中途半端に周辺を漫然と警戒するよりかは、自身に宛がわれた範囲を精査する方が隊の安全を確保できる。

 

『二時方向下方に大規模な振動を感知……何ですかこれッ!?』

 小隊の他の面々も休息を止め、索敵を開始しているのだろう。最初に見つけたのは、武の後ろに位置していた戎だ。

 

 ありえない反応の巨大さに、通常ならば真那に叱責されるであろうが、あいまいな報告を、驚愕と共に告げる。

 

『ブラッド01へ、大規模な振動が接近中ッ!!』

『……何なんですかこれッ!?』

『今までの観測データにありませんッ!?』

 

 戎が大雑把に示した方位へと、隊の皆もセンサーを向けたのだろう。普段、武家の者として毅然としている白の三人だが、未知の状況に冷静さを欠いた声を響き渡たらせる。

 

 

 

「クソ、マジかよッ!?」

 告げられた方位に武もセンサーを向けたが、僅かに間を開けて反応が返ってきた。その反応そしてその意味が判ってしまい、白の三人同様に意味のない罵声だけを口にしてしまった。

 

 それでも、いまこの部隊で状況を理解しているのは、おそらく武だけだ。即座にできうる限りの対応を取ろうと、めったに使うことの無い機材の起動に入る。

 

「ブラッド01ッ、S-11の使用許可をッ!、04、そっちのヤツもだッ!!」

 

 作戦開始から兵器使用自由が命じられていたとはいえ、戦術核にも匹敵するS-11の運用は別だ。さすがに現場指揮官並びに周辺の部隊員にも周知せねば、いらぬ被害を与えかねない。

 

『フェアリー02ッ!? 何が……いや、適当に事を為せッ!!』

「了解ッ!!」

 

 真那も説明は分析は欲しいのだろうが、まずは対処を優先し武への自由采配を与えた。

 

 

 

 ただ武にも説明する時間などなかった。S-11の起動準備が完了する間さえなく、通常兵器では満足に削る事さえ困難な強度を誇るハイヴの壁面が、大きく割れた。

 

『え?』

『……なに、あれ?』

 

 呆けたような声が漏れ聞こえるが、判らなくはない。

 異形揃いのBETA群においては、その形はむしろ理解しやすい方かもしれない。ただあまりに巨大なだけだ。細かな数値はまだ図り切れていないが、直径が200m弱の巨大な管、それがハイヴの壁面から突き出している。

 

 壁面に穴が開いたとしか言いようのない状態だが、その巨大な存在に真那でさえ反応が遅れる。

 

「全機下がれッ!! ああ、いや、04はオレに続けッ、まだそっちの方がマシだッ!!」

 

 小隊すべての状況を確認する余裕は武にもないが、冥夜はすぐ横にいる。この位置から無理に下がらせるよりかは、武とともに前に出るほうが対処しやすい。

 

 まだ現れたのは極一部。食い破るようにハイヴ壁面から出てきたのは、母艦級の先端部分だけだ。全長1.8kmと推定されるそのすべてをこの空間に押し出すことなどは不可能だろうが、なによりの脅威はその巨体ではなく、中に詰め込まれ運ばれているBETA群だ。

 

 

 

「母艦級確認ッ、アレが開ききる直前にハラん中にS-11を投げ込むッ!!」

『ッ!? ブラッド01より、フェアリー02、04へ。繰り返す。S-11の使用を許可する。ブラッド各機はその援護に当たれ』

『『『ッ! ……了解ッ!!』』』

 

 半ば呆けていた白の三人も真那からの指示で、一応の落ち着きを取り戻したのか回避を兼ねつつ、援護のための陣形を取る。

 

(クソッ、位置がマズいッ!?)

 

 S-11使用は自分から言い出したことだが、できれば母艦級など無視しての突破を狙いたかった。

 

 これがもう少しばかり後方からの出現であれば、たとえ母艦級から吐き出される勢力も無視して、先に進めた。進んだ先で大規模なBETA集団と遭遇し、その対処に手間取れば挟撃される可能性もあるが、そうであっても先ほどまでと同様に大型種のみを最低限排除していくことで突破も可能だろう。

 

 しかしいまは隊の進行方向を半ば以上に塞ぐような形で、母艦級がその巨体の先端を押し込んできているのだ。大型種を吐き出すための空間的な余裕があるために、一機ずつならばその眼前を通り抜けられるかもしれないが、母艦級内部の状況が視認できない現状では、リスクが大きすぎる。

 真那が迎撃の指示を出したのも仕方が無いと、武は思う。

 

 

 

 母艦級の先端、採掘用と思しき牙のような突起が並んだ外皮が巨大な花弁のように開いていく。見た目ではゆっくりと、だがその巨大さからすればかなりの速度だ。内部の注入口はまだ露になっていないが、すでに戦車級などは零れるかのように外に出てきていた

 

『敵BETA群、規模不明。振動センサーに異常はありませんが、正確な測定反応が返ってきません。なお現在のところ大型種は視認できず』

 

 おそらく誰の機体でも同じ結果だろうが、最初に発見したということもあるのか、戎が判明している限りの事実を列挙していく。当然その報告の間も、彼女たちは突撃砲の砲撃を止めず、戦車級の排除に当たっている。

 

 

 

「フェアリー02、S-11の投射に入ります」

『同じく04。S-11を使用します』

 

 後方からの支援を受け、武は務めて冷静さを装いつつS-11投射の準備を進める。不思議と横の冥夜も落ち着いたものだ。

 右の突撃砲をスリングしていた肩部のウインチで巻き上げ、腋で無理やりに固定しながら、武は股間ブロックからS-11を取り出す。それを見てか、わずかに遅れて冥夜も同じく左手で抱えた。

 

 S-11は反応炉破壊を名目として戦術機に搭載されてはいるが、その本質は"SELF-DESTRUCTION-SYSTEM"と呼称されるように自決兵器だ。

 自決兵器としては、跳躍ユニットや脚部を損壊した状態でBETA群に取り囲まれ、離脱が不可能と判断された場合に用いられることがある。その際に、周囲の味方を極力巻き込まぬように、爆発には指向性を持たしている。

 

 火力としては戦術核に匹敵し、1200㎜超水平線砲などの特殊な兵装を除けば、戦術機で運用できる兵装の中では最大の火力を誇るが、通常では股間前部に一発だけしか装備していない。それなりに高価な兵器であり、あくまで爆弾でしかないために使いどころは極めて限定される。

 また合衆国陸軍などではドクトリンの違いから搭載されておらず、ソビエト軍に至っては衛士の反乱などを警戒する関係で、ロシア人衛士以外には使用や搭載が許可されていないともいう。

 

 武たちの部隊は反応炉破壊が主目的であるために、本来ならば温存すべきではあるが、母艦級を破壊しきれる火力となると、これ以外の選択肢がなかった。

 

 

 

「フェアリー02より意見具申。まずは自分が投擲します。それで中身が出てくるのが止まるようならば、この場を離れることを強く進言いたします」

 

 まだ外皮は開ききっていないが、それでも溢れ出てくる戦車級の数は次第に増えている。それらを右腕以外の3門の突撃砲で掃討しながらも、武は真那へと助言する。今のところは他小隊員の砲撃もあり、戦車級の接近は防げてはいるがそれも開口部が完全に開くまでの僅かな余裕でしかないはずだ。

 

『ふむ? 無理にフェアリーの2機で同時起爆は狙わねということか?』

「設置しての使用でないために、タイマーと方向の設定が困難でしょう。あとは使わずに済めば、と」

 

 S-11は自決用ではあるが、反応炉破壊などでは、複数個を設置しての時限爆破で使用される。また一応は歩兵がグレネードを投げるように投擲も出来なくはない。

 そして母艦級との遭遇時に使用することをターニャと武とが想定していたために、そのための投擲モーションと起爆時間や爆破方向なども含めコンボとして組み込んではいる。

 

『なるほど、な。確かに貴様の言うとおりだ。この場で戦い続けることは我らが任ではない』

『こちら04、了解した。たしかに温存できるならばせねばならんな』

 

 真那が納得するのに続いて、冥夜も受け入れる。白の三人からの反応はないが、小さなフェイス・ウィンドウから視れる限りは、武の言葉に異論はないようだ。ハイヴ壁面を突き破っての出現した瞬間の衝撃はあれど、今は皆冷静に対処している。局所的な防衛戦とだけ考えるならば、むしろ優位に展開しているようにも見えてしまう。

 

 

 

(あ~なんかヘンだと思ったら、全体像を知らねぇからか? ここから見えるだけじゃ、そもそもの大きさなんて想像できねぇからなぁ……いや「偽装横坑」の一形態とか、門級の一種だと勘違いしてるのかもな。まあ慌てふためかれても困るだけだから良いか)

 

 他の面々の落ち着きが武には理解しきれていなかったが、少しばかり考えてみれば当然のことだ。事前の情報なしに母艦級の全貌など思いつけるはずもなく、その脅威を眼前にしながらも把握しきれていないだけだ。

 確かに開口部だけでも巨大ではあるが、見えている部分としては直系200m弱の肉の管、長さも突出した先端だけなので100m程度しか「横抗」には突き出されていない。まさかこれが全長1.8kmにも渡る巨大な個体だとは想像もできないだろう。

 

 母艦級の本当の姿と、その中に収容されているであろうBETAの物量を知っている武だけが焦っている。が、いまはむしろ知らないが故の、彼女らの知識と経験からくる落ち着いた対応に助けられているところがある。このまま全体規模が判らぬほどの大規模攻勢が続くなどと、そう知ってしまえば例え斯衛といえど恐慌に陥ってもおかしくはない。

 

(ならオレがしなきゃならねぇのは、この場で一当てだけして、離脱の機会を作ること、だな)

 

 あくまで目指すは「あ号標的」の破壊だ。そこに至るまでのBETA群の排除は手段であって目的ではない。もちろんこの母艦級は脅威ではあるが、これの排除は必須とは言えない。

 むしろこの場で下手に戦闘を続けることで、さらなるBETA群の接近を許すほうが危険だ。

 

 

 

『ブラッド01より小隊各機へ。フェアリー02のS-11投射は、02のカウントに合わせる。周辺の掃討に集中せよ』

「フェアリー02了解。……カウント10よりスタート、9……8……」

 

 採掘用外皮が大きく下がり、外径よりも二回りは細い、その内に隠されていた注入用の「口」が明らかになってくる。要塞級でさえ入り込めるその口内の高さは軽く100mを超え、それ自体がハイヴ地下茎のようにも見える。

 

「7……6……」

 タイマーは各自網膜投影で表示されているはずだが、それでも武は自分を落ち着かせる意味もあって口頭でカウントしていく。

 

 跳躍ユニットを細かく制御し、天井への接触を避けつつ、戦車級の跳躍を躱していく。壁面までも使って跳びかかってくる個体もあるが、それらは後方からの支援で排除されている。

 

 いまだ大型種、とくに機敏なうえに前腕の攻撃範囲の広い要撃級は現れていない。しかし開口部が完全に開けば、内部に当然収納されているであろう各種の大型種が吐き出される。

 地下茎水平面を突進してくるだけの突撃級は、地上で戦うよりかは危険度が下がるが、やはりその巨体は脅威である。そしてなによりも数が多く俊敏な要撃級が雪崩出てくると、一個半小隊でしかない武たちでは対応不可能となる。

 

 

 

「5……4……」

 

 瞬間的な最大戦速での接近では、空中での投射ともなるために姿勢を制御しきれない。逸る気持ちは抑えて、スロットルを押し込み過ぎぬように意識する。

 

 焦りも緊張もある。

 武が失敗すれば、隊の皆は当然、次の投射を担う冥夜が大きく危険に晒される。それはなによりも避けたい。

 

 それにS-11投射の最良のタイミングは、開ききる直後だと推測されている。それ以降の攻撃には、周辺に展開してしまう大型種の妨害などもあり、接近することさえ困難を極める。

 

(落ち着けよ、白銀武。大丈夫だ。威力的には、おそらくは失敗しない限りは一発で済む)

 

 S-11の爆破指向方向が正確であれば、母艦級の内部を砲身のように見立てて、その体内に収納されているBETA群を一気に排除できると予測はされている。

 そしてそれだけの被害を与えてしまえば、この場からの離脱は容易だ。

 

 

 

(3……2……)

 距離と速度を計りつつ、最期は集中するために脳内だけで静かにカウントを進める。

 

 母艦級の体内へとS-11を投射しようとすれば、少なくとも高度にして150m程、距離にすればほぼ密着するあたりまでは接近したい。いまだ大型種が視認されていないからこそできる無茶なまでの接近だ。

 

(あと、1……)

 それでも開口部正面からのアプローチは、母艦級のさらなる移動も予想されるため危険すぎると判断し、向かって右側、左側面から可能な限りの速度で近づいた。

 

「S-11投……ッ!?」

 

 ゼロカウントとともに投射モーションを完了した瞬間、要塞級の尾節から延ばされた衝角が、武の視界を埋める。母艦級の内部、そこに並ぶ二体の要塞級が、まるで武の出現を予測していたかのような正確さで、尾部触手を限界まで伸ばしてきたのだ。

 直後、音を消し去るような衝撃が武の身体を叩く。

 

 母艦級の開口部直前、むしろ中にわずかに入り込んだようなところで、武の駆る黒の武御雷は胸部コクピットブロックを完全に貫かれ、空中に刺し留められた。

 

 

 

 

 

 

「……は? え、いや……なに、今の?」

『フェアリー02、胸部コクピットブロック損壊。致命的損傷と見なし大破と認定』

 

 ブラックアウトしたコクピット内で、いまだ状況が理解できない武の耳元に、CP将校としての霞の声だけが淡々と静かに流れてきた。

 

 

 

 

 

 




夏コミ新刊入稿の勢いで、と思いましたが割とギリギリでした。

なにやら久しぶりの戦闘な上に、「タケルちゃん死すッ!?」みたいな感じですが、とりあえずは演習です。

で、ハイヴ地下茎での侵攻速度ってどれくらいかいまいちわかりませんが、TE1巻で門通過後4316秒(約72分)で地下300mまでとなっていたので、それよりかは早いだろうとこれくらいに。まあその速度のままだと喀什とか素直に進んだとしても「大広間」まで12時間以上とかとなってしまい、どう考えても攻略計画が成り立たないなぁ、と。


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