Muv-Luv LL -二つの錆びた白銀-   作:ほんだ

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摂心の少憩

 この場にいる白銀武は、カガミスミカの無自覚な選択によって、不必要とされた要素の集合体である。それゆえに今の武は、カガミスミカの束縛を受けておらず、自由意思は尊重されていると推測される。

 言葉を飾らなければ、「カガミスミカが処分に困った記憶の欠片を集めて一カ所に捨てた」ということらしい。

 

 ターニャと夕呼から突きつけられたそんな推測に、武は呆然としていたが、鳴り響く内線の音で僅かながら意識が戻る。

 

「と。申し訳ありません。……何? 今ちょっと忙しいんだけど……判ったわ。ええ、後でそっちにやるわ」

 ターニャに一言詫びを入れ、夕呼が内線に出る。二、三のやり取りの後、大きく溜息を付いて回線を切った。

 

「なにかあったのかね、香月博士?」

 割とどうでも良さそうな夕呼のわざとらしい溜息からして、聞いても良さそうな問題だと思ったのか、ターニャがそう声をかける。

 

「香月医官からの連絡でした。そこの白銀に、診察くらいは受けさせろ、と」

「そういえば意識不鮮明のままに二年ほど過ごしていた、ということだったな。医師としてはなるほど放置しておけんということか。行ってきたまえ白銀」

 さすがに今すぐは医者の判断を無視して使い潰しはせんよ、とターニャからあまり安心できない言葉を告げられる。

 

(逆に言えば医者の判断があっても、必要とあれば使い潰すんだろうな、この人)

 先ほどまでの問答、武の心を的確に抉り潰すような話からして、なんとなく性格が推測できる。

 そう思うと、ターニャと夕呼とが不思議なまでに会話が繋がっているのは、二人がどこか似た者同士なのだとようやく気が付いた。どちらも目的のためには最適な手段を模索し続けているように、武には見えた。

 

 

 

「そういえば、貴様は桜花作戦のレポートはもう仕上げたのか?」

「は。自分の知る範囲に限定されますが、香月博士にのみ提出しております」

 桜花作戦に関しては徹夜で仕上げた。霞にも朝まで付きあわせることになってしまったが、お蔭で武の思っていた以上に詳細な地形データなども付け加えられている。

 

 ただ、出来上がっていないレポートもまだまだ多い。世界が変わり日本の状況も食い違っているため、どこまで役立つかどうかも定かではない未来知識だが、気になる要素だけでも書き書き出しておこうと準備だけはしている。

 BETA関連の情報だけではない。陸軍青年将校を主体としたクーデターがこの世界でも起きるかどうかはさすがに判らないが、珠瀬事務次官の視察に合わせた再突入型駆逐艦による基地襲撃などはありうる。

 

「では私の方からも他世界線での経験なども含め、出せる情報は纏めておこう。明日の朝には見て貰えるかね、香月博士」

 白銀のレポートも見ておきたいものだな、とターニャが付け加えるのは当然だ。

 

「そうですわね。次官補からいただく情報も加えた上で、第四としての対応を考えたいと思います」

 ターニャは他世界線の情報も含めると明言した。その情報は、直接的には世間に公表しようが無いが、第四計画を進める上ではかなり重要だと思える。なんといっても00ユニットが完成した世界線もあるというのだ。

 00ユニットは第四計画の根幹ともいえる。夕呼にしてみれば、それらの情報を精査して対応を考えるのは当然だ。

 

「白銀、アンタにもデグレチャフ次官補からのレポートは回すわ。明日にでも横の部屋で閲覧しなさい」

「は、了解しました。では、失礼いたします」

 

 今後の対応を考えるために明日も直接集まることとなった。もちろん武の意思は確認されたものの、参加は確定である。

 いつの間にか沁み付いている軍人としての行動に身を任せ、体裁だけは整え敬礼し、部屋から下がる。

 

 

 

 

 

 

(不必要要素の集合体だから、逆に自由意思がある、かぁ……納得できてしまいそうな自分が怖いな。とはいっても何をなすべきか、だよなぁ)

 半ば逃げ出すように執務室から下がり、ぼんやりとしたままに診察を受けた。ぐるぐると頭の中で考える事が多すぎて、診察の内容はよく覚えていないが、とりあえずは身体的には問題ないらしい。が、療養明けで徹夜は避けろ、とは告げられた。

 

(寝るか。夢見は最悪っぽいけどなぁ……)

 レポートの続きを書くならば夕呼の執務室横の部屋に行かねばならないが、さすがに今の精神状態ではそれも出来そうにもない。それに昼食のあと少しばかりの仮眠は取ったものの、けっして十分とは言えない。

 

 

 

「白銀? そなた、大丈夫なのか?」

「ん、ああ、御剣、か。あ~自主練も終わった時間か?」

 訓練兵として宛がわれた自室へと足を向けようとすると、後ろから声が掛けられた。

 自主練から戻ってきたところのようで、冥夜の顔は少しばかり上気している。

 

「聞いて良いのかどうか判らんのだが……診断というのは、それほどに憔悴するものなのか?」

「珍しいな、御剣がそういう風に人の心配をするというのも」

 

 正しくは、心配していてもそれを表に出すことを許されていない、だ。その立場から誰か一人に気をかけるようなことは禁じられているのが、今になってみれば武にもよく判る。

 そして心配気に問われるものの、誤魔化すかのような言葉を口から漏らしてしまっていた。身体は問題ないはずだが、精神的には万全とは言い難い。

 

 

 

「茶化すでない。先程のそなたの言葉を踏まえてのことだ。ただそれにしても……酷い顔色だぞ?」

「ん、検査では問題なかったんだがな。その前にちょっと聞かされた話が、ああ……ちょっとショック、じゃねぇな。ショックを受けていない自分に呆れてるというのか、判ってたのに納得し切れてねぇというのか……」

 

 結局のところ何に悩んでいるのかと言えば、「鑑純夏」に関してあれほどターニャから否定的な言葉を告げられても、武自身がそれを撥ね付ける意欲が湧いてこないという事実に、少しばかり違和感を感じているだけだ。「白銀武」であれば「鑑純夏」を口では何と言っていたとしても擁護するのではないかと考え付くことはできても、そこに武の感情が付いて来ない。

 結局のところ記憶の中にある「白銀武」と、今の武自身が別であるという部分が割り切れていないだけだ。

 

 

 

「ふむ。なにやら重症のようだな。少し茶でも付き合え、白銀」

 廊下で思い悩みはじめる武を、冥夜は半ば無理矢理にPXにまで誘う。

 このまま眠りにつくよりはと武も誘いに乗り、特に何を話すでもなくPXに着く。合成玉露だけを手にいつも207Bの皆が集まっている席に座る。

 

「そういえば鑑とそなたとは以前からの友人だったのだな?」

 

「っ!?」

「……聞いては、ならんことだったか?」

 武の反応が、予想以上だったようで冥夜も大きく目を見開く。

 おそらくは冥夜としては当たり障りのない話題のつもりだったのだろうが、今の武にしてみれば、一番話しにくいことだ。戦場さながらの緊張感を張りつめ、ピクリと肩を震わせてしまった。

 

「いや……悪い。鑑が何か言ってたか?」

「あ、いやなに。鑑が、な。以前にも、幼い頃のそなたとの話をしてくれてな。散々頭をはたかれたと、嬉しそうに告げておったことを思い出したのだ。が、今日の態度を見ると、そなたが鑑に対しては少しばかり距離を取っているように見えて、な」

「あ~そっちか。距離を取るというよりは、だな」

 恋愛感情のことを言われたかと勘繰ってしまったが、武が純夏との距離を測りかねているのは事実だった。そして、もしかすればこの世界の純夏にしても今の武への距離を掴み切れていないのではないか、とふと頭をよぎる。

 

 

 

「聞いたかもしれんが……世間的には、あれだ。鑑とは幼馴染とかそういう類になる。家が隣でな。親同士もそれなりに付き合いがあったせいか、生まれてすぐから一緒にいた……はずだ」

「はず? というのはどういうことだ?」

「俺が療養明けだってのは言ったよな? まあ寝すぎが原因という訳じゃねーんだろうが、正直なところ記憶が色々とアヤシイんだ。それに衛士訓練が始まってからは、それより前の記憶なんて消し飛ぶくらいに無茶してたからなぁ……ガキの頃の記憶がそもそも消し飛んでてもおかしくねぇ」

 

 誤魔化してみたものの、武にはこの世界の純夏との記憶というのは存在しない。

 そもそもが今ここにいる武にある記憶の根底は、先のターニャの言葉を借りればEX世界線のものだ。AL世界線で00ユニットとなった「鑑純夏」にしても、「シロガネタケル」からの記憶流入を元にした「調律」だったために、BETAのいる世界の鑑純夏とは異なる。

 

「そうであったか……許せ、とは申せぬな」

 冥夜の立場としてはいかな間違いを犯したとしても「謝る」ということは難しい。

 

「御剣が気にすることじゃねぇよ、記憶が曖昧だといって特に困ってるわけじゃ……いや悪い、俺の記憶が曖昧なせいで座学の再講習に付きあわせていたな」

「ふふ、そちらに関しては、むしろ感謝を。我らとて忘れていたこともあれば、そなたの質問からまた理解が広がることもある」

 

 

 

「ただなぁ、以前の訓練小隊の連中のこととかをすっぱり知らないってのは、さすがに気まずくてな」

「ああ……そなたは同期の者たちのことも忘れているのか」

 ふと口にしたことだが、これは後で調べて貰わないと拙い。以前はまりもから教練を受けていなかったということは、武の同期訓練兵はA-01に居ないと考えられる。が、どこで出会うか判らないが、さすがに相手は覚えているはずだ。

 

「気にするな、そのうちひょっこり思い出すんじゃねーの? それこそ顔見たら思い出しそうだ」

 A-01のメンバーからしても、因果の絡みからしても、武の以前の同期訓練兵はおそらくEX世界線での同級生の誰かだろう。さすがに顔を見たら名前くらいは思い出すはずだ。

 

 

 

「しかし鑑か……今日からそっちは六人での大部屋暮らしだろ? アイツ、ヘンに騒いだりしてないか?」

 昨日まで、冥夜たちは訓練兵でありながら個室を与えられていたが、それは彼女たちの立場からくる特別扱いだ。

 だが、朝に告げられたように今日からは普通の訓練兵同様に大部屋に移動が決まった。総戦技演習の合格に向けての意識改革、その一歩目としての合同生活が今晩から始まっているのだ。

 

「ん? 鑑と鎧衣は分隊の中でも、中核とは言いにくいが潤滑油、といったところでな。鎧衣が退院したとはいえ、鑑が気落ちしていると隊内の雰囲気が硬くなる。それが判っているのであろう、あの者は」

 武と同じく合成玉露を手にしながら、武以外の分隊員の様子を話しはじめる。

 が、冥夜は武の問いには直接は答えなかった。それくらいは察しろ、ということらしい。

 

「やっぱり……その、だ。鑑はヘコんでる、のか?」

「そなたの態度が昔と違うような気がする、とだけは言っておったな。ただ先程の話を聞くに、今のそなたにとっては言葉は悪いが仕方がない部分であろう。ただ時期を見てそなたの口から伝えておくべきだとは思うぞ」

「記憶障害?っぽいことについては、俺がちゃんというべきなんだろうな、とはさすがに判ってる。けどなぁ……」

 

「ふむ? 事故原因なども含め、話せぬことが多い……か」

「悪い御剣。そんな感じで鑑にはそれとなく伝えておいてくれ」

 冥夜は武の言葉を聞いて目を瞑って考え込んでいる。騙す様な形になってしまったが、何らかの軍機に触れていると考えてくれると武としてはありがたい。

 とはいうものの話せない理由が機密に属することは確かだ。純夏に対する武の感情的な問題が、ほぼすべて他世界線の話や00ユニットなど第四の根幹に関わってくるために、概略さえ口にできない。

 

 

 

「しかしまずいなぁ……せっかく神宮寺教官が無理矢理お前らを大部屋に放り込んだってのに、俺の影響で纏まりが悪くなるってのは……」

「やはり……我らは纏まっていない、か?」

「表面上は出来てる。ただ、それが何かの拍子に崩れそうではある。……って悪い、御剣。上から目線だな、これは」

「いや、教官も言っておられたであろう? そなたから教えを請え、と」

 訓練兵という同じ立場の者からでなければ聞けない忠告もあろう、と冥夜がどこか悔やむように言う。

 

「ああそうか。そもそも207Aの連中から話聞いとけよって話だよな」

「そういうことだ。貴様の存在はそういう意味では、我らにとっては得難い、やり直しの機会なのだ」

 207訓練小隊のもう一つの分隊、207Aは問題なく演習をクリアし、すでに任官している。207Bと比較できるような複雑な背景はないにしても、複数人が軍隊という形の中に纏められていく上で、それなりの問題があり対処してきたうえでの、任官である。自分らの不合格に肩を落としているよりも、その時に少しでも解決策を尋ねておくべきだったのだ。

 そのできなかった相談の機会が、「任官直前に療養に入った訓練兵」という特殊な立ち位置の白銀武の存在で、再び与えられたのだ。

 

 

 

「ま、俺から言えるのは、表面を取り繕うために問題を先送りするんじゃなくて、問題を指摘しあって解決策を考えろ、くらいかなぁ。それで解決できないほどに深い溝があるなら、そこだけは踏み込むな、と」

「距離感を改めて探り合え、ということか?」

「その程度すら207Bはやってこなかったんじゃないか?」

「……返す言葉もない、な」

 めずらしく冥夜が苦笑する。自身の立場から、他者に踏み込むこともなければ踏み込ませることもしてこなかったのが、明らかだ。それは孤高ではなく、単なる拒絶だった。

 

「というか御剣? 自主練を言い訳に、集団生活初日から一人はぐれてどーするんだよ?」

 武にしても自分のことだけにしか頭が回っていなかったが、こうして落ち着いて茶を飲み始めると、冥夜の行動には問題がある。

 

「む……それは、だな。……いや、何を言っても言い訳にしかならぬな、許すがよい」

「許すかどうかを決めるのは俺じゃねぇ、ってのは判ってるよな?」

「無論だ。後で皆にはちゃんと話す。私がいると皆の話が進まぬかと、勝手に判断して身を引いてしまったが、なるほどこういう心積もり自体が問題、か」

 それが判ってるなら明日朝と言わず寝る前には話しておけよと、それこそ上から目線で武は諭す。

 

 

 

「ま、あとは個々人の特徴を最大限に利用しろ、とか相手の長所と短所とは把握しておけとか、だな。というかこういうのは鎧衣が上手い……上手そうだろ? 人の話聞かないけどすぐに踏み込んできてた、さ。部屋は一緒なんだろ?」

 気が緩み過ぎたようで、武は「自分の知る尊人」を元に話をしてしまう。不信感を持たれぬようにと誤魔化したが、こちらの世界の尊人であってもあまり違いはなさそうで、集団生活をしていればふと変な位置にまで入り込んでくるはずだ。

 

「ふふ、いまはその鎧衣が一番気まずそうではある、な。あやつでもさすがに周囲全員が女子というのは、いささか負担に感じるらしい」

「まあ鎧衣はあの見た目だ。気にするな」

 見た目は関係なかろう、と冥夜も言うが眼は笑っている。慌てる尊人というのはなかなかに新鮮なのだ。

 

「そういう状態での集団生活の開始だ。鑑の存在には私のみならず、我ら皆助けられておるぞ?」

「何となく、は判るな。アイツここでも馬鹿みたいにお気楽なのか?」

 そんな疑問を口にはしたものの、武の記憶にはこの世界の鑑純夏は一切存在しない。だが他の者たちと同じく、どの世界においても基本的な芯の部分はそれほど変わりがないだろうと、当たり障りのなさそうなところから聞いてみる。

 

「馬鹿、とは言葉が悪すぎるぞ。鑑が居なければ、先の総合演習の失敗から立ち直れなかった者も居たやもしれぬ」

「そういう意味では、役に立っている……のか?」

「私に対しても皆よりも積極的に接してきてくれてな。正直……嬉しくも思う。また助かってもいる」

 友とは言えぬのが心苦しいが、と冥夜は僅かに目を伏せた。

 

 

 

「あ~他の連中にすれば御剣に話しかけるのは障壁高い……って、いや、ちょっと待て」

「障壁とはたいそうな言い分だが、どうした白銀?」

 以前の武の記憶にある207Bの不文律は、相互不干渉だ。それぞれに隠したいことがあるから踏み込むな、という子供じみた確執である。その筆頭が千鶴と慧に冥夜だが、この世界においては彩峰中将は何ら失策を犯しておらず、慧が恥じるようなことはないはずだ。千鶴にしても父親の政治方針への反発はあれ、隠すほどのことではない。

 そのような状態で冥夜への壁があるのは、その風貌から察せられる冥夜の血筋への推測だ。

 

「まさかと思うが、いやさすがにそこまで鑑が馬鹿だとは思いたくないんだが……」

「なんだ? はっきりせぬ奴だな」

 しどろもどろに言葉を誤魔化そうとする武だが、諦めて疑問を口にする。

 

「鑑のヤツ、お前の家柄に気が付いてない、とかじゃない……よな、まさか?」

「……ぇ、……いや、さすがにそれはないのではないか?」

 武の予想だにもしなかった言葉に、今までの毅然とした冥夜の態度が崩れる。無いと言ってくれと懇願されているのがよく判る、縋るような目つきで冥夜は武の顔を窺ってくる。

 

 

 

「おい御剣、今の間がすべてを証明してしまっているぞ」

「いやありえんだろう? そなたの幼馴染ということであれば、この横浜に生まれながら住んでいたのであろう? 私の顔を見て何も思い浮かばぬ、というのは帝国臣民として、それはどうなのだ?」

 

 日本帝国国務全権代行、政威大将軍たる煌武院悠陽。

 御剣冥夜は、その将軍の双子の妹だ。

 煌武院家では「双子は世を分ける忌児」とされ、妹の冥夜は遠縁の御剣家へ養子と出された。表向きには秘されており事実を知る者も極僅かではある。が、双子とは判らずとも瓜二つともいえるその顔立ちを見れば、誰しもが血の繋がりを想像する。

 

 そして全権代行などという言葉とは裏腹に今の政威大将軍にさしたる実権が無いとはいえ、露出が少ないということではない。むしろ表向きの使い勝手の良い「看板」として、娯楽の少ないこの世界ではテレビや新聞などでよく取り上げられているのだ。

 

 

 

「アイツの場合、それがありえないと断言できないのが、怖い」

 EX世界線の出来事だったとはいえ、シメジをマツタケだと思い込んでいるような逸材だ。この世界であっても政威大将軍の顔を見たことが無いという可能性さえある。いや見ているうえで、悠陽と冥夜との関係性が思い浮かべられないとも考えられる。

 

「よく生きてたな~鑑のヤツ。月詠中尉、鯉口を切ってないよな?」

「ふむ。ずいぶんと余裕だがな、白銀。そなたの態度もなかなかにあの者の心を乱している、とは思うぞ」

「まあ俺の場合はアレだ。市井のガキとして目上の方に対する常識の無さが半分、ちょっとした隠し事の為の演技半分、といったところだ。許すがよいぞ?」

 真那のことをわざと口にしながらも、その上で冥夜の口調をまねて、誤魔化す。

 

「ふふふ、隠しごと……か。答えられぬなら、良い。いや違うな、そなたにまで気苦労をかけること、許すがよい」

「隠してるのは、お前の立場とか軍機とかからくることじゃねーよ。俺自身のけじめというか、その、あれだ。詫びちゃあダメなのに、詫びたくなるから、今は気が付いてないことにしておいてくれ」

 

 いつか話せる時が来たら、ちゃんと笑って話す、と約束する。

 

「言質は取ったぞ、白銀? いや時間を取らせてしまったな、病み上がりのそなたに無理をさせた。すぐに休むがよい」

「こちらこそ助かった。鑑の馬鹿さ加減に気が付けて、少しは気楽に眠れそうだ」

「馬鹿とは決めつけてやるな、もしや知ったうえでなおあの態度やもしれぬぞ? それに知ったとしても、あの者なら態度を変えるまい」

 そなたと同じく、と続けてくれるのは冥夜の優しさかあるいは願望か。

 

 この場にいる白銀武はけっして二周目の「シロガネタケル」ではない。ならば純夏も「カガミスミカ」ではないはずだ。

 ただEX世界線では間違いなく冥夜と純夏とは「友達」と言える関係だった。それくらいの関係に持ち込むくらいは、こちらの純夏も成し遂げてくれる程度に馬鹿であって欲しい、と武は思う。

 

 

 

 

 

 

 




この時点で純夏がタケルちゃんに遭遇できないのは幸運補正が下がっているから……とかではなく、大部屋生活に慣れない皆のためにアタフタしているから、とかです。むしろ冥夜さん自主練にかこつけてサボってます。

あと多分出てこないでしょうが、タケルちゃんの元の同期は佐藤&田中、竹尾とかに少女Aとかです、きっと。

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