ターニャからの降下開始の号令を受けても、武たち戦術機衛士が今すぐ何かをしなければならないというわけではない。
「さて、と。ようやくオレらの出番って言いたいところですが、まあもう少し先の話ですよね?」
『はははっ、02の言うとおり、今しばらくは装甲連絡艇の皆様方にお任せだな』
『まあその後もシミュレーション通り、再突入殻の制動スイッチを押すくらいしかないけどな』
中隊内の交信許可は下りたままだ。
わざとらしいと自分でも判っているが、武は意図して気楽な口調を作って見せる。それに合わせて慎二や孝之も軽く受けてくれる。
『まあ順番通りならこちらが最後になるから、02には詳細な現地観光案内を期待しておくとするか』
「02了解。サクッと降りて、先輩方のためにめぼしい料理店を見繕っておきますよ」
『期待してるぞ? ただしタコの湯通しとかは勘弁してくれ』
すでに降下に向けてのタイムカウントは始まっている。だがいまだ通信が可能な高度だ。視界の片隅で時間を確認しながらも、緊張を隠せなくなってきた元207訓練部隊の少尉連中のためにも、余裕のある態度は崩せない。
慎二もそれが判っているから、どうでもいい話に付き合ってくれている。
『01より中隊各位へ。そろそろおしゃべりの時間は終わりだ。続きは降りてからにしろ』
『『『了解ッ』』』
そんな時間もすぐさま尽きる。
まりもからの通達を受けて、回線を閉じる。ここからは地表に着くまでは各分隊ごとでしか通話が難しい。ちゃんとした言葉を残しておくべきだったかと武は一瞬後悔するが、まだ降下前でしかない。下手なことを言って士気を下げる要因とならなかっただけでも良しとする。
通信を閉じてしまえば、最低限にまで照明を下げられている薄暗いコクピットの中、網膜に投影される概略図だけが外を知る唯一の情報源となる。ただ少なくともそれを見ている限りは、第三次降下は順調に推移しているようには思えた。
誘引目的の通常弾頭による軌道爆撃、その後のG弾による掃討を経て、本隊の降下が始まる。縦列に並んだような形で喀什へと向けて降り立つが、先頭はラザフォード場を展開し対光線級の防御を担うXG-70dだ。
G弾による直接的な排除だけでなく、その詳細不明な効果の一環で効果範囲周辺のBETAが少しばかり活動を停止している。動いている光線族種にしても、迎撃目標としてレーザー照射されるのは、XG-70dにほぼ限られている。
そのXG-70dが形成するラザフォード場の、言ってみれば傘の中に入っている武たちを運ぶHSSTには、いまのところ照準照射さえ向けられていないようだった。武には戦術機に搭乗しての軌道降下の経験など明確に記憶する限りは存在しないが、これほどまでに安全に降りられるというのは聞いたこともなかった。
『少し良いかね、白銀少尉?』
「はっ、何でありましょうか、艦長殿?」
思ってもいなかった通信に、武は一瞬反応できなかった。
連絡は今武たちを運んでくれているHSST「夕凪」の艦長、一文字鷹嘴からだ。
『予定高度まではあとわずかだが、もうしばらく乗っていくか?」
「……いえ、一文字艦長。お心遣いは大変にありがたく思いますが、事前の打合せ通りに軌道退避をお願いします」
『良いのか? 君たちを地表に送り届けるまでが、我らの任なのだが?』
一文字からは別れの挨拶ではなく、比較的に安全だと判断したのか、切り離し高度を下げようかと打診だ。答えたとおりにありがたい申し出だが、武は断った。
「この夕凪をはじめ帝国の装甲駆逐艦が必要とされる機会は、今後いくらでもあるでしょう。いまこの場でご無理をなさるべきではない、と愚考いたします。なによりも所定時刻通りの行動を取ることこそが、輸送に関わる方々の矜持かと」
『はははっ、そう言われてしまえば、なるほど予定に従って動けてこそ、であるな』
武の記憶にある『桜花作戦』において、夕凪は戦術機用カーゴを切り離した後も降下を続け、XG-70d凄乃皇・四型の盾となって散っていった。あの挺身が無ければ、光線族種の照射を受け続けた凄乃皇は無事に地表に降りられたかさえ危ぶまれる。
だが、今はそれほどまでに無理を通すべき時ではない。
G弾の連続投射などは個人的には受け入れにくかったが、それがあって地表からの照射は格段に少ない。予定高度でカーゴを分離したとしても、撃墜される可能性は通常の軌道降下に比すれば無いも同然だった。
なによりも対BETA戦はこの喀什を堕として終わるわけではなく、むしろここからが始まりと言える。優秀な駆逐艦乗りをむざむざと散らすわけにはいかない。
『判った……本艦は予定通り300秒後に軌道離脱噴射を行う。作戦の成功とお二方の御武運を願っております。またなによりも御身の無事な御帰還、これは本艦乗員のみならず帝国の参加将兵すべての祈りかと』
『ありがとう存じます、一文字艦長。私からも、この夕凪をはじめ帝国宇宙軍の方々の無事帰投を心よりお祈りいたします』
『はッ、ありがたきお言葉、皆にも伝えます』
一文字は、最後は冥夜へと伝える。おそらくそれは冥夜の偽装身分を理解した上での、自ら死地へと臨もうとする冥夜を気遣っての言葉だろう。悠陽の影としてこの戦いで消えることを、皆が皆望んでいるわけではないと、遠回しではあるが話してくれた。
『……アンビリカル・コネクタ開放に備え、戦術機各員は全系統切替状況を確認せよ』
「フェアリー02より夕凪、全系統切替確認、再突入カーゴの操縦受領準備良し」
一文字は冥夜の言葉を受けしばし目を閉じ、そして艦長自らが軌道降下に至る定型を口にする。それに応える武も、網膜に投影される情報を読みながら、感謝の意を込めつつもシミュレーションで繰り返した言葉を返す。
『接続パージ完了確認了解、カーゴ制御切替完了。フェアリー02、カーゴ操縦渡す』
「フェアリー02、カーゴ操縦受領確認」
『制御切替完了確認。コネクタパージ』
「フェアリー02、パージ確認。全状態正常」
『フェアリー04、パージ確認。全状態正常』
夕凪から供給されていた動力や酸素そして通信が切り離され、完全に独立した。
投影された情報や自身の確認応答よりも、冥夜の言葉を受けてアンビリカル・コネクタがパージを実感する。
『本艦軌道離脱噴射まで120。……帝国に、いや人類に黄金の時代を』
いまだ外は見えないため、状況はいくつか表示される数値情報から読み取ることしかできないが、順調に高度を下げていっている。
いまはまだ余裕はあるはずだが、一文字に返す言葉がなぜか口にできない。
「……了解、軌道離脱噴射スタンバイ」
無駄に唾を飲み込み、答えられたのは訓練で詰め込まれた報告文だった。冥夜も静かに目を閉じて応えただけだ。
高度120km、カウント通りに戦術機用カーゴがHSSTから切り離されたのか、機体にそれまではと違った振動が伝わった。
「分離を確認、カーゴ姿勢安定……征ってまいります」
さすがというべきか、確認できる限りの情報では、夕凪は完璧に再突入カーゴを指定の軌道に乗せてくれていた。
戦術機用カーゴは形状こそ軌道往復機には似ているものの、最低限のウイングに二機の再突入殻を搭載しただけの構造だ。推進機能はあれど、これで軌道に戻れるはずもなく、あとは落ちるに任せるに等しい。
ここから地表までは、通話可能なのは横に並ぶ冥夜だけだ。
再突入殻は91%の信頼しか担保していない。
もちろんこれはあくまで今までの平均値だ。極端な劣勢、満足な重金属雲が形成されていない状況下での降下なども含まれるのだろう。今回のように十全な軌道爆撃、それもG弾を含めた上で、地表の降下予定ポイント周辺の制圧も望む限りは進められている。
それでもやはり、失敗の確率は高い。
「フェアリー04、今更ながらだが、操縦を変わらないか?」
『04より02、たしかに今更な話だな。シミュレーターでの成功率にはさほどの違いはなかったはずだが?』
「いや、それでもオレよりは成績良かっただろう」
降下の緊張を紛らわすためもあったが、自分がするよりも冥夜の方がうまく降ろすのではないかと思ってしまった。
冥夜はその複雑な背景はともかくも、それでもA-01に選出された人材だ。武のように無理やりに採用された結果ではなく、夕呼が00ユニット適性があると判断した上で、選ばれている。つまりは何らかの確率操作か幸運偏差といった、偶然便りの面はあれど、元より何もない武よりかは降下成功の確率が高いのではないかと考えてしまう。
『先陣を切るのは其方の役目であろう、我らが突撃前衛長殿?』
武の躊躇いを討ち払うように、冥夜が軽く揶揄うように笑う。
『ああ……いや。もっと簡単だな。私の命を預けるならば其方が良いという話だ。任したぞ白銀』
「了解した。一文字艦長ほどにとは承れないが、できる限りは丁重にお送りするぜ」
ただすぐさまに普段通り静かに、それでいてどこかやはり浮ついたように冥夜は言葉を続けた。
当たり前だが、突入殻の信頼性の無さは冥夜も知っている。その上で武に任せると言われれば、これ以上どうこう言わずに受け入れるしかない。
高度80km。
光線級警告は鳴り響き始めるが、照射を受ける兆候はない。降下目標の周辺ハイヴからであれば射程範囲内だが、過去のデータからあくまで対応するのは目標となったハイヴだけであり、この高さでは撃たれることは無い。
「本当に撃ってこねぇな……事務次官補殿が出来の悪い土木機械っていうのも頷けるぜ」
『事前想定行動以外には対処しない、であったか?』
「まああっちからすりゃあ、時々降ってくる隕石程度に受け取ってるんだろうが……』
撃たれないに越したことは無いが、逆に言えば喀什に近付けばそこから一気に撃たれるということでもある。今回の降下は『盾』ともいえるXG-70dが先行しているため、一般の軌道降下に比して再突入殻の安全は極めて高いが、それでも安穏とできるわけではない。
「降下地点まで1000、現速度0.8G、カーゴロケット点火準備、強化装備対G機能確認」
『強化装備対G機能確認、カーゴロケット点火準備宜し』
高度60km。安全に降下することを求められるHSSTなどはここから減速を始めるところだが、再突入殻はそうではない。
「全系統異状無し、行くぜぇぇぇッ!!」
進行方向と加速方向、何よりも投影される映像との差異が顕著だ。背中向けに減速しているために身体はシートから浮き上がりそうになるが、映像では前に向かって進んでいるのだ。
「減速度0.5、対地速度マッハ15を維持。姿勢制御許容範囲内ッ!」
高い戦術機特性を持つ武だが、地表に向けて全力加速しているような状況は、さすがに恐怖を感じてしまう。かつてのEX世界線で体験していたジェットコースターなどとは比較にもならない。
場合によってはこの段階でカーゴと突入殻とが分解されることもあるが、今回A-01に回されてきた機材は徹底して検査を受けたものだ。この段階での爆散の可能性は可能な限り低減していると聞かされている。
たとえそれが事実と異なっていたとしてもこの場においては取れる手段などなく、定型報告とはいえ叫ぶことができるというのは、少しは気が晴れる。横にいる冥夜は、ただ口元を強く引き締めるだけで耐えていた。
「高度40000ッ、装甲カプセル開放に備えろ!」
『了解ッ』
叫ぶかのような武の声とともに、カーゴから二機の再突入殻が分離、すぐにカーゴと再突入殻とが離れていく。カーゴはこのままに先行し、それ自体を質量弾としてハイヴ周辺へと着弾する。
だが戦術機、そして武たちを乗せた再突入殻はここから大減速が始まる。
瞬間的ではなく、持続的に8Gを超える加速が身体に架かる。無限に続くかのように錯覚してしまう責め苦ではあるが、場合によっては回避行動を取らなければならない。目を瞑ることも、操縦桿から手を離すことも、なによりも意識を手放すことなど許されるはずがない。
歯を食いしばり、もしかすれば声を漏らしているかもしれないが、それさえも意識できないままに耐える。
「減速完了、規定高度2000、データリンク回復。02より04、無事かッ!?」
それでも終わりは来る。予定高度に達した瞬間に、再突入殻から機体が解放され、虚空へと黒の武御雷が投げ出される。加速から解放された身体は一瞬感覚を失うが、呆けている余裕はない。
データリンクは回復したとはいえ、衛士が意識を失っている場合もありうる。冥夜の武御雷を求め周囲へ目を向ける。
『こちら04、センサーが回復した。そちらからは後方、南西300あたりだ』
少しばかり間があって返信が入った。
武だけでなく冥夜も降下中に無駄な姿勢制御を行わなかったようで、シミュレーションの時以上に近い。即座に位置を合わせ、エレメントを組み直す。
現地時間で正午前、視界は良好。
元々の気象状況は知らされていないが、目標の喀什ハイヴ周辺はG弾の影響で雲一つなく澄み渡っている。G弾投入が前提の作戦であるために、事前に投射されるAL弾頭によって形成される重金属雲さえもない。
通常の軌道降下ならばここからは形成された重金属雲の中を抜けることになるが、今回はそもそもがその重金属雲が形成されていない。つまるところは、ここからはいっさいの遮蔽がないままに、地表へと降り立たなければならない。
(黒煙は……思ったよりも目立たないか? やっぱり地表での戦闘が少なくて済んだのか?)
G弾ありきで攻略作戦を構築したために、もとより地表での戦闘は通常のハイヴへの間引きなどに比して極端に少ない想定をしていた。なによりもXG-70を支援砲戦力として活用するために、S92およびSW115の『門』周辺の制圧を最優先し、それ以降は半地下式の防衛陣を構築する計画だ。
上手くすればハイヴ地下茎を対光線級の防壁と、『門』を塹壕と見做した前線拠点を築くことが第一第二次降下部隊の役割だった。敵地への侵攻作戦でありながら、消極的とも言える方針だが、攻撃の主体は今降り立った武たち第三降下部隊だ。
戦術機四個連隊からなるハイヴ突入部隊の損耗を可能な限り低減するために、彼らは短くも激しい戦いを強いられてきたはずだ。
『あれが……ハイヴか?』
「ははっ、まあその先端の先っぽだけだがな」
武が周辺をざっくりと見渡している間、冥夜もまた可能な限り状況を読み取ろうとしていたのだろうが、やはりどうしても目を引いてしまうものがある。肉眼というには語弊があるが、初めてハイヴのモニュメントを見たからだろう。思わずといった風に冥夜が言葉を漏らした。それを武は軽く笑って受け流す。
たしかにフェイズ6に至った喀什ハイヴの地表構造物たるモニュメントは、全高1000mを超す、もはや山と言ってもいいほどの巨大さだ。今は見下ろす形になっているが、それでもその規模には驚愕を覚える。
なによりも問題は事前爆撃での成果の薄さだ。
(G弾12発だぞ? それだけ食らってまだあれだけ残ってるのかよ……バビロン作戦が失敗したのも頷けるな)
以前武が経験した世界線では、G弾を用いてモニュメントを消失させたのは、フェイズ2と言われた横浜ハイヴだ。そのモニュメントはせいぜいが50m程度だったらしい。その程度であればG弾二発で消失したというのも納得できるが、逆にこの喀什ハイヴをG弾だけで攻略することの困難さの比較にもなってしまう。
事前の状況を正確に見ていないために比較はできないが、今見る限りでは武たちが攻略に失敗して、予備たる『フラガラッハ作戦』に移行したとしてもG弾のみで押し切れるようには思えない。
『フェアリー01より中隊各機、集結予定地点に変更なし。各分隊、個別にSW115を目指せ』
武たちが移動しつつも周辺状況を見て取っている間に、第一中隊の他の機体も突入を成功させたようで、まりもからの指示が入った。
重金属雲が形成されていないために、地表での通信は非常に良好だ。それは光線族種からの照射の危機が常にあるという意味でもある。まりもは無理に中隊を集めず、それどころか点呼さえなく、移動を指示する。
「わりぃ……これは場所が少しばかりマズいな」
『仕方あるまい、距離が近いだけでも僥倖と見よう』
武と冥夜は、集結予定地点たるSW115、その周囲10km以内へと降りることはできたものの、予定地点よりも少しばかり南西に出てしまった。
通常であれば光線級からの照射を可能なかぎり避けるためにも地表に降りて連続噴出跳躍で進むのだが、今回に限っては地表に蠢くBETAの排除は一切無視して、空中を飛びながら直接侵入を図る。
目標地点のSW115周辺は、第二次降下部隊の奮戦もあって、周囲1kmはほぼBETAを排除できているようだ。それ故に可能な移動方法だが、単純に移動時間を短縮するためでもあるが、今も戦闘を続けている帝国軍衛士に、冥夜が駆る紫の武御雷をわずかなりとも見せて士気高揚の一環とするという面もある。
高度は順調に下がりつつあり、水平距離にしても10km程度ならば巡航速度であっても数分で到達できるが、さすがにそんな悠長なことをしていれば照射が少ないとはいえ光線族種の良い餌食だ。
「対レーザースモークを連続自動投射、門まで突っ切るぞ」
『了解、先陣は任せよう』
戦術機が搭載可能なAL弾の代替として用意された装備だが、効果のほどは疑わしい。むしろただのデッドウェイトだろうとまで言われてはいたが、無いよりはましなはずだ。
前方に向けて撃ち続け、形成された薄く小さな霧の中を突っ切っていく。視界は悪化するがレーザーなど見て回避するものではない。
合わせて直接的な防御のため、左腕に持つ92式多目的追加装甲を無理やりに右前方に構え、機体の正面投影面積を最小限にしつつ、可能な限りの速度で『門』を目指す。
今回に限っては冥夜も追加装甲を装備している。これは冥夜のみならず、降下からハイヴ地下茎侵入までの間には必要だと判断されて、A-01の参加全機体はそのポジションに関わらず装備している。
ポジションごとの装備はこの後、第二降下部隊と合流したのちに、その予備を受け取る形だ。
(いや……それにしても、照射警告が一切鳴らねぇってのは、どういうことだ?)
鳴ってもらいたいわけではないが、武のところに照射されていないとなると、それ以外の機体が狙われているということになる。
攻略部隊の中核たるA-01、その第一中隊ということもあって、武たちの降下の順はXG-70dの直後だった。加えて突撃前衛長というポジション故に、ほぼ最前列と言える。
これは降下が遅くなればなるほどに再起動を始めるBETAが増えると予測されていたことと、なによりも先頭群の方がXG-70dのラザフォード場に守られやすいという事実から導かれた位置だった。
ただそれで単純に安全と言えるわけでもない。最も早く降り立ったということは、BETAから見れば排除優先度が高いということでもある。それなのにカーゴ分離から30秒、もはや『門』さえ目視できそうな距離だというのに、いまだ一切の照射警告を受けていない。
あまりの異常事態に、対レーザースモークで少々悪くなってきた視界を左右に振って周辺を確認したが、原因らしきものはすぐさまに見えた。
「って、なんだありゃ……」
武の視界の先、目標地点たるSW115よりも東のあたりで、XG-70dが倒立したままに機体上面を地表に向けてその持てる火力を存分に投射していた。
36mmは前後上下に分散して配置されているが、主砲塔ともいえる76mmは機体前面に二門、後方に二門、そして射程を取るために上面に四門配置されている。
上空から直下に掃射するとなればその巨体が障害となることは判る。ML機関による抗重力推進であるため、機体内部の重力方向は地表水平面には一切関係ないとも理解はしている。だかフリゲート艦を超える規模の機体が倒立し、それどころか音速に近い速度で飛翔しながら空対地砲撃を繰り返すなど、想像もしていなかった。
武とて先の『桜花作戦』においてはそのXG-70d凄乃皇・四型に砲主兼操縦士として搭乗し、運用していたのだ。それでも今眼前で行われているような機動を実行しようなどとは、思いもよらなかった。
「あ~これは、うん……光線級もこっち撃ってくるわけねぇな」
『さすが、と言わざるを得んな。だが、我らのために囮となってくださっているのは明らかだ』
「ああ、無駄な時間を取るわけにいかねぇ、突入するぞッ!!」
『フェアリー04、了解だ』
ML機関と言えど無尽蔵の出力を持つわけではない。一定以上の負荷がかかればラザフォード場の形成にも支障が出る。高速で機体を振り回すような機動を取っているのは被照射面を限定しないことで負荷を分散させる意味合いもあるのだろう。
まして直接砲撃するともなれば、その砲塔群がある面はラザフォード場を解除しなければならない。直接の装甲だけでも重光線級は2分弱、光線級なら7分は照射に対抗できるとはいえ、むやみに当たらないに越したことは無い。
『こちらコールサイン「サラマンダー00」だ。こちらからの近接航空支援はあと120秒で終了する。第三次降下部隊は速やかにSW115に集結し、地下茎へと侵攻せよ』
武の判断を裏付けるように、ターニャから指示が下った。
『しかしこれはJDAMを10t単位で持ってくるべきであったかな?』
『1,000ポンドでモグラ叩きとは、なかなかに豪勢ですなッ』
『はははっ、先ほど上に上がった連中にデリバリーを頼みますか』
『残念ながら、割引チケットもなければ、ポイントも余っていないのだ。今回は36mmで我慢するしかあるまい。それよりも各自急げよ』
通話は切らずターニャは気楽に嘯いて見せる。それに合わせている者たちはおそらくは合衆国陸軍からの追加戦力なのだろう。わざとらしいまでに余裕がある。
彼らは武たちよりも先行した形、すなわちG弾の投射直後に降下を開始したのだろう。XG-70dの誘引も援護もない中での降下で、それなりの損耗を受けているはずだが、その声からは微塵も感じさせない。
加えて彼らは第二次降下部隊とは独立した動きを取りながらも、SW115周辺へと接近してくるBETA群を手際よく排除し続けている。臨時編成の上、指揮系統を切り替えたとは思えないまでの動きだ。
そしてターニャの先の言葉通り、XG-70dは余裕をもって支援砲撃を切り上げた後に、その巨体をSW115へと進める。
合衆国陸軍一個連隊、帝国斯衛一個連隊、そして在日国連軍二個連隊、計四個連隊の第三次降下部隊は被害を最小限度に止めつつ、SW115よりハイヴ地下茎への侵攻を開始した。
アレやコレやを入れようとして、ようやく喀什に降りました。オルタ原作だとタケルちゃんが凄乃皇に乗ってるのもあって一般戦術機の軌道降下がよく判らないので、降下関連はほぼ『チキン・ダイバーズ』からです。
で半ば無理やりに一文字鷹嘴艦長押し込んでますが、『桜花作戦』ほど逼迫していないので無事帰還の予定です。
あと『バビロン作戦』でどれくらいG弾投射したかがよく判っていないので、モニュメントの破壊率は何となくで流しています。
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